ジェイの章 私の誇り尊き天使

 カエルレウム女王・クレマチス。
 ビッカビカに光っている大ホールに入ったミチルとジェイの、目指す先におわす人物だ。

 大拍手の喝采で、ミチルは自分の靴音も聞こえない。
 ジェイの腕を取り、真っ直ぐ歩くだけでせいいっぱい。
 
 おそらく列席者からはヴァージンロードを歩く結婚式風に見えているのだろう。
 だが、当事者のミチルにはその感覚はない。ついさっき「的になれ」と非人道的な事を言われたのだから。


 
「ミチル・プルケリマ。カリシムス・ジェイ・アルバトロス」

 女王の声が朗々と響き渡る。
 目の前で跪いたミチルとジェイに、慈愛のこもった笑顔を浮かべていた。

 カエルレウムのクレマチス女王はだいぶ高齢のおばあさまだ。シルバーグレーの髪が美しい。
 年齢に似合わない、よく通る若々しい声でミチル達の名を呼んだ。
 包み込むように優しい、けれどとても気高い声色。ミチルは礼儀などは別にしても跪きたくなってしまう。

「世界の危機に瀕して、我々を救いたもうた奇跡。カエルレウム国民を代表して御礼申し上げます」

 ひえええ、そんな王様から御礼を言われるなんて。
 ミチルはビビり散らかしており、跪いて俯く以外何も出来ずにいる。顔を上げることさえ、なんだか恐れ多い。
 エリオットやオルレア王などの王族には結構メンチ切ってきたミチルだけれども、女王の御前では別の圧を感じる。お母さん以外の女性とほぼ接して来なかったミチルには、女性の王様など未知の存在なのだ。

「ミチル・プルケリマ、こちらへ」

「ふえっ……!?」

 高貴な女王さまがミチルを手招いた。
 何コレ、どういう事? 近づいていいの、不敬罪にならない?

「ミチル、さあ」

 隣でジェイが優しく笑って促した。
 ジェイにもそうされれば、ミチルは腹をくくるしかない。小さく頷いて、数歩前へ。

 すると、女王自ら玉座を立ち、ミチルの手を握る。
 観客達はおおお、とざわついた。

「……本当に、よく頑張りましたね」

「にゃ……」

 女王さまの手はとても暖かくて。優しい笑顔が、本当のおばあちゃんのよう。

「ありがとう、ミチル」

「ふにゃあ……っ」

 おばーちゃーん!!
 ミチルは感極まって、なんだかとっても抱きつきたかった。
 抱きしめてもらって号泣したかった。

 だがしかし、ここは厳粛な式典。相手はカエルレウムの女王陛下。
 踏みとどまったミチルは、その場で大号泣。

「ば、ばびがどう、ござぶずぶず……っ」

 観客達には背を向けているため、なんとかプルケリマの体裁は保っていられている。
 が、クレマチス女王には鼻水ずびずばのとんでもない顔を晒してしまった。

「まあ、ほほほ」

 女王は笑った後、ミチルの手を取り、その手をジェイに差し出す。

「ジェイ・アルバトロスよ」

「はっ」

 ジェイは畏まりつつ立ち上がり、頭を垂れたままで返事をした。

「表を上げなさい」

「はい」

 そうしてジェイを少し厳しく見定めた後、女王はこの国一番の英雄に宣言する。

「この尊き御方を、其方に任せます。其方は以後の人生、ミチル・プルケリマのために生き、ミチル・プルケリマとともに在りなさい」

「……元より、その所存にございます」

 ジェイもまた物怖じする事なく、真っ直ぐ女王を見てそう答える。
 女王は満足げに笑って、ミチルをジェイの元に送った。

「よろしい。では改めて、カリシムス・ジェイ・アルバトロスに、ミチル・プルケリマを託します」

「ははっ!」

 そしてミチルには再び慈愛の微笑み。

「末永く、幸せにおなりなさい。ミチル」

「はいい!」

 おばああぁあちゃぁああんっ!
 ミチルは心の中で、心のおばあちゃんに抱きついた。



 さあ。クライマックスです。



「え?」



 観客達が何を見たいか、わかってますよね?



「ええ?」



 ウェディングのラストは、あっついあっつい、キッス♡でしょうが!



「……マジ?」



 ミチルは女王はじめ、周りの無言笑顔の圧に囲まれた!

「ミチル……」

 あーっと、そしてジェイの方はすでにする気マンマンだあぁあ!

「ふえええ……ッ」

 ミチル、覚悟を決めろ!
 昨日も見せたじゃないか。こうなったら何度見せても同じ!!



「ミチル、愛している……」

「ジェイ……」

 やべー
 イケメン過ぎる……

 ジェイの麗しい顔面に、ミチルは即魅了されていた。


 
 もおお……素敵ぃい……♡

 ミチルはうっとり身を任せて目を閉じる。



「ジェイ……愛してるう……♡」

 むっちゅっちゅううぅう……!

 タイミングよく、王宮の鐘の音がリンゴーン!!
 観客は大歓声と大拍手でスタンディングオベーション!!



 はあん……♡
 幸せえ……



 うっとり閉じた瞳を再び開くミチルの。
 ジェイの肩越しに。


 
 見えてしまった。


 
 誰かが弓を構えている。
 その先で、つがえた矢が。

 ギラリ、と光っているのを……
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