ジェイの章 私の誇り尊き天使

 どんな冒険のスタートも、オレ達のそれには敵わない。


 
「ではミチル。行くぞ」

「はあい……!」

 若い二人は見つめ合い。
 そしてミチルは目を閉じる。
 
 ジェイはそのキス待ち顔になんかイロイロ刺激されつつ、理性で抑えて顔を近づけた。
 愛らしい小さなお鼻に唇を寄せる……


 
 あむあむ……♡



 ジェイの唇が、ミチルのお鼻をぱっくんちょ!

「ふあん♡」

 ミチル、×××の奥までムズムズ!



 突如、ぶわっと蒼い羽根が舞う。
 あむあむしているジェイが蒼く光る。
 ムズムズしちゃってるミチルも蒼く光った。

「は、は、はっくしょーい!!」



 今、オレ達は、蒼く跳ぶ……



 ◇ ◇ ◇

 

 12:00 カエルレウム現着。首都ヴィオラ近郊。あの・・原っぱ。

「ウワー! あの時の、あの場所じゃねー?」

 イケメンにお鼻をあむあむされたらムズムズして転移しちゃうよの術(以降はムズムズ転移と省略する)を無事に発動させたミチル。
 あむあむしたカエルレウム担当イケメン・ジェイとともに懐かしの光景に興奮していた。

「ここでえ、ベスティアに襲われて。ジェイが助けてくれたんだよねえ」

 ミチルは初めてくしゃみ転移して、カエルラ=プルーマに飛ばされた日を思い出す。
 意味がわからずオロオロする自分を、親身になって救ってくれたぽんこつナイト。
 今はミチルの大事なカリシムス最愛だ。

「へへっ、へへっ、うへへ」

 何故か笑いが止まらない。あの時のジェイは超絶イケメンで超絶カッコ良かった。
 それを思い出しつつ、今のジェイがあの時を余裕で超えたカッコ良さで隣に立っている事に大興奮。

「そうだな。私はあの時、天使が迷い込んだと思った」

「て、てんしぃ!? や、やだあ、うへへへっ!」

 懐かしさと恥ずかしさ、それから愛しさでミチルの笑いは止まらない。
 こんなに幸せでいいんですか、状態である。

 しかし、そんな状態でカエルレウムに凱旋して、解決しなければならない事案とは。
 ……なんかあったかな?



「これでとうとう、任務完了の報告が出来る」

 ジェイはなんだか晴れ晴れとした顔をしていた。

「ニンム、カンリョー? あっ!」

 ミチルはようやく思い出す。
 ジェイと再会した時、彼はアルブスへ向かう道中だった。アルブスの王様に、ミチルが蒼い強化を施した大剣を見せに行くとかなんとか。相当、昔だったような気がする。

「ひええええ……っ」

 今度は急に冷や汗が止まらない。
 何しろジェイはその任務を放り出して、アルブスに転移してしまったミチルを追いかけ、再び会ったら今度はフラーウムへ、その次はラーウスで革命に参加して、ペルスピコーズに喚ばれてカリシムスになって世界を救って……今ココ。

「遂に将軍に報告出来るのだ……」

 ジェイは嬉しそうにしていますけれども。ミチルは時間経過のえぐさに青ざめる。

「だ、だだだ、大丈夫かな!? 相当、ていうか大遅刻な感じがするけど!?」

「む……そうだな。だが、私だけ途中でカエルレウムに戻る余裕はとても無かった」

「それはそうだけどっ!」

 ぽんこつだから、任務大遅延の罪の意識が軽すぎる。
 めちゃんこ怒られるんじゃない? それで済めばいいけど、せっかく出世した騎士服(超絶かっこいい)がまた麻の服(それはそれでかっこいい)になってしまったら……

「まあ、とにかく王宮に入ろう」

「おまーは、まじ、人の心がないんかいっ!」

 落ち着き払って門を通ろうとするジェイに、ミチルは思わず全力でつっこんだ。
 たまにアニーが言っていたけど、ついにオレもそれを実感してしまったよ!



「ジェ……ッ、貴方は、カリシムス様!」

「へ?」

 ミチルの不安は危惧だったと言わざるを得ない。
 恐る恐る行った城門入口にて、一回会った事がある門番のおじさんの、目ん玉ひん剥いて驚く顔に遭遇したのである。

「あの……」

「おおおおお……! 無事に帰還されましたかああああ……! おめでとうございますうううう……!」

 確かにこの門番のおじさんは、前からジェイには好意的だったと記憶している。
 が、喜びまくって足腰がプルプル震えながら、大声で咽び泣くほど仲良しだったのだろうか?

「あの……王宮に入りたいのですが」

 ほーら、さすがのジェイもなんかタジタジしてるじゃん。
 ミチルは歓喜に喘ぐおじさんの姿にドン引いていた。

「うわああああ! みんなー! 大変だあああ! カリシムス様が御帰還なされたぞおおお!!」

 門番の剣幕に押されて何もできずにいる本人達に、おじさんのどこから出るんだというほどの大声がこだました。



 大・英・雄の凱旋だあああああああああああああああッ!!!



「ちょ……っ、声がデカい! 恥ずかしいでしょうが!」

 ミチル、タジタジ。
 ジェイも、むむむと唸るだけ。

 一体、何が起こっちゃうの!? と不安しかない二人の耳に、ズドドドドという足音が聞こえてきた。

「カエルラ・ベラトール・ジェイ・アルバトロス!!」

「ヒイイ、今度はなんじゃあ!」

 ミチルは思わず悲鳴を上げる。

 顔を真っ赤に染め上げて。
 ジェイが着ているような上等の騎士服を着た。
 怒髪天を衝いたおじさんが。

 それはそれは、ものすごい勢いで走って来たのである。

「ラベンダー隊長!」

 普段動かないジェイの表情筋が珍しく反応する。
 ミチルは上官風のおじさんと、ジェイの嬉しそうな顔を交互に見比べた。

「ただいま戻りました!」

 あらら、ジェイったら嬉しそうね。そんな上司が出来てたなんて喜ばしい。
 そんな風に微笑ましく思ったのはミチルだけ。

「こおおの、バッカもんがアァアアア!!」

 ラベンダー、と呼ばれた上官騎士は、ジェイの言葉に聞く耳持たず、だがその耳をむんずと掴む。
 長身のジェイに負けず劣らない体格である。さすが上司。

「ちょっと来ぉい! この、究極問題児めえええッ!」

「はい」

 ジェイはスンとした表情に戻って、素直に耳を引っ張られていた。そのまま王宮方面へ引きずられる。

「ああ、待ってよ、ジェーイ!」

 残されたミチルは急に心細くなった。
 ついて行ってもいいものか。ミチルにはまるでわからなかったからだ。



「ふふふ……困った人だ」

 途方に暮れるミチルの背後、すぐ近く。
 妙に艶っぽい男性の声がした。

「ひょえっ?」

 慌てて振り返る。
 そこには、魔法使いのような白いローブを纏った男。
 長くウェーブした髪を、ゆるふわにまとめて、目を細めて笑っている。

「だ、誰……?」

「貴方が、プルケリマ・ミチル様ですね」

 細い目が、怪しくキラリと光る。
 とりあえず、なんか結構ハンサムだった。
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