ミチルの章 新しいオレの存在証明

 イケメンがミチルのお鼻♡を優しくあむあむする。
 ミチルはお鼻♡がムズムズしてくしゃみ転移しちゃう。
 その転移先はお鼻♡をあむあむしたイケメンの故郷のはずだ。

 以上が、「天才魔法使い」王子・エリオットの仮説……というか、自信たっぷりの持論である。
 ミチルは当然半信半疑。確かに、エリオットにふざけてお鼻♡をあむあむされた時はムズムズした。
 それが鼻だったか、別のドコカだったかはちょっと覚えていない。

「心配するな、ミチル」

 曽祖父である法皇エーデルワイスは、物怖じしているマゴに優しく語りかける。

「お前の能力は未知数。やってみない事にはわからないが、ワタシが共にいる。お前を危険な目には合わせない」

「……まあ、じいちゃんがそう言うなら」

 カエルラ=プルーマにおいて、召喚転移の術に最も長けているのは法皇である。
 法皇がここまで言うならやってみるしかない。何しろ、ミチルのムズムズくしゃみ転移が確立されなければ、イケメン達の故郷に行く事が出来ないのだから。

「ふっふっふ。ミチルの転移についていくなら、俺が第一人者だな」

 イケメン内、堂々の田舎者第一人者のアニーが得意げに一歩前へ出る。
 彼は魔法の知識なんてミリも知らないのに、ミチルのくしゃみ転移に初見でくっついていった行動派第一人者でもあった。

「ほう」

 その功績を讃えて……なんて事はないが、エーデルワイスは一応聞いてやるか、みたいな顔でアニーを見る。
 すると金髪碧眼イケメンはその美しい瞳をくわっと見開いて、どどーん! と効果音が聞こえそうな勢いで宣言した。

「力のかぎり、ミチルに抱きつけ!!」

「……なるほど」

 細面かつスマートな見た目に反して、アニーはだいぶ脳筋である。
 どうせ大雑把な感覚なんだろう、とエーデルワイスは踏んでいた。案の定だ。

 だが、カリシムスの助言は一応聞いてやらないとならない。法皇のツラい立場である。
 エーデルワイスは自分よりも背の高いマゴの腰の位置に、横から抱きついた。

「ああん♡」

 ミチルは腰が激弱だ!
 肉親に抱きつかれても、腰への刺激に悶えちゃう。



「うわあああ!」
「何してんだ、クソジジイ!」
「近親〇〇、ダメ、絶対!」



 ミチルの♡♡声が漏れて、イケメン達は阿鼻叫喚。
 コツを教えたアニーでさえ、我を忘れて血の涙を流していた。

「背が足りないのだ、仕方ないだろう」

 エーデルワイスの外見は十四歳の少年である。ミチルはかなり小柄な方だが、エーデルワイスもなかなかに小さい。異世界転生を経ているのに小さいDNAは脈々と受け継がれている。



「そのままだ、出来るだけ動かないでくれ」
「思いあまってスリスリなどするなよぉ!」
「法皇でも滅するぞお!」



 ギャーギャー騒ぐイケメン達に、ミチルから泣き言が飛んだ。

「もおおー! オレが悪かったよお! 早く行こう!」

 こんな感じやすいカラダに誰がした。
 曽祖父の前で悶えてしまったミチルは、早くこの場から立ち去りたい。

「むっふっふ、よく言ったぜ、ミチル」

 エリオットはにまぁと笑いながら、悠然とした足取りでミチルに向かう。

「エリオットぉ、早くぅ!」

「よしよし。早く行こうな♡」

 上記の会話に他意はありません。



 あむあむ……♡



 イケメンの唇が、ミチルのお鼻をぱっくんちょ!

「ふあん♡」

 ミチル、×××の奥までムズムズ!



 突如、ぶわっと蒼い羽根が舞う! お久しぶりね、この感覚!
 あむあむしているエリオットが蒼く光る。
 ムズムズしちゃってるミチルも蒼く光った。

「は、は、はっくしょーい!!」

 ああ、これはホンモノだ。
 ミチルは遠のく意識の中で確かに思った。



 今、オレは、蒼く跳ぶ……



 法皇の執務室。
 窓から眩く蒼い閃光がほとばしるのを、通りがかった僧正達は見た。
 だが、それはすぐにふっと消えて、元の教会の静寂さを取り戻した。



 一時間後……



 残されていたイケメン五人はヤキモキしつつ、イライラを抑えながらジリジリと待ち続けていた。
 再び法皇の執務室が明るくなる。
 天井に眩い円がぽっかり空いて、輝く光とともに愛しいあの姿が──

「にゃああああっ!」

「ミチルーーーーーッ!!!!!」

 お帰り、マイラバー!
 イケメン五人はほっと安心した。

「むぎゅっ!」

「ギャー! じいちゃんが潰れたァアア!」

 どうも帰りはエーデルワイスを先頭に、ミチルがその背中にくっついてきたようだ。
 執務室の天井に穴開けて帰ってくるものだから、哀れ、法皇は真っ逆さま。ミチルの下敷きに。

 ミチルは焦っていたが、彼もまた思うようには動けなかった。
 何故なら、その背中には悦に入ったエリオットがひっついていたからである!

「じいちゃんがー! せんべいになるぅー!」

「バッカ、オメー♡ 今夜はしっぽり〇〇〇してやんよお♡」

 エリオットはミチルの柔らかい背中が大好きである!
 背中とお尻を密着させて異空間を渡ってきたものだから、なんだか未知の扉が開いてしまった。

「うふふう♡ ミチルの〇〇〇は相変わらずおれの×××に♡♡♡……!」

 色んな所へのスリスリが止まらないっ!

「にゃあー! エリオットぉ! その前にどいてえー!」



『こおの、クソタワケがぁあああっ!!』

 それは確かにエーデルワイスの怒鳴り声だった。
 が、耳からというよりも脳に直接流し込まれたような迫力で。

『さっさとどかないかァアア、****バカムコがぁあああ!』

 法皇の怒りは言語化不能の言葉とともに、ズドーンと解放された。
 たまらずふっとぶエリオットとミチル!
 ミチルだけでも、とジェイとアニーがその身をキャッチする。

「危なかった……」

 ミチルとジェイとアニーは、組んず解れず状態になったが怪我はなし!
 エリオットも……

「ざっけんなよ、クソチビジジイ! おれはともかくミチルまでふっとばすとか、あり得ねえだろ!」

 間一髪、壁に激突する前にチルクサンダーに助けられていた。

「フン、ここには世界の英雄ミチルバカ、カリシムスが揃っている。よもやの事態など起こるはずもない」

 エーデルワイスの言葉に、ジンとルークは複雑な顔をしていた。
 
「……その信頼は痛み入るが」

「あまり、褒められた気、しない。何故?」

 それはね……

「ああーん、ミチルゥ、大丈夫かい?」

 アニーが左から抱きしめてスリスリちゅっちゅ。

「ミチル、気を確かに。深呼吸してくれ」

 ジェイが右から抱きしめてぐりぐりなでなで。

「あっ! ちょ、も、無理ぃ……息が出来ないよぉお♡」

 イケメンに左右挟まれて、ミチルはあっぷあっぷ。
 信じられるか? これでも正気なんだぜえ?



『解・散!』

 またしても脳に直接流れてくる怒号。
 今度は魔力を込めた強制力を持って、ミチルとイケメン達を引き剥がした。

「ワタシの前でマゴに触るなァアア!」

 追加のお小言(これは生声)もきっちりもらって、イケメン達はようやく落ち着く。

「はあい……」

 ミチルも乱れた衣服を正して、行儀良く床に座っていた。イケメン達もそれにならって整列しつつ座る。
 そう動いている間にミチルからイケメン達に説明があった。

 今しがた、ミチルはエリオットとエーデルワイスとともに、アルブス王宮に転移していた。
 アルブス担当イケメンエリオットがあむあむ♡しただけで、その国に転移できるだけでも出来すぎである。さらにエリオットがよく知る場所にピンポイントで転移するなんて。
 きっとプルケリマとカリシムスは世界のことわりを跳躍してしまえるのだろう。ミチルのくしゃみ転移はそれだけ人智を超えた術だという事である。
 
 皆の様子を確認した後、咳払いをしながらエーデルワイスが朗々と宣言した。

「王子エリオットの仮説は立証された。我がマゴ、セイソン・ミチルはカリシムスに鼻をぱくぱくされる事で、その該当する故郷に跳べる能力を持っているッ!!」

「じいちゃん、ぱくぱくはちょっと……」

 無意識♡♡ワードにミチルが反応してしまった。
 その隣でエリオットはしれっと訂正する。

「ちげーよ、ミチルのお〇〇をあむあむしたらお♡♡がムズムズして転移デキちゃう♡の術だろ!」

「ヤメロお! 意味深過ぎる!」

 大胆ワードにミチルの心臓が飛び出そう。
 えっ、オレってそんなに♡♡い術使うの?

「はあ……では、以後はムズムズ転移で統一する。よいな」

 さすがに何度も怒号を上げられない、超後期高齢者のエーデルワイス。
 深くため息を吐いて、譲歩を口にした。

「では、これでシウレンが故郷巡りを出来るのだな」

 まとめたがり、MCしたがりのジンが言う。
 だが、非情にもエーデルワイスは首を振った。

「いや、まだだ。行きはそれで良いとして、帰る方法が確立できていない」

「えっ、今、帰ってきた、では?」

 ルークの純朴な疑問に、チルクサンダーが全てを見通すいつもの雰囲気で答えた。

「三人がアルブスから戻ったのは、法皇がアルブスからペルスピコーズへのポータル通用経路を使ったからだ。友好国のアルブスとカエルレウムにはあるようだが、他の国にはないだろう」

「その通り」

 エーデルワイスは頷いて続ける。

「更に言えば、今ワタシが使ったものは法皇専用のポータルである。ワタシ抜きでアルブスからペルスピコーズに移動しようとすれば、魔法使いを何人も使った大掛かりな儀式が必要である」

「げっ!」

 ミチルはそう聞いただけでめんどくさいと思った。
 大袈裟なのはちょっと。オレはイケメンと故郷を巡る旅をひっそりとしたいだけなのに。

「ふむう……そういう事か」

 ジンも眉をひそめて腕組みし、考え込んでしまった。

「それぞれの故郷に行くのはいい。だが帰路が問題、か……」

 チルクサンダーも鋭い視線で思案に耽る。

「ええー……?」

 ミチルもがっくり肩を落とす。
 せっかく新しい転移術を会得したのに、結局解決はしていない。



 何かうまい方法はないものだろうか……?
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