【本編11】Final Meets 舞い降りた愛、生命そそぐ絆

 オレはこの世界を守ってイケメン達とうほうほ暮らすんだ!

 ミチルの世界一わがままな想いは、カミからの支持を得て蒼い光を復活させる。
 その祈りが、イケメン達の左の薬指に嵌められた。

 誓約エンゲージを交わしたカリシムスに怖いものなどない。
 破壊神・ベストリエリはその妄執とともに砕かれた。



「……ごはぁ!」

 テン・イーの口元、鮮血がボタボタと流れる。
 どれだけ長い時間暗躍していたのか。それもここで終焉を迎えると、誰もが悟っていた。

「あ……我が、君……」

 横たわるシャントリエリの体は黒く、微かにだが崩れ始めている。
 相当量の魔力と執念を身に宿したツケを払わなければならない。


 
「テン・イー……スピナよ。其方は一体何が目的だったのだ?」

 近づくエーデルワイスの声にはもはや哀れみが乗っている。
 テン・イーは屈辱に震えた後、ふっと力を抜いてぽつりぽつりと話し始めた。

「……スピナ。その名はワシの本当の名前ではない」

「なに?」

 テン・イーの口調は本来のものになっていた。もはや彼には人格を飾る余裕も残されていなかった。

「ワシの本当の名はクオン」

「クオン……」

「──やはり、覚えていないか」

 ふ、と自嘲気味にテン・イーは笑みを漏らす。
 首を傾げるエーデルワイスに、彼はついに根幹となる事実を話した。

「クオン、というのは、ワシが地球にいた頃の名だ」

「!!」



 その衝撃に、ミチルもイケメン達も息が止まりそうになる。
 ミチルはあわあわしながら確認した。

「てて、ててて、テン・イーも地球人だったの!? オレと一緒ってコト!?」

「ワシは、日本より少しだけ南の国の出身だ」

 少し浅黒い肌がその雰囲気を醸し出している。ミチルはだいぶ納得してしまった。



「テン・イーが転移者ァ!? おい、ふざけんな、ダジャレじゃねえぞ」
「ミチルと同郷だったとは……」
「誰が召喚したというのだ?」
「ええっ、まさか、あのおじさん、プルケリマです?」
「ヤメロ! 気持ち悪いっ!」

 口々に言うイケメン達の横で、チルクサンダーがふと呟いた。

「トランステラー……」

「えっ、チルくん、何それ?」

「いや、わからぬ。不意にそんな単語が浮かんだ。もしかしたら、カミの子息としての記憶かもしれないが……今はそれ以上はわからぬ」

 口走ったチルクサンダーも、ミチルと同様に不思議な顔で首を傾げていた。




「ワシにプルケリマとしての使命はない。だが、この世界に来てからワシは転移術と膨大な魔術の才に目覚めた」

 テン・イーがそう説明しかけると、エーデルワイスはそれを遮った。

「待て。其方、南の国……のクオン、と言ったな。もしや……あの時の子どもか?」

 何かを思い出した様子に、テン・イーは満足そうに笑う。

「ああ……はは、やっと、思い出してくれた……」

「じいちゃん。前世でテン・イーに会ってるの?」

 ミチルがそう聞くと、エーデルワイスは少し顔を曇らせながら語る。

「ミチルよ、ワタシの前世──坂之下さかのしたミツルは戦時中に外国で戦死したと聞いているな?」

「うん……多分」

 祖父は詳しく教えてはくれなかった。
 だが、曽祖父は遠い空の向こうでいなくなったと聞いている。
 ミチルがそうだと想像するには充分だった。

「ふ、戦死か。おめでたいな」

 テン・イーはミチルを見て鼻で笑う。
 それから吐き捨てるように、真実を告げた。

「その男はな、現地の子どもを助けようとして流れ弾に当たって死んだ。ただの犬死にだ」

「……」

 告げられた真実を、ミチルは不思議とすんなり受け止めていた。
 勇敢に戦って死んだのではない。子どもを助けて死んだ。それが曽祖父らしい、と思った。

 少し顔を上げると、困ったように笑う曽祖父の顔があった。
 つられてミチルも笑う。
 うちのじいちゃんは、しょうがないな……



「異国の兵士に命を救われたワシは、戦後を生き延びてがむしゃらに働いた。小さな建設会社を起こし、それが成功して大きな企業に成長した。だが、いつもワシの心にはワシの代わりに死んでいった兵士の姿があった」

「そうか……立派になっていたのだな」

 テン・イーから彼の生涯を聞くと、エーデルワイスは満足げに微笑んだ。

「まったくの外国人からもらった命だ。それに報いるためにワシは必死で働いた! 自国では指折りの建築家として名を馳せた!」

 そこまで聞いてミチルは思い出す。チルクサンダー魔教会やフラーウムの廃屋がコンクリートビルだった事を。

「建築家だから、建物にコンクリートを使ったんだね?」

「ワシの魔術で具現化すると、どうしても慣れ親しんだ造りになる」

「なるほどぉ……」

 納得しきりのミチルの反応はさておき、テン・イーは話題を戻すべく再び口を開いた。



「結婚し、子をもうけ、ワシもそれなりに年を取った。会社は順調、娘が結婚し、その婿に会社を任せようと思った矢先にそれは起きた」

「まさか……」

 エーデルワイスは眉をひそめて続く出来事を想像する。ミチル達も同じように感じていた。
 テン・イーは感情を高ぶらせて一気に捲し立てる。

「ワシは突然、この異世界に飛ばされたのだ! 何故、何故あの日でなければならなかった!? 娘が孫を出産し、病院へ向かう途中にワシは地球から消えた! 何故、その瞬間だったのだ!」

 テン・イー……かつてのクオンは、幸せの絶頂で異世界にやって来た。
 その無念はミチルもよくわかる。自分も大学入学直前の、希望に溢れた頃だったからだ。

「ああ……これは報いなのだ。赤の他人の命を使って生き延びた、ワシの抱えた罪だったのだ……そう絶望した」

「それは……」

 違うと、どう言えよう。
 エーデルワイスは言葉に詰まってしまった。
 未来ある子どもを助けて死んだ自分は、ある意味救いもあった。その子どもが成長して成功した人生を送ったことも嬉しかった。
 だが、それは自分勝手な自己満足だったのだろうか。

 あの日助けた子どもは、数十年の時を経て自分や子孫と同じ災難に遭遇している。
 ミチルは充が異世界転生を果たしたがゆえに、重い運命を背負う事になった。
 そしてもう一人。充の命を分けた存在も、重い運命に巻き込んでしまったのだ。



「ワシは、見ず知らずの人の命を奪った罰を、受けねばならなかったのだ……」

 血が混じる。テン・イーの吐く唾は赤く染まっていた。
 それが、異世界の地面に染み込んでいく。

 そんな皮肉な光景を、ミチル達は言葉もなく眺めているしか出来なかった。
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