【本編11】Final Meets 舞い降りた愛、生命そそぐ絆

 ミチルの命を繋ぐため、ウィンクルムを返してしまったイケメン達は、頼みの蒼い武器も不全になっていた。
 ベスティア特効がなくなってしまったため、遠隔攻撃のエリオットとチルクサンダーは魔法が出ない。直接殴る蹴るのジンは近づけない。犬に変身できないルークはただのおぼっちゃま状態。

 中距離で斬りつけられるジェイの大剣と、素早く斬りつけながら距離を取れるアニーのナイフだけが、可能性を持っていた。
 奇しくも第一の男(初恋)と第二の男(初めて告られた)の共演がここに成立する!

『ナニが【初恋】と【初めて告った】ダァアアアア!!』

 ティラノサウルス型ベスティア──ベスティラノと化したシャントリエリは、ギャオオスと怒りの咆哮を上げる。

『ならば余は【初めて股間を光らせた男】ダァアアアア!!』

 いや、光らせたのはイケメン達の怨讐だし!
 ていうか、それ、なんの自慢!?

 ミチルは無茶苦茶怒っているベスティラノ・シャントリエリに突っ込みたかった。



「おれは『初めてキッス30回でNTRした男』だぁ!」
「儂は『初めてお尻♡を××した男』だぞぉああ!」
「ぼくは『初めて毎朝ペロペロ♡♡しまくった男』でええす!」



「お前たちぃいい!」

 ミチルは羞恥でどうにかなりそうだった。
 エリオット以降は完全にこじつけ。でも認めてあげたい気もする。複雑である。

「我は……我は、ええと」

「チルくんまで乗らんでいいっ!!」

「……おお、そうだ! 我は『初めて濃厚注入(※魔力を)した男』であるぞぉ!」

「キャアアア! 言い方がヒワイ過ぎるゥウウウ!!」



 ギャーギャー騒ぐ外野の状況を見ながら、ジェイとアニーは溜息を吐いた。

「……あれらに比べたら、私達の『初めて』はささやか過ぎないか?」

 そんな風に言うジェイの肩を、アニーはポンと叩いて頷いた。

「だよな。ズルくない? どんどんエスカレートしてさあ」

 ……ごめんなさい。誰かが謝った。

「だけどな、ジェイ」

「む?」

「俺達は公式メインヒーローなんだ、そこに胸を張る!」

「むむう! 了解した!」

 ……あの、そろそろメタ発言やめてもらっていいですか。誰かが言った!



「おおい、こら、変態ストーカー皇帝!!」

 気を取り直したアニーがベスティラノ・シャントリエリを呼ぶ。

『だあれが、変態ストーカーダァアア!!』

 ズドーンと大きな脚が振り下ろされた。
 しかし、ジェイもアニーもひらりとそれを交わす。

「ストーカーには接近禁止令が下るはずだ、ミチルを金輪際見ないでいただきたい!」

 ジェイはベスティラノの片足を薙ぎ払うように斬った。
 切断は叶わないものの、確実にダメージはあった。

『ギャアアァアアアッ!!』

「さっすがカエルレウム、いい剣作ってるじゃねえか!」

 ベスティラノが痛がっている隙をついて、アニーがナイフを構えながら接近する。

「先祖のホコリを喰らえ!」

 高く跳躍したアニーは、ベスティラノの紅い瞳の片方に傷をつける。

『ウギャアアァア!!』

 一時的ではあるものの、片足と片目を潰されて、ベスティラノ・シャントリエリは悶絶していた。



「すごーい! さすがジェイとアニー!!」

 すぐ調子に乗るミチルは大はしゃぎ。

「やれー! そこだー! いっちゃえー!!」

 だが、その油断がいつも危険を誘う。



『デン・イィイイィーッ!!』

 部下を呼びつけるベスティラノ・シャントリエリ。
 その叫びは憤怒に満ち溢れている。

『もっと、もっどだぁあ! もっど、ヨに、大いなる魔力ヲ、ォオオオ!』

 もはやシャントリエリに元のような威厳溢れる面影はなかった。
 闇を欲し、力を欲し、瞳を血のように赤く光らせるその姿に、エーデルワイスは身震いする。

「皇帝は……すでに闇に魅入られている」

 テン・イーは己の主人でさえも暗闇に染めた。その事を法皇は悟っていた。
 アーテル帝国の内側にチルクサンダー魔教は深く食い込んでいる。皇帝自らベスティアへと身を投じたのも、テン・イーの策謀なのだろう。

『デエン・イイィイイ! 余に、ヨに、モッド、ヂカラをぉおヲ!!』

 怒りに任せて正気を失っているシャントリエリ。その命を受けたテン・イーは、静かに目を閉じる。
 一瞬だけ止まったように見えた。だが、一瞬だけだ。すぐにテン・イーは目を開ける。

「──御意。これがの魔力でございます……ッ!」

 大きく両手を振りかぶって、テン・イーは有らん限りの魔力……どす黒い波動をベスティラノ・シャントリエリに流す。
 その凄まじさたるや、ミチル達も呆然と眺めるしか出来なかった。

『オ、オオオォオオ……』

 魔力を受けてベスティラノは再びその体躯を揺らめかせる。

『オア、アアアァアア……ッ!』

 黒い波動を注ぎ続けるテン・イーの口元には血が滲んでいた。

「これで……全てに、終焉を……ッ!」

 ベスティラノだった巨体がバアンと黒い飛沫をあげて弾けた。

「ああ……っ!」

 ミチルはその影の中に、人影を見つける。
 シャントリエリの姿形そのもの。ただし、全てが黒い。今度は目も口も、その位置はわからない。

「……」

 黒い人影は何も言わなかった。
 ただ、その右手を少し上げればよかった。



 黒い人影の発する闇の波動に、その場の全員が吹き飛ばされる。

「うわぁッ!」

 ミチルはなんとかエーデルワイスに助けられて、地面に体を打つことは免れた。

「クソが、やはり縮んだではないか……!」

 ジンはその人影を睨みながら悪態をつく。

「これは……まずいな」

 チルクサンダーからは珍しい絶望を孕んだ声が漏れた。

「なんだよ、このデタラメな魔力……! チルクサンダーがベスティア化した時よりも、ものすげえ」

 エリオットもその膨大な力の差に愕然とする。

「破壊神……」

 ルークがポツリと呟く。それが的確な形容だと誰もが思った。



 破壊神、ベストリエリ……!
 物言わぬ、けれども全てを凌駕する、「災厄」が降臨した。
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