【DKBL】お弁当男子が食べられるまで
どこをどう走ったか覚えていないが、リョウは屋上の入口まで来ていた。
立入禁止のはずのその扉が、少し開いていた。そこなら誰も来ないと思って、リョウは迷わず屋上に足を踏み入れた。
そこでリョウが見たのは、惣菜パンや菓子パンを大量に持ち込んで、まるで牛のエサのようにそれを食べまくっているナルミの姿だった。
「……ふぁ? はんは、おふぁふぇ(なんだ、お前)」
「──は?」
パンを咥えながら言う間抜けな姿に、リョウは呆気に取られてしまった。
「ごくっ。お前、何入ってんだよ、立入禁止だぞ」
大量のパンを飲み込んでから、そう言うナルミの風貌はだらしない不良のようだった。
「ド、ドアが開いてたんだ! キミだって入ってるじゃないか」
「俺はいーんだよ、いつものことだ」
あ。こいつはルールを無視する不良なんだ、とリョウは思った。
立ったままのリョウを見上げて、ナルミはリョウが抱えている弁当を指さしながら言った。
「お前もメシ食いに来たのか」
「あ、うん……」
「チッ、しゃあねえな。黙っててやるから、その辺で食っていいぜ」
何なんだ、こいつは。まるでここが自分のテリトリーのような物言い。
あ、でも、不良は確かに縄張り意識が強そう。
変なところで納得したリョウは、昼休み時間も残り少ないことだし、ナルミから少し離れて座って、弁当を広げた。
「……なんだ、お前の弁当、茶色いな」
しかし一瞬で距離をつめたナルミは、リョウの肩に手をかけてその弁当を覗き込んだ。
「み、見るなよ!」
最悪だ。あんなに映える弁当を作っていたオレが、そんな評価をされるなんて。
リョウは泣きたくなってしまった。
「なんで? すげえイイ匂いするじゃん、ウマそう」
「え……」
リョウは驚いた。
自分の弁当は、今までは「綺麗だね」とか「可愛いね」としか言われてこなかった。
「美味しそう」だとは、初めて言われた気がする。
「まあね。オレが作るものがマズイわけないじゃん……」
照れ隠しで、リョウは悪態をつきながら弁当を食べ進める。
「へえ、お前、自分で弁当作ってんのか」
「うん、まあ……」
「すげえな、ウチは母ちゃんも俺も料理できねえからさ。メシはいつも散々なもんだ」
図々しく隣に座り込んで、ナルミは聞いてもいないのに喋り続ける。
「父ちゃんがいねえからさ、母ちゃんは夜勤の仕事でよ。朝は起きれねえから、朝メシねえしな」
「ええ!?」
リョウは仰け反るほど驚いた。栄養管理が趣味のような自分には考えられないことだった。
「だからさ、昼メシは購買でパンをしこたま買って食うんだ。午前中はマジ貧血で死ぬかと思うぜ」
はっはは、と笑いながら言うナルミに、リョウは思わず怒鳴っていた。
「朝ご飯を食べずに、昼は菓子パンをドカ食い!? ふざけてるのか、キミは!!」
そんなリョウの剣幕に、ナルミも少し怯んで言い返す。
「な、なんだよ。別にいいだろ」
「良くない! 無理ぃ! そんな破茶滅茶な食生活、絶対無理ぃいい!」
「お前、落ち着けよ……」
これが落ち着いていられるか。目の前の、栄養のなんたるかも知らない男。
なのにヘラヘラ笑ってる。リョウはそれに心底ムカついた。
「もういい、わかった! キミには明日からオレが弁当作ってきてやる! その歪んだ食生活、叩き直してやるからな!」
今思えば、とんだお節介だった。
なのに、ナルミはそれを嬉々として受け入れた。
「え、マジ? いいの? ハンバーグ入れてくれよ、唐揚げもいいなあ」
「いいとも! このオレが栄養満点の弁当を作ってやろう!」
「やったあ! あ、でも野菜いらねえ。嫌いだから」
その発言が、リョウの心にますます火をつけた。
「ふ、ざ、け、る、な! 野菜を食べないヤツは死んでしまえ! ついでにキミの食わず嫌いも全部直してやる!」
「お、おお……」
「オレは二年の飯塚リョウ! キミは!?」
「瀬田ナルミ……二年」
こうしてリョウは新たな自己顕示欲を満たしてくれる存在を手に入れた。
そんな風に屋上で始まった奇妙な出会いから、一年が経とうとしている。
立入禁止のはずのその扉が、少し開いていた。そこなら誰も来ないと思って、リョウは迷わず屋上に足を踏み入れた。
そこでリョウが見たのは、惣菜パンや菓子パンを大量に持ち込んで、まるで牛のエサのようにそれを食べまくっているナルミの姿だった。
「……ふぁ? はんは、おふぁふぇ(なんだ、お前)」
「──は?」
パンを咥えながら言う間抜けな姿に、リョウは呆気に取られてしまった。
「ごくっ。お前、何入ってんだよ、立入禁止だぞ」
大量のパンを飲み込んでから、そう言うナルミの風貌はだらしない不良のようだった。
「ド、ドアが開いてたんだ! キミだって入ってるじゃないか」
「俺はいーんだよ、いつものことだ」
あ。こいつはルールを無視する不良なんだ、とリョウは思った。
立ったままのリョウを見上げて、ナルミはリョウが抱えている弁当を指さしながら言った。
「お前もメシ食いに来たのか」
「あ、うん……」
「チッ、しゃあねえな。黙っててやるから、その辺で食っていいぜ」
何なんだ、こいつは。まるでここが自分のテリトリーのような物言い。
あ、でも、不良は確かに縄張り意識が強そう。
変なところで納得したリョウは、昼休み時間も残り少ないことだし、ナルミから少し離れて座って、弁当を広げた。
「……なんだ、お前の弁当、茶色いな」
しかし一瞬で距離をつめたナルミは、リョウの肩に手をかけてその弁当を覗き込んだ。
「み、見るなよ!」
最悪だ。あんなに映える弁当を作っていたオレが、そんな評価をされるなんて。
リョウは泣きたくなってしまった。
「なんで? すげえイイ匂いするじゃん、ウマそう」
「え……」
リョウは驚いた。
自分の弁当は、今までは「綺麗だね」とか「可愛いね」としか言われてこなかった。
「美味しそう」だとは、初めて言われた気がする。
「まあね。オレが作るものがマズイわけないじゃん……」
照れ隠しで、リョウは悪態をつきながら弁当を食べ進める。
「へえ、お前、自分で弁当作ってんのか」
「うん、まあ……」
「すげえな、ウチは母ちゃんも俺も料理できねえからさ。メシはいつも散々なもんだ」
図々しく隣に座り込んで、ナルミは聞いてもいないのに喋り続ける。
「父ちゃんがいねえからさ、母ちゃんは夜勤の仕事でよ。朝は起きれねえから、朝メシねえしな」
「ええ!?」
リョウは仰け反るほど驚いた。栄養管理が趣味のような自分には考えられないことだった。
「だからさ、昼メシは購買でパンをしこたま買って食うんだ。午前中はマジ貧血で死ぬかと思うぜ」
はっはは、と笑いながら言うナルミに、リョウは思わず怒鳴っていた。
「朝ご飯を食べずに、昼は菓子パンをドカ食い!? ふざけてるのか、キミは!!」
そんなリョウの剣幕に、ナルミも少し怯んで言い返す。
「な、なんだよ。別にいいだろ」
「良くない! 無理ぃ! そんな破茶滅茶な食生活、絶対無理ぃいい!」
「お前、落ち着けよ……」
これが落ち着いていられるか。目の前の、栄養のなんたるかも知らない男。
なのにヘラヘラ笑ってる。リョウはそれに心底ムカついた。
「もういい、わかった! キミには明日からオレが弁当作ってきてやる! その歪んだ食生活、叩き直してやるからな!」
今思えば、とんだお節介だった。
なのに、ナルミはそれを嬉々として受け入れた。
「え、マジ? いいの? ハンバーグ入れてくれよ、唐揚げもいいなあ」
「いいとも! このオレが栄養満点の弁当を作ってやろう!」
「やったあ! あ、でも野菜いらねえ。嫌いだから」
その発言が、リョウの心にますます火をつけた。
「ふ、ざ、け、る、な! 野菜を食べないヤツは死んでしまえ! ついでにキミの食わず嫌いも全部直してやる!」
「お、おお……」
「オレは二年の飯塚リョウ! キミは!?」
「瀬田ナルミ……二年」
こうしてリョウは新たな自己顕示欲を満たしてくれる存在を手に入れた。
そんな風に屋上で始まった奇妙な出会いから、一年が経とうとしている。