【DKBL】本当は幼馴染の二人

 覚えている。その瞳。

「お前、転校してったはっちゃんだったのか!?」

 カナタにとって、一番仲が良かったのは後にも先にもはっちゃんだけだ。
 中学、高校に進んでも、軽く遊んで浅い付き合いの友達ばかり。だから、肝心な場面ではカナタはいつも一人ぼっち。

「思い出した! エイトでハチだから、はっちゃんだ! だよな?」

 カナタはすっかり興奮していて、エイトが立ち上がって接近していたことに気付かなかった。

「遅い……」

 大きな影が、カナタの顔にかかる。
 エイトは少し苛立ったような表情でカナタを見つめていた。

「お前は、気付くのが遅すぎる……」

 エイトの大きな手がカナタの頬に触れた。
 その熱が伝わって、カナタの心臓は跳ね上がる。

「はっちゃん……?」

「俺は、いつもお前を見ていたのに」

 そういえば、エイトはカナタがいつもつるんでいるメンバーを知っているようだった。
 二年から同じクラスになったし、話したこともなかったのに。

「本当に、馬鹿なヤツだ……」

 エイトが頬を撫でながら、カナタの唇を覆った。

「んう……ッ!」

 呼吸をなぞるエイトの唇は、手よりも熱かった。
 やば……
 全部、溶けそう……

「思い出したなら、もう容赦はしない」

「う、うえ……?」

 眼鏡の奥の、懐かしい瞳に、カナタは一瞬で囚われた。

「覚悟しろよ、かな……」

「あ──」

 カナタの視界は全てエイトで埋め尽くされて。蕩けてひとつになりそう。

「んぅ……」

 はっちゃんのキスがしつこ過ぎる。
 カナタはすでに腰に力が入らない。エイトが執拗なキスをカナタにし続けるからだ。

「んっ……!」

 吐息を全て奪われてカナタは酸欠になってしまっていた。
 目の奥が、チカチカする。

「はっちゃ、ん……!」

「かな、かな……」

 懐かしい呼び名で呼ばれると、あの日の事が鮮明に思い出される。
 いつも一緒にいたはっちゃんと、今はこんな事をしているなんて。

「ちょ、タンマ、はっちゃん……!」

 やっとのことでエイトを押し返す。カナタは荒くなってしまった息を整えることに全神経を使った。

「あ……かな、すまない……」

 我に返ったエイトも、カナタの腰を支えながら呼吸を整えた。

「お前に触れたら、我慢していたものが急に……」

「もう、はっちゃぁん……」

 カナタは体に力が入らないので、エイトの背に腕を回して抱きついた。
 あの頃と同じ匂い、けれどあの頃より熱い体温に、カナタは心臓がドキドキしておかしくなりそうだった。

「かな……」

 エイトもまた、カナタの体をぎゅっと抱きしめる。
 それからその髪に擦り寄って呟いた。

「ずっと、好きだった……」

 その言葉は、カナタの体の奥まで響いていった。
 話したこともないのに、何故かエイトが気になっていたのは、こうなる事を予感していたからだろうか。

「はっちゃん……」

「かな?」

 カナタは更にきつくエイトを抱きしめる。

「嬉しいなぁ……」

「かな……」

 エイトは眼鏡を外して机に置いた。そして体を少し離してカナタを見つめる。

「好きだ……」

「──!」

 再度紡がれた想いのたけ。
 眼鏡で隠されていたエイトの顔は、ものすごく格好良くて、やや危険な雰囲気だった。

「あ……」

 もう一度口付けが与えられた。
 ゆっくりと、優しく。失われていた時間を取り戻すように。

 やっと、会えたんだよね……

「かな……」

「はっちゃ……ん」

 取り戻した唇が、とても気持ちいい。
 少しエスっけを帯びて戻ってきた幼馴染に、カナタの心は急速に惹かれていくのだった。
3/3ページ
スキ