【DKBL】生徒会ラブラブ大作戦!
入学式、壇上の人に恋をした。
「新入生諸君、ようこそ金犀 学園へ」
僕らを見下ろして溌剌と語りかけるその人は、とても頼もしくて瞳がキラキラしていた。
ネクタイをかっちりと締めて、ブレザーもきっちりと着こなしている。
整った真っ黒い短髪が照明を受けて光っていた。それが面長の綺麗な顔によく似合っている。
「なんかさ、あの人、サラリーマンみたいだね」
隣のクラスメイトがそんな風に呟いた時、僕はなるほどと納得してしまった。
「第五十五代生徒会長、加賀谷イツキです」
自己紹介する姿はまさに、キャリアがあって仕事をバリバリこなすエリートサラリーマンだと思った。
きっとこの人は何でもできるスーパーマンなんだろうと想像した。
だけど、三年生と入学式したばかりの僕では、もう一度会うような機会がなくて。
壇上で感じた恋心は、緊張していたからだと思うようになって。
忙しく巡る学校生活の間にその面影は忘れてしまった。
◇
入学して二週間が経った頃、昇降口を歩いていたら急に声をかけられた。
「──君! 名前は?」
僕はこの時とても驚いてしまっていて、その人が壇上のあの人だとは思わなかった。
壇上の人はすでに僕にとっては天上の人になっていたんだ。
「花井、ユウです……」
辛うじて先輩に話しかけられている事だけはわかった。だから失礼がないようにすぐ名前を言った。
先輩に名前を覚えられたらどうなるんだろうと心臓がドキドキしていた。
「花井くん……」
背が高いその先輩は、何故か僕をじっと見つめているだけだった。
何でそんなに見るんだろう。僕は失礼な事を知らずにしていたんだろうか。
「え、えっと……三年生の人ですか?」
直感で三年生だと思ったのは、目の前の先輩が動かないうちに、僕も少し落ち着いたから。
その直立したカッコいい姿には見覚えがある気もした。
「急に済まない。俺は今期の生徒会長・加賀谷イツキ」
目の前の先輩は、ピクリと動いた右腕を何故か左手で押さえながら名前を教えてくれる。
「加賀谷、先輩……」
あ──
その名を反芻した時、僕は急に二週間前の出来事を思い出した。
「じゃなくて、会長ですか……」
初めて会う人じゃない。この人は生徒会長だ。
エリートサラリーマンみたいな、何でも出来る、憧れの壇上の人。
僕の気持ちは、入学式の日に戻る。
そうだ、僕は、この人に恋をした。それを思い出した。
最初のトキメキ。それから二度目のトキメキ。
同じ人に二度ときめいたから、もう、きっとこれは本当に「恋」だ。
「君、生徒会に入らないか?」
「はい……」
恋した人から、夢みたいな提案。
僕は思わず即答していた。変な子だと思われたかもしれない。
でも、これからずっと会えるようになる。目覚めた恋心に僕は舞い上がっていた。
会長の僕を見る目が、とても優しかったから。
◇
会長は、何をしていてもカッコいい。
会議中、意見をまとめてみんなが納得するような最適な答えをすぐに出してくれる。カッコいい。
最後に決まって「花井もそれでいいかな?」って聞いてくれるのが一番カッコいい。
とにかく会長は優しくて。
発言権なんかほとんどない一年生の僕を、特に優しく気遣ってくれる。
カッコ良すぎて僕はずっと痺れてる。
五月、六月と、生徒会で会長と過ごしてきて、僕の心には欲が出て来てしまっていた。
期末テストが終われば夏休み。長い間、会長に会えない。その間に僕のことなんか忘れてしまうかもしれない。
だから思い切って、活動日以外の作業を会長に頼んでしまった。
会議録の作成をわざとゆっくりやって終わらない振りをした。
優しい会長は、一年生に一人で作業なんかさせない。そう期待して。
僕は会長と二人っきりになるチャンスを得ようとした。
会長、ごめんなさい。僕、本当は悪い子です。
二人っきりになって、僕は困ってしまった。何をどうしたらいいのか分からなかった。
会長に「好きです」とも言えなくて、困りながら作業だけが進んでしまった。
お茶を淹れて粘ってみるけれど、会長に告白する勇気が出ない。
だってこんなに素敵でカッコいい会長だ。僕みたいなみそっかすはお呼びじゃない。
でも、その日の会長の仕草はなんだかとても甘くて。
「おいで」なんて言って、僕を隣に座らせてくれた。会長がすぐ近くで、いい匂いがして、ますます心臓が跳ね上がる。
好き。
好き、好き。大好き、会長。
夏休みも、僕とずっと一緒にいて欲しい。
「ずっと、一緒にいて欲しい。君が、好きだ」
奇跡が、起きた。
会長も、僕が必要だって言ってくれた。
「イツキ……さん」
初めて恋人になった人の名前を呼んだ。
それだけで、想いがあふれて幸せだ。
「大好き、です……」
◇
僕のは作戦なんて呼べたものじゃなかった。
やっぱりイツキさんはスーパーマンだ。僕の恋を叶えてくれたスーパーマン。
二人で過ごす夏休み。まずは僕が宿題を終わらせること。
イツキさんの計画は完璧。今日の段取りも溜息が出るくらいカッコよかった。
僕の計画は……
「次は夕方まで一緒にいよう」
別れ際に囁かれた耳がまだ熱い。
夕方まで、ですか? 嬉しいけれど、その計画は少し不満です。
僕は携帯電話で検索を始める。
『夏休み 恋人と過ごす』
……さらにスペース。
『 夜まで』
「新入生諸君、ようこそ
僕らを見下ろして溌剌と語りかけるその人は、とても頼もしくて瞳がキラキラしていた。
ネクタイをかっちりと締めて、ブレザーもきっちりと着こなしている。
整った真っ黒い短髪が照明を受けて光っていた。それが面長の綺麗な顔によく似合っている。
「なんかさ、あの人、サラリーマンみたいだね」
隣のクラスメイトがそんな風に呟いた時、僕はなるほどと納得してしまった。
「第五十五代生徒会長、加賀谷イツキです」
自己紹介する姿はまさに、キャリアがあって仕事をバリバリこなすエリートサラリーマンだと思った。
きっとこの人は何でもできるスーパーマンなんだろうと想像した。
だけど、三年生と入学式したばかりの僕では、もう一度会うような機会がなくて。
壇上で感じた恋心は、緊張していたからだと思うようになって。
忙しく巡る学校生活の間にその面影は忘れてしまった。
◇
入学して二週間が経った頃、昇降口を歩いていたら急に声をかけられた。
「──君! 名前は?」
僕はこの時とても驚いてしまっていて、その人が壇上のあの人だとは思わなかった。
壇上の人はすでに僕にとっては天上の人になっていたんだ。
「花井、ユウです……」
辛うじて先輩に話しかけられている事だけはわかった。だから失礼がないようにすぐ名前を言った。
先輩に名前を覚えられたらどうなるんだろうと心臓がドキドキしていた。
「花井くん……」
背が高いその先輩は、何故か僕をじっと見つめているだけだった。
何でそんなに見るんだろう。僕は失礼な事を知らずにしていたんだろうか。
「え、えっと……三年生の人ですか?」
直感で三年生だと思ったのは、目の前の先輩が動かないうちに、僕も少し落ち着いたから。
その直立したカッコいい姿には見覚えがある気もした。
「急に済まない。俺は今期の生徒会長・加賀谷イツキ」
目の前の先輩は、ピクリと動いた右腕を何故か左手で押さえながら名前を教えてくれる。
「加賀谷、先輩……」
あ──
その名を反芻した時、僕は急に二週間前の出来事を思い出した。
「じゃなくて、会長ですか……」
初めて会う人じゃない。この人は生徒会長だ。
エリートサラリーマンみたいな、何でも出来る、憧れの壇上の人。
僕の気持ちは、入学式の日に戻る。
そうだ、僕は、この人に恋をした。それを思い出した。
最初のトキメキ。それから二度目のトキメキ。
同じ人に二度ときめいたから、もう、きっとこれは本当に「恋」だ。
「君、生徒会に入らないか?」
「はい……」
恋した人から、夢みたいな提案。
僕は思わず即答していた。変な子だと思われたかもしれない。
でも、これからずっと会えるようになる。目覚めた恋心に僕は舞い上がっていた。
会長の僕を見る目が、とても優しかったから。
◇
会長は、何をしていてもカッコいい。
会議中、意見をまとめてみんなが納得するような最適な答えをすぐに出してくれる。カッコいい。
最後に決まって「花井もそれでいいかな?」って聞いてくれるのが一番カッコいい。
とにかく会長は優しくて。
発言権なんかほとんどない一年生の僕を、特に優しく気遣ってくれる。
カッコ良すぎて僕はずっと痺れてる。
五月、六月と、生徒会で会長と過ごしてきて、僕の心には欲が出て来てしまっていた。
期末テストが終われば夏休み。長い間、会長に会えない。その間に僕のことなんか忘れてしまうかもしれない。
だから思い切って、活動日以外の作業を会長に頼んでしまった。
会議録の作成をわざとゆっくりやって終わらない振りをした。
優しい会長は、一年生に一人で作業なんかさせない。そう期待して。
僕は会長と二人っきりになるチャンスを得ようとした。
会長、ごめんなさい。僕、本当は悪い子です。
二人っきりになって、僕は困ってしまった。何をどうしたらいいのか分からなかった。
会長に「好きです」とも言えなくて、困りながら作業だけが進んでしまった。
お茶を淹れて粘ってみるけれど、会長に告白する勇気が出ない。
だってこんなに素敵でカッコいい会長だ。僕みたいなみそっかすはお呼びじゃない。
でも、その日の会長の仕草はなんだかとても甘くて。
「おいで」なんて言って、僕を隣に座らせてくれた。会長がすぐ近くで、いい匂いがして、ますます心臓が跳ね上がる。
好き。
好き、好き。大好き、会長。
夏休みも、僕とずっと一緒にいて欲しい。
「ずっと、一緒にいて欲しい。君が、好きだ」
奇跡が、起きた。
会長も、僕が必要だって言ってくれた。
「イツキ……さん」
初めて恋人になった人の名前を呼んだ。
それだけで、想いがあふれて幸せだ。
「大好き、です……」
◇
僕のは作戦なんて呼べたものじゃなかった。
やっぱりイツキさんはスーパーマンだ。僕の恋を叶えてくれたスーパーマン。
二人で過ごす夏休み。まずは僕が宿題を終わらせること。
イツキさんの計画は完璧。今日の段取りも溜息が出るくらいカッコよかった。
僕の計画は……
「次は夕方まで一緒にいよう」
別れ際に囁かれた耳がまだ熱い。
夕方まで、ですか? 嬉しいけれど、その計画は少し不満です。
僕は携帯電話で検索を始める。
『夏休み 恋人と過ごす』
……さらにスペース。
『 夜まで』
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