【DKBL】生徒会ラブラブ大作戦!

 七月下旬。夏休みに入った。
 高校三年、加賀谷イツキにとって薔薇色の長期休暇の幕開けである。

「ふふふ……」

 歩いていても笑いが止まらない。
 道行きすれ違う人達の、誰よりも俺の方が幸せだ。

 何故なら。
 宇宙一キュートでベリープリティな恋人が出来てしまったからだ!
 
 しかも、これから待ち合わせ。イツキの足は恋人へと向かっていくためについている。

「フッフフフ……」

 落ち着け、加賀谷イツキ。第五十五代生徒会長よ。
 まだこれはほんのプロローグ。まずはめくるめくアバンチュールを阻む敵を倒さなければ。

 そう、「宿題」という敵を……! 闘技場という名の「図書館」へ……倒しに行くのだ!

「会長、おはようございます!」

 図書館入口で元気に手を振っている少年。
 それがイツキの恋人、一年生の花井ユウ。

 ああ……なんて可愛いんだ。この世のものとは思えない。
 私服、初めて見る。天使もTシャツを着るんだなあ。

 イツキの脳内はすでに夏祭り状態、花火がバンバンぶち上がっていた。
 しかし、そんな煩悩をユウに見せるわけにはいかない。イツキは爽やかに笑ってユウに駆け寄った。

「やあ、ユウ。待たせたね」

 そんなイツキの姿を見たユウは花が咲いたように笑う。

「いえ! 僕も今来た所です。せっかく夏休みなのに会長を付き合わせてしまって……」

「こーら、ユウ。会長、じゃないだろ?」

 今すぐ抱きしめてグリグリしたい衝動を堪えて、イツキは少しおどけて嗜めた。
 するとユウはぽっと頬を染めて、俯きがちに言う。

「え、え……と、イツキ……さん」

 恥じらうユウの可愛さは、イツキの意識レベルを成層圏まで飛ばす。
 心臓は激しく貫かれ、萌えという吐血をしそうになるが、それもイツキは鋼の精神で堪えた。

「そう、よく出来ました。ユウのためならいくらでも付き合うから、気にしなくていい」

 だって俺たちは「付き合っている」のだから!
 最後の一言はオヤジギャグになりかねないので、イツキはぐっと言葉を飲み込んだ。

「……ありがとうございます」

 そう笑いかけるユウの視線は、それまでとは違っていた。
 イツキが告白する前、気持ちが通じ合っていなかった頃は、単純に可愛らしい笑顔というだけだった。
 だが、今のユウの顔。好意を隠さない、隠さなくても良くなった素直な笑顔。
 以前の何十倍も素晴らしいとイツキは思った。そしてそんなユウの笑顔に、イツキの想いも何十倍にも膨れ上がる。

「では行こう、談話室を予約してあるから」

 イツキはスマートな仕草でユウの腰に触れ、図書館へとエスコートする。

「は、はい……っ」

 全ての所作がカッコいい、とユウは思っている。
 だがイツキは胸中でユウの細い腰にムラムラしている。そこをおくびにも出さないイツキの精神力は流石であった。

 本日の図書館デートの目的はユウの宿題をどう進めるか。効率的に終わらせる方法をイツキが教える、というものだ。
 図書館の弱点は話せない事だが、イツキはグループ研究用の談話室を予約することでこれを打破した。

 初デートの場所を図書館にする事で、真面目さと誠実さを演出できる。
 談話室を予約する事で、デキル男感を出せる。
 イツキの計画は完璧であった。

「イツキさんて、やっぱりすごいですね……」

 ユウがうっとりと俺を見ている。なんて可愛い。
 だがまだ我慢しろイツキ。ユウの宿題の算段をつけてからがアバンチュールの始まりだ。

 本当はユウの宿題全てを手取り足取り教えてやりたいイツキである。
 だがユウにそれは断られた。二人っきりではドキドキして勉強に集中できない、という実に可愛らしい理由で。

 それは確かにイツキも無事に済ませる自信はない。
 だから宿題を早く終わらせる計画を立てる助言をする、という折衷案がまとまった。

「僕、頑張って宿題を終わらせますね……!」

「ああ、その意気だ、ユウ」

 早く終わらせて、暑い夏で熱くなろう。
 イツキの溜め込んだ夏休みプランの数々が火を吹くために。

 ◇

 談話室が使えるのは二時間まで。
 ユウの宿題内容を確認して、効率良い手順を考えるだけで時間いっぱいだった。

 二人が図書館を出るとちょうどよくランチの時間になっていた。
 そこでイツキの夏休みプランその1が早速実行された。

「ユウ、頑張ったな。昼食を食べて行かないか、この先にいいカフェがあるんだ」

「はいっ!」

 ユウは弾ける笑顔で返事した。嬉しそうにしている様に、イツキの胸もまた弾ける。

「お腹が空いてるんだろう?」

 無邪気に喜んでいる様子にイツキがほのぼのしていると、ユウは少し照れながら言った。

「それもありますけど、イツキさんと初めてのデートなのに勉強だけじゃ……なんて。もうちょっと一緒にいたいなって……えへへ」

 ──カワイイ!
 照れて語尾まで喋れないのが、ものすごくカワイイ!!

 健気にそんな事を言われては、イツキはキュン死に確定である。
 この衝動に耐えるには、せめて手を繋ぐしかない。イツキは迷わずユウの手を取った。

「あ……っ」

「では行こう。暑いが、ゆっくり歩いてもいいかな?」

「はいっ」

 ゆっくり歩いて行こう。
 俺達はまだ始まったばかりなのだから。
 こんなに可愛いユウのペースに合わせて、ゆっくりと。

 ◇
 
 ランチを食べて他愛もないおしゃべりをして、夕暮れ前にイツキはユウを駅に送り届けた。

「イツキさん、僕、宿題頑張って終わらせますね!」

「うん、期待しているよ」

 両手でガッツポーズをしてみせるユウの、可愛らしさは何にも変え難い。
 こんな可愛い生き物を駅前の数多い通行人に見せるなど、もっての外だとイツキは思う。

「それじゃ──」

 帰したくない。
 そんな想いに耐えきれなくて、イツキは思わずユウの腰を引き寄せた。

「ふあっ」

 驚くユウの耳元に、イツキは唇を寄せる。
 
「次は夕方まで一緒にいよう」

 そして、その次は夜まで……
 そこまでは言えなくて、イツキは言葉を飲み込んだ。

 愛を囁かれたユウは頬を真っ赤に染めて、改札口を入っていった。
 その小さな背中を見送りながら、イツキは気持ちを逸らせる。

 あまりゆっくりもしていられない。
 夏の夜は短いのだから。
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