【DKBL】生徒会ラブラブ大作戦!

 しばらくして、アールグレイの芳醇な香りが生徒会室に漂ってくる。
 ユウは来客用のカップを二脚、トレイに乗せて持ってきた。置いてある個々のカップでは高級茶葉を味わうには役不足だ。

「えへへ、これ、使っちゃいました」

 悪戯っぽく笑うユウの仕草は全てが可愛くて、イツキは発熱しそう。クーラーの温度をこっそり下げた。
 そうしているうちに、ユウがイツキの机まで歩いてくる。

 マズイ!
 パソコンの画面が白いことに気づかれる!

 イツキは慌てて立ち上がった。

「は、花井! お茶はそっちのソファで飲もう!」

「え?」

 イツキが指さしたのは、来客を迎える応接セットがある一画だ。
 ユウが立ち止まっているうちに、イツキはツカツカとそこに向かって先にソファに腰掛けた。

「こちらで休憩しよう。……おいで」

 イツキは三人掛けのソファの端に座り、大人びた笑みでもって隣をポンと叩いてユウを招いた。
 すると、ユウはまた頬を紅く染めて頷く。

「は、はい……」

 方向を変えたユウがこちらにやって来る。
 結果オーライの大チャンス到来かもしれない、とイツキは思った。

 現在の暦は七月に入ったばかり。もうすぐ夏本番である。
 イツキは、夏休みが始まる前にどうしてもユウと恋人になりたかった。

 ただの先輩後輩のままで、長い休みを過ごすなどもっての外。
 誰にも邪魔されずに、夏休み中はずーっとユウとイチャイチャしたいのだ。

 そうなるためには、この想いを告げなくては。他の役員がいない今日こそ、大チャンス!
 隣にそっと座るユウは、少しいつもと違う。仄かに頬を染めて、恥じらっているように見えた。

「どうぞ、会長」

 ユウが差し出してくれた紅茶を、イツキはゆっくりと味わった。

「……うん、美味しい。上手に淹れてくれたな」

 鼻腔をくすぐる芳香に後押しされて、イツキはユウに微笑みかけた。

「えへへ……良かったです」

 ふわっと笑う笑顔と、柔らかく揺れる前髪。
 緩いウェーブがかかった茶色い髪に触れて、掻き上げて匂いを嗅ぎたい!

 落ち着け、加賀谷イツキ。第五十五代生徒会長よ。
 段取りが肝心だ。早まってはいけない。

 イツキはバクバク煩い心臓音から懸命に意識を逸らし、ユウに問いかけた。

「花井。……君は、夏休みの予定などは、あるのか?」

「いえ、特には。うちは両親が共働きなので長い旅行も行けないですし」

「そうか……」

 細かすぎる関門を突破して、イツキは心の中で拳を握る。こんなに刻んでいたらいったいいつ告白できるのか。

「会長は、受験勉強とかでお忙しいんですか?」

 ユウが俺に興味を持っている! なんて可愛いんだ!
 イツキは嬉しさで放心しそうになるのを堪えて、努めて普通に振る舞おうとした。

「いや、そうでもない。俺は大学も金犀だから。内申点も満たしているはずだし、何もなければ推薦がとれるんだ」

「そうなんですか? さすが会長です!」

 ユウはキラキラした眼差しを向けて言った。ちょっと可愛いが過ぎる。
 伸ばせば届くその手を握って、抱き寄せたい。
 イツキは抗いがたい衝動と戦っている。

「僕、夏休み、あまり楽しみじゃなくて……」

「どうして?」

 俯きがちに、ユウは顔をますます赤らめて、覚悟を決めたように言った。

「一月以上も、会長に会えないなんて……」

「!」

 イツキの心臓はバックンバックン騒ぎ出していた。

「僕、会長に生徒会に誘っていただいて、すごく嬉しかったんです。会長のお役に立てるのが──必要とされるのが嬉しくて」

 イツキの脳裏には春からの|走馬灯《ユウ・メモリー》が駆け巡る。
 書記の仕事を懸命に覚えようと頑張っていた四月。
 初めての部活動予算会議で議事録作成に取り組んだ五月。
 衣替えを迎え、半袖の下から細くて白い腕が見えた六月。

 そして七月、いや、これからは……

「必要だ、花井」

「会長……?」

 イツキは、ユウの腕を掴んで引き寄せた。
 初めてその頬に触れる。柔らかくて、とても温かい。

「夏休みになっても、俺には花井が必要だ」

「え、と……」

 大きな瞳が少し揺れてイツキを見ていた。

「夏休みが終わっても、秋になって冬が来ても、卒業しても……俺には花井が、ユウが必要なんだ」

 ユウの瞳には、イツキしか映っていない。それはイツキも同じ。ユウしか見えない。
 俺達の想いは、同じだ。自然とそう思えた。

「ずっと、一緒にいて欲しい。君が、好きだ」

「会長……」

 ユウは泣きそうな目で、笑っていた。
 その表情は、今までで一番美しい。

「もう、会長なんて呼ぶな……」

 イツキはユウの唇に親指で触れる。熱くてしっとりとした感触が、イツキの胸を昂らせた。

「イツキ……さん」

「ああ。ユウ……」

 やっと呼んでくれた。その響きをイツキは噛み締めながら唇を寄せる。
 ユウの唇は、紅茶の香りを帯びて、甘美な言葉を紡いだ。

「大好き、です……」

「ありがとう……」

 甘い紅茶の香りが、ユウの唇から伝わる。
 初めてのキスに、イツキは酔いしれながらユウを深く求めていった。
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