【DKBL】文芸部のトモとナツ

 しばらくして、ナツが少し難しい顔をしながら画面を見続けているので、トモは気分転換になればと声をかけた。

「先輩は文化祭に向けて、書評の薄い本を作るんですか?」

 トモの質問に、ナツはまた顔を上げて凄んだ。

「薄い本じゃない! 本来の意味での同人誌だ!」

「本来もなにも、今、同人誌って言ったらパロディの薄い本のことですよぉ。トレンドはしょうがないですよね」

「お前、随分詳しくなったな。まさかその手の本屋に行ったんじゃないだろうな?」

 ナツがジト目で聞くと、トモはケロッとして答えた。

「行きましたよ、そんで買いました」

 すると、ナツは顔を赤らめてどもる。

「おま、おまえ、まさか……」

「エッチなのはね、年齢制限厳しくて買えませんでした。あ、二次じゃなくて買ったのは一次です、先輩はパロディ嫌いですもんね」

「な、何、買った……?」

「あれえ? 先輩気になるんですか?」

 トモがニヤニヤして聞くと、ナツはまだ顔を赤くしたまま言いにくそうにしていた。

「そりゃ、後輩がどんなものに触れたのか、知っておく必要が……あるだろ」

 ごにょごにょと呟くように言うナツが可愛くて、トモは思わず抱きしめたい衝動に駆られたが、なんとか耐えた。
 抱きしめるのはもうちょっと揶揄ってからにしよう。

「DKの後輩×先輩ものです! 今んとこそれしか興味ないんで」

「……」

 ナツは口を開けて固まっていた。

「5冊買いました! どれもめっちゃキュンキュンしました!」

「お前……それはどう聞いてもBLなのでは?」

「そうですよ。純文学なんて置いてないですよ、アニメショップの隣の本屋ですよ?」

 あっけらかんと答えるトモを置いて、ナツはがっくり項垂れた。

「何故、よりにもよってソレに辿り着いてしまうんだ、お前は……」

「だって、参考になるかと思ってえ」

「何の参考だ!」

 ナツが狼狽えながら叫んだ。顔が真っ赤になっている。
 今だ、と思った。

「先輩を、オとす参考ですよ」

「!」

 トモは立ち上がって向かい合う机の上から、ナツを見据えた。

「何が書いてあったか気になります? 実践してあげましょうか」

「な……」

 トモに囚われてしまったナツの大きな瞳が揺らいでいた。

「攻めの後輩は、まず受けの先輩の眼鏡を外すんです」

 言いながらトモは手を伸ばし、ナツの眼鏡を取り上げた。
 他の生徒には見せたことのない素顔が現れる。少し幼い、無垢で可愛らしい瞳が。
 トモは、今それを自分だけが見ていることにゾクゾクした。

「ちょっ……!」

 眼鏡を外されたナツは慌ててその行方を追うように立ち上がる。

「すると、先輩は慌てて立ち上がる。そこを後輩がまんまと引き寄せるんです」

「あ……っ」

 トモはすぐ目の前に来たナツの顔を左手で引き寄せて、そのまま口付けた。

「んっ……!」

 初めてしたキスは、とても柔らかくて甘かった。
 ナツの熱が伝わる。トモは自分が昂っていくのを感じていた。

「──っていう感じです」

 惜しみながら唇を離し、トモはにっこり笑って言った。

「お前……ずるいぞ……」

 ナツは恥じらいながら唇をきゅっと結んでいた。

 あ。ヤバい。
 オレ、煽られた。

 トモはナツの眼鏡を、自分の机にコトリと置いて席を立つと、ナツにゆっくり近づいた。
 もう一度、唇に触れたい。
 出来るなら、唇以外も触れたい。

「眼鏡、返せ……」

 ずっと真っ赤な顔でおねだりしたら、どうなるのか教えてあげる。

「眼鏡ないと、見えない?」

「うん……」

 素直に頷いたナツの顔を、トモは両手で包んだ。

「いいじゃん、すぐ側のオレだけ見えれば」

「あ……」

 親指で唇に触れる。柔らかくて、熱かった。
 トモはナツの唇を少し開いて、そのまま深く口付けた。
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