【本編10】Meets Extra 孤独なヴィランと黒い皇帝

 チルクサンダーが正統に?ミチルを召し上げるため、イケメン達とハナシをつけようと言う。その結果はどうあれ、それは筋が通っているとミチルも思う。だが、どうやって?
 この空間からチルクサンダーは出る事が出来ないらしい。なんで、とミチルが問う前に再び出ました、その名前。

「おのれ、テン・イー! あのクソボケ坊主めぇ……!」

 カミサマの眷属とは思えない汚いお言葉!
 だけどそんなツッコミも出来ないほど、チルクサンダーの顔は怒りに歪んでいた。

「何もわからぬ我をたぶらかして、こんな息苦しい空間に我を閉じ込めているのだ、ヤツは……ッ!」

「何も、わからぬ……?」

 ミチルはその言葉に違和感を覚える。
 だってチルクサンダーはカミサマの眷属なんでしょ?
 カミサマ的な存在が、羽虫みたいなヒト(チルクサンダー談)に遅れをとるかね?

「そうだ、記憶喪失の我をだな、ヤツは甘言でもってここに連れてきたのだ」

「きっ、記憶喪失!?」

 ちょっとそれ、どういう事?
 ミチルが驚いていると、チルクサンダーは当時の状況を説明し始めた。

「うむ。おそらくヒトの時間では数十年前、我は自分が誰で、何者であるかもわからずに呆然としていた」

「そんなん……どこで?」

「それもわからぬ。頭が真っ白でな。何を考えたらいいのかもわからなかった。そこに現れたのがテン・イーだ」

「えええ……」

 ミチルはその説明にドン引いていた。
 今、こいつ、「自分が何者かわからない」って言ったよね?
 あんなにカミの眷属言うて強調してたのに?

「我の前に跪いてテン・イーは言った。『偉大なるカミサマの眷属であらせられるチルクサンダー様、お迎えにあがりました』とな」

 な、なんですって!?
 ミチルの思考は最悪の事態を考えてしまう。脳裏に警鐘が鳴るようだった。

「テン・イーは自らをカミの信者だと述べ、とある国にはカミサマの信者達がたくさん帰依しているから参りましょうと言った」

「とある国……!?」

 おいおいおい。まさかまさかまさか。
 ミチルの頭の警鐘はどんどん大きくなる。テン・イーが身を寄せる国なんて、ひとつしかない。

「アーテルという帝国は、そこの皇帝も大変信心深く、我を歓迎すると言う。アーテルに行けば、我は皇帝よりも高い地位で敬うと言うのでな、もちろんついて行ったのだ」

 ああ……
 ミチルは頭の中で大きく溜息を吐いた。

 カミサマの眷属である前に、チルクサンダーは記憶喪失で頭が白紙の赤ちゃんだった。
 そんな赤ちゃん状態のチルクサンダーを、テン・イーが言いくるめて連れてきたんだとミチルは確信する。

 だとするとチルクサンダーが本当に「カミサマの眷属」なのかも怪しくなってきた。
 しかしながら、ミチルが見た彼の能力は確かにヒトのものではない。見た目からも一目瞭然、角生えてんだから。

 カミサマの眷属かは置いておくとしても、チルクサンダーは人外のような、特殊な存在であるのは揺るがないように思えた。


 
「つまり、ここはアーテル帝国ってこと?」

 急に敵地に来てしまったのか、とミチルは思わず震えだす。
 しかしチルクサンダーはそれにも首を傾げていた。

「さあな。テン・イーに連れてこられた時、確かに我はアーテルに来た。そこの皇帝だという男にも会った。だが、すぐにこの空間に閉じ込められてしまってな。ここがまだアーテルなのかは我にも判別がつかない」

「あのさあ、チルクサンダーって強いんだよね? なのに大人しく捕まったの?」

 人外および魔族風。ミチルが感じているチルクサンダーの圧というものは一般人を遥かに凌駕しているように思える。
 そんなチルクサンダーが記憶がないからと言って、ただの人間であるテン・イーに捕まるとはどうしても思えなかった。

「うむ、今でこそ我はある程度の神通力を行使出来るが、当時はその要領も全くわからなくてな。皇帝だと言う男に気を取られた隙に、テン・イーに襲撃されたのだ」

「まじで!?」

「ヤツは正確に我の右頭部を狙った。最初の一撃で右側の角をもぎ取られてな、そのまま気を失ってしまったのだ」

「それで角が左にしかないんだ!?」

 ここへ来てついにわかったチルクサンダーの角の秘密。意味深に片方だけ生やしている中二病的な角ではなかった。
 チルクサンダーは、すでに負傷していたのだ。

「気がついたら、我は一人でこの空間に閉じ込められていた」

「似てる……」

 ミチルは改めてチルクサンダーの左の角を見る。
 それはラーウスで見た、皇帝の部下だという大司教が持ってきたもの。
 あの巨大なベスティアを生み出した黒い角と、チルクサンダーの頭についている角はよく似ている。

「ああ、砂漠でオマエも見たのだったな。テン・イーはもぎ取った我の角をチルクサンダー魔協会の御神体に据えて、イロイロと勝手なことをしているようだ」

「そういう事だったのか……」

 では、ミモザに使われた黒い角もそれだったに違いない。
 角の謎が解けたミチルは、ますますテン・イーのおぞましい所業に身震いする。


 
「今思えば、テン・イーのヤツは我を傀儡にするためにアーテルに連れて来たのだろう。しかし、ヒトよりも尊い我を完全に御する自信がなくて、我の力の源である角をもぎ取ったのだ──角が我の根源だったのは、取られてから気づいたことだが、な」

「ねえ……チルクサンダーがカミサマの眷属って言うのは本当なの? テン・イーが最初に言ったからそう思い込んでるとかじゃなく?」

 ミチルは恐る恐るチルクサンダーに聞いた。
 今までのやり取りを無に帰すような質問だ。

 ラーウスの宗教観をメチャクチャにしたチルクサンダー魔教会とテン・イーの言うことは何一つ信じられない。
 チルクサンダーは「カミサマの眷属だと信じ込まされている、別の超常的な何か」という可能性があるとミチルは考えた。

「それについては疑う余地はない。我はこの空間に来て少し経つと、カミと近しい感覚を取り戻した。自省した中で、やはり我はカミの世界の住人だと思い至ったのだ」

「ふ、ふうん……?」

 ミチルにはその感覚はよくわからない。自分は何者か、と思い至る経験もない。とは言え、自分は確かに人間である、というのはわかる。チルクサンダーもそういう感覚なのだろうか。
 何か、自分の中にある根底に気づいたという事か……?

「そう言ってもオマエにはよくわからぬだろう。しかし、その点については証拠がある」

「ほへ? なに?」

 ミチルは目を丸くして聞いてしまった。
 チルクサンダーは自らの手のひらをぎゅっと握って短く答える。



「我が行使する、召喚術だ」
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