【本編10】Meets Extra 孤独なヴィランと黒い皇帝

 ああ……
 ほんわり明るい。
 それから温かい。

 春の木漏れ日のような優しさに包まれて、ミチルはとても眠かった。
 
 このままお昼寝するのも悪くない……
 だって、なんだか疲れちゃった……



 チル……チル……

 ううん、違うよ。オレはミチル……



「……チル、ミチル!」

「ふあ?」

 ミチルは、呼ばれて目を開ける。
 青い空、ぽかぽかな陽の光。それらを背負って超絶イケメンが自分を見つめていた。

「ああ、良かった。気がついたのだな……」

 ダークサイド担当イケメン、孤独なヴィラン・チルクサンダーが安堵の笑みを浮かべていた。

「ほやあ……♡」

 やだあ、イケメンに土ドンされてるぅ。
 ミチルは脳天気にうほうほしかけたが、危うい過去の出来事がフラッシュバックする。

「ふおぉ……ッ! あっぶねえ!」

 ついさっきまで、史上最大のぱっくんちょ危機があった事を思い出した。

「ソフモヒ皇帝はっ!? 黒幕坊主は……?」

 慌てて起き上がり、辺りを見回す。
 ミチルの目には、あの薄暗くてイヤラシイ寝室の景色は見えなかった。
 代わりに、草が生い茂る庭のような長閑なロケーション。すぐ目の前に超イケメン。

「ミチル……」

「んひぃ! 近いっ!」

 唇が触れそうな距離に、チルクサンダーのイケてる顔がミチルを見つめている。
 とても愛おしそうに、恋するオトコの眼差しで。

「ここはもう、アーテル帝国ではないようだ」

「えっ、そうなの?」

 超接近したまま、チルクサンダーはミチルに囁いた。イケメンの吐息は甘い。

「ミチルが、転移してくれたのだ」

「オ、オレが?」

 必死だったからよく覚えてないけれど。
 逃げようと思うよりも、帰りたいと思った。
 イケメン達の所に還りたい、と。

「それじゃあ、ここは……」

 ミチルはもっと場所の情報を得ようと、視線を周りに向けた。
 が、チルクサンダーにがしっと頬を掴まれて視線を己に強制ロックオン。

「その前にミチル。あの皇帝とは、何も無かった……のだな?」

「ぷえっ!? ああ、うん、そうねえ……とりあえずは無事、かなあ……?」

 何も無かったとは言えないかもしれない。体のあっちこっちを撫で回されてキッスされまくった。
 辛うじて♡♡♡が無事というだけである。

 しかし、チルクサンダーが烈火の如く怒った様を既に見ていたミチルは、正直に説明出来なかった。
 思い出したくもないから、自然と目を逸らして言葉を濁す。

「ああ、ミチル。よくぞ耐えた……」

「うん、そうそう。耐えた耐えた、へへ、へへへ……」

「安心しろ、すぐに我が清めてやろう……」

 言いながらチルクサンダーの唇が寄せられる。
 あの暗黒異空間でぶっちゅう♡はされたけれど、これは趣が全然違う。

 愛を与え、確かめるような……熱いキッスが……♡



 ピカピカッ
 ……スン



「あああ! 股間の光が消えたっ!」

 すんでの所で、ミチルの意識は己の下半身に向けられた。
 ソコはチルクサンダーに対して蒼く瞬いた後、スンと静まり返っている。

「……効力が切れたか」

 お清めキッスが出来なかったチルクサンダーもまた、少し不貞腐れてミチルの下半身を見やる。

「効力?」

 ミチルが首を傾げると、チルクサンダーは覆い被さっていた体勢を止めて起き上がる。
 ムードが霧散してしまったので、一旦諦めたようだ。

「おそらく、誰かがオマエに対して防御結界を張っていたのだろう。少し触るぞ」

 チルクサンダーの手がミチルの股間にかざされる。ミチルは思わず叫んだ。

「ヤメロォ! オレのおち〇〇〇を触るナァ!!」

「ム、好きで触るのではない。魔力の残滓から発動者を辿ろうとしたのだ」

 心外だと言うように、チルクサンダーは眉をひそめていた。
 だがしかし、どんな理由があろうと、たとえ第六のイケメンと言えども守って欲しい節度がある。

「ソコ以外でぇ! ソコはまだダメェ!!」

「仕方ない。では内腿を開け」

「えええ……」


 
 何コレ。どんな状況?
 内腿を開いて、イケメンがオレの〇〇部ギリギリを撫でる。
 ♡♡♡を守った意味わい。ど変態じゃん、こんなの。

「ふむ……」

「ああん……♡」

 撫で撫でするの長くない?
 ミチルは自然とイヤンな声が漏れてしまった。
 そしてようやく手を離して、チルクサンダーは考えながら言う。

「そうだな。オマエを深く愛する念……というか、呪いに近いな。反応は五つ。こんな事が出来るのはカリシムスくらいだ」

「のろ……い!? アイツらァ……!」

 チルクサンダーが確かめずとも、ミチルにも犯人の目星はついている。
 呪いとは穏やかじゃないし、若干キモい。
 しかし最大の危機から守ってくれたので、怒るに怒れない。ミチルの胸中は複雑だ。

 ていうか、結界を張るならもっと適切な場所があったのでは!?
 直接的過ぎる、やっぱりキモい!!

「オマエに対してここまで重い情念を向ける者が五人……厄介だ」

 ホラァ、カミサマの眷属も引いてるじゃん。
 ミチルはやっぱり後でイケメンどもを叱ろうと考える。



 だいぶいつもの調子を取り戻してきたミチルの目の前に、突然人影が現れた。
 それはもう、いきなり。テレポーテーションですかってくらいに、いきなりだ。

「ミチルッ!!」

「ギャー! って、えぇちゃん!?」

 青ざめて、息を弾ませて、ミチルの目の前に現れたのは法皇であるエーデルワイス。

「ミッ、ミチル、ミチル!?」

 少年の見た目に見合う動揺を彼は見せていた。
 下半身を露出して、魔族風の男に触られているのだから無理もない。
 しかし、どうもエーデルワイスはそこに動揺している訳ではなさそうだった。

「え、えぇちゃん、落ち着いて! ってか、やっぱここはペルスピコーズなんだね?」

「ああ、そうだ……」

 ミチルの普段通りに近い声の調子で、エーデルワイスはその場に膝をつく。安心して力が抜けたような顔で、彼は笑った。

「良かった……」

 杖を支えに、ミチルの無事を喜ぶ姿。
 そんな慈愛に満ちた様子は初めて見た。

「えぇちゃん……」

 ひいじいちゃん。ミチルの心に自然とその言葉が湧く。
 その顔は、幼い頃に写真で見た曽祖父の雰囲気にそっくりだったからだ。



「「「「「ミチルーーーーー!!!!!」」」」」

 エーデルワイスの様子にほのぼのしている暇もなく、大地を駆ける大きな足音と共に、空まで響く五重奏がやって来る。

「みんなぁ!」

 焦がれたその五影に、ミチルは思わずぶわっと涙が溢れた。

 ああ……好き。
 大好き。会いたかった。

 土と雑草を撒き散らして駆けてくるイケメン五人は、ミチルの姿を見るなりガチッと固まった。

「「「「「…………………………」」」」」

「ん? どした?」

 早く抱きついてきてよ。
 そんでオレを揉みくちゃにして欲しい。

 ミチルのだいぶヤバエロい希望は叶えられることはなく。

「な、なに……?」

 ミチルは己の今の格好を、イケメン達に会えた喜びですっかり忘れていた。

 上着のボタンなどが外れ。
 下半身はおパンツ一丁状態。足首にはぐっちゃぐちゃのズボン。

 ……まあ、衣服の乱れは仕方がないとして。
 内腿開いてM字開脚。
 その間♡に侵入している見知らぬ黒い男。



「ミチルゥウウウァアア!?」
「ミチル、なんて事、ぼくがいないばっかりに!」
「むむむむぅうううう……ッ!!」
MN5マジでネトラレた五秒後!!」
「シウレーン! どエロが過ぎるぞ、シウレぇえーン!!」



 次の瞬間、嫉妬に咽ぶ男達からどす黒いモノが大噴射。
 揃って狙いを定めたのは、もちろんイケメン魔族。

「ほう……面白い……」

 チルクサンダーはニヤリと笑って立ち上がった。

「ヒトの分際で、我に戦いを挑むとは……」



 五つの暗黒嫉妬メンズ VS 漆黒の魔族メン

「異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!」は、バトル小説ではありませんっ!
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