【本編10】Meets Extra 孤独なヴィランと黒い皇帝

 ぼんぼろぼーん……



 ああ、何かが聞こえる。



 ぼんぼろぼーん……



 耳からじゃない、頭? それとも心? とにかくずうっと奥から聞こえる。



 ぼんぼろぼんぼーん……



 真っ暗だ。
 オレは何処にいるんだろう。
 それとも「お先真っ暗」的な真っ暗かな。
 ……オレは何処に行くんだろう?



 ぼんぼろ、ぼん、ぼん、ぼーん……



 

「──ハッ!?」

 不意にミチルは目を覚ました。いや、ほんとに覚めてる? 目、開いてる? と疑いたくなるほどの暗闇だった。

 立ってもいない、座ってもいない、寝てもいない。
 ミチルは自分の体がどこにあって、どのように存在しているのかもわからない。

 純白に輝く戦闘服がホコリだった。いや、ホコリにしようと思っていた。
 けれど辺りは全て真っ暗で、せっかく決心したことさえ黒く塗り潰されたよう。

 オレはまた変なところに転移してしまった。
 何ココ、カエルラ=プルーマですらないんじゃない?

 オレの居場所は、もうあの異世界にしかないのに。
 ミチルは思わず泣きそうになる。


 
 時も場所も関係なく、くしゃみなんかするから……

 うん? ちょっと待って。オレ、くしゃみしたっけ?
 ──してないな。

 白い羽が飛んで、目の前が青く染まったっけ?
 ──してないなあ。

 ミチルは涙を流すのをやめて、出来る限りの記憶を振り返った。

 ああん……みんなぁ、大好きぃ……♡
 ──戻り過ぎた! その次の朝でいい!


 
『お前に我が伴侶を任せることはもう出来ぬ』
 
 何処からか聞こえた恐ろしい声。
 地の底からか、はたまた遥か高みの天からか。
 まるで別の次元から聞こえるようだった。

『プルケリマ=レプリカ。我が伴侶。ミチル、おいで』

 あの声は一体ナニ?
 恐ろしいという感覚だけで、他は何もわからない。

 けれどわかる事もある。

『オマエハワレノモノ』

 あの声が、オレをここに呼んだんだ。
 オレの転移は関係ない。
 オレは、あの声に攫われた。



「ああああ! ちっくしょおメがァアア!!」

 ミチルはとりあえず怒りをぶちまけた。
 意外にもこの空間は声を反響させる事が出来ている。

「オォレの一大決心を無駄にしやがってェエエ!!」

 頑張ってベスティアを倒して、世界を救うつもりだったのに!
 その後はイケメンと永遠を誓って、ドスケベ儀式で♡♡♡……
 おっといけねえ、ヨダレが出たぜ!

 ミチルは自分が決意した人生設計を打ち砕かれて、大いに怒っていた。
 そうして地団駄踏んでいるうちに、足を踏みしめている事実に気づく。
 すると「自分は立っている」という感覚を瞬時に掴んでいた。



「ふむ。もう我が空間を自分のものにしたか、流石だ」

 真っ暗闇の中、そんな声と、コツンという乾いた音が聞こえた。靴の音だろうか。
 ミチルは声がした方を振り向く。振り向いた所で暗闇なのは変わらないけれど。

「気がついたのだな、我が妻よ」

 その言い回しに、ミチルは思わず希望込みで尋ねた。

「うん? エリオット?」

「違う」

 即座に否定されてしまった。
 エリオット以外にオレを「妻」と呼ぶだなんて。

 一体どこの間男だと、ミチルは声のする方を懸命に見る。
 目を凝らしていると、しだいにぼんぼやりーんと人影が浮かび上がってきた。

「だ、誰ぇ!?」

 ミチルのすぐ目の前にいたのは、悪魔。
 黒い装束、黒いマント、片方だけ……頭の左側に黒い角。顔だけが異様に白い。

 クセのついた硬そうな髪質は黒光りして、ジンのように長く靡かせる。
 それを悠々とファサッと手で払って、ミチルを真っ直ぐ見つめて近づいてくる。

 真紅の薔薇のような、瞳で……

「イケメンんんっ!!」

 どんな時でもうほうほを忘れない。それがミチルの悪い癖。
 だがよく考えてみて欲しい。今までミチルがうほうほしてきた男の共通点を。
 運命とも言える、その性質を。



 魔族風の、全身が黒いイケメンはミチルに向かってこう言った。

「我はチルクサンダー。オマエの伴侶である」

「ほへ?」

 彼が言った二つの単語。
 悲しいかな、伴侶とかは言われ慣れてしまったのでミチルにとってはどうでもいい。

 衝撃だったのは最初の言葉。

「ちっ、チルクサンダー!?」

 あのエセで怪しい、セクハラ魔教のことでしょ!?
 ミチルは目の前の悪魔イケメンが何故そんな事を言ったのかわからなかった。
 しかも、自分の名前のように……

「然り。我が名はチルクサンダーである」

「あんた、魔教会の!?」

「ああ……アレか……」

 ミチルの言葉に、悪魔イケメンは顔をしかめて嫌そうにした。
 しかし、今のミチルはそんな機微を気にすることが出来ない。



「敵じゃん!」

 混乱したミチルは反射的に叫んでいた。

「敵の親玉じゃん!」

 チルクサンダーと名乗るからには、それが全てを物語っている。

「でも、すっごいイケメンじゃんっ!」

 ガッカリしながらミチルは叫んだ。



 ミチルがうほうほするくらいのイケメン。
 それ即ち、運命的なイケメンであるという事。



「第6のイケメンはヴィランじゃーん!!」

 隠れキャラ攻略対象としては王道だよね!
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