【本編9】Last Meets 籠の中のレプリカは最愛を探す
教会って質素なイメージだったけど、意外に贅沢な感じなんだな。
ミチルはあてがわれた部屋に入って少し驚いた。
好きに使っていいと言われたこの部屋。まず、かなり広い。ミチルのかつての自室の三倍はある。
絨毯が敷かれ、お姫様が使うみたいな調度品の数々。タンスやら机やらが少し乙女チックで照れる。
奥にはクローゼットがあり、部屋着やら衣服やらもいくつかあった。
ミチルは今着ている反乱時の堅苦しい花嫁さん衣装を脱いで、簡素な部屋着に着替えた。
袖なしシャツと、もこもこした短パン。ミチルにはちょうど地球でギャルが着るカワイイ部屋着に見えた。
完全に女前提で用意してるじゃん、とミチルはまたもエーデルワイスにイライラする。
そんな気持ちのままにやたらとでかいベッドにダイブした。クイーンサイズかキングサイズかはわからないが、エリオットやルークの部屋にあったベッドの豪華さと遜色がない。
布団も枕も純白でふっかふか。ミチルはこのベッドでもう二時間もうだうだしている。
いつからだろう。
地球に戻りたいと思わなくなったのは。
オレはこの世界の住人じゃない。だからいずれ帰るのが自然な事だと思ってた。
だけどイケメンの隣が心地よくて、愛おしくて、離れられない。
許されるなら、こんなオレでも望んでくれるなら。
イケメンの側にこれからもいたい。そう思うのに時間はかからなかった。
オレ……このまま……側にいてもいいの？
そんな風に殊勝に、オトメチックに耽っていたかったのに、現実はどうだ。
オマエハ スデニ コノセカイノモノ
モドルコトナド ソウテイサレテイナイ
「くそがぁああ！！」
ミチルはイライラそのままに叫んだ。
「ムカつくぅううぁあああ！！」
淡々とオレの運命を最初から決めていた法皇への怒りが止まらない。
「どチクショォがああぁあ！！」
コンコンコンッ！
部屋のドアがまたノックされる。
ミチルは思わずビクッと震えた。さっきから何度も無視してしまった。エーデルワイスだったら殴りそうだったからだ。
だが、今のノック音は焦っているように聞こえた。
「……ミチル？ ぼく、ルーク」
扉の向こうから優しい声が聞こえた。ミチルの心臓はまた違った意味で跳ねる。
「ルーク……」
「ミチル？ 入っても、いい？」
「うん……」
こんな弱い声では聞こえないかもとミチルは思った。だけど元気に返事をする気にもなれない。
それでもルークはドアを静かに開けて入って来てくれた。
「ミチル、大丈夫？」
「ルー……くぅん」
その優しい顔を見てしまったら、一気に緩んでミチルは泣きそうになってしまった。
「ああミチル、今、そこに行きます」
それを見たルークは急いで歩いて、ミチルが座るベッドの隣に腰かけた。
「怒ってるのか、思ったら、泣いてたんだね」
そんな風に優しく笑いかけるから、ミチルはつい強がってしまう。
「違うよ、オレはえぇちゃんにムカついてたの！ 勝手に人のこと呼び出してさ、帰さないとか、全然悪いと思ってないんだ！」
「そうだね」
ルークはミチルの言葉に耳を傾けながら、その目尻に手を伸ばす。
温かい指先がミチルの涙を拭った。そんなことされたら、なんだか余計に泣きたくなる。
「ミチルにとっては、確かに理不尽、思います」
「ん……」
ルークの手のひらがそのままミチルの頬を撫でる。
そのいたわりの心が、ミチルの胸に届いてじんわりと温かくなっていった。
「ミチル、元の世界、帰りたい……？」
躊躇いがちに紡がれた言葉は、温かく緩んだミチルの心の箍を外し、隠れていた戸惑いを浮かばせる。
「なんでえ……？」
「ミチル？」
「なんで、そんなこと言うのぉ？」
帰りたいか、なんて。そんな事叶わないのに。
帰りたいなんて、一度も言ってないのに。
「う、うう……うええぇええぇ……ッ！」
ミチルは声をあげて泣いた。
帰れないのに、ルークにまで「帰りたいのか」と疑われたら、もうどうしたらいいかわからない。
「ああ、ミチル、ごめんね」
「ルークのばかぁああ……ッ！」
「ごめんね、ごめんね、ミチル」
謝りながら、ルークは泣きじゃくるミチルをぎゅっと抱きしめた。
なんて温かい腕。ミチルは安心してますます泣けてくる。
違う。違うんだ。ルークは疑ってるんじゃない。
オレに気づかせようとしてる。
オレは「帰りたい」んじゃない、「帰らない」。
そんなことは、ずっと前から「決めてた」って。
「ぼく、聞き方、悪かったね。ミチル、帰らない、決めてくれてたのに」
「うん、うん……」
ミチルはルークの肩に縋って涙を鎮めようとする。ルークは黙って抱きしめていてくれた。
しゃくり上げるのが治った頃、ルークはミチルの体を少し離してその顔を見つめる。
「ぼく、ミチルを帰したくない。だから、ミチルの気持ち、知りたかった」
「そんなの、知ってるでしょ……？」
この言い方はきっとずるい。でもこんなずるいオレでもルークは包み込んでくれる。
ミチルはそう信じてルークに甘えた。
すると綺麗な翡翠色の瞳が、ミチルに愛を囁く。
「ミチル、ありがとう」
「ルー、くん……？」
「ぼくの側にいる、決めてくれたね？ ありがとう、大好き」
愛が溢れる笑顔は、自分だけに向けられている。
ミチルはそれが嬉しくて、また涙が溢れたけれど、笑うことも出来た。
「……ふふ」
「ああ……ミチルは、とても美しいです」
ルークは自分だけの伴侶 に見惚れながら、その唇を近づける。
「愛しています……」
「ルーク……ん……」
暖かなキスが、二人の心を通わせ寄り添わせる。
決めてる。
ずっと前からもう、決めている。
ルークの側にいるって。
「んん……」
ミチルの唇を撫でるルークの唇は、ただひたすらに優しく温かい。
全てを委ねても後悔はないと、今ならそう誓える。
「ミチル……ぼくの、プルクラ……」
「うん……ルーク……」
ルークの体重が次第にかかっていく。ミチルの体が柔らかいベッドに沈められた。
愛が、ルークの優しさが、ミチルの全身に行き渡っていく。
ああ……
とても幸せだ……
このまま、ルークを感じていたい。
だけどミチルの体は、だんだんと動かなくなる。
「ミチル……？」
戸惑うルークに言わなくちゃ。
この唇が動かなくなる前に。
「ルーク、好き……」
こんなオレを愛してくれた。
ありがとう、大好き。
本当はそこまで言いたいのに、ミチルは一言呟いて眠りに落ちた。
「ミチル、ぼくこそ、ありがとう。ここに来てくれて」
君が舞い降りた奇跡に、最大の感謝を。
ルークは眠るミチルの体を抱いて、頬を寄せる。
親愛を込めて。
君がぼくの全て。
ルークのポケットの中、蒼い光が輝いていた。
ミチルはあてがわれた部屋に入って少し驚いた。
好きに使っていいと言われたこの部屋。まず、かなり広い。ミチルのかつての自室の三倍はある。
絨毯が敷かれ、お姫様が使うみたいな調度品の数々。タンスやら机やらが少し乙女チックで照れる。
奥にはクローゼットがあり、部屋着やら衣服やらもいくつかあった。
ミチルは今着ている反乱時の堅苦しい花嫁さん衣装を脱いで、簡素な部屋着に着替えた。
袖なしシャツと、もこもこした短パン。ミチルにはちょうど地球でギャルが着るカワイイ部屋着に見えた。
完全に女前提で用意してるじゃん、とミチルはまたもエーデルワイスにイライラする。
そんな気持ちのままにやたらとでかいベッドにダイブした。クイーンサイズかキングサイズかはわからないが、エリオットやルークの部屋にあったベッドの豪華さと遜色がない。
布団も枕も純白でふっかふか。ミチルはこのベッドでもう二時間もうだうだしている。
いつからだろう。
地球に戻りたいと思わなくなったのは。
オレはこの世界の住人じゃない。だからいずれ帰るのが自然な事だと思ってた。
だけどイケメンの隣が心地よくて、愛おしくて、離れられない。
許されるなら、こんなオレでも望んでくれるなら。
イケメンの側にこれからもいたい。そう思うのに時間はかからなかった。
オレ……このまま……側にいてもいいの？
そんな風に殊勝に、オトメチックに耽っていたかったのに、現実はどうだ。
オマエハ スデニ コノセカイノモノ
モドルコトナド ソウテイサレテイナイ
「くそがぁああ！！」
ミチルはイライラそのままに叫んだ。
「ムカつくぅううぁあああ！！」
淡々とオレの運命を最初から決めていた法皇への怒りが止まらない。
「どチクショォがああぁあ！！」
コンコンコンッ！
部屋のドアがまたノックされる。
ミチルは思わずビクッと震えた。さっきから何度も無視してしまった。エーデルワイスだったら殴りそうだったからだ。
だが、今のノック音は焦っているように聞こえた。
「……ミチル？ ぼく、ルーク」
扉の向こうから優しい声が聞こえた。ミチルの心臓はまた違った意味で跳ねる。
「ルーク……」
「ミチル？ 入っても、いい？」
「うん……」
こんな弱い声では聞こえないかもとミチルは思った。だけど元気に返事をする気にもなれない。
それでもルークはドアを静かに開けて入って来てくれた。
「ミチル、大丈夫？」
「ルー……くぅん」
その優しい顔を見てしまったら、一気に緩んでミチルは泣きそうになってしまった。
「ああミチル、今、そこに行きます」
それを見たルークは急いで歩いて、ミチルが座るベッドの隣に腰かけた。
「怒ってるのか、思ったら、泣いてたんだね」
そんな風に優しく笑いかけるから、ミチルはつい強がってしまう。
「違うよ、オレはえぇちゃんにムカついてたの！ 勝手に人のこと呼び出してさ、帰さないとか、全然悪いと思ってないんだ！」
「そうだね」
ルークはミチルの言葉に耳を傾けながら、その目尻に手を伸ばす。
温かい指先がミチルの涙を拭った。そんなことされたら、なんだか余計に泣きたくなる。
「ミチルにとっては、確かに理不尽、思います」
「ん……」
ルークの手のひらがそのままミチルの頬を撫でる。
そのいたわりの心が、ミチルの胸に届いてじんわりと温かくなっていった。
「ミチル、元の世界、帰りたい……？」
躊躇いがちに紡がれた言葉は、温かく緩んだミチルの心の箍を外し、隠れていた戸惑いを浮かばせる。
「なんでえ……？」
「ミチル？」
「なんで、そんなこと言うのぉ？」
帰りたいか、なんて。そんな事叶わないのに。
帰りたいなんて、一度も言ってないのに。
「う、うう……うええぇええぇ……ッ！」
ミチルは声をあげて泣いた。
帰れないのに、ルークにまで「帰りたいのか」と疑われたら、もうどうしたらいいかわからない。
「ああ、ミチル、ごめんね」
「ルークのばかぁああ……ッ！」
「ごめんね、ごめんね、ミチル」
謝りながら、ルークは泣きじゃくるミチルをぎゅっと抱きしめた。
なんて温かい腕。ミチルは安心してますます泣けてくる。
違う。違うんだ。ルークは疑ってるんじゃない。
オレに気づかせようとしてる。
オレは「帰りたい」んじゃない、「帰らない」。
そんなことは、ずっと前から「決めてた」って。
「ぼく、聞き方、悪かったね。ミチル、帰らない、決めてくれてたのに」
「うん、うん……」
ミチルはルークの肩に縋って涙を鎮めようとする。ルークは黙って抱きしめていてくれた。
しゃくり上げるのが治った頃、ルークはミチルの体を少し離してその顔を見つめる。
「ぼく、ミチルを帰したくない。だから、ミチルの気持ち、知りたかった」
「そんなの、知ってるでしょ……？」
この言い方はきっとずるい。でもこんなずるいオレでもルークは包み込んでくれる。
ミチルはそう信じてルークに甘えた。
すると綺麗な翡翠色の瞳が、ミチルに愛を囁く。
「ミチル、ありがとう」
「ルー、くん……？」
「ぼくの側にいる、決めてくれたね？ ありがとう、大好き」
愛が溢れる笑顔は、自分だけに向けられている。
ミチルはそれが嬉しくて、また涙が溢れたけれど、笑うことも出来た。
「……ふふ」
「ああ……ミチルは、とても美しいです」
ルークは自分だけの
「愛しています……」
「ルーク……ん……」
暖かなキスが、二人の心を通わせ寄り添わせる。
決めてる。
ずっと前からもう、決めている。
ルークの側にいるって。
「んん……」
ミチルの唇を撫でるルークの唇は、ただひたすらに優しく温かい。
全てを委ねても後悔はないと、今ならそう誓える。
「ミチル……ぼくの、プルクラ……」
「うん……ルーク……」
ルークの体重が次第にかかっていく。ミチルの体が柔らかいベッドに沈められた。
愛が、ルークの優しさが、ミチルの全身に行き渡っていく。
ああ……
とても幸せだ……
このまま、ルークを感じていたい。
だけどミチルの体は、だんだんと動かなくなる。
「ミチル……？」
戸惑うルークに言わなくちゃ。
この唇が動かなくなる前に。
「ルーク、好き……」
こんなオレを愛してくれた。
ありがとう、大好き。
本当はそこまで言いたいのに、ミチルは一言呟いて眠りに落ちた。
「ミチル、ぼくこそ、ありがとう。ここに来てくれて」
君が舞い降りた奇跡に、最大の感謝を。
ルークは眠るミチルの体を抱いて、頬を寄せる。
親愛を込めて。
君がぼくの全て。
ルークのポケットの中、蒼い光が輝いていた。
