【本編9】Last Meets 籠の中のレプリカは最愛を探す

「ミチルが部屋から出てこない?」

 執務室を五人のイケメンに襲撃されたエーデルワイスは、読みかけの書類を閉じて振り返る。
 彼らはエーデルワイスを遠慮なく睨み、なんなら殴りかねない雰囲気でもって小さな執務室を陣取っていた。

「てめえ、クソチビ法皇。どうしてくれんだ!」

 まず口を開いたのはエリオット。王子の身分は伊達じゃない。法皇といえど友好国の王族は邪険にできない。それを見込んで、先鋒を任されたのだ。

「どうしてくれると言われても、どうしたのだ?」

 眉をひそめて首を傾げるエーデルワイスに、アニーがキレた。

「おおい、このチビ! お前がミチルのナイーブなハートを傷つけたんだろぉ!」

 誰か止めるかと思ったら誰も止めなかった。
 アニーは怒りのままエーデルワイスに接近する。

「ふぎゅっ!」

 だが、エーデルワイスが悠々と右手を前に出すと、アニーは何かに遮られた。まるで見えない壁でもあるみたいに。

「落ち着け。ワタシの何が、ミチルを引き籠らせていると言うのだ」

「……本当にわからないのか?」

 無理矢理見えない壁を突破しようとするアニーの腕を押さえてジェイが聞けば、エーデルワイスはやはりキョトンとしていた。

「若干十四でトップになると言うのも考えものだな」

「ミチル、かわいそうです」

 ジンもルークも溜息を吐いて肩を落とす。
 エーデルワイスはますます困惑してイケメン達に問うた。

「ミチルは、何をそんなに落ち込んでいる?」





 ミチルはペルスピコーズ法皇が異世界から召喚したプルケリマの「模造品レプリカ」である。
 プルケリマ=レプリカ……セイソンと呼ばれる存在は、当代の法皇によって一度だけ召喚される。
 すなわち法皇の召喚術は一方通行で、セイソンが元の世界に戻る方法は存在しない。

 セイソンの使命は、選定したカリシムスと契って世界に潤いを与えること。
 二人の行為によって、世界は少しずつ浄化されていく。

 セイソンとカリシムスの間には強固な絆が結ばれ、二人の間を分つことなど出来ない。
 故に、セイソンが「元の世界に戻りたがる」ことはあり得ない。と言うのがカエルラ=プルーマのことわりである。



 そこまで聞いたミチルは、急激に元気をなくしていった。
 表情も暗く、白くなって、「一旦休みたい」と申し出る。エーデルワイスはミチルに居室を用意しており、そこに案内させた。

 それが今から二時間前。
 別室で同じく休憩していたイケメン五人が心配になってミチルの部屋に行けば、鍵はかかっていないものの、ノックをしても返事がないと言う。

「うん? 部屋を開けてミチルに聞いてみればいいのでは?」

 エーデルワイスの言葉に、アニーが再びくってかかる。

「バカなの!? 鍵かけてなくたって、返事しない人の部屋に入れるワケないでしょ!?」

「ミチルには転移術の他に結界術もあるのか?」

「……」

 アニーだけでなく、全員が言葉を失った。
 ここまで人の心の機微がわからないなんて、法皇の教育マジ間違えてますよ。そう全員が肩を落とす。

「ミチル……かわいそうに」

 ジェイですらもミチルの心労を思って沈んでいると言うのに、少年法皇は相変わらず首を傾げて瞬きをしていた。

「ミチル、大丈夫かな……」

 不安がるルークに、ジンも自信なさげに俯いて答えた。

「シウレンは最初に会った時よりもタフにはなった。だが……話が大きすぎるな」

「チッ、なにがセイソンだ。こっちの都合で勝手に呼んどいて、帰れねえなんてさ。人を何だと思ってんだ」

 エリオットがブツブツ文句を言うと、エーデルワイスはやはりしれっとして言う。

「だが、お前達もミチルには帰って欲しくないのだろう?」

「そんなの当たり前だろ! でもさ、俺たちはミチル自身にそう決めて欲しかったんだよ! セイソンだからとか、カリシムスだからとかじゃなくてさ。ミチルだって自分で決めたかったはずなんだ、だから落ち込んでるんじゃねえか!?」

 エリオットの叫びに他四人も頷いて、心で拍手する。
 しかしエーデルワイスもブレない。

「……わからない。結果は同じなのでは?」

「人の心はなァ! そこに至るまでの過程が大事なんだよ!」

 エリオットの怒りに、ジンも顔をしかめて追随する。

「どうあっても揺るがない『結果』を先に提示されたのだ。心がついていかなくて当然というもの」

「ふむ……そういうものか。気に留めておこう」

 ここまで言ってやっとそんな事を言う始末。エーデルワイスの態度にジェイもアニーもルークでさえも、不機嫌に顔をしかめていた。



 重たく沈む執務室の空気。少ししてからジンの落ち着いた声がそれを貫いた。

「ところで、話の流れで過ぎてしまって、まだ聞けていない事があるのだが」

「ウィンクルム……其方達の持つ青い石のことか?」

 エーデルワイスがそう聞くと、ジンは大いに頷いた。

「そうだ。この青い石が五つも生成されるのは異常だと貴様は言っていたな」

 懐から自身の青い石を取り出してジンがそう聞くと、今度はエーデルワイスが頷いた。だが、少し歯切れが悪い。

「然り……だが、その件は前例がなくてな。確かなことは言えないかもしれない」

「では基礎事項だけでも教えてくれ。この青い石は何なのだ?」

 ジンがそう詰め寄ると、エーデルワイスは目を閉じて息を吐いた後、語り始めた。

「ウィンクルムは、セイソンとカリシムス候補者が絆を結んだ証。通常は、数人の適正を持つ者とセイソンを見合わせて、一番相性のいい者一人だけがウィンクルムの生成に成功する。つまりウィンクルムを持つ者が、セイソンのつがい──正式なカリシムスであると世界に認識されるのだ。そうして二人が契を交わすとウィンクルムを通して世界に潤いが与えられる」

「すると、この青い石をそれぞれ持つ我らは何なのだ? カリシムスなのか、それともまだ『候補者』なのか?」

 ジンの問いに、他の四人も息を呑んでエーデルワイスの回答を待った。
 エーデルワイスは少し考えてから自信なさげに言う。

「うむ、そうだな……ワタシが見たところ其方達の持つウィンクルムはどれも『本物』だ。であれば、其方達はすでに全員が『カリシムス』である可能性が高い。ミチルが其方達の誰と契っても、世界には同様の効果があると思われる」

「えええー……」

 エーデルワイスのトンデモ発言に、さすがのイケメン達も引いた。
 ミチルに誰か一人を選んでもらうのか、または全員でミチルと……♡ などとトンデモない考えが誰の頭にも浮かんでいた。

 そして、人の心の機微もわからなければデリカシーもない少年法皇の、更なる爆弾が投下される。

「ワタシも確証がないからな。其方達さえ良ければ、ペルスピコーズ内に限り『試して』みるのもいいだろう」



 ……



「ハアァアア!?」

 イケメン全員は脳みそが吹っ飛ぶ勢いで叫んだ!
 なんて、なんてそんな、おそろし……いや、すばらし……いいんですか? 状態である!

「あ、ただし儀式はまだだから最後まではするな。そこそこの行為でも十分ウィンクルムに反応はあるだろう」

「セクハラチビ法皇は黙れェエエ!!」

 さすがのイケメン達も真っ赤になって右往左往。
 これはエライことになりましたよ、状態である!

 普段セクハラする側のイケメン達は、セクハラされることへの耐性がなかった。
 今までミチルはこんな気持ちだったのかと思い知る。


 
「結果は随時報告するように。データはあればあるだけ困らないから」

 法皇の教育、ほんと間違えてますよ!

「んな報告するワケないだろォオオ!」



「何? 試すならきちんと成果を報告しろ。後々のためだ」

 やっぱり少年を法皇に据えるのは如何なものだろうか!?

「試す、とか言うんじゃねェエエ!」



 イケメン達は今、重大な岐路に立たされた。
 自分達がカリシムスたる証を持っているのか。
 確かめるために、ミチルに♡♡♡を試してみるのか?

 助けてください!
 世界がオレ達にセクハラするんです!!
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