好き
「ねぇ、俺のこと好き?」
突然の質問。
あまりにもさりげなさ過ぎて、自分に言われていると、しばらくは気づかないくらい。
レオは、のっそりと顔を上げた。
思いがけず、力強い視線が、まっすぐにレオを見ていた。
思わずたじろいでしまう。
「ねぇ、俺のこと、好き?」
再びエンは繰り返す。
「……」
エンはいつも唐突だ。
一体何を考えているんだ?…というよりもどういう意味だ…?
驚いたように見つめると、言った本人は一転して、いつもの愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべた。
まったく…わからない。
「レオ…。」
いきなり、目の前に指を突き付けられ、思わずのけ反ってしまう。
そんなレオの反応に頓着するでもなく、エンは指を突き付けたまま、ズバッと言った。
「顔、怖い。」
そして、再びにっこりと笑う。
その笑顔にいつも惑わされてしまう。
どういう答えを期待しているのだろう。
気持ちの動揺を無理矢理抑えながら、レオはエンに視線を向けた。
本心が見えない。
元々人見知りなうえ、人の気持ちを考えるのは苦手だ。
それなのに、そんな期待を込めた目で見つめられると、何か言わなければ…と焦ってしまう。
頼むからそんなに愛嬌を浮かべてじっと見ないでくれ…。
そう心の中で呟くが、もちろんエンに聞こえる筈がない。
例え聞こえても絶対に聞こえない振りをするだろう。
それは今までの経験からわかっていた。
「嫌いでは…ない…。」
慎重に言葉を選ぶ。
これでいいのだろうか…?
そっと見ると、エンは嬉しいような残念なような…微妙な表情を浮かべていた。
少し…不安になる。
がっかりさせてしまったのだろうか…。
普段は喜怒哀楽のはっきりした奴だが、こんな時はどう思っているのかまったくわからない。
顔が良すぎるのも考えものだ。
「何か…、はぐらかされたみたいだ…。」
そんなレオの葛藤など知らぬかのようにエンは少しだけ口を尖らせて言う。
やはりがっかりさせてしまったのか…。
なぜか不安になってしまう。
試されているのかもしれない。
気持ちが落ち着かなかった。
でも、一方で考えてしまう。
大体質問の意図がおかしいだろう…?
『好きか…?』なんてレオに聞くことか…?
エンの言う「好き」と、レオの考える「好き」に、どれ程の差があるのか、いや、ないのか、わからない。
そう心の中で反論してみるが、がっかりさせたことは事実…らしい。
「悪い…。」
小さく謝ると、エンは驚いたように目を見開いた。
「何で…?」
そういう時、途方にくれてしまう。
この愛嬌の塊のような奴に翻弄される自分がいて…。
でもそれが嫌…とは思えない。
それは、『好き』ってことなんだろうか…?
「俺はレオのこと、好きだけどな。」
ドキッと、心臓が大きく跳ねた。
何だろう、今の感覚は…?
でもそんなセリフを、不意討ちのようにさらり…と言えるエンに嫉妬のような感情さえ抱いてしまう。
それはどんな『好き』…なんだ?
心の中で問いかける。
お前は誰にだって簡単に言えるだろう。
別に俺でなくたって良いはずだ。
それが事実…だから…。
知らず知らず表情が険しくなるのがわかった。
「レオ…。」
そんなレオの様子を知ってか知らずか。
目を向けると、エンは素知らぬ顔でニッコリと笑みを浮かべた。
また、胸がざわつく。
そんなエンが憎くて…、そして、愛しくて…。
これも「好き」ってことだろうか…?
言葉遊びのようなエンの質問は、いつもレオの感情を良い方へも悪い方へも揺さぶって放さない。
それは、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり切なかった。
だから…。
いつか、レオの方から言ってみようか。
明るい笑顔を見つめながら、レオはそっと心の中で呟いた。
「エン、お前が好きだよ。」
END
突然の質問。
あまりにもさりげなさ過ぎて、自分に言われていると、しばらくは気づかないくらい。
レオは、のっそりと顔を上げた。
思いがけず、力強い視線が、まっすぐにレオを見ていた。
思わずたじろいでしまう。
「ねぇ、俺のこと、好き?」
再びエンは繰り返す。
「……」
エンはいつも唐突だ。
一体何を考えているんだ?…というよりもどういう意味だ…?
驚いたように見つめると、言った本人は一転して、いつもの愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべた。
まったく…わからない。
「レオ…。」
いきなり、目の前に指を突き付けられ、思わずのけ反ってしまう。
そんなレオの反応に頓着するでもなく、エンは指を突き付けたまま、ズバッと言った。
「顔、怖い。」
そして、再びにっこりと笑う。
その笑顔にいつも惑わされてしまう。
どういう答えを期待しているのだろう。
気持ちの動揺を無理矢理抑えながら、レオはエンに視線を向けた。
本心が見えない。
元々人見知りなうえ、人の気持ちを考えるのは苦手だ。
それなのに、そんな期待を込めた目で見つめられると、何か言わなければ…と焦ってしまう。
頼むからそんなに愛嬌を浮かべてじっと見ないでくれ…。
そう心の中で呟くが、もちろんエンに聞こえる筈がない。
例え聞こえても絶対に聞こえない振りをするだろう。
それは今までの経験からわかっていた。
「嫌いでは…ない…。」
慎重に言葉を選ぶ。
これでいいのだろうか…?
そっと見ると、エンは嬉しいような残念なような…微妙な表情を浮かべていた。
少し…不安になる。
がっかりさせてしまったのだろうか…。
普段は喜怒哀楽のはっきりした奴だが、こんな時はどう思っているのかまったくわからない。
顔が良すぎるのも考えものだ。
「何か…、はぐらかされたみたいだ…。」
そんなレオの葛藤など知らぬかのようにエンは少しだけ口を尖らせて言う。
やはりがっかりさせてしまったのか…。
なぜか不安になってしまう。
試されているのかもしれない。
気持ちが落ち着かなかった。
でも、一方で考えてしまう。
大体質問の意図がおかしいだろう…?
『好きか…?』なんてレオに聞くことか…?
エンの言う「好き」と、レオの考える「好き」に、どれ程の差があるのか、いや、ないのか、わからない。
そう心の中で反論してみるが、がっかりさせたことは事実…らしい。
「悪い…。」
小さく謝ると、エンは驚いたように目を見開いた。
「何で…?」
そういう時、途方にくれてしまう。
この愛嬌の塊のような奴に翻弄される自分がいて…。
でもそれが嫌…とは思えない。
それは、『好き』ってことなんだろうか…?
「俺はレオのこと、好きだけどな。」
ドキッと、心臓が大きく跳ねた。
何だろう、今の感覚は…?
でもそんなセリフを、不意討ちのようにさらり…と言えるエンに嫉妬のような感情さえ抱いてしまう。
それはどんな『好き』…なんだ?
心の中で問いかける。
お前は誰にだって簡単に言えるだろう。
別に俺でなくたって良いはずだ。
それが事実…だから…。
知らず知らず表情が険しくなるのがわかった。
「レオ…。」
そんなレオの様子を知ってか知らずか。
目を向けると、エンは素知らぬ顔でニッコリと笑みを浮かべた。
また、胸がざわつく。
そんなエンが憎くて…、そして、愛しくて…。
これも「好き」ってことだろうか…?
言葉遊びのようなエンの質問は、いつもレオの感情を良い方へも悪い方へも揺さぶって放さない。
それは、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり切なかった。
だから…。
いつか、レオの方から言ってみようか。
明るい笑顔を見つめながら、レオはそっと心の中で呟いた。
「エン、お前が好きだよ。」
END
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