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ヴァレンティオン小話集「ハッピー・ヴァレンティオン!」

【グ・ラハ・ティア×光♀(ラハ光)】


「ハッピー・ヴァレンティオン!」

 ――極上の笑顔とともに憧れの人に手渡された、彼女お手製のチョコレート。
 ヴァレンティオンデーがどんな日かなんて、オレでさえ知っているのだから、彼女が知らないはずはない。
 最初は夢なんじゃないかと思った。好きな人からチョコレートをもらえるなんて、オレにだけ都合の良い幸せな夢だ。
 だけど、両手に感じる重みが、これが現実だということを思い知らせてくる。
 だから、胸にこみ上げる想いを抑えて「ありがとう」と言ったはずだったのに。
 ゆらゆらと揺れる尻尾と頬に集まる熱がオレの気持ちを代弁してしまっている。
 ……これじゃあ格好つかないじゃないか。


* * * * * *

【オルシュファン×光♀(オル光♀)】


「ハッピー・ヴァレンティオン!」

 ――我が友が、何の屈託もない笑顔で私にチョコレートを差し出している。
 今日は年に一度の特別な日だというのに、彼女は友である私と過ごしたいと笑うのだ。
 彼女も私と同じように、今日という日を共に過ごしたいと思ってくれていたのだろうか。
 たとえ彼女がそう思っていたとしても、勘違いしてはならないと自分を戒める。
 私と彼女の抱く想いが一緒だとは限らない。
 この想いを告げたこともないし、これからも告げるつもりもない。
 私は彼女の友だ。真っ直ぐに前を見据えて進み続ける彼女の妨げになってはならないのだから。
 私は胸を焦がすひとつの想いを堪えて、笑顔を作る。
 ――友よ、私はうまく笑えていただろうか?


* * * * * *

【エスティニアン×光♀(エス光♀)】


「ハッピー・ヴァレンティオン!」

 ――突然何の話だ、と怪訝な表情で相棒を見下ろせば、今日は何やら特別な日だという。
 そういったものには疎い身だが、大切な人に贈り物をする日だと笑顔でチョコレートを渡されてしまえば悪い気はしない。
 そういえば、以前アイメリクのところで仕事を請け負っていた時に耳にしたことがあったような気がする。
 もともと興味も無く、自分には無縁のものと思い込んでいたが、いざ自分の身に降りかかってくると何とも言えない心地になる。
 いつか、相棒としてのお前だけでなく、一人の女としても大事なのだ――などと言える日は来るのだろうか。
 だがまずは、このチョコレートの礼をしなければなるまい。
 俺は泊まり込んでいる宿の自室へと相棒を誘う。
 大したもてなしなどできないが、せめて。
 お前のために淹れるココアは、返礼になり得るだろうか。


* * * * * *

【エメトセルク×光♀(エメ光♀)】


「ハッピー・ヴァレンティオン!」

 ――突然私の前に現れたそいつは、チョコレートを差し出して機嫌良く笑っている。
 なりそこない共がチョコレートだなんだと騒ぎ立てていることは知っていた。
 毎年毎年よくもまあ飽きないものだと眺めているところに見知った顔がやってきて、今日が何の日か知っているかと問うてくるものだから、何の話だと嘯いた。
 馬鹿正直に大切な人に贈り物をする日だ、と説明しながらも、敵である私にもチョコレートを渡そうとしてくるとは、見上げた根性だ。
 その心意気に免じて受け取ってやってもよかったが、お前のことだ、どうせ他の男にもそうやって同じことをするのだろう?
 我ながら底意地が悪いと自覚はしているが、素直になど受け取ってやるものか。

「食べて欲しければお前の手で私の口に入れるんだ。できるだろう?」

 思い切り動揺するお前の姿に、胸の奥に燻っていた想いが頭をもたげたような気がした。
 ――だが、私は絶対に認めない。お前からの初めての贈り物という存在が、存外嬉しかったということも。


* * * * * *

【サンクレッド×光♀(サン光♀)】


「ハッピー・ヴァレンティオン!」

 ――そう言ってあいつに手渡されたのは、綺麗にラッピングされたチョコレートだった。
 年に一度きりの特別な日だというのに、あいつは真っ先に俺のところに来たらしい。
 目の前の彼女の人気は凄まじいもので、今日という日を共に過ごしたいと願う者はきっと暁の仲間達だけに留まらない。
 だからこそ、最初に渡すのが俺でよかったのかと茶化してみたのだが、彼女は首を横に振って、俺にこそとっておきのものを渡したかったのだと笑顔で言ったのだ。
 おいおい、と眩暈がしそうになる。人たらしなお前のことだから、あまり深く考えずに発言したのだろう。
 誤解される言動は慎むべきだと注意しようかとも思ったが、俺に喜んでほしかったと言って頬を染める姿に、期待する気持ちが止められなくなる。
 今はそう、彼女から最初にチョコレートを貰う栄誉を得たことを喜んでおくべきだろうか。
 噛み締めるように反芻したその事実が嬉しくて、どうしようもなく緩む表情を隠すように、俺は口元を手で覆った。




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