第1章 ポートマフィアの侍、樋口一葉



青年から溢れ出した殺気に、思わず眉をひそめる
これ以上好き勝手されると困るなぁ・・・
私は片腕で女子高生を支えたまま
もう片方の手でマシンガンを構え
引き金を引いた

ダダダダダダッ!!

銃口から放たれた弾丸は一直線に青年へ向かう・・・が

「!?」

すべての弾丸が、彼の身体をすり抜けて背後へ消えていった

「ボクの〝細雪〟は
雪の降る空間そのものをスクリーンへと変える」

その声だけが響く

スッ──

「!!! げっ!」

気付けば腕の中から女子高生が消えていた
一瞬の油断
異能力への警戒が遅れた
私はすぐさま銃口を向け直す
しかし、そこには誰もいない

「ボクの姿に背後の風景を上書きした。もうお前には、ボクは見えない」
(うへぇ〜、厄介だな・・・)

人質は奪われ
人虎を無傷で確保するための切り札がなくなった・・・が
空間をスクリーンに変える幻術
つまり、実体はある
そして、殺気までは消せない

私に異能力の説明したのが
仇となったな青年
集中して感覚を研ぎ澄ませる
すると背後から迫る殺意を感じた

ガシッ!!

「っ!?」

振り向きざまに伸びてきた腕を掴む
そのまま勢いよく身体を捻り

ドゴォォォン!!

青年を壁へ叩き付けた

「ぐっ・・・!」

体勢を立て直される前に、ポケットからスタンガンを取り出す

バチィィィッ!!

電流が走り、青年の身体が大きく痙攣したあと

「がっ・・・!」

そのまま力なく崩れ落ちた。

「ふぅ・・・」

ちゃんと加減はした
命に別状はない
私は倒れた青年を一瞥すると、ターゲット
へ向き直る

「さて、人虎君改め中島敦君
少々・・・」
「ゴホッ、ゴホッ」

言葉を遮るように咳払いが聞こえた
振り返るとそこには
黒い外套を風になびかせ、一人の男が静かに歩いて来る
遊撃隊隊長
芥川龍之介

「死を懼れよ。殺しを懼れよ。死を望む者、等しく死に、望まるるが故に──ゴホッ」

咳を一つ

「初めまして。僕は芥川。そこな小娘と同じく、卑しきポートマフィアの狗だ」
「小娘とは何ですか!」

思わず抗議する

「隊長と私、そんなに歳変わらないでしょうが!」
「黙れ、樋口」
「・・・はい」

一刀両断だった
人虎は警戒を露わにしながら二人を見比べる

「あんたたち、一体・・・」
「僕らの目的は貴様一人だ、人虎
そこにいる仲間は
いわば貴様の巻き添え」
「僕のせいで、みんなが・・・?」
「然り。それが貴様の業だ
貴様は生きているだけで、周囲の人間を損なう」
(うわぁ、相変わらず容赦ないなぁ・・・)

人虎君の表情が絶望に染まっていく
私も昔は散々言われたものだ
今では慣れたけど

「うあああぁぁっ!!」

敦が芥川隊長へ飛び掛かった
おぉ、心が折れなかった
その直後
隊長を通り抜けた人虎は
私が落としたマシンガンを手にとり必死に乱射する
素晴らしい判断力だ

「無駄だ」

黒い外套が生き物のように広がる。

〝羅生門〟

銃弾はすべて呑み込まれ、そのまま黒獣が敦へ襲い掛かった
ズバァッ!!

「ぁあああああっ!!」

右脚が宙を舞う。

「うわぁ・・・グロ」

思わず顔をしかめる

「隊長、容赦ないっスね」
「鞄に縄がある。捕縛しろ」
「へーい・・・ん?」

異変が起きた
切断されたはずの脚から白い煙が立ち昇る
傷口が瞬く間に塞がり、全身が変化していく

「・・・マジ?」

やがて少年の姿は消え、一頭の巨大な白虎が現れた

「そうこなくては」

隊長はどこか愉しげに笑う

「いやいや、全然そうこなくていいですって!!」

グオォォォォォッ!!

白虎が咆哮を上げ
〝羅生門〟がその身体を切り裂く
だが
傷は瞬く間に再生していく

「(コレはヤバい!!)隊長!!」
「退がっていろ、樋口
お前では手に負えぬ」
「もちろんです! 
あんな化け物と殴り合う趣味はありません!」
「そうか。ならば黙れ」

ドォン!!

次の瞬間、白虎の体当たりが芥川隊長を吹き飛ばした

(うへぇ・・・面倒だな)

鞄から銃を取り出し
白虎へ向けて撃ってみる
当然、効いている様子はない

それでも狙いは注意を逸らすこと
予想通り、こちらへ向かってきた虎の口へ警棒を突っ込み

「せいっ!」

渾身の力で蹴り上げた

ゴォン!!

「・・・・・・っ!?」

しかし、手応えがおかしい

「違う!?」

次の瞬間、虎の姿が霧のように掻き消えた

「〝細雪〟・・・!」
「(虚像か!)隊長!!」

芥川の背後
そこへ、本物の虎が飛び掛かる

「笑止」

芥川は笑みを浮かべながら異能力を解き放つ
一人と一匹。
互いに必殺の一撃を繰り出そうとした、その時

「はぁーい、そこまでー」

場違いなほど間延びした声が、静まり返った路地裏へ響き渡った


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