第1章 ポートマフィアの侍、樋口一葉
右に行って、左に行って
「あれ、ここさっき通ったような……」
一度後ろへ戻って
また右へ曲がって
そんなこんなで
「着いたぁ・・・武装探偵社」
思ったより時間が掛かった
(危ない危ない。本気で迷子になるところだった)
受付にいた眼鏡の女性が
丁寧に応接スペースへ案内してくれる
「間もなく社員がお伺いしますので、少々お待ちください」
「はい。ありがとうございます」
今日の私の格好は
濃紺のレディーススーツ
髪も下ろし、仕事のできる会社員風
木刀も持っていない
(・・・落ち着かない)
やっぱり、腰に一本ないと安心できないな
・・・待つこと数分
ガラリ、と扉が開いた
ぞろぞろぞろ
(・・・多くない?)
一人
二人
三人
四人・・・
(依頼一つに何人来るんだ、この会社)
視線だけで彼らを見回す
(いたいた)
白髪の少年
人虎――中島敦
今回のターゲットだ
「ええと・・・調査のご依頼だとか。それで」
応対してきたのは
ダボっとした服を着た青年
資料で読んだな、誰だっけ?
一見すると軽そうな雰囲気だ
「美しい・・・睡蓮の花の如く儚く、そして可憐なお嬢さんだ」
どこからか声が聞こえ
ごく自然に私の手を握った
「え”!?」
「どうか私と心中していただけないだろう・・・」
スパァァン!!
眼鏡の男性が慣れた手つきで青年の頭を叩く
「??? What・・・」
「あ、すみません。忘れてください」
いやいやいや、何これ
いきなり口説かれたんだけど
しかも心中って何、まだ言ってるし
異能力者集団って聞いてたけど、やっぱ異能力者って変な人多いな
・・・まぁ、ポートマフィアも首領を筆頭に変人だらけだけど
気を取り直して咳払いを一つ
「それで依頼なのですが・・・
我が社のビルヂング裏手に、最近、善からぬ輩が屯しているようなのです」
差し出されたお茶を一口飲む。
「(普通に話を再開した・・・
この人、変人に慣れてるのか?)
善からぬ輩っていうと?」
「詳しくは分かりません。ただ、襤褸をまとい、日陰ばかり歩き、聞き慣れない異国語を話す者もいるとか」
「そいつは密輸業者だろう。軍警がいくら取り締まっても、船蟲のように湧いてくる。港湾都市の宿業だ」
「ええ。無法者だという証拠さえあれば軍警に掛け合えます。ですから・・・」
「現場を張って証拠を掴め、と」
「はい。その通りです」
(よしっ)
用意された台本通り
噛まずに言えた
この任務のために
何度も練習した成果だ
しかも、この依頼を受ける担当は――
狙いの人虎
今日の私は運が良い
「よろしくお願いいたします」
営業スマイルを浮かべる
少年は少し緊張したように背筋を伸ばし、小さく頷いた
「は、はい!」
ないはずの良心が痛む
騙している相手は、まだ右も左も分からない新人
どうにも罪悪感が拭えない
ごめんね、ななじゅ・・・人虎君
これも仕事なんだよ
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