純愛
ヒロイン名前設定
この小説の夢小説設定〇ヒロインの苗字と名前が設定できます。
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〇ヒロインの妹の名前が設定できます。
無しの場合は、『莉子(りこ)』になります。
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「あのね~インスタで知り合った人と、最近LINEしててさ~」
「え、マジマジ?どんな人~?」
「ん~顔はいいんだけど…会話はイマイチ」
「ねぇ、話変わるけどさ、今度T高の男子と合コンしなーい?」
話についていけない…
昼休み。
クラスの女子数人と、固まってお昼を食べている。
だけど私は、全然会話についていけないのでした。
ーーー水上 凛ーーー
今年の4月に高校入学したばかりの高校一年生。
入学してからまだ一週間ちょっとだが、友達も出来て、平凡な毎日を送っていた。
周りの影響で髪の毛も染めてみようか悩むものの、未だ黒髪のロングヘアー。
頭が良いわけでもなく、特別可愛いってわけでもない。
特技なんてないし、将来の夢なんてあるわけもない。
眉毛しか整えてなかった顔は、ほんのりと淡いメイクをするようになっていた。
少しずつ、変わっていく…
でも、変わらないものもある。
「ねえ、凛ちゃん!この人かっこよくない?」
『ん?』
隣にいたクラスメイトが、私にアイドル系の雑誌を見せてくる。
あ、アイドルか。
私全然興味ないや…
「ね?カッコイイよねー!」
『う、うん!カッコイイ』
作り笑いを、その子に返す。
「凛ちゃん!この間ね~彼氏がさ~」
『う、うんうん…』
今度は違う子が話しかけてきて、私に相談してきた。
「せっかくの初エッチだったのに、アイツったらあの最中にかかってきた電話に出たんだよ!?信じられなくない!?」
『そ、そうだね…』
初エッチ!?
もうしてるの!?
私はまだ処女ですよ…
「凛ちゃん!」
『…な、何?』
また違う子に話しかけられて、私は無理やり笑顔を作った。
私は常に、本当の自分を押し殺している。
人が言ったことは、絶対に同意するし、否定はしない。
面白くなくても笑うし、今みたいに作り笑いだってする。
こんな自分、疲れるし、全然楽しくない…
もっと自分の気の合う人と友達になれたら、こんな上辺だけの付き合いしなくてもいいのにな。
私の記憶は、自然と中学3年の頃に遡っていた…
「日本史の先生の真似やりまーす!はいー皆さん、おっはよー」
「ぎゃははは、似てる」
休み時間。
私達のグループの騒ぎ声が、教室中に響いていた。
中学3年の頃、私を含めた5人の女子友達と仲が良かった。
本当に仲が良くて、今までの人生の中で中3が一番楽しかったと思う。
でも…
「それは納得できないよ!」
「あんたが納得できなくても、周りはそう思ってるって」
5人のグループの中に、リーダーっぽくって、皆を引っ張ったり、まとめたりするのが上手い二人がいた。
今更あえて名前は言わないけど、仮に今はその二人をAとBと呼ぶことにします(笑)
そのAとBは、お互い似た者同士だった為、よく対立して喧嘩をしていた。
その二人の喧嘩が始まると、私達三人は、その二人に挟まれた状態。
どっちかが、私達を味方につけようと必死…
最初は仕方ないと思っていたけど…二学期を過ぎた辺りから、私は段々ウザくなってきてしまった。
そして、受験が近づいたある日…
またAとBの喧嘩が始まり、私達を巻き込んできた。
たまらず私は…
『もういい加減にしてよ!喧嘩してもいいけど、私達を巻き込まないで。今度巻き込んだら、私友達やめるから!あんたたちのそういうとこ、もううんざり』
私がそう言うと、AとBと他二人は何も言わなくなった。
スッキリした。
私はこれで当分はあの二人のくだらない喧嘩はなくなるだろうと思っていた。
でも、違った。
次の日から、仲良しの5人組の4人に、私はハブられた…。
わけがわからなくて、4人を問い詰めると…
「だって…私達と友達やめたいって言ったのはそっちじゃん」
Aは、眉をピクッと上げて言った。
この顔は、よく誰かの悪口を言う時の顔だ…
「私らと合わないんだったら、無理に仲良くする必要ないよ。てゆーか、前から私は凛とは合わないと思ってたけど」
「ハハ、私もー」
AとBは、顔を見合わせて笑った。
いつも合わない二人が、その日は息がぴったりだった。
その日から卒業まで、私はずっと一人で過ごした。
幸いにも、この高校を受験したのは、私の中学では私だけだった為…
私の過去を知っている人は、ここには誰もいない。
ここから、また新しく踏み出さないと…
もうあんな思いは、絶対にしたくないから。
「凛ちゃん?」
『え、あ…ごめん』
ヤバ。
つい、昔のこと思い出してた。
「凛ちゃん、グロス変えた?」
『え?あ、うん!この前、いいって言ってたやつにしたよ』
「やっぱり?あの色いいよねー♪」
本当はそれほど気に入ってなかったけど、この子からあれだけ押されたら、つい買ってしまった…。
印象良く、そして相手を傷つけないようにしないと…
それが、友達とうまくやるってことだよね?
超不安だった高校生活だったけど、こうやって友達ができたんだもん!
ヘマしないようにしないと…
また、あの時みたいにハブられたら嫌だもん…。
翌日。
「今日はハンドボールやるぞー」
体育の先生が、腕を回す。
今日の6時間目は、私の嫌いな体育だった。
は、ハンドボール?
うげ、最悪…
「ハンドボールだって♪」
「よし気合入れよー」
仲いい子たちは、なんだかみんな張り切っている様子。
みんな…もしかして、体育系?
マジか…
私、運動全然ダメなんだよねぇ…。
勉強もだけどさ。
「まずキャッチボールから!それぞれペアーを組めー」
先生がそう言ってカゴに入った野球ボールを持ってくる。
「凛ちゃん、一緒に組も?」
『え、あ…うん!いいよ!…でも私、キャッチボール下手かも(汗)』
「大丈夫だよ!ボール持ってくるね~」
誘ってくれた女の子は、小走りしてボールを取りに行った。
あの走りからして、中学は絶対スポーツしてたな…(汗
私は美術部だった。
ハハハハ…
「凛ちゃーん!いくよー」
『へ!?』
すると、私とペアの子が向こうからボールを投げてきた。
わわわ!
ボールを取るのも、どうやって取ったらいいのー?
どうしたらいいのか分からず、焦っていると…
スンッ……
『あたっ…』
指先に、じーんとした痛みが…
ザザ…
『いだっ…』
「だ、大丈夫!?ごめんね!?」
ペアの子が、私に近寄ってきた。
『大丈夫大丈夫っ!』
「本当?突き指…だよね?」
『うん、あと突き指した勢いで、ちょっと転んだだけだよ!私ってドジだね、ごめんねっ』
ドジとしか、言いようがない。
「保健室に行ってきた方がいいよ!」
『う、うん…ごめんね!』
私は先生に断って、保健室へ向かった。
「はい、終わったわよ」
『ありがとうございました』
保健の先生に、突き指と転んだ時に出来た膝の手当てをしてもらい、保健室を後にする私。
体育戻りたくないなぁ…
どうせこの指じゃ、今日はハンドボール出来ないしな…。
それに…
なんか一人の方が落ち着くかも。
何とも言えない開放感に包まれていると、今いる外の渡り廊下から、中庭らしきものが見えた。
中庭か~。
ちょっと探検しちゃおっかな…。
廊下から、中庭へと足を運ぶ私。
中庭と言っても、ただ草が生えていて、ちらほら花壇があるだけって感じ。
ん?
中庭をどんどん進んでいくと…
裏庭らしき場所に出た。
へぇ、こんなところあるんだー。
ここなら、絶対誰も来ないだろうな。
先生にも見つかりにくいし、声だって聞こえないんじゃない?
裏庭をキョロキョロ見渡していると…
裏庭の隅にある、コンクリートのブロックのような上に、まだ未開封のコンビニのパンが2個置いてあった。
ん?
んん?あれって!
私は小走りで、そのパンに近づく。
そしてそのパンの袋を、手に取った。
やっぱり!!
このパン、私が集めてるシールがついてるパンだ!!
あとちょっとで、シールが全部貯まるんだよねー!!
全部シールが貯まると、もれなく私の好きなキャラクターがついてる食器がもらえるんだ♡
そのパンをスリスリと、頬にすりつける。
…ってか、このパン誰のだろう?
捨てられたやつ?
…にしては、まだ新しいような?
ガサッ…
その時、後ろから物音が聞こえてくる。
私はとっさに、後ろに振り返った。
「…………」
『っ………』
振り返ると、そこには…
この学校の制服を着た、金髪の綺麗な髪、大きなブルーの瞳に白い肌、綺麗な顔をした超かっこいい男子生徒が立っていた。
日本人ではない。
たぶん、外人か…ハーフ?
『あっ…あの…その…(汗』
どうしよっ、わたし英語話せない…
その男子生徒の私の見る目は、完全に変人扱い。
ま、無理もないけど…。
「そのパン…」
『え?』
男子生徒は、私から少し離れたところに、腰を下ろした。
「そんなに食べたいのなら、食べても構わないが」
『えっ……』
男子生徒の言い方は、完全に私を憐れむような言い方。
しかも日本語ペラペラだし。
『ちっ、ちがーうっ!私が欲しいのは、このシールで…』
「シール?」
『そ、そう!このパンの袋に付いてるシール!これ集めてるの』
私がそう言うと、男子生徒はパンを手に取り袋を眺めた。
『そのシールを集めると、プレゼントがもらえるんだけど…あと少しで集まるから、良かったら貰えないかな?』
初対面なのに、図々しいことお願いして申し訳ないんですけど…
「…断る。このシール、私も集めている」
『そうなの!?だよね?あのお茶碗欲しいよね~ヅラにゃんこがついてるやつ♪』
「…ヅラにゃんこ?」
パンの袋を開け、パンを食べ始める男子生徒。
『…そうだよ、ヅラにゃんこがついてるお茶碗がもらえるんだよ。集めてるなら、知ってるでしょ?』
「…ヅラにゃんことは、何だ?」
『あ!騙したのっ!?』
「正解」
どんなプレゼント貰えるのか知る為に、騙したんだ!
嫌なヤツー
「…その歳で、そんなものが欲しいのか?」
う…
『ほ、欲しいよっ』
ヅラにゃんこ好きだし!
猫がヅラしてる、あのキャラクター好きだもんっ
『な、なんでもいいから、そのシールください』
「断る」
『…どーして?』
集めてないなら、別にいいじゃん!!
「自分で買って集めたらどうだ?このパンは私のだ」
無表情でそう言って、本を読み始めるその男子。
『そ、そーですか!もういいです、お邪魔しましたっ』
私はパンを置き、くるっと後ろを向いて、裏庭を出て行った。
なんなの、あいつ!
シールくらい、くれてもいいじゃん!!
中庭を歩きながら、プンプン怒る私。
あーあ、あと少しなのに…
しかも、あのパン人気だから、あんまり売ってないんだよね…。
早くしないと、締め切り過ぎちゃうよ…。
それにしても、今の男子って…何年生だろ?
すっごいイケメンで大人っぽくて、目立つ感じだったな…。
だから多分、先輩だよね。
あ!先輩なのに、タメ口きいちゃった。
ま、いっか。
シールくれないケチ野郎だし、敬語なんて使う必要ないよ。
キーンコーン
カーンコーン
ちょうどチャイムが鳴り、私は教室に戻ることにした。
「大丈夫だった?戻ってこないから、心配したよー」
教室に戻ると、キャッチボールでペアだった子が話しかけてきた。
『ごめんね!生理痛でお腹痛かったから、手当してもらった後、保健室で寝てたよ』
ごめん、嘘です。
「マジで?大丈夫!?」
『薬飲んだから平気!』
「席についてねーホームルームやるよー」
担任の先生が、教室に入って来る。
はぁ~やっと一日終わった。
帰りの支度をしながら、ホッと一息つく。
「水上さーん!ちょっと来てくれるー?」
?
ホームルーム終了後、担任が私を呼び止める。
私は不思議に思いながらも、鞄を持って先生の元へ…
「水上さんって、確か園芸委員だったわよね?」
『はい』
園芸委員はクラスに一人だから、気楽でよかったから選んだんだ。
「今日これから、園芸委員の仕事頼みたいんだけど…予定とかある?」
『いえ、特には』
「そう。それで水上さんに言い忘れてたんだけど、園芸委員をもう一人増やそうと思ってるの」
『え?どうしてですか?』
「入学式から風邪で一週間休んでた生徒がいて、その子のやる委員の空きが、園芸委員くらいしかないのね(汗」
休んでた…生徒?
「ま、考えてみたら…園芸委員て一人じゃ結構大変だし、二人の方がいいかもしれないわ」
『は、はぁ…』
なんだ…せっかく一人だから、気楽だと思ったのに~
「あ、クラピカくーん!ちょっと」
先生は後ろの方の席の生徒を、手招きして呼んだ。
クラピカ……くん?
私は先生が呼んだ方向を、ちらっと振り返った。
振り返ると、そこには…
「クラピカくん。この子がさっき話した、これから同じ園芸委員の水上さんよ」
私の隣にやってきたのは…
さっき裏庭で会った、あのシールをくれなかったケチ野郎だった。
こ、この人…
同じクラスだったの!?
嘘でしょ!?
こんな人いなかったじゃん!!
あ、でも…
入学式からずっと風邪で、休んでたっけ?
じゃあ、見たことなくて当然か…
これから、こいつと同じ委員会なの!?
信じられない…
つか、この人、やっぱり外人なんだ。
日本育ち?
隣にやってきた、そのクラピカとかいう奴と目が合った。
しかしクラピカは、涼しい顔をして私から目をそらす。
何よっ
まるで初対面みたいな見方!
ま、さっき会ったばっかりだから、友達でも知り合いにもなってないから、ほぼ初対面だけどさ…
「じゃあ、早速靴を履き替えて、下駄箱で待っててくれるかな?」
『…分かりました』
先生は、そう言って教室から出て行った。
クラピカはさっさと自分の席に戻り、鞄を持つと、教室から出て行く。
か、感じ悪…
ったく…
私はプンプンと怒りながら、自分の席に戻った。
「凛ちゃーん!これからアイス食べに行くんだけど、一緒に行かない?」
鞄に荷物を入れていると、高校に入学してから友達になったグループの子たちが、私に話しかけてきた。
『ご、ごめん!今から委員会があって…』
やば、せっかく誘ってくれたのに、断っちゃった…。
「そっか~残念」
『本当ごめんねっ』
「ううん、また誘うよ!委員会頑張って!」
『ありがとう…』
良かった…
笑顔で言ってくれた。
私は友達と別れ、小走りで下駄箱に向かった。
あーあ、みんなはこれからアイス食べてから帰るのかぁ…
私も行きたかったよーな…
行きたくなかったよーな…
みんなと一緒だと気使うし…
でも、一緒じゃないと、なんか不安になっちゃうな…。
私の悪口言われてないかな、とか。
あ~私こんなに弱くなかったのにな…
『あ……』
階段を駆け降りて、下駄箱を見ると…
クラピカが壁に寄りかかって、腕を組んでいた。
私は走る速度をゆるめ、平常心を保って下駄箱に近づいた。
こいつの余裕の態度が、なんかムカつく…
私だって、余裕の態度みせてやるっ
もうお気づきの人もいるかもしれませんが、↑これが私の性格です。
ガタッ…
上履きを脱ぎ、靴を履き替え、クラピカがいる方を通り過ぎ、玄関のガラスドアに寄りかかる私。
平常心、平常心…
心でそう唱えながら、先生を待つ。
ちらっと、クラピカを見ると…
クラピカは片手でスマホをいじっていた。
綺麗な金髪で…
目はくっきりとした二重、横から見ると…まつ毛長いかも。
鼻はスッと高くて、唇なんか色っぽい感じ…
制服のボタンはしっかりと第一までしめてる。
真面目な人なのかな。
まだ高校に入学したばかりなのに、学ランをかっこよく着こなしてるなぁ。
立っているだけでモデルになる。
大人しいタイプだけど…硬派でクールな人?って感じだな…
って!
なんで私、クラピカの事こんなに観察してるんだろっ…
先生が遅いせいだよね。
「ごめんねー待った?」
すると、先生がこっちに走って来る。
「じゃあ、ついて来てねー」
『…はーい』
後ろを振り返ると、クラピカはスマホをズボンのポケットにしまい、こっちについてきた。
私は少し早歩きして、先生の隣に行って歩いた。
「ここなんだけど」
『…ここですか?』
「…………」
やってきた場所。
それは、さっきクラピカと会った裏庭だった。
よ、よりによってここなの!?
どーして!?
「そこに花壇があるでしょ?」
先生が指差したところは、裏庭の一番隅。
私達は、その場所に足を運ぶ。
そこには花壇が二つあり、パンジーやチューリップが咲いていた。
こんなところに、花壇なんてあったんだ…
さっきは全然気が付かなかったな。
「ここが、うちのクラスの任されてる花壇よ。今はパンジーとチューリップだけど、夏になったらヒマワリも増えるのよ」
へぇ…
季節によって、植え替えとかもするんだ。
…大変じゃん!
この委員会、やっぱり失敗だったな…。
「雨が降った日以外は、毎日二回水をあげてほしいの。朝と放課後と…」
え!?
2回!?
やっぱり、最悪だこの委員会…
「今日は水やりと…あと雑草とってくれる?この物置に軍手とかバケツとかホースとかあるから好きに使ってね」
『……はぃ』
私のテンションは、下がりに下がる…
「この花壇は、この高校が建てられてからあるらしいから、校長がすごく気に入っているのよね。だから…」
先生が、私達にグッと顔を近づける。
そして…
「絶対にサボったり、怠けたりしないでね。もしそれが発覚したら、私が張り倒すわよ~私は担任だから、成績だって自由自在なんだから~うふふ♡」
『ちゃ、ちゃんとやりますっ』
「…………」
なにこの先生…超怖い!!
大人しそうで優しいおばさんなのに、怒ったら絶対に怖いタイプだね、これは…
「んじゃ、よろしくね♡あ、水道は中庭の方にあるからねー」
先生は、笑顔で手を振って消えていった…
裏庭にはクラピカと二人っきりになり、なんだか嵐が去ったよう。
隣にいるクラピカを見ると…
無表情のまま、こちらをじーっと見てきた。
な、なによ…
私より背がちょっと高いからって、そんなに見下ろすことないじゃん!
『…じ、じゃあーやろうかなー』
クラピカから離れ、物置にダッシュする私。
こうなったら、クラピカよりたくさん動いて、この花壇の花を完璧にしてやる。
ガチャ…
古くてガタがきている物置のドアを、開けてみる。
先生が言ったように、園芸用品がある。
とりあえず、雑草取った方がいいよね?
軍手を見つけ、それを手に取ると…
ぎゅ…
軍手を取った手を、クラピカが突然握りしめてきた。
『なななな、なによっ!』
いつの間にか、私のそばにいるし…!
こんなことして、一体なんなの!?
「…草むしりは、私がやろう」
『え…なんで?』
「…その指ではできないだろう」
『あ…』
軍手を持っていない方の手の指は、さっきの体育で突き指した手…
包帯巻いてあるから、それに気づいてたの…?
「お前は水やりをしろ」
『え、でも…ぁ…』
クラピカは手に軍手をしてしゃがみ込み、花壇の雑草をむしり始めた。
お礼を言おうと思ったけど、言うタイミングを逃してしまった…。
『…ホース……水道に指してくる』
「…あぁ」
私は物置からホースを出して、中庭の水道に向かった。
そしてホースの先を、蛇口に指して、突き指した指に目をやる。
ーーー「…その指ではできないだろう」ーーー
さっきあいつから言われた言葉が、頭から離れない。
あいつ…
優しいとこあるんだ。
初めて会ったときは、意地悪だったのに…
私は蛇口をひねり、クラピカのいる裏庭に戻る。
『…もう休憩?』
早すぎでしょ。
ホースのシャワーヘッドを持ち、クラピカに近づく私。
「…休憩ではない、もう終わった」
『え!?はやっ…くない?』
「余り草がなかったからな」
『そう…』
花壇を見ると、確かに雑草はもうない。
『じゃあ、水やりしちゃうね』
「あぁ…」
私はシャワーのノズルを押して、花に水をあげた。
花に水をあげるなんて…小学生以来かも。
「お前…かけ過ぎだ」
『えっ』
後ろで見ていたクラピカが、私の隣にやってくる。
『え…こんなもんじゃないの?』
「あげすぎだ、馬鹿。貸してみろ」
『!!』
私の手から、シャワーを奪うクラピカ。
バカって……
やっぱりこいつ、ムカつく~っ
顔はカッコイイけど。
拳をフルフルと握りしめる。
「もう終わるから、水を止めてきてくれ」
『…分かった』
私はまた中庭に戻り、ホースの水を止めた。
なんか…
あいつのペースで進んでる?
私、指図されてただけだよね…?
でもそれは…私が突き指してるから?
………なんて、訳ないよね。
私はホースを蛇口から取り、また裏庭に向かう。
その時、あるものに目が止まり、立ち止まった。
『…………』
一瞬迷ったが、一旦ホースを置いて、目が止まったものに近づいた。
『ご苦労様』
ホースを持って裏庭に戻ってきた私は、軍手を物置に片付けるクラピカに声をかけた。
「あぁ…」
クラピカは振り返り、私の持っているホースを掴んで、それを物置に片付ける。
それも、やってくれるんだ…
私は恥ずかしながらも、物置にいるクラピカに近づいた。
『ク、クラピカ…』
クラピカの真後ろに回り、ポケットに入れていたものを取り出す。
「…ん?」
ホースを物置に押し込んで、こっちを振り返るクラピカ。
『こ、これ…っ、良かったら…』
私はクラピカに、缶コーヒーを差し出した。
さっき目に止まったものは自動販売機で、ちょっと迷ったけど、クラピカにコーヒーを買った。
クラピカ、ちょっとムカつくけど…(ちょっとかな?)
でも突き指のことで、仕事をやってくれたから…
私なりの、お礼ということで。
「私は、コーヒーはブラックしか飲まない」
『なに!?(汗』
私が持ってるコーヒーは、微糖のコーヒー。
やっぱり…
やっぱりこの人嫌…(泣
ス…
「だが、貰っておく…ありがとう」
フワッと微笑むクラピカに…
不覚にもドキッとしてしまった。
『…いいって…/////』
赤くなる顔を、必死で隠す私。
不思議…
こんな奴…今までいなかった…。
この人、日本人じゃないから?
でもそれはなんか…違う気がする。
「では、指お大事に」
『あ、うん…』
クラピカは、そう言って鞄を持って帰って行った。
裏庭を出ていくクラピカの背中を、じっと見つめてしまう…
まだ心臓がうるさい。
私は、しばらくその場から動けなかった。
明日…
またここで会えるんだよね。
私は花壇の花を眺めながら、クラピカのことを考えていたーーー…
next…