名前設定無しの場合は、ヒロインが『リリー』になります。
ハンター試験編
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3次試験が終わり、ハンター試験受験者達は再び協会の飛行船に乗り込み次の試験会場へと向かっていた。
眼下には青い海が広がっている。
海といっても一面が海という状態ではなく、ところどころに島や岩が浮かんでいる。
飛行船が陸に足をつけたのは、そんな島々の中のひとつであり、岸壁や森林を持ち合わせた広めの小島。
しかし、受験生達は首を傾げていた。
その島々の周りにはたくさんの難破船や、ちぎれたなんらかの残骸が海の表面を飾っていたからだ。
ここが次の試験会場か?そう思った。
37人の受験者を迎えたのは、二人の老夫婦。
バナー(婆)とジナー(爺)と名乗った老夫婦の後ろには軍艦を改装した大きなホテルがあり「3日後から4次試験を行うのでそれまで休んでください」と告げられる。
この島には試験ではなく、休息時間であったと安堵する受験者達。
やれやれと列を成してホテルに入り込もうとするが、ストップがかけられる。
宿泊費は1000万ジェニーだと老夫婦は言ったのだ。
法外すぎる価格に払うことができず、不満の声があがる。
それに対し、老夫婦は交換条件を出した。
「別の支払いを提案しております。それは現物です。各自、難破船を詮索し、お宝を持ってきてください。お宝と交換で宿泊費とさせていただきます」
との事。
振り返ればたくさんの難破船がある。
受験者達はその内容を聞き、休息だと安心した気持ちからやはり試験の一環なのか?と再び疑問をもち宝探しを始めるのだった。
受験者達は各自、海に潜り宝を探し出す。
沈んだ船の中や、岩にのぼり割れた船内にはたくさんの金銀財宝。
ジュラ3世の往還や、イング女王に献上予定だった太陽の錫状など。
ゴンとキルアは海の中を遊ぶように、宝を求めて潜っていた。
リリー、クラピカ、レオリオはそれぞれ難破船の中を探していた。
『もー何が休息よっ。これじゃあハンター試験と変わらないじゃない!』
…ちょっと待って。
これもハンター試験の一環なのかな?
宝探しはハンターの基本中の基本だしね。
でもあのおじいさんとおばあさん、毎年ハンター試験を利用してたくさん儲けてるんだろうなー。
それにしたって1000万ジェニーは高すぎでしょっ!!
早くシャワーで汗流して、ゆっくり寝たいよー!!
と、心の中では吠えたてながら、しかし表面上は大人しく、リリーは難破船の中に入り宝探しを続ける。
すると…
あ!
穴の空いた床から宝箱らしき物を見つけたリリー。
どうやらこの難破船には一階もあるようだ。
しかし、梯子が無ければ勇気がないと降りられない高さ。
下に降りる梯子や階段を探しても見つからず、リリーは見つけた縄を柱に括り付け、その空いた穴から降りることにしたのだが…
突然、リリーが立っていた床がすさまじい音をたてて抜け落ち、リリーは下の階に落ちてしまった。
バッシャーン!!
『いったぁ…て、うそ!!びしょびしょ!?』
リリーが落ちた一階はほぼ沈没しており、リリーは全身濡れてしまった。
ま、まさかリュックも!?
リリーは後ろのリュックが濡れていないか確認するが…
見事に全部濡れている。
どうしよう…着替えがない。
しかも海水だから塩臭いし。
はぁ、本当についてないなぁ…(泣)
でも宝箱はゲット。
見つけた豪華な宝箱は、金とワインレッドに宝石のような物がついている。
30センチ程の大きさで、これは中身も期待して良さそうだ。
まずは上に登って中身を確認しないと。
早くホテルでシャワーを浴びてゆっくりしたい!!
…………
でも、どうやって登ろう?
辺りを確認するが、2階に上がる階段も梯子もなく、空いた天井にジャンプして登るのも不可能な高さだ。
誰かに助けを求めるしかなさそう…
ずっと発見されずに、ここで寝泊まり?
そんなの絶対に嫌だ~!!
『誰かー!!お願い!!助けてーっ!!』
リリーは、懸命に大声を出して助けを求める。
しかし幾ら叫んでも誰も助けに来ない。
そして30分後。
『お願い…誰かぁ~、誰かたすけてーっ!』
リリーは半泣き状態で声を出す。
すると誰かが船に入ってくる足音がした。
「…リリー、居るのか?」
こ、この声は…!
『クラピカ!!ここよ、ここ!!』
上を見上げて呼ぶと、空いた天井からクラピカが顔を覗かせた。
助けに来てくれたのが、大好きなクラピカでよかったと内心大喜びのリリー。
『ほんとに良かったぁ。クラピカ、助けてぇ!!』
「落ちたのか!!大丈夫か!?」
『うん、大丈夫!ただ登れなくて…』
クラピカは登れる方法がないか、辺りを確認する。
すると柱にくくりつけられたロープを発見し、それを更に固く縛ると、そのロープを床の穴に落とした。
「このロープに捕まれ!私が引き上げる」
『うん!あ、待って!』
リリーは慌てて見つけた宝箱を手に取る。
『これ投げるから受け取って!』
「あぁ、分かった」
リリーは手に持っていた宝箱を穴の空いた天井へと投げた。
見事に受け取るクラピカ。
リリーは吊るされた目の前のロープに掴まった。
『いいよ!』
「よし」
クラピカは合図と同時にロープを思いきり引っ張る。
…う、重い。
クラピカは力を振り絞って、引っ張り続ける。
リリーはどんどん2階へと上っていく。
穴の空いた床へと近づき、リリーはその床に掴まる。
そして、クラピカがリリーの体を掴んで引きずりあげる。
リリーはそのまま体重に任せてクラピカの上に倒れ込んだ。
良かったぁ~!!
助かったー!!(泣)
………
リリーは、はっとした。
いま自分は、倒れかかって肘を付いているクラピカの上に倒れている。
まるで自分がクラピカを襲っているかのような態勢だ。
対外的に見て、ものすごくまずい状況。
そんな時…
「お、お前ら!!こんな所で何してんだァ!!!?」
ビクッ!!
声がした方向へ瞬時に振り向くと…
そこにはレオリオが目を大きくし驚いた表情をして立っていた。
『ち、ちがうのっ!これは!!』
ばっとクラピカから離れるリリー。
「お前ら…いちゃつきてェのは分かるけどよォ、もうちょっと場所を考えろ!ビックリすんだろ!!」
『だ、だから違うの!!私がこの床に落ちちゃって、今クラピカにロープで助けて貰ってたの!ね?クラピカ!』
顔を真っ赤にして慌てて否定するリリーに、突然自分にふられたクラピカは黙然と頷く。
「はいはい、分ァったよ。ところでお二人さん、お宝は見つかったのか?」
あ!すっかり忘れてた!
レオリオの質問にリリーは見つけた宝箱を思い出す。
リリーは近くに落ちていた宝箱を手に取り、ゆっくり宝箱を開けた。
すると中身は…
何コレ!?
めっちゃすごい!!
リリーは宝箱の中身に目を輝かせた。
その宝箱の中身を、クラピカ、レオリオも確認する。
「誰かのネックレスか?」
呆然と見つめるレオリオに対し、クラピカは目を見開き、解説を始める。
「これは!!16世紀、旅行中に海で行方不明になった悲劇の王女、エリザベスのブルーダイヤのネックレス!時価数億はくだらない一品!」
『え!そうなの!?』
…て言ってみたものの、実は知らない(汗)
「なにぃ!?こうしちゃいられねーっ!!」
レオリオはYシャツを脱ぎ捨て、慌てて探し出す。
「…或いはただのネックレスか」
ボソッと呟いたクラピカの言葉にズッコケたレオリオは、そのままリリーが落ちた床穴に落ちる。
バッシャーン!!
「どちらにせよ心眼を見極める目を養うのも、ハンターを志す者の初歩だしな」
淡々と言うクラピカ。
リリーはレオリオが落ちた穴を覗いた。
あーあ、次はレオリオを助けなくちゃ…(汗)
数時間後。
おのおの宝を持ち、ホテル代とすべく宝を譲渡する為に老夫婦の前に列を成す。
ゴンとキルアは宝石を持ってきて部屋を勝ち取り、レオリオが意気揚々と持ってきたのはただの大砲の弾だった……。
そしてクラピカが持ってきたのは、トカゲのような形をした黄金のお守り。
ジナーの前にそれを差し出し、クラピカは尋ねる。
「クルタの伝説にある火難除けの効力を持つ黄金のペンダント」
「本物です」
『高いの?』
リリーが聞くとジナーは淡々と答える。
「宝飾的には大した価値はありません」
「これを金に換えるつもりはない。部屋も結構。ただ此処の支配人ならば何か知っているのではないかと思い持ってきた。教えてほしい。あの船はいつからあそこにある?」
「さて、わしらがここを始めた時には既に流れ着いていたものです。クルタ族について教えられる事は何もありません」
「そうか」
「これはお返しします。それから、部屋はお貸しします」
「…ありがとう」
そしてクラピカも部屋の鍵をもらった。
リリーの見つけたネックレスは、クラピカの言った16世紀、エレザベス女王のブルーダイアのネックレスだった。
リリーも無事に部屋の鍵を貰った。
その後自由時間となり、ゴンとキルアは魚釣りをして遊び、楽しい時間を過ごす。
クラピカはじっとクルタのお守りを見つめていた。
部屋の鍵を貰ったリリー達は、それぞれ鍵に書かれた部屋に向かう。
144…144…
あった、ここか。
リリーはノックをした後、ドアを開いた。
すると…
目に入ったのは…
目の前の床に何かが刺さっている。
これは、トランプ?
ま、まさか…
リリーは恐る恐る視線を前に向ける。
ベッドに胡座を掻いてトランプ遊びをしている男がこちらに振り返り、怪しい笑みを浮かべた。
『ヒ…!ヒソカ!?』
「やあ♥」
ヒソカは喜びの笑みを浮かべて、ベッドから下りる。
まさか、私の同部屋の人って…ヒソカ!?
「キミがボクのルームメイト?嬉しいなァ★今夜は興奮しそうだ♪」
そう言いながら、片手でトランプを持ったままのリリーの元に足を運ぶヒソカ。
こ、こっちに来る!
『お、お邪魔しましたッ!!』
リリーは慌てて部屋から逃げ出した。
バタン!
部屋に一人残されたヒソカ。
「行っちゃった◆残念…★」
あー怖かった…
なんでよりによってヒソカと同部屋なの!?
あり得ない!!
あんな奴と同じ部屋で一晩寝るんだったら、さっきの難破船で寝る方がよっぽどマシよ!!
本気で誰か部屋代わってくれないかなぁ…。
そう願い、廊下を歩いていると
バン!!
「納得いかねえ!!」
「は?」
「その眼鏡は飾りもんかよ!」
「いえ…」
「じゃああのお宝の価値を知らんわけじゃないだろ!!こんなボロホテル、丸ごと貸し切ったってお釣りが出るくれぇだ!!」
声の聞こえる方へ進んでいくと…
視界に映ったのは、坊主頭の男が管理人のジナーに壁ドンの状態で怒りながら何か訴えていた。
「それが何であんな安もんのペンダントを一つ拾っただけのクラピカと同じ部屋なんだ!!」
「それは…」
リリーは目を見開く。
クラピカ?
今、クラピカって言った??
この男の人、クラピカと同部屋が嫌なんだ。
名前は確か…ハゲゾーだっけ?
だったら是非、私がクラピカの同部屋になりたい!!♡
よし!!
リリーは思い切って、その男、ハンゾーに話しかけた。
『あの!部屋が代わってほしいなら代わりましょうか?』
その言葉にハンゾーはリリーの存在に気付き、真っ先にリリーの鍵を受け取る。
「いいのか!かたじけない♪(この子が見つけた宝は確かあの有名なブルーダイヤのネックレス!きっと豪華な部屋に違いねーぜ!ラッキー!)」
ハンゾーは喜んで鍵を交換して、その場を直ぐ後にした。
あ、ルームメイトはヒソカだってこと伝えるの忘れた(汗)
まぁ…いっか!
「よろしいので?」
老人のジナーは不思議そうにリリーに問いかける。
『はい、ルームメイトが友達なので』
やったぁ♡
クラピカと同部屋の鍵をゲット~♪
クラピカ、ビックリするかなぁ?
リリーはルンルン気分でクラピカの部屋に向かった―――――…
着いた!
この扉を開ければ、クラピカがいる。
なんかすっごく緊張してきた!!
髪乱れてないよね??
リリーは髪の毛を手串で整える。
よし、入るぞー!!
ドキドキドキドキ…
リリーは勇気を出して扉を開けた。
真っ先に視界に映ったのは、着替えを終えたばかりのクラピカの姿だった。
クラピカはリリーの存在に気付く。
少し驚いた様子のクラピカだったが、いつもと変わらないクールな表情で口を開いた。
「…ノックぐらいしたらどうだ?」
あ、緊張のあまり忘れてた。
そう言われ、リリーは慌てて謝る。
『ご、ごめんっ。あの、ハゲゾーに代わってくれって頼まれたの。だからルームメイトになったから、よろしくね!』
「…そうか。彼はハゲゾーではない。ハンゾーだ」
『あ…ハンゾーか(汗)』
ハゲてるからてっきりハゲゾーかと思った(笑)
クラピカは相変わらず少し素っ気ない。
私と同部屋、嫌だったかな?
するとクラピカはドアの方へ歩き出す。
『え、どこ行くの??』
リリーが問いかけると、クラピカはふいにリリーを見る。
ドキッ…
リリーの濡れた服を見て、クラピカは思わず固まった。
白い服が濡れて肌にぴたりとくっつき、透けて見える肌。
透けている為、ブラの色も薄っすら分かり…
濡れた髪の毛に滴り落ちる雫。
ふいにリリーと目が合う。
クラピカは我に返り、ぱっと目を逸らすと慌てて部屋に置いてあるタオルをリリーに投げる。
「隠せ」
なんで??と言わんばかりのきょとんとした表情のリリーはクラピカをただ見つめる。
「…私にどうでもいいものを見せるな」
『え?』
言われてからはっと自分の姿を見下ろす。
そういえば、全身びしょ濡れだったから胸のブラが薄っすら透けていたのだ。
うそ、見られちゃった!?
もーなにやってるのよ!!
私のバカ~!!////
恥ずかしさのあまり、リリーはタオルを顔にうずめる。
早くシャワー浴びて着替えなくちゃ。
リュックを置いて、着替えを出すが…やはりびしょびしょだ。
着替えがない…どうしよう…。
リリーはタオルで胸を隠した状態のまま、改めてクラピカを見つめた。
「…待っていろ」
そう告げてクラピカは部屋を出ていった。
待っていろって…どこに行ったんだろ?
リリーは言われた通り、待つことにした。
数分後…
扉が開き、クラピカが部屋に入る。
「レオリオから借りてきた。着替えも濡れているんだろう。シャワーを浴びてこれに着替えろ。私は出掛けてくる」
そう言ってクラピカは手に持っていたレオリオのYシャツを差し出す。
『…ありがとう』
リリーは素直に着替えを受け取ると、慌ててシャワー室に向かった。
シャワー室に入ったリリーを認めると、クラピカは深くため息をついた。
リリーがルームメイト。
私の身は持つのだろうか…
日も暮れて、空は緋色に染まっている。
クラピカとレオリオは一つの沈没船の中に居た。
クラピカは静かに、油を船内にまく。
「この船、クルタ族のか?」
「ああ」
「仲間が心配で様子を見に来たが、いらぬおせっかいだったようだ。じゃあな」
「レオリオ」
「なんだ?」
「火を…火を貸してくれないか」
了承し、マッチを投げるレオリオ。
火をおこし、船の残骸から燃え盛る緋色の炎を見つめ、やがて静かに口を開く。
「この船はおそらく幻影旅団の手から逃れようとして難破したのだ」
ボーッと汽笛がなる。
「弔いの汽笛だ」
レオリオの言葉にクラピカは頷き、お守りを海へと投げ込んだ。
そして想いを新たに、燃える船に宣言するのだった。
「幻影旅団はこの手で必ず捕えてみせる!」
天国にいる家族や友人、そしてソフィアの無念を晴らす為にも。
だから今は、どうか安らかに眠ってくれ…
その後、クラピカは自分の部屋に戻った。
ドアを開けて部屋に入るが、リリーの姿が見当たらない。
何処に行ったんだ?
カチャ…
ドアが開き、リリーが姿を現す。
リリーを見た瞬間、クラピカは目を見開く。
同時にドクンと心臓が跳ね上がった。
『あ、クラピカ。おかえり!』
笑顔で口を開いたリリーは、ぶかぶかのYシャツ姿。
生足を出して裸足にスリッパ。
レオリオのYシャツだからだろうか。
リリーが着たらYシャツがやけに大きい。
そして、お尻がギリギリ隠れるぐらいの長さで、少し屈んだら見えてしまいそうだ。
シャワーを浴びてまだ時間もそんなに立っていないからか、髪も少し濡れている。
男と同部屋の割には、あまりにも油断し過ぎる格好だ。
着替えがないから、仕方ないのだが…
『夕飯、クラピカのも貰ってきたよ』
そう言って、リリーは手に持っている夕食の乗ったお盆をテーブルに置いた。
テーブルには二人分の夕食が用意されている。
これは、一緒に食べるという事か。
するとリリーがふと思い出したのか、窓の方へと歩き出した。
『あのね、暑いから窓開けたいんだけど固くて開かないの』
そう言ってリリーは力を入れて窓を開けようとするが、中々開かない。
一生懸命開けようとしているその後ろ姿は、まるで自分を誘っているかのように見える。
普通の男なら、きっとこの姿を見れば理性崩壊寸前だろう。
いや、理性は崩壊しているかもしれない。
そういう面では、リリーのルームメイトが私でよかった。
リリーはしっかりしてそうで、実はかなり天然で鈍感な性格のように思える。
きっと、リリー自身は何も考えていないのだろう…(汗)
「…私が開ける」
そう言って、クラピカはリリーに近付き、開けようとしている窓を掴み引っ張るが…
確かに古い建物だからか、窓のサッシが固く中々開かない。
力を入れて思いっきり引っ張ると、窓がやっと開いた。
『すごーい!クラピカありがと!!』
リリーが顔を上げて笑顔で私を見つめる。
互いに目が合い、二人の時間が止まる。
クラピカから見たら上目遣いに見えるリリー。
何故この娘はこんなにも無防備なんだ。
仮にも私は男で、彼女は女だ。
それは百も承知なはずなのに、目の前にいる彼女は…
私のこと、男だと思っていないのだろうか。
隙がありすぎて、いつ何をされても文句は言えない。
首元のボタンは2個開けてる為、若干ちらちら見えてくる。
見ないように必死に頑張るが、目に入ってしまうのは仕方ない。
クラピカはリリーから目を逸らし、咳ばらいをすると…
「先に食べろ。私はまだいらない」
そう言い残し、クラピカはその場を後にする。
『え、一緒に食べようよ』
リリーは寂しげにそう言うが、クラピカは聞く耳を持たずに部屋を出て行った。
各受験生達は就寝し始めた頃だろうか。
ホテルは軍艦を改造されたものなので、甲板があり、その上でクラピカは途方にくれていた。
いつからだろう。
こんな感情を抱いたのは。
『わたしはリリー。よろしくね!』
ハンター試験で出会った彼女は…
『ハンターになったら世界の色んな所に行けるよね?そしたらわたし、たくさん外の世界見てみたいなぁ…』
素直で
『女だからって特別扱いされたくない!こんな時の為に師匠に鍛えられてきたから…自分を試したいの!!』
頑張り屋で
『わたしは降りる…仲間と戦ってまで、ハンターになりたくない…!!』
仲間想いで
『ごめん…なんでだろっ…急に涙が…っ』
私の過去を知って涙を流した、優しい純粋な彼女。
そんな彼女に、特別な感情を抱いたのはいつからなのだろう。
柔らかい髪。
細い体。
綺麗な瞳。
白い肌。
どこをとっても美人な部類だ。
それなのに鈍感だからか、人の気持ちにとても鈍い。
だが私はリリーを見ていない。
昔の恋人、ソフィアを重ねて見ている。
この感情はきっと、ソフィアがいると勘違いしているからだ。
ソフィアは、死んだ。
死んだのだ。
それなのに、リリーの顔を見る度に、ソフィアがいるように思えて。
ソフィアと話しているように思えて。
同時に切なさも生まれる。
ソフィアでは、ないのだと。
その辛さに、だから私はリリーに冷たい態度をとってしまうのだろう。
彼女がソフィアであってほしいと、彼女と出会ってから何度願ったことだろう。
そんなことは絶対にないのだと分かっているはずだ。
それなのに捨てられない希望。
5年前に脳裏が駆け巡る。
ーーークラピカ!
座っている自分の顔を、覗くようにして首を傾ける姿。
瞬く藍色の瞳が穏やかに笑う。
目許がさらに和んで、あの声が言うのだ。
ーー必ず帰ってきてね。約束だよ!
手のひらを握る指にぐっと力を込めた。
「…忘れろ…」
そんなことは、もうありえない。
いま近くにいる彼女は、顔は似ているがリリーという違う少女だ。
長い時間が過ぎる。
そろそろ戻らなければ、リリーが心配するだろう。
クラピカは、その場を後にしたーー…
一人残されたリリーは、夕飯を食べ終えてソファーに座っていた。
クラピカ…遅いなー。
本当に夕飯食べないのかな?
私と同部屋、やっぱり嫌だったのかな…
本当に私、クラピカに嫌われてるのかも。
目が合っても直ぐに逸らされるし。
…なんか、泣きそう。
リリーは目に止まった書物の中から小説を取り出した。
その小説のタイトルは「海賊の娘」
辛いけど、もう考えるのはよそう。
まだ嫌いだって直接言われた訳じゃないし。
暇だし、これでも読んでクラピカを待とう。
ペラ…ペラ…
リリーは小説を読み始める。
だがリリーは余程疲れていたのか、意識が飛ぶようにそのままソファーに横になり、直ぐに夢の国に旅立ったーーー…
ガチャ…
ドアを開けて中に入ると、クラピカはその場で立ちすくむ。
クラピカを固まらせた原因が、ソファーで横になり、軽い寝息を立てていた。
ソファー下の床には、小説が落ちている。
まさか読書をしながら、私が戻ってくるのを待っていたのか?
何というか、健気だな。
リリーは子供みたいに耳に手を重ね、気持ちよさそうにソファーで熟睡していた。
クラピカはベッドに敷いてある毛布を手に取り、寝ているリリーに近寄り、膝を折ってそっと掛ける。
疲れたんだな…
寝顔を見つめた後、クラピカはその場を立ち上がり後にする。
だが振り返り、熟睡しているリリーを再び見つめた。
クラピカは再びリリーにそっと近づき、膝を折ってリリーの寝顔を見つめる。
無防備だな…
そんな彼女を見ていると、クラピカは色々な想いが込み上げた。
そして記憶が脳裏を駆け抜ける。
真っ直ぐな凛とした瞳を思い出す。
眠るリリーの顔に、5年前に見たソフィアの、無邪気な瞳が重なる。
気持ちよさそうに寝ているリリーの寝顔があまりにも可愛く、クラピカは思わず頭を優しく撫でる。
何故か可愛らしい娘の頭を撫でているような気分だ。
クラピカの父性が刺激される。
彼女の無邪気な寝顔に新たな想いが生まれる。
これから先、ハンター試験で何かあったら…
リリーを守りたい。
そう、強く想った。
そんなリリーを見つめているクラピカは、今までにないほどの優しい笑顔を浮かべていた。
そしてクラピカはゆっくりと引き寄せられるかのように、リリーに顔を近付ける。
自分の唇とリリーの唇が段々と距離が近くなっていく。
互いの顔が残り10㎝に達する時…
リリーが目を開けて、顔を上げた。
時間がぴたりと止まる。
二人は互いに目を見開いたまま見つめ合う。
しかしリリーは再び固く目を瞑り、手のひらを握り締める。
リリーは抵抗せずに受け入れ態勢に入った。
クラピカはまた徐々に顔をリリーに近づける。
リリーは閉じているはずなのに…もうすぐ吐息が重なり合おうとしていることを感じていた。
唇が触れ合うそのとき…
ブオーンーーブオーンーーブオーン…
突然、外から飛行船が飛ぶ音が聞こえた。
その異変にクラピカは立ち上がる。
嫌な胸騒ぎがする。
寸止めされたリリーは目を開き、クラピカを見つめた。
「……寝ろ」
そう言い残し、クラピカは部屋を出て行った。
ふいのことで固まってしまったリリーは、先程のクラピカの行動に心臓がバクバクと派手に走り始める。
クラピカ…
さっきわたしに、キスしようとしたの…?
リリーは起き上がり、緊張で震える手を握り締めたーーー…
飛行船の音に異変を感じた受験生達は、急いでホテルの外に出る。
空を見上げれば、彼らが乗ってきた飛行船の窓から老人夫婦が受験生達を見下ろしていた。
どうやら受験者を島に残し離脱するようだ。
受験生達は呆然と立ち竦む。
「私が感じた胸騒ぎはこれだったのか」
冷静に話すクラピカにレオリオが苛立ちながら言い放つ。
「少しは慌てろよ、置いてけぼりじゃねーか」
「油断したか」
キルアも真剣な表情で飛んでいく飛行船を見つめながら言った。
飛行船が見えなくなった後、ゴンが周りを見渡し気が付いたように口を開く。
「あれ?そういえば、リリーは?」
その名前にクラピカの心臓が小さく跳ねた。
「いねーな、まだ寝てんのか?」
リリーと同部屋だと知っているレオリオは、そうクラピカに尋ねる。
「…たぶんな」
クラピカは先程自分がしかけた行動に、酷く後悔した。
何故、私はあんなことを…
寝ている彼女の唇を奪おうなど、私のプライドが許さないはずだ。
だが彼女の無防備な寝顔を見ていたら、自分でも驚くほど体が勝手に動いていた。
リリーは怒っているだろうか…
彼女に合わせる顔がない。
そう後悔していたその時。
『わたし達、置いてかれたの?』
不安そうな声で尋ねてくる高い声が後ろから聞こえる。
クラピカ達は後ろに振り向いた。
そこには、あの格好(Yシャツだけの姿)をして立っているリリーの姿。
その姿を見たキルアとレオリオは大きく目を見開いた。
「リリー!うん、そうみたい…」
ゴンは何も気にする様子もなく、リリーの問いかけに答える。
『どうしよう…』
深刻な表情を浮かべるリリーに、険しい顔をしたキルアは、詰め寄って冷たく言い放つ。
「お前さー、何だよその恰好!」
『え、何が?』
「何がって、そのYシャツだけの格好だよ!お前もしかしてクラピカ誘ってんの?」
『はぁ!?』
誘うって…突然なに言い出すのよ!
しかもクラピカの前で!!
『んな訳ないでしょ!!これはレオリオから借りたの!着替えが濡れちゃったからっ』
するとレオリオも会話に入ってくる。
「オレのだぜ。にしてもリリーが着るとすげぇブカブカだな!!確かにこれ着られると男は興奮するなァ」
そう言って、上から下へと舐めるようにいやらしい目で見つめて言うレオリオ。
あまりの発言に茫然自失だったリリーだったが、慌てながら反論した。
『ちょっと!レオリオまでなに言ってんのよっ!!///』
立ち止まったまま身を硬くしているクラピカを指差し、レオリオはさらりと続けた。
「おい、クラピカと同部屋だったんだろ?クラピカに何もされなかったか!?」
「それ、オレも聞きたい」
『え…////』
その大胆な質問に、リリーは一瞬頭が真っ白になり、顔を赤くする。
ちら…とクラピカを見るが、クラピカは海の方に視線を逸らす。
返事を待つレオリオとキルアに、リリーは慌てながら答えた。
『な、なにもないよっ。ほんとにっ!!////』
「ホントかァ~!?それにしては、顔真っ赤だぜ?」
からかうレオリオに対し、キルアは更に険しい表情。
『だからっ、ないったら何もないの!!仲間通しなのにある訳ないでしょ!もー知らないっ!!』
そう叫んだ後、リリーはホテルの中へ走って行った。
「あ!リリー!!」
ゴンはリリーを追いかける。
残された3人。
レオリオとキルアはクラピカに視線を向ける。
二人の視線を受け止めたクラピカは、相変わらずクールに答えた。
「……生憎だが、私は何もしていない」
「ホントかぁ?男と女が密室にいたんだぜ!?実はリリーとあーんなことやこーんなことを…」
「くどい!!」
ニヤニヤしながら話すレオリオの頭をクラピカが思いっきり殴る。
「いってぇなァ!!何もグーで殴ることねーだろっ!?手ェ出さねーってことは、オメェ実は女だろ!!」
キルアが目を剥く横で、当のレオリオは痛そうに頭を押さえながら文句を言った。
「貴様がしつこいからだ。女だと私がそう言ったか。第一そんなくだらない話をしている場合ではない」
怒り気味で言い切るクラピカ。
「…確かに。これからどうするか、だな」
キルアは険しい表情で静かな広い海を見つめる。
取り残された受験者達は甲板の上で途方にくれる。
ただ今は、ひたすらに夜明けを待つしかなかった。
「置いて行かれたし、これからどうしたらいいのかな」
ホテルのロビーの椅子に座っているゴンの横で、リリーは部屋で起きた出来事を思い出していた。
『んー。…そうだね』
「まさか置いて行かれるなんて夢にも思わなかったよ…」
『そうだね…』
リリーはゴンをちらりと見るが、直ぐに視線を床に戻す。
…………クラピカ。
あのとき、何でわたしにキスしようとしたの?
もしあのとき、あのまま何事もなく、お互いにキスしていたら、わたしとクラピカの関係は、どう変わっていたのかな?
ねぇ、クラピカ。
わたし、少しは期待してもいいかな?
リリーは、生まれて初めての経験と抱く感情を胸に、ただ手のひらを握り締めていた。
next…