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ハンター試験編
ヒロイン名前設定
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リリーは、眩しい部屋の明かりで目が覚めた。
「気がついたか」
『…クラピカ』
眩しそうに目を細めたリリーは、ゆっくりと起き上がった。
クラピカの上着が、自分にかけられている。
ズキッ
首が痛い…
そう言えば、さっき闘技場で戦って…それで…
『クラピカ…試験は??』
重い体を支えながら、リリーはか細い声でクラピカに問いかける。
「安心しろ、3勝2敗で私達が勝った。だが、レオリオが負けた分50時間をこの部屋で過ごさなければならない。今は残り30時間だ。それまでゆっくり休んでいろ」
それを聞いて安心したリリーは、小さく頷いた。
あれから20時間も経ったんだ。
ほぼ丸一日寝てたんだね。
みんな心配したよね…てあれ?
みんなぐっすり寝てる。
『もしかして、クラピカだけずっと起きててくれたの??』
「何度か仮眠はしたがな。目が覚めたとき、誰も起きていなかったら寂しいだろう?」
クラピカは視線を床に向けたまま、優しい口調で話した。
クラピカ…本当にごめんね。
私がクラピカの言うことを聞かなかったから、迷惑をかけた。
たくさん心配させちゃったね…。
自分勝手な私のために、ずっと起きててくれて…
『クラピカ…ありがとう』
リリーは、クラピカを見つめ嬉しそうに微笑んだ。
……みんな眠ってるし、クラピカと二人きりで話せるのは、今がチャンスだよね??
あのとき聞けなかったこと、いま聞いてみようかな。
『わたしね…』
「お前は…」
二人は同時に口を開き、偶然にも言葉が重なり合って消えた。
視線を交わす二人。
『あ…クラピカから言って』
「リリーこそ先に言え。私は大したことではない」
『…じゃあ、わたしから言うね。飛行船で聞けなかったソフィアって人の話だけど…やっぱり教えてほしいの。どんな人だったの?クラピカの恋人??』
クラピカの表情が変わったのを見て、リリーはごくりと唾を飲み込み、話を聞く体勢をとった。
「ソフィアは…」
クラピカは目を細める。
たくさんの情景が脳裏に浮かんで消える。
「…私と同じクルタ族の幼なじみだ。私が、初めて好きになった女性だ」
クラピカの、初恋の人…
やっぱり、そうだったんだ。
聞いても平気だと思っていたはずなのに、実際に聞くと胸の奥が痛い。
『ソフィアって人、私と似てるの?』
詳しいことは聞きたくないはずなのに、口が勝手に動いてしまう。
「あぁ、錯覚だと思うほどな」
『そんなに??でも中身は違うでしょ?』
「…全く違うな」
『そっかぁ』
姿勢を戻すリリー。
頭の中では、クラピカと出会ってからの映像が駆け巡っていた。
『…二次試験のとき、わたしを豚からかばったのも、ずっと起きててくれたのも、その人の為でしょ?』
クラピカの切なげな顔を見れば分かる。
わたしと重ねてソフィアって人を思い出してるんでしょ?
乾いた沈黙の中、クラピカは少し気まずそうに答えた。
「…今まで、リリーがソフィアだと思いたかったこと、何度かあった。…すまない」
申し訳なさそうに呟き、クラピカはリリーと目をそらす。
この話を聞いて、ショックじゃないと言えば嘘になる。
でもね。
今は、ソフィアって人の代わりでもいいの。
いつかクラピカの中で越えてみせるから。
だから…大丈夫。
『もう間違えないでね。初めからやり直し!わたしはリリーです。よろしくね!』
リリーは笑顔で右手を差し出す。
それを見たクラピカは安心したように微笑むと、リリーの手を握った。
「私はクラピカだ。よろしく」
重なり合う温度。
二人はお互いに見つめあい、笑い合った。
『…あ、クラピカの話は??』
リリーは重なり合った言葉の続きを聞き返す。
クラピカの脳裏には、闘技場で緋色に変わったリリーの眼が浮かび上がる。
きっと見間違いだろう。
「…いや、大したことではない。忘れてくれ」
クラピカはその言葉を消し去るかのように答えた。
『そっか…分かった』
この時、キルアは眠った体勢のまま二人の話を黙って聞いていた―――…
25時間後。
『…そういえば、私が倒れたとき誰が運んでくれたの?もしかしてクラピカ??』
リリーは目を輝かせ、期待を胸にクラピカを見つめる。
「いや、私は違う」
「え!まさかレオリオ!?』
リリーは目を大きく見開くと、少し嫌そうな顔をした。
「おいリリー!!その顔はないだろ!その顔は!!普通は感謝するだろ!?重てぇ体をわざわざここまで運んでやったんだぜ!?…イテテテテテッ!!」
リリーは強くレオリオの耳を引っ張る。
『はいはい、ありがとうございました。で、だれが重たいって??』
「じゃあオレだったらどうだった?」
『え、キルア?キルアじゃわたしを運べないでしょ』
カチン。
「はぁ?余裕だし。ナメんなよな」
キルアは眉間にシワをよせながらリリーに近づくと、持ち上げてお姫様抱っこをした。
『きゃっ!ちょっと、キルア!!何してんのよっ!早く下ろしてぇ!!』
暴れるリリーだが、キルアは余裕の表情。
それを見たクラピカは、横目でキルアを睨んだ。
「なぁキルア!!リリー軽そうに見えて意外に重てぇだろ!?」
「…ホントだ。重た~」
レオリオ、キルアの会話にゴンは、はらはらしながらそれを見守る。
ぶちっ、と頭の中で音がなったリリーは目を吊り上げて、語気を荒げた。
『もういいから!早く下ろしてっ!!』
もーっ!
勝手に人を持ち上げるわ。
「重たい」って何度も言うわ…
あったまきたっ!!
『ふふふ…二人とも』
地面にやっと足を着いたリリーは、ニッコリ微笑むと、怒りと共に爆発した。
部屋の監視カメラで監視している試験官は、その映像を見てけたけたと笑っていた―――…
―――5時間後。
部屋の扉が開き始める。
「残り9時間を切った。急ごうぜ」
顔に引っ掻かれた跡があるレオリオの合図で5人は一斉に走り出す。
因みにキルアは、何故かおとがめなし。
5人は幾度となく多数決をせまられた…
電流クイズ、まるバツ迷路、地雷付き双六など。
自分達が現在何階まで降りて来たのかも分からないまま、残り時間はとうとう60分を切った。
そして、最後の別れ道(分岐点)。
マルとバツの扉が二つ並び、真ん中には女神の銅像がある。
「心の準備はいいですか」と書かれた問いに5人は多数決でマル(はい)を押した。
すると、女神の銅像にスイッチが入り説明が始める。
「それでは扉を選んでください。道は2つ…5人で行けるが長く困難な道……3人しか行けないが短く簡単な道。
因みに長く困難な道はどんなに早くても攻略に45時間はかかります。短く簡単な道は、およそ3分程でゴールに着きます。
長く困難な道ならマル。
短く簡単な道ならバツを押してください。
バツの場合、壁に設置された手錠に2人が繋がれた時点で扉が開きます……この2人は時間切れまでここを動けません………」
重苦しい沈黙を破り、先に話を切り出したのはレオリオだった。
「…さて、先に言っておくぜ。オレはバツを押す。そして、ここに残される側になる気もねェ。どんな方法であろうと3人の中に残るつもりだ。
試験官も準備のいいこったぜ。古今東西ありとあらゆる武器を揃えてくれてやがる。
戦ってでも残る3人枠を決めろってことか。
試験は今年だけじゃないからな。降りる奴がいるなら今だぜ」
冷たく言い放つレオリオにゴンが口を開いた。
「オレはマルを押すよ。やっぱりせっかくここまで来たんだから5人で通過したい。イチかバチかの可能性でもオレはそっちにかけたい」
それを聞いたキルアは反論する。
「おいおい、イチかバチかって残り時間は1時間もないんだぜ?短い道を選ぶしかないよ。もちろんオレは3人の中に入るつもりだし。
誰も降りる気がないなら、戦うしかないね」
『どうして?せっかくここまで来た仲間だよ?どうしても戦わなきゃいけないの??』
辛さを堪えるように目を細めたリリーは必死に訴える。
「同感だ。きっと何か方法が見つかるかもしれない」
冷静に反論するクラピカに、レオリオが声を荒げた。
「方法て言ってもよ!他に何があるんだ!!もうバツを選ぶしか選択がねェんだぞ!?」
「いや!他に方法はあるよ!!考えれば必ず道はある!!だから皆でそれを考えようよ!!」
ゴンは激しい声で反論をし、絶対に譲らない目でレオリオを凝視する。
それに対しレオリオも激しい口調で怒鳴った。
「バカヤロォ!!忘れたのか!?ニ択の町でのことを!!今それが選択の時なんだよォ!!」
「違うよ!!まだ生きるか死ぬかの問題じゃないじゃないか!!考えれば必ず道はあるよ!!」
『どうしても戦うっていうなら!!わたしは降りる…仲間と戦ってまでハンターになりたくない…!!』
リリーは、胸の中に抑え込んでいた想いが堰を切ったように言葉が溢れ出る。
リリーは、強い瞳でレオリオを見返した。
すると。
「…私も降りる」
思わぬクラピカの言葉に、レオリオは虚を突かれて絶句する。
「な…!」
キルアは舌打ちをすると、剣呑な顔でクラピカを睨み付ける。
「おいクラピカ。初恋相手と似た奴がいなくなるから降りるって言ってんじゃねーよな」
その発言にクラピカの目が、怒りに燃えた。
「…なんだと?」
『ちょっとキルア…まさか聞いてたの!?』
「初恋相手が死んでこの世に存在しないから、執着してんだろ」
「黙れ」
「オレの親父がこう教えてくれた。故人が一番喜ぶのは、忘れてあげることだってね。だからリリーにこれ以上、初恋相手と重ねんじゃねーよ」
「貴様ァ!!」
クラピカは怒号を張り上げると、二刀流を取り出した。
キルアも鋭い目付きでクラピカを睨みながら手を凶器に変える。
部屋は一瞬にして静まり返り、緊迫した空気に変わった。
「…キルア。お前は、本気で愛した人を失った悲しみを知らない…だからそんな発言が出来るんだ。今の言葉、取り消すなら許してやるぞ」
「やだね」
リリーはその状況を見るに耐えかねて、二人の間に割り込んだ。
『キルアやめてよ!!なんでそんなこと言うのよ…!!』
リリーがクラピカをかばった事が気にくわなかったのか、キルアの表情が変化した。
そして。
「リリーは引っ込んでろ!!」
キルアは激しい口調で怒鳴ると、 リリーを無視してクラピカに近づく。
クラピカはキルアを凝視しながら二刀流の鞘を抜き、二刀流を構えた。
「もう時間がねェ、ここで2人決めるしかねーな!!」
レオリオもナイフを握り締め、戦う体勢をとった。
どうしよう…
どうしたらいいの??
もう時間がない!!
このままみんなと戦うしか道はないの…??
お願いだから、
みんなやめて…!!
「ストップーーーーー!!!!」
突然の大声に全員動きを止めると、声の主に目を向けた。
ゴンは強い眼差しでキルア達を見つめる。
「みんな!!オレ、全員がゴール出来る良い考えが思い付いたんだ!!」
――――――――――
―――――――――――――――…
第3次通過者、現在18名。
残り時間3分45秒。
ゆっくり扉が開き、姿を現したのは全身に深い傷を負った男性。
「フフフ、間に合った…ぜ」
そう呟くと男性は床に崩れ落ち、意識を失った。
周りの受験生が近づき生死を確認する。
「…死んでるぜ。バカな奴だぜ、死んで合格よりも生きて再挑戦すればいいのによ」
―――――残り1分です―――――
アナウンスがカウントを始める。
すると、再び扉がゆっくり開き始め姿を現したのは、ゴン、クラピカ、リリーだった。
『お尻いたーい!』
「ギリギリだったね!」
「短くて簡単な道がスベリ台になっているとは思わなかった…」
ボロボロの容姿で3人は安心したように息をつく。
「(3人…か◆)」
―――残り30秒です―――
「全くイチかバチかだったな」
更に扉の奥から姿を現したのは、レオリオとキルアだった。
「だがこうして5人そろってタワーを攻略出来た」
「ゴンのおかげだな」
レオリオとクラピカはゴンを見つめ話し掛ける。
キルアもお尻を擦りながら口を開く。
「ケツいてーー。ゴン、あの場面でよく思い付いたな」
クラピカはゴンが考えた方法を解説する。
「「長く困難な道」の方から入って50分以内に壁を壊し、「短く簡単な道」の方へ出る。確かにこれなら5人で時間内に脱出出来る」
ゴンは頷くと笑顔で話し出した。
「対戦した試練官が素手で床や壁を壊したりしてたからさ!道具さえあれば残り時間内に穴をあけることだって出来るかもって思っただけなんだけどね!」
『ほんとによかったぁ。ゴンありがと…うう…っ』
感動がよみがえり、悲しいわけじゃないのに涙が溢れる。
うれし涙?感動の涙?安心の涙?
「リリーなに泣いてんだ!ホントおめぇは泣き虫だなァ!!」
レオリオはリリーの頭を不器用にくしゃくしゃっと撫でた。
『だって~っ』
泣き出すリリーを見て、4人は安心した顔で笑い合う。
互いに目があったクラピカとキルアは気まずそうに目線を反らした。
だが、二人の間の沈黙をキルアが最初に話を切り出す。
「クラピカ…その、さっきは悪かった…」
「いや、私の方こそ非礼をわびよう。すまなかったキルア」
するとタイムアップになり、アナウンスが流れる。
「第3次試験 通過人数26名(内1名死亡)!!」
みんなを見てリリーは思った。
わたしは、みんなに守られてたんだね。
みんなと出会えてよかった。
もしわたし一人だったら…
絶対にここまで試験を乗り越えることが出来なかったと思う。
4人のお陰でね、わたしは助けられたんだよ。
わたしは、今まで友達がいなかった。
友達なんて、仲間なんて、ガラスのようにもろく、触れたらすぐに壊れてしまう儚いものだと思ってた。
だけど、今はこの4人の友情が壊れる事はないって信じられる。
これが永遠に変わることのない、
本当の“ 仲間 ” なのかな。
リリーは、心からそう思った。
next…