名前設定無しの場合は、ヒロインが『リリー』になります。
ハンター試験編
ヒロイン名前設定
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クラピカは、暗い闇の中にいた。
ひどく寒い、どこまでも広がる闇。
ここにいるのは、私だけだ。
他には誰もいない。
一人でいるのは、慣れていた。
その時、後ろから声が聞こえた。
「…見つけた!クラピカ、探したよ」
とても懐かしい声。
クラピカは反射的に後ろに振り返ると、ソフィアがクラピカを見つめて笑っていた。
「なんでここにいるの?ここ、暗いし、寂しいし…早く、帰ろう」
「…どこに」
硬い声で呟くクラピカに、ソフィアは目を丸くした。
「クラピカの家だよ。決まってるじゃん」
私の…家?
もう私の家は残っていない。
家族もいない。
友達もいない。
ソフィアもいない。
幻影旅団に全て奪われて。
ソフィアが目の前にいるのは…幻だ。
もうこれ以上、大事な人を失いたくない。
だから、ひとりでいるのが一番いいのだ。
するとソフィアは、少し呆れた目をして苦笑した。
「もう何言ってるの?…わたしはクラピカの傍にいるよ。近くにいる。だから、帰ろうよ。一緒に…」
ソフィアは優しく微笑んだ―――…
朝日が顔を出した頃、クラピカはゆっくりと目を開けた。
右肩に何かがのしかかっていて、重たい。
視線を向けると、隣にはリリーが自分の右肩に頭を乗せて眠っていた。
そして、自分に毛布がかけられていることに気づき、いったいいつから隣にいたのか。
全く気がつかなかった自分に少し驚いた。
気持ち良さそうに眠っているリリーの顔に、5年前に見たソフィアの、無邪気な瞳が重なる。
クラピカは恐る恐る毛布に隠れたリリーの手を優しく握って、再び目を閉じた―――…
「皆様、大変お待たせいたしました。目的地に到着です」
アナウンスが流れると同時に受験生達は窓の外を見た。
それは、高くて大きなタワー。
受験生達が降りる準備をする中、リリーは未だ熟睡していた。
「おい、リリー!!置いてくぜ?そろそろ起きろ!!」
何度も肩を揺さぶるレオリオに、リリーはのろのろとやっと目を覚ました。
『うぅ~ん…眠い…。あと1分だけ…』
眉にシワを寄せ、再び目を閉じ始めたリリーに、今度はクラピカが眉を寄せて激しい口調で起こした。
「おいリリー!お前は試験に受かる気があるのか?早く起きろ!!」
『…クラピカァ…?』
すっごく眠たい…。
体が重いし、全然疲れが取れた気がしないよぉ…
低血圧で朝が弱いリリーはやっと目を覚まし、ふらふらと立ち上がると、顔を洗いに化粧室に向かった。
飛行船はタワーの頂上に到着すると、扉からぞろぞろと受験生達が降り始める。
そこは、何もなく、誰もいない静かな場所。
いったい何が始まるのかと、受験生達はそわそわ周りを見渡した。
すると、一人のハンター協会員が説明し始める。
「ここは、トリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点になります。さて、試験内容ですが…試験官の伝言です。
生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間。それではスタート!!」
合図が出ると受験生達は下に降りる方法を模索した。
一人の受験生はタワーの外壁をつたって降りていくが怪鳥の餌食となった。
リリー達は隠し扉を探しながら地面に違和感がある所を手分けして探す。
カコン…
『…ん?』
もしかして、これかな??
『ねぇ!みんな!!あったよー!!』
最初に地面に違和感を感じたリリーは皆を大声で呼んだ。
その場所には、5つの隠し扉がある。
ちょうど5人だったので、それぞれ扉の位置に着き、リリー達は隠し扉の穴の中に入っていった。
タワーの中に入ると、そこは出口がない部屋。
どうやら、ここからゴールまでの道のりは5人で多数決をして乗り越えなければならないルール。
5つ用意されたタイマーをリリー達は手首につけると、出口が現れた。
「このドアを開けるならマル、開けないならバツ」の多数決から始まり、リリー達は多数決をして道を進んでいった。
しばらく進んでいくとリリー達が辿り着いたのは…
闘技場だった。
だが、その闘技場の周りは深い奈落となっており、真っ暗で何も見えない。
一歩足を踏み外すと、死が待ち受けていることに違いないとリリーはぞっとした。
「…見ろよ」
キルアの言葉に4人は目を凝らして奥で並んでいる人物を見た。
5人の白装束に顔が隠され、全員手錠がかけられている。
すると、その一人が手錠を外され顔に被された布を脱ぐと、筋肉質で頭にいくつもの針で縫われた跡がある男性。
その男は、リリー達にルールの説明を始めた。
「勝負は一対一で行い、各自いちどだけしか戦えない!!順番は自由!!お前達が3勝以上すればここを通過することが出来る!!戦い方は自由!!片方が負けを認めれば残された片方を勝利者とする!!この勝負を受けるか否か採決されよ!!」
その説明を聞いたリリー達は、再び多数決で迷わずマルを押した。
薄く笑みを浮かべた男は、再び口を開く。
「よかろう、こちらの一番手はオレだ!!さぁ、そちらも選ばれよ!!」
緊張感が漂う中、誰が最初に行くのかと沈黙が続く。
…あの人、めっちゃ強そうだな。
でも、師匠に鍛えてもらった技を使えば戦える!!
わたし、強くなるって決めたんだ。
『みんな、私が行くね!!』
すると、音を出しながら闘技場への足場が現れ、リリーは足を闘技場へと進み始めた。
「リリー駄目だ!!」
強く腕を捕まれ、リリーは振り返る。
腕を掴んで声を上げたのは、クラピカだった。
レオリオも詰め寄って、語調を荒くする。
「おいリリー!!オメェは女だぜ!?女一人であんなヤツと戦ったら死ぬぞ!?」
「そうだ!リリーは最後にしろ!!私達が先に3勝すればリリーに順番は回らない」
リリーは首を竦めて、クラピカとレオリオを上目遣いに見上げた。
『…確かに心配する気持ちは分かるよ。でも、女だからって特別扱いされたくない!それに、こんな時の為に師匠に鍛えられてきたから…自分を試したいの!!』
それを聞いたキルアは、冷たい目をして言い放つ。
「だからって、お前にアイツは倒せねーよ」
『…………』
リリーの目が大きく揺れた。
ぐっと唇を噛んでうつむくと、リリーはクラピカの手を無理矢理振りほどき、黙って闘技場に進み出した。
頭に血が上っているクラピカは、更に激しく怒鳴る。
「リリー!戻るんだ!!」
だが、リリーは振り返らず、クラピカの言葉を無視して闘技場に辿り着く。
男は狂気の宿った目をして笑った。
「勝負の方法を決めようか。オレはデスマッチを提案する!!一方が負けを認めるかまたは死ぬかするまで戦う!!」
リリーの顔に、明らかな動揺の色が浮かんだ。
硬く拳を握りしめ、リリーは覚悟を決めて答えた。
『…分かった!行くよ…!!』
男は猛スピードでリリーに目掛けて走ってくる。
クラピカ達は必死に目を凝らしてリリーを見守った。
リリーは突進してくる男の攻撃を避けて、男の顔に目掛けて右足で力強く蹴りをかわす。
「…女のくせになかなかやるな」
男は次から次へとリリーに攻撃をする。
リリーは腕でその攻撃を防御し、敵が一瞬隙をみせた時、再び蹴りをかわす。
すると、男はリリーの右足を掴むとリリーの首を掴み、上に持ち上げた。
『…ぐぁ…っ!』
声にならない喘鳴が、リリーの唇からこぼれ落ちる。
リリーは必死に敵の片手を両手で振りほどこうとするが、力が入らない。
息が…苦しい…!!
ドクン、と。
クラピカの心臓が跳ね上がる。
「…どうだ、苦しいか?なんならこのまま息の根を止めてやるぞ」
その言葉にリリーはこれ以上ないほど大きく、目を見開いた。
そして…
リリーの目が、一瞬緋色に染まる。
「……………まさか…あれは…!」
緋の眼…?
立ちすくんだまま、クラピカはリリーを見つめた。
足が、動かない。
苦しんでいるリリーの傍に、駆けつけたいのに。
その名を呼んで、助けてやらなければと、思うのに。
見てもいられなくなったレオリオとゴンが、リリーに激しく声を上げた。
「リリー!!早く参ったと言っちまえ!!」
「リリー!!」
キルアは狂気の目で敵を見つめ、手を変形させる。
リリーは、血の気の失せた顔で必死に声を振り絞った。
『…ま…い…っ…た…!』
その言葉を聞いた男は、薄く笑うとそのまま手を離す。
リリーは地面に崩れ落ちた。
みんな…
ごめんなさい。
わたし、勝てなかった。
何も出来なかった。
師匠…ごめんね。
自分の力がこんなにも弱かったなんて気づかなかったよ。
師匠の弟子として、情けない…
ゲホゲホと激しい咳をして、肩を上下にしながら息を吸うと、リリーはクラピカを目だけで探した。
だが、視界が段々と狭くなる。
「リリー!!」
クラピカの、声だ。
優しくて、力強い響き。
わたしの、大好きな、声。
『…クラ…ピ…カ………』
リリーはクラピカの名前を呼ぶと、静かに気を失った―――…
next…