オリジナル編〚完〛
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『どうしよ~‼あと30分しかない‼』
今日は3年ぶりにキルアに会う大事な日。
明日はレオリオの結婚&新築祝いでレオリオの家に4人(ゴン、キルア、クラピカ、ソフィア)が招待された為、ソフィアは昨夜からレオリオの国のホテルに泊まっていた。
キルアもレオリオの国に今日到着するとのことで、二人は一日遊ぶ約束をし、パーネル駅で11時に待ち合わせをしたのだった。
とっても楽しみにしていた日なのだが…
久しぶりに会うとのことで中々服が決まらず、その上メイクもすっぴん状態。
髪なんて寝癖のまんま。
『も~これでいいや!!』
真面目にやばいと感じたソフィアは、冬の季節なので白いニットとブラウンのチェックスカートを選び、大慌てでメイクと髪型をセットした。
冬のコートを着て、ショートブーツを履き、ソフィアは待ち合わせ場所の駅に猛ダッシュ!
いや、転びそうだったので若干小走りで向かった。
『あれ?キルアいないなー。待ち合わせの11時ぴったりなんだけど遅刻かな?』
ソフィアは近くにあった鉄の寄っ掛かり棒に座って、携帯と睨めっこしていた。
ー10分経過ー
『キルア遅いなー』
すると2人組の年上くらいのスーツを着た男の人がニヤニヤしながら近寄ってきた。
「ねぇ?泣きそうな顔してどうしたの?お友達来ないの?」
『……』
ど、どうしよう…!
また変な人に絡まれた…!
「んじゃ、気晴らしになんか美味しいもの飲みにいこっか♪俺ら美味しいカフェ知ってるからおいで☆」
返事をする暇もなく、その知らない人に腕を掴まれた。
いやだっ。そう感じて振り払おうとしたら、いきなり後ろから誰かにフワっと抱きしめられた。
「これ、オレのだから」
息を切らしたキルアに抱きしめられていた。
すると二人組の男は、舌打ちをして去って行った。
『…キルア?』
私はゆっくり顔を上げキルアを見た。
「なにこんなとこでナンパされてんだよ」
ソフィアは大きく目を見開いた。
3年ぶりに会ったキルアは、背が自分よりも少し高くなっていて、声も低くなり、すっかりイケメン男子になっていた。
『キルア‼久しぶりだね‼背が高いから一瞬誰か分からなかったよ~‼声も変わった!?』
「お前はそのまんまだな。つかなんでこんなとこに居たんだよ。ここ何口か分かるか?」
『ん?東口でしょ?』
「オレが待ち合わせ場所に指定したのは?」
『東口?』
「はぁー。ちげえ、西口」
『え…』
ギクリと目を見開いた。
そこには無表情なもののイライラ感を発しているようなキルアがいた。
「まぁ、いいわ。行くぞ」
キルアは私の頭をポンポンとして、ポケットに手を入れて歩きだした。
『うん!』
昔からいつも冷たい態度だけど、こーやってたまに優しくしてくれるキルアが変わってなくて、なんだか安心した。
キルアに後ろから抱きしめられたとき、久しぶりに感じた人の温もりに、ソフィアは一瞬クラピカを思い出した。
クラピカ、元気かな…
明日は来るのかな…
って、今はクラピカを思い出してどうするのっ。
今日はせっかくのキルアと遊ぶ日なんだから。
ソフィアは小走りでキルアの隣に並んで歩いた。
『ほんとに久しぶりだね‼元気だった??』
「あぁ。いつも妹に振り回されてるけどなー」
『え!キルアって妹いたの!?』
「あれ?言ってなかったっけ?いるぜー妹。アルカって名前」
『そうなんだ~!アルカちゃん、今日は大丈夫なの?』
「あぁ。こっちに来てる間はしばらく執事に面倒頼んでるから。それより、なに食べる?腹減ったなー」
『そうだね!どこにしよっか?』
二人はとりあえず駅前のレストラン街に向かった。
レオリオの国のパーネル駅周辺は大都会の中心なので、人がかなり多い。
ドンッ
『あ、すみません…』
ソフィアは行き交う人の肩にぶつかった。
「こっち…」
そう言って、キルアはソフィアの手を引っ張った。
「…はぐれんなよ」
キルアはソフィアの手を繋いで歩きだした。
久しぶりに繋がれた手に、キルアの優しさを感じる。
キルアの手…大きくなったなぁ…
自分よりも一回り大きくたくましくなった手に、ソフィアは胸が高まった。
しばらく歩くと、キルアは立ち止まってある店に指差した。
「ここにする?」
キルアが指した店は、お洒落で美味しそうなメニューが書かれたバイキングだった。
『いいね!ここにしよっ♪』
二人は、バイキングのレストランに入った。
そして席に案内され、店員に軽く説明を受けてからの二人は、嬉しそうにそれぞれ食べたい物をお皿に入れて席に運んだ。
食べたい物を好きなだけ取った二人は、料理を食べ始める。
『いただきまーす!ん~♡美味しいっっ‼』
お肉を頬張るソフィアに対し、キルアの目の前には料理…ではなく、甘いケーキやスイーツばかり。
『キルア、すごいケーキの量…そんなに食べれるの??』
「当たり前だろ~?こんなん余裕余裕♬」
そう言って、うめー!とケーキを嬉しそうに食べるキルア。
一瞬キルアが、かわいい猫にも見えた。
しばらくしてお腹いっぱいになってきたソフィアは、デザートに果物を取りに行った。
キルアは相変わらず料理を食べずに、甘い物ばかり食べている。
『よくそんなに甘いの食べれるね~。お腹壊さない?』
見てるだけでお腹いっぱいになりそう…
だが、キルアは全然平気な顔で笑った。
「オレ昔から甘いもん大好きなんだよねー。でもそろそろ果物も食べたいなって、いいもん持ってんじゃん♪」
キルアはソフィアが手にしている苺を見た。
「あーん♪」
『え?』
「食べさせてよ」
キルアは期待の眼差しでソフィアを可愛く見つめた。
『なっ…///自分で食べればいいでしょ!?』
「別にいいじゃん。あーん♪」
再び口を開けたキルアに、ソフィアはちょっと呆れながらも自分の苺をキルアの口に入れた。
「ん~うまい!!☆」
そう言って、キルアは今まで以上に満面の笑みを見せた。
『もう…』
そんな喜ぶキルアを見て、ソフィアも嬉しそうに笑った。
お腹いっぱいになった二人は、これからどうするか話し合う。
『どうしよっか?キルア行きたい所ある?』
「せっかくソフィアとデートだし。今日は思いっきり楽しまないとな!…じゃあ、近くのジェットコースターにでも乗るか!」
『……え??』
予想外の発言に、ソフィアは目をぱちくりさせた。
ムリムリムリムリムリ~‼!!
『こうゆうの苦手なの~‼』
「楽しいじゃん!!ほら、もう落ちるぜ~‼」
二人は近くの入場無料の遊園地に来て、ジェットコースターがもうすぐてっぺんの高さに辿り着く。
「行くぞー!!」
そして、ジェットコースターが急降下した。
『きゃぁぁぁぁあ~‼』
怖すぎる~‼
さっきの食べたのが、吐きそう…!!
優雅に風とスピードを楽しむキルアに対し、ソフィアは高さの恐怖と自分の悲鳴で長いジェットコースターが終わった。
「最高だな!!あー楽しかった。もう一回乗るか?」
テンションが上がっているキルアは、ふと後ろに振り向いた。
するとソフィアは、まるで年寄りの様に背中を丸くしてゆっくり歩いていた。
とても顔色も悪い。
「おいおい、大丈夫か?」
キルアは心配げにソフィアに近付き、彼女の肩を支える。
『まだ震えてるよ~…(泣』
「こんなに怖がるなんて、まるで子供だなー」
『苦手だって言ったでしょー!!』
「ほんとお前は怖がりだよな~。怖がらずに楽しめばいいんだよ。あ、あれは何だ?あっちに行ってみようぜー!」
次の乗りたいアトラクションが決まったのか、キルアは嬉しそうに走り出す。
そんなキルアの後ろ姿を見て、ソフィアは呆れながらも軽く笑った。
『…子どもみたいにはしゃいじゃって」
なんか今日のキルア、かわいい。
それからの二人は、空飛ぶ乗り物やメリーゴーランドなど優しい乗り物で楽しんだ。
たくさん乗り物を楽しんだ二人は、お土産コーナーに足を運んだ。
「あ、これかわいい♡」
ソフィアがぬいぐるみの商品を手に取り、眺めていると…
後ろから肩を叩かれたので、振り向いた。
すると目の前には、大きなヘビがぶら下がっている。
『きゃぁぁぁぁっ!!』
ヘビが大嫌いなソフィアは、思わず大きな悲鳴を上げた。
「相変わらず簡単に驚くんだなー」
ヘビをぶら下げていた犯人はキルア。彼は面白そうに腹を抱えて笑っている。
『もうっ!!驚かさないでよ~‼つかなんでこんな物が置いてあんの!?』
「隣が動物園らしいぜ。レオリオの国ってスゲーよな!なんでも揃ってんじゃん!あ、あれも面白そう」
その場を後にしたキルアを見て、ソフィアはギッと睨んだ。
もう~‼キルアにやられてばっかで、めっちゃ悔しい!!
こうなったら仕返ししてやるんだからー!!
ソフィアは驚かせそうな物を探した。
『あ、これはいいかも♪』
ソフィアは見つけた被り物を被ると、キルアの後ろにそっと近寄って、彼の肩をトントンと叩いた。
『ねぇ、キルア』
「ん?」
後ろに振り向くキルア。
『バァァァァ!!』
「…………なにが?」
『え??』
なんにも驚かないキルア。
それもそのはず。ソフィアの被っていたのは、怖いゴリラの被り物。
元暗殺者のキルアには、全く効果がなかった。
「全くソフィアじゃあるめーし、そんなんでオレが怖がるわけねーだろ?」
フッと鼻で笑って、勝ち誇ったようにその場を去るキルア。
ムカッ。
ソフィアは被り物を脱ぐと、怒った表情でキルアを睨んだ。
『もうっ!やられてばっかり!!』
イライラしながらキルアに近付くソフィアだったが、二人はそれからも他愛もない会話やふざけ合いながら、遊園地を楽しんだ。
季節は真冬だからか日が沈むのが早く、夕方を過ぎるともうすっかり暗くなっていた。
「おじさん、これいくら?」
キルアは街中にあった出店で、黒とグレーが混ざったマフラーが気に入ったのか店員に値段を尋ねていた。
「それは、5千ジェニーです」
「ふーん…ねぇ、ソフィア。似合う?」
そのマフラーを試しで首に巻いたキルアが、隣にいたソフィアに聞く。
ソフィアは頷き、素直に言った。
『うん。お洒落だし、よく似合ってるよ?』
「そっか。じゃあソフィア、これ買って」
『え?』
「マジで大切にすっから。じゃ、先行くぜー」
『ちょ、ちょっと!』
キルアはソフィアを置いて、スタスタと行ってしまった。
もう、なんでわたしが…
ジーっと見つめてくる店員の視線に気が付いたソフィアは、しぶしぶお会計をした。
店員からマフラーを受け取ると、キルアの元に小走りで向かう。
「お、サンキュー」
キルアはソフィアからマフラーを受け取ると、それを首に巻いた。
「ありがとな。マジで大切にするわ!」
はにかむように笑ったキルアの笑顔に、ソフィアの心臓がキュンとなった。
『うん…いいよ、別に///』
マフラーでこんなにキルアが喜んでくれるなんて。
そういえば、今までキルアにプレゼントあげたことなかったな。
キルアには今までたくさんお世話になってるし、たまにはいっか!
「あーあったけェ~」
キルアはマフラーがとても気に入ったのか、そう呟きながら歩き出した。
それからの二人は、駅近くの都会の夜景を眺めながら川沿いを歩いていた。
「楽しかったな~。毎日こうだといいな」
隣を歩くキルアはポケットに手を突っ込みながら、笑ってそう言った。
『楽しかったね!でもキルアがこんなにはしゃいでたのは、ちょっと意外だったかも』
「ソフィアと一緒だからに決まってんだろ?」
『え?』
きょとんとするソフィアに、キルアは優しく笑った。
「もちろん友達としてな!あ、なんか売ってるぜ?」
キルアは出店を見つけて、立ち寄った。
そこには温かいココアや飲み物が売られている。
「おごってやるよ。何にする?」
『え、いいの?じゃあ…カフェラテで』
「オレはココアにしよー」
キルアは店員にお金を払い、お洒落な紙コップに入ったホットのカフェラテとココアを受け取った。
「どっかに座るか?」
『うん。ありがとう』
嬉しそうにカフェラテを受け取ったソフィア。
二人は座る場所を探し、少し歩いていくと綺麗な広場に幾つかベンチがあり、そこに二人は腰を下ろした。
目の前には、大きな川と向こうに見える都会の夜景が広がっている。
デートスポットなのか、遠くのベンチに座っているのはカップルが多い。
二人も見知らぬ人達から見れば、カップルに見えるだろう。
でもそんなことはあまり気にする様子もなく、二人は温かい飲み物を口にした。
『ふぅ…美味し』
「寒いから、余計に美味いよな」
ほっと一息ついたソフィアは、隣に座るキルアを見つめた。
『…キルア。今日はありがとう。あっという間の一日で、こんなに笑ったのは久しぶりだったかも』
「オレもスゲー楽しかった。ソフィアも楽しかったか?」
『うん!とっても楽しかった♬』
「そっか」
その言葉を聞いて安心したのか、キルアは嬉しそうに微笑んだ。
「………」
『………』
二人の間に、少し沈黙が流れる。
キルアは、ふと思い出したように口を開いた。
「…そうだ。ソフィア」
『ん?』
「昔言った、あの言葉は取り消す」
『何を?』
「オレが17になったら結婚してくれって言った話」
ソフィアは目を見開いた。
ソフィアの脳裏に、3年前の記憶が蘇る。
ーーー
「オレが17になったら結婚してくれないか?」
『でもわたしね、まだクラピカのこと…』
「それでもいいよ。オレが忘れさせてやるから」
ーーー…
そう言ってくれた。
キルアがどんな想いでそう言ってくれたのか、今思い出しても心が痛くなる。
「…オレ、今日お前とデートして思ったんだ。どう考えてもオレ達は友達だ。それも最高の友達だろ?」
キルアは優しい眼差しでソフィアにそう告げた。
一瞬驚いたソフィアだったが、そうだね、と頷いて笑みを浮かべた。
『キルアは、わたしにとって最高にステキな友達だよ』
ソフィアの笑顔を見たキルアは、一瞬固まった。
そして、どこか悔しそうな表情で笑って言った。
「あーあ、オレもお前と幼馴染だったらよかったのになー。そしたらオレが初恋の相手だったかもしれねーのに」
『え?///』
ソフィアは一瞬、頭が真っ白になった。
だがすぐにキルアが笑って、こう言った。
「冗談だよ、冗談!友達だろ?」
『…………』
じょ、冗談って…
キルアが言うと冗談に聞こえないよ…////
ソフィアは、聞かなかったように少し冷めてしまったカフェラテを一口飲む。
「こうなるならプロポーズした時にキスしておけばよかったなー」
『え!?ちょっと…!!///』
「冗談だよ!ソフィアは冗談通じねーな。友達だろ?」
『もういい加減にしてってば!!///』
怒ったソフィアは、その場を立ち上がる。
もうっ…なんなのキルア。
今日はわたしをいっぱいからかって。
そんな感情表現が豊かなソフィアを愛おしげに見つめたキルアも立ち上がり、彼女に向き合った。
「そろそろ帰るか」
『うん…』
素っ気なく返事をしたソフィアは、歩き出した。
「もう夜だから送るよ。泊まるとこあんのか?」
『あ、うん。駅前のホテルに予約してある』
「分かった。寒いから行こうぜ」
そう言って歩き出すキルアの背中に、ソフィアが呟く。
『いいよ、一人で帰れるよ?』
その言葉にキルアが、若干不機嫌気味に振り向いた。
「ばーか。ここは都会だぜ?また一人で居たらナンパされんだろ?あとお前、方向音痴だから迷子になるかもしんねーし」
『もうっ大人なんだから大丈夫だよ!』
「東口と西口も間違えるしなー」
わざとらしく言うキルアに、ソフィアは思い出したのか慌てて謝った。
『だからあれはごめんってばー!』
そんなこんなで、あっという間にソフィアの泊まるホテルの前に辿り着いた。
ホテルの前は駐車場と隣接しており、夜だからか周りに誰もいない。
『送ってくれてありがと、キルア』
「別にいーよ。マフラー奢ってもらったし」
『そうだったね!じゃあ、おあいこだね♪』
「なんだよそれー」
二人は笑い合う。そして、ソフィアは笑顔で手を振った。
『じゃあね、キルア!また明日ねっ。気を付けて帰ってね!』
「あぁ、じゃあな」
微笑んだままキルアから背を向けようとした。
そのとき…
キルアはソフィアの腕を引っ張り、優しく抱きしめた。
『…キルア…??』
突然の事態に、ソフィアは大きく目を見開く。
キルアは返事もなく、ただひたすら彼女を抱きしめたまま。
目を閉じて、ただソフィアの温もりを感じていた。
しばらくそうしていたキルアは、そっと彼女を優しく解放する。
キルアは真っ直ぐにソフィアを見つめて言った。
「ソフィア…オレ、言ったっけ?」
『え…』
「オレはお前が大好きだ。性別なんて関係なく、人として、お前が…ソフィアが大好きだった」
大きく目を見開いていたソフィアは、ちょっと可笑しそうに軽く笑った。
『…急にどうしたの?』
キルアは変わらず優しい笑顔で言った。
「ありがとな。お前のおかげで本当に楽しかった」
バイバイと手を上げて、キルアは歩き出す。
「じゃあな!明日は待ち合わせ場所、間違えんなよ!」
『あ…うん。明日ね!』
笑って手を振ったキルアは、駅に向かって歩き出した。
ソフィアは不思議そうに遠くなってゆく彼の後ろ姿をただ見つめた。
なんか…キルアらしくなかったな。
どうしたんだろ。
でもね、キルアの優しさは何年経っても変わってなくて。
こんなわたしのことをずっと想ってくれて、
優しくしてくれて、好きになってくれて。
キルアに出会えてよかったと、心からそう思った。
キルア、ありがとう。
わたしもキルアのこと、友達として、人として。
ずっとずっと、大好きだよ。
ソフィアと別れたキルアは、パーネル駅に向かっていた。
途中の歩道橋で、キルアはふと外の景色を眺め、橋に寄りかかった。
橋の下では、たくさんの行き交う人々、数多くの車が走り、人の声や信号の音、車のクラクションが鳴っていた。
この広い世界で、ソフィアに出逢えた。
それだけでもオレは、幸せだと思う。
3年ぶりに会った彼女は、前よりも綺麗になっていた。
でも性格は昔のまんまだ。
相変わらず鈍感で、優しくて、天然で、怒りっぽくて、食いしん坊で、負けず嫌いで、かわいくて。
好きだったあの頃の気持ちが、また戻ってしまいそうに感じた。
恋愛なんてとっくのとうに捨てたはずだ。
あきらめたはずだ。
本気の恋なんて一生に一度、壊れるくらいに誰かを愛すことができればそれでいい。
軽く、浅く、何度もしてしまえば、いつか一つ一つがぼんやりと薄れることになってしまう。
オレは確かにソフィアに恋をしていた。
今なら胸を張って言える。
あれは最初で最後の本気の初恋だった。
それが例え過去と呼ばれようと、その事実がこれからも存在していく限り、
オレは後悔などしていないって、心から誇ることができるから。
本当はクラピカのこと、まだ好きなのか聞こうと思ってた。
でも聞かなかった。いや、聞けなかった。
時々、ふと思い出したように切ない目をしていたソフィアがいた。
アイツは昔から嘘が付けない性格だった。
オレがソフィアを抱きしめたとき、きっとクラピカを思い出してる。
きっと何年時が経ったのだとしても、ソフィアがクラピカを好きな気持ちは変えられない。
それだけはもう、聞かなくても分かっていた。
でも最後にソフィアとデートができて、本当に楽しかった。
ぎくしゃくした関係をずっと壊したかったし、今日みたいにふざけ合って、笑い合えたらと、ずっと願ってた。
今日、その願いが叶ったんだ。
だからオレは、これで前を向いていける。
さっきまでふらふらとあと戻りしかけていた足取りは、再び終着駅へと進みだす。
振り向かず、胸を張って、前を向いて。
よし、行こう。行ってやる。
オレは決して後悔などしていない。
アイツが好きだから。
大好きだから、もうお前を苦しめたりしない。
もうオレの想いをぶつけたりしない。
これからも、ずっとお前の幸せを願いつづけるから。
でもさ、ソフィア。
お前も、たまに、本当にたまにでいいから、オレのことを思い出してくれないか。
今日デートしたこととか、苺を食べさせてあげたとか、マフラーを買ってあげたこととか、
小さくてもいいから、心に残しておいてほしいんだ。
本気で好きだった。
今も変わらず好きだ。
そしてこれからも、ずっと。
お前を好きになって、良かった。
例え一生、叶わない恋でもオレは、お前の幸せを願いつづける。
だって、オレはお前にとって「最高にステキな友達」だからな。
風によって雲が散り、透き通る月が顔をのぞかせた。
キルアは首に巻いたマフラーを触ると、ふと月を見上げて、嬉しそうに微笑む。
こうしてキルアの初恋は、胸に刻んだまま、終わりを告げた。
特別編 優しすぎる友 end…