番外編
ヒロイン名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
10月も中旬を過ぎ、秋は一気に深まっていき、部屋の花瓶にも可憐なコスモスがほころびる頃。
クラピカと結婚して、もうすぐ一年が経とうとしていた。
二人の暮らしにもすっかり慣れてきた。
結婚したら幸せな毎日がつづくと思ってた。
でも最近、クラピカのハンター教会の仕事が忙しくて…
『あ…すまない。今日も、遅くなると思う」
そう目も合わせずに告げて、玄関に向かうクラピカ。
『そう…。行ってらっしゃい』
もう…ダメかなぁ…。
そんな気がしたある日の出来事。
わたしの中で、初めて魔がさした。
まさかクラピカ以外の人と食事に行こうとするなんて…
わたし、どうしちゃったの…??
さて、夕飯の支度するかぁ…
クラピカ、今日も遅いのかな?
ここ5日程、クラピカは夜中に帰宅するのが続いていた。
今日は一緒に夕飯食べれるかな…。
クラピカのハンター教会の仕事は、たまに夜遅くなる事が多い。
クラピカは仕事も完璧みたいで、ハンター教会に勤めて直ぐに出世した。
上司からも慕われてて、優秀な人材だと思う。
彼が出世してからたくさん仕事を任せられるようになり、こんな風に夜遅くなる日が増えてきた。
でもこんなに夜遅い日が続いたのは初めてだった。
この5日間、まともに会話さえ無い。
ふと鏡に映る自分を見た。
『ひどい顔…』
クラピカにとって私は…どんな存在??
夕食さえ、一人で食べるのは美味しくない。
我が儘…そういわれたらそうかもしれない。
同じ家で暮らしているのにすれ違う日が5日も続いて、今日で6日目。
わたしも働いてたらこんなに寂しい思いをしないのかもしれないけど、
クラピカからのお願いで、まだ若いけど専業主婦でいさせてもらってる。
同じ場所に居るのに、どこか遠いところにぽつんと置いて行かれたそんな気持ちで、毎日切なかった。
結局その日の夜も、夕飯は一緒に食べれなかった。
カチャ…。
ベットの中で気づく気配。
本当は、「おかえりなさい」そう言えばいいのに。
私は…眠ったふりをした。
クラピカは、冷めた夕食を1人温めて食べているのに。
枕に顔を埋め、目から涙が零れ落ちる。
クラピカ、ごめんね。
でも…私の心が、凍えているの。
あの頃とは、もう違うんだね。
私…馬鹿みたい。
クラピカは私と違って完璧な人だもん。
かっこよくて、優しくて、誠実で、真面目で。
頭も良くて、仕事も完璧で…そんな彼と結婚できただけでも幸せじゃない。
彼が仕事で忙しいのは、当たり前じゃない。
もう…忘れよう。
彼の心を知る術なんてないんだから。
冷めた部屋は…私の心のようだった。
…そういえば、最近触れられる事さえ覚えていない。
「愛してる」「好きだ」という言葉を言われたのも、いつだったかな…。
妻は…家政婦で、女じゃないのかな…。
翌日。
泣きながら、眠ったせいか…
瞼が腫れぼったい。
いつの間に寝ちゃったんだろう。
いつものように、早朝に起きてお弁当を作る。
「おはよう」
『あっ…。おはよ』
身支度を済ませ、テーブルに向かい合う。
無言のまま、朝ご飯。
仕事が忙しいのか、ちょっと痩せたようにも見える。
『…クラピカ。はい、お弁当』
「ありがとう…」
若干顔色が悪いクラピカは、貰ったお弁当を鞄に入れて、いつものようにスーツ姿で玄関に向かった。
後ろからゆっくり着いて行き…
『最近、遅いね。忙しいの?』
「あ…すまない。今日も、遅くなると思う」
クラピカは目も合わせずに一言そう告げた。
『そう…。行ってらっしゃい』
もう…ダメかなぁ…。
そんな気がした。
不自然なほど明るい秋の空。
晴天とは裏腹に、どんよりとした気分で買い物に出掛けていた。
「あれ?ソフィアさん?」
後ろから聞き覚えのある低い声が聞こえる。
振り返るとそこには、こないだソフィアが初めて行った美容院の人だった。
『あ、お久しぶりです。えっと…』
「レオンです。忘れちゃいましたか?」
『あ、すみません(汗』
顔は覚えてたけど、名前は忘れてた…
「いえいえ、こないだはお店に来てくれて、ありがとうございました」
名前を名乗ったレオンという人物は、とてもハンサムなイケメン美容師の人だった。
顔は整った美形で、焦げ茶の短髪。
背が高く、モデル体型で服装も相変わらずお洒落だ。
たまたま行った人気のある大きい美容院だったが、担当してくれた女性店員によれば、レオンさんお目当てで来るお客さんも多いらしく。
その美容院では一番人気の高い美容師だったので、ちゃんと話したことのないソフィアでも覚えていた。
「久しぶりにお会いしましたが、ソフィアさんって凄くお綺麗ですね。ソフィアさんと担当の者が話してる時にちらっと聞こえたんですけど、もしかしてご結婚されてるんですか?」
ソフィアは、少し嬉しそうに答えた。
『あ、はい。今年の春に結婚しまして…』
「そうなんですね!最初見たときあまりにもお綺麗なんで、てっきり独身かと思ってましたよ。お若いんで主婦には全然見えないですね」
ハンサムな笑顔で話すレオンさん。
そんな社交辞令でさえ、嬉しかった。
何だか久しぶりに心がときめいた。
「あのソフィアさん。もし良かったらなんですけど…今日の夜って空いてますか?よければ一緒にどこかで夕食でもどうですか?あっ!旦那さんに悪いか?」
いつものわたしなら迷わず断るのに。
わたしは、思わず…
『大丈夫です!行きます』
「本当ですか!良かった!では夜7時に待ち合わせでもいいですか?場所は…」
二人はどこにするかを考えた末、駅近くの新しくできた人気のオシャレなイタリアンのお店に決めて別れた。
大丈夫…これは不倫じゃない。
美容師さんと夜ご飯食べに行くだけ。
ただそれだけ。
ソフィアは自分にそう言い聞かせた。
バックに携帯を投げ入れ、買い物を済ませ、自宅に戻るとキッチンで簡単な夕食を作る。
クローゼットから白いロングワンピースと秋らしいブラウンの薄いコートを取り出し、それに着替える。
白い花のピアスを付け、丁寧にお化粧をし、髪を軽く巻いて、軽く香水を付けた。
鏡に映る私は…恋する乙女のようだ。
『ばかみたい…。ただご飯に行くだけなのに」
支度を終えて、ショートブーツを履き、バックを手に玄関へ向かう。
そのとき…
突然、玄関のドアが開いた。
「ソフィア?何処か行くのか?」
現れたのは、クラピカだった。
まさかの事態に、ソフィアは大きく目を見開く。
『えっ…。あの、知り合いとご飯に…クラピカ遅くなるって…』
はぁ~っと大きなため息をつく彼。
そして、低い声で言い放つ。
「知り合いって誰だ…。そんな綺麗な格好でか?誰に見せるつもりだ」
なんか怒ってる?
思わず下にうつむくソフィア。
『別に…見せるとかじゃないから…私がどこに行こうといいでしょ!たまには、一人で好きにやればいいのよ!』
やけになったソフィアは、クラピカを無視して行こうとする。
振り払おうとした彼の手が、私を壁側に引き寄せた。
玄関のドアを閉め、鍵をかけたクラピカの視線が私を直視する。
「…行かせない」
グロスが付いた唇に、クラピカの唇が重なる。
どんどん、激しくなる。
クラピカの舌が口内に入ってきて私を追い詰める。
『ふぁっ。や、め…て!』
彼の胸に手をつき、逃げようとした。
『暴れるな!全く…。ずっと、我慢してたのに…、やはりソフィアが必要だ」
『ちょっ…!』
ふわっと抱き上げられ、寝室に直行する。
『クラピカ!下ろしてっ』
暴れるソフィアを無視し、そのままベットに下ろされて覆い被される。
『ねぇ!出掛けるから…離れてっ』
「黙れ!大人しくしてろ!」
せっかく綺麗にしたのになんなの!!
クラピカは無言で私の頬に触れ、ソフィアの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「あまり外に綺麗な服を着て出かけて欲しくない」
『えっ?なっ…。誰も見てないよ。わたし…ふつう、だもん…』
「何を言っている!ソフィアは…綺麗だ。この前職場の上司に言われたんだ。買い物しているお前を見かけて、あまりにも綺麗だから私が旦那じゃなければ声を掛けてたと」
真剣な表情でつづけるクラピカ。
「正直、とても焦った。私はソフィアをちゃんと見ていたのかと…。忙しい理由で放ったらかしにして…すまなかった」
クラピカはソフィアの唇に自らの唇を静かに重ねた。
唇を離すと、ふいに目が合い、二人の時間がぴたりと止まる。
そしてクラピカは優しく微笑み、口を開く。
「ソフィア、愛してる」
ソフィアの目から涙が頬を伝う。
『クラピカ…、わたし…寂しかったの、心が壊れそうだった。でも…言えなくて…クラピカの奥さんでいいのかなって、いつも不安で…』
「何を言っている。私にとってソフィアはずっと、あの頃のままで、自慢の嫁だ…。何も変わらない…」
クラピカは涙を流すソフィアを安心させるように優しく頭を撫でる。
「これからは何かあったら隠さずに言ってくれ。溜めずに全部だ。いつでもお前を受け止める」
頬を両手で押さえ、クラピカは彼女の涙を指で拭った。
「…お前は昔から寂しがり屋だな」
『クラピカだって、 私にやきもち…ふっ…ん』
クラピカは話すソフィアの口にキスをして黙らせる。
「何か言ったか?」
『いえ、なにも…(汗』
もう、相変わらず強引なんだから。
でも、今すごく幸せ。
携帯が光ってることさえ忘れるくらい、久しぶりに触れる体温とクラピカの愛撫に酔いしれた。
二つの身体が重なり、幾度となく押し寄せてくる快楽に、私は…のめり込んでいった。
ぐったりとした私の髪を撫で、優しく笑うクラピカ。
『ねぇ、ご飯に行く約束…』
「あぁ…」
クラピカは私のスマホを勝手に操作して、ポンとベット脇のテーブルに置いた。
『何したの?』
「約束は今キャンセルした」
平然と答えるクラピカ。
携帯の送信メールを見ると…
《只今夫婦の営み中の為、邪魔をしないで下さい》
ソフィアは目を大きく見開き、声を上げた。
『はぁ~~??いや~‼美容師さんだったんだよ!?もう恥ずかしすぎる!!何やってんのもう~~‼/////』
「美容師ってこないだ行ってた美容院の人か?客をご飯に誘ったのか?下心見え見えだな…。
今後一切二度と連絡はするな。連絡先も消せ、その美容院にも二度と行くな」
『は、はい…』
こ、こわ…!
怖い顔に低い声で命令するクラピカに、ソフィアは軽く怯えて返事をする。
「ご飯に行きたいなら私と行こう。それにしばらくは早く帰れるようにする。来月は旅行でも行こう」
『旅行!?なんで?』
「来月はソフィアの誕生日だからな。誕生日旅行だ。…何ならそこで子作りに専念するか?(怪笑)」
『なっ、何言ってるのもう~‼////』
とても恥ずかしがるソフィアに、クラピカは面白そうに笑った。
「だが…沢山お前を愛したい。まだまだ体力はあるぞ」
『まぁ、クラピカは体力あるし、スタイルもいいし…。スーツ姿も大人の風格もあって凄くかっこいいし…」
「何をブツブツ言っている?まだ足りないのか?では…もう一回しようか」
『えっ、ムリ~~‼////』
しかし、抵抗虚しく、私はクラピカにまた食べられました♡ 笑
「ソフィア、おいで」
ベッドの上で寝転がり、ソフィアを自分の方へ引き寄せる。
ソフィアはその言葉を待ってましたといわんばかりに、すぐにクラピカの腕を枕にそこに頭を下ろした。
頭の上に置かれた二の腕をそっとソフィアの肩へと回す。
肩に心臓があるかのように、トクントクンと鳴り響く静かな鼓動が、まるで全身まで伝わってくるようで。
「…幸せだ」
ふいに口からこぼれた”幸せ”という言葉は、単純でそれでいて複雑で、だがくだらない健前なんかではなく。
その場限りでもなく、紛れもない本心だった。
『私も、幸せ…』
ソフィアは嬉しそうに軽く微笑みながら、目を閉じる。
できることなら、ずっとこのままこうしていたい。
しばらく二人は、そのまま幸せを感じていた。
幸せな夜を過ごした二人は、せっかくなので遅めの外食に出掛けたのだった。
クラピカ。
こんな寂しがり屋なわたしを愛してくれて、ありがとう。
やっぱり貴方は、わたしの思った通りの人だった。
これからも、大好きだよ…
一方、ソフィアをご飯に誘った美容師のレオンは…
ソフィアからのメールを見て、しばらく呆然と固まっていたのだった。
end♡