番外編
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次の日。
「…あ、しまった!」
学校の帰り道、クラピカは忘れ物をして来た道を引き返した。
そのとき…
目の前にソフィアが友達と会話をしながらこっちに向かって歩いている。
クラピカはソフィアを見つけると反射的に建物の陰に隠れた。
…オレ、なんで隠れてるんだ?
友達と楽しそうに笑いながら帰宅しているソフィア。
二人は近くのまるたのベンチに座った。
身動きが出来ず、二人の会話がリアルに入ってくる。
「すごいねソフィアちゃん。お姫さま役にえらばれて!ソフィアちゃんにピッタリだねっ♡」
ソフィアがお姫さま役…!?
クラピカは顔を真っ赤にして、目を大きく見開いた。
クルタの村では、この時期になると毎年恒例のクルタ祭りが行われる。
村中を綺麗に飾ったり、屋台も出て。
歌や踊りの練習をし、学校では学年によって劇や出し物が決まっていた。
『ソフィアで大丈夫かなぁ??』
「大丈夫だよ!!だってソフィアちゃんかわいいもん!!」
『レナちゃんだってかわいいよ~‼』
クラピカがソフィアを陰からじっと見つめていた時、後ろからパイロの声が聞こえた。
「どうしたの?クラピカ」
ビクッと驚き、クラピカは慌てて振り返った。
「パイロ…!」
「何してるの?」
不思議そうに見つめて尋ねるパイロに、クラピカはしどろもどろで答える。
「い、いや…べつに///」
「顔が赤いよ」
目の不自由なパイロだが、クラピカが見ていた先を見ると、ベンチで二人の少女が座っているのが薄っすらと見えた。
「…あ、あの子見てたんだ。きっとかわいい子だね」
クラピカは慌てふためいた。
「オレは!…べつに何も…っ////」
これ以上の言い訳が思いつかず、何故か恥ずかしくなり、クラピカはその場から走り出した。
「あ、クラピカ!」
クラピカは無我夢中で下を向いたまま走り続ける。
なにやってんだ、オレ!
どうしたんだ、オレ…!!
すると突然、誰かとぶつかり、その反動で後ろにしりもちをついたクラピカ。
「…大丈夫!?」
顔を上げると、心配そうな面持ちで見下ろしているソフィアの母の姿。
「す、すみません…」
クラピカは暗い表情で立ち上がった。
「あ、昨日は本当にありがとう」
「いえ、オレはべつに…」
「学校の帰り?」
「はい…」
「元気ないわね、学校で何かあったの?」
俯いたままクラピカは小さく答える。
「いえ…」
するとソフィアの母は胸の前で両手を合わせて、笑った。
「分かった!お腹減ってるんでしょ?ちょうど良かった。今日ね、あなたのお母さんにウチで夕飯を招待したの。
だから今夜はウチでいっぱい食べてって。余り大したご馳走じゃないけど…」
クラピカは大きく目を見開き、顔を赤くした。
…ってことは、今夜はソフィアの家に!?
「昨日、クラピカくんにソフィアのこと助けてもらったお礼。
家もご近所だし、これきっかけであなたのお母さんと仲良くなってね。
…そうだ!いっしょに夕飯買いに行くの手伝ってくれる?」
明るく笑って問いかけるソフィアの母。
「あ、はい…」
クラピカはソフィアの母の買い物に付き合うことになった。
クルタの村での買い物は、小さな市が開かれており、新鮮な野菜、果物はもちろん、魚やお肉、金物、打ち刃物、植木などが売られている。
ソフィアの母と共に訪れた市は、たくさんの人と売買される品物で、とても賑やかだった。
ソフィアの母は買い物をしながら、クラピカに優しく尋ねる。
「ソフィアとはいつから仲がいいの?」
緊張しているクラピカは、固く答える。
「…最近です」
その返事に少し驚いた表情を浮かべるソフィアの母。
「そうなの。あの子、わがままでいろいろ困らせてない?」
「いえ、そんな…ソフィアさんはとてもいい子です。明るいし、おもしろいし…オレにはもってないものいっぱいもってます」
地面を見つめたまま真面目に答えるクラピカに、ソフィアの母は安心した嬉しそうな笑みを浮かべた。
「クラピカくんは娘のこと、とても好きでいてくれてるのね」
クラピカは一瞬真っ白になった後、慌てて声を上げた。
「そんっ、いや、オレは…!///」
なんて答えたらいいのか分からない。
心臓が破裂しそうになる。
頭で考えても何も言えずに困り果てたクラピカは、一度頭を下げてその場から後ろに走り出した。
いったいどうしたんだ、オレは…!
なぜこんなに胸がくるしくなるんだ!!
しばらく足を進めてから、クラピカは立ち止まった。
走り疲れて、近くのベンチに腰を下ろす。
すると横には、同い年ぐらいの女の子の集団が集まっている。
自然とその会話がリアルに聞こえてくる。
「しってるー?自分の名前を書いたウサギのペンダントをその人にあげると、ずっと両想いでいられるんだって!!」
「そうなのー!?ステキー!!」
クラピカは目を見開いた。
両想い?
すぐ頭に浮かんだのは、笑顔を浮かべているソフィアの顔。
なんでアイツが出てくる!!///
クラピカは立ち上がり、その場を後にした。
絶対に作らない。
そう思っていたクラピカだったが…
「…………」
自分の部屋の机には、ウサギのペンダント。
クラピカは自分の貯めていたおこずかいから、近所のなんでも屋でウサギのペンダントを購入して、裏に小さく自分の名前を書いた。
そのペンダントを見つめると、脳裏にソフィアの姿が浮かぶ。
……だから、ちがうって。
なんでアイツが出てくるんだ。
ペンダントを床にそっと投げて、ベッドに倒れたクラピカ。
額に腕を置いて、茫然と天井を眺める。
「なんで…アイツのことばかり…」
突然、ドアの向こうから母の声が聞こえた。
「クラピカー?ソフィアちゃんの家に行くわよ~」
ドアが開かれ、ベッドで横になっているクラピカに驚く。
「あら、どうしたのクラピカ。眠たいの?」
「いや、べつに…」
母は軽くため息をつく。
「早く準備しなさい、おいてっちゃうわよ?……ん?」
床に落ちているウサギのペンダントを見つけると、母はそれを拾った。
「かわいい♡誰かから貰ったの??あれ、でも裏にクラピカの名前がある。クラピカの?」
こくりと頷くクラピカ。
その返事に母は目を見開いてペンダントをまじまじと見た。
「でもウサギのペンダントなんて珍しいわね。女の子が好きそうだし誰かにあげるの?」
もしかしてソフィアちゃんかしら?
母は楽しそうに笑みを浮かべて、クラピカの返事を待つ。
その時、クラピカは我に返った。
誰かにあげる…?
やはり脳裏に浮かぶのは、ソフィアの笑顔。
だからなんでソフィアにあげないといけないんだ…!///
クラピカは起き上がりベッドから降りると、母が持っているウサギのペンダントを机の上に置き、無言のまま部屋を出て行った。
ソフィアの家に到着したのは、約束のちょうど18時頃だった。
クラピカは緊張しているためか、ずっとうつむいたままで、顔も硬い表情だった。
玄関の前で待っていると、ドアが開かれソフィアの母が現れた。
「こんばんは~。来てくださりありがとうございます。どうぞ上がってください」
そして奥からソフィアがバタバタと元気に走ってきた。
『クラピカ‼!いらっしゃいっ!!』
ソフィアの姿を見た途端、クラピカの頬が赤く染まる。
「お、お邪魔します…」
ソフィアとソフィアの母の後についていきながら、クラピカは珍しそうにして家の内部を見回した。
隣にいるクラピカの母が、からかうように笑う。
「もう、初めて女の子の家に来たからって緊張しちゃって」
「そうか、初めてか」
後ろにいた父も優しく笑った。
リビングに入ると、テーブルにはたくさんのご馳走が並べられている。
全員、椅子に座ると軽く挨拶した。
食事をしながらクラピカとソフィアの両親は会話を楽しんでいる。
しかし、クラピカはかしこまったままで黙々と目の前のご馳走に手をつけていた。
『クラピカ、おいしい??』
突然ソフィアに尋ねられ、クラピカは目を合わせないまま照れくさそうに返事した。
「あ、あぁ…」
『よかったぁ!それ、ソフィアが作ったの!』
「え……」
クラピカは顔を真っ赤にして固まった。
「あら、これソフィアちゃんの手作りなの!?美味しいわね~‼」
クラピカの母にも褒められ、ソフィアは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「今日はクラピカくんが来るからソフィアが作るって張り切ってたんです。ソフィア、褒められてよかったわね」
『うん♡』
ソフィアの母の言葉にクラピカは目を見開く。
オレのために…?
ソフィアと目が合い、ソフィアはニコッと笑顔を浮かべる。
胸がきゅんとする痛みが走り、クラピカは照れくさそうに目を逸らした。
「ソフィアちゃんは本当に可愛いわね。将来、クラピカのお嫁さんになってほしいわぁ♡」
なっ…!!
「そんな、うちもですよ!クラピカくんはとてもしっかりしてますし、将来たくましい青年になりますよ~‼」
自分の母とソフィアの母の会話に、クラピカが派手に沈没した。
そして、慌てて声を上げる。
「母さん!!なにを、なにを言ってるんだ…!!///」
「あら、なに恥ずかしがってるのよ~!あ、そういえばウサギちゃん持ってこなくてよかったの?」
「…!!///」
その発言にソフィアは何度も瞬きした。
『ウサギちゃん?』
「そう、クラピカがプレゼント買ってたの」
「母さん!!////」
クラピカは顔を真っ赤にして、怒号を上げた。
『そうなんだ!誰かにあげるの??』
虚を突かれたクラピカは、慌てふためく。
「いや、だから、そのっ…」
しどろもどろで言葉を続けようとするクラピカだが、本当の事を言うべきか、それとも誤魔化すかで葛藤する。
その時…
『クラピカ!もうお腹いっぱい??ソフィアのお部屋でいっしょにあそぼっ!!』
「あ、うん…あの、美味しかったです。ごちそうさまでした」
クラピカはソフィアの両親に礼儀正しく告げて手を合わせると、ソフィアの後について行った。
そんな可愛らしい二人を見ながら、クラピカとソフィアの両親は再び二人について楽しそうに話し始めた。
ソフィアの部屋に入ると、ピンクのカーテンに可愛いベッド、ウサギやクマ、人形のぬいぐるみが綺麗に並べて置かれており、改めて女の子の部屋だと感じさせる。
ソフィアと二人きり。
部屋で女の子と二人きりなど…今日が初めてだ。
緊張のせいかそわそわして落ち着かないクラピカ。
だが緊張してる事をソフィアにバレたくなかったので、無理やり冷静さを装った。
『そういえば、今日はありがとう!』
笑顔で言うソフィアに、クラピカは疑問を浮かべる。
「なにがだ?」
『ソフィアん家に遊びに来てくれて!』
そういうことか…
「オレは、べつに…礼を言うのはオレの方だ。その…ありがとう//」
ソフィアは首を横に振り、そして笑った。
『…クラピカ、べつにってよく言うけど、ホントはそうじゃないんだよね』
「…な、なんでそう思うんだ?」
『わかるよ、だってクラピカやさしいもん!』
うつむいていたクラピカは顔を上げて、ソフィアを見つめた。
ソフィアもクラピカを見つめて、笑顔を浮かべる。
その笑顔につい見とれるクラピカだが、我に返ると、ずっと聞きたかった事を思い切って尋ねた。
「ソフィアは…好きな人いるのか?」
『え?…なんで?』
…心なしかソフィアが少し動揺して見える。
「いや、気になったから…」
『…いるよ!』
クラピカは目を見開く。
その相手が誰なのか、聞くのが怖くなった。
だが、勇気を振り絞ってソフィアに聞いてみる。
「だれだ?」
『イヤ、教えなーい!』
「なんだよ、教えろよ!」
『イヤ~』
ソフィアは両手を使って変顔をする。
「やめろよその顔、相変わらずだな」
『じゃあ、クラピカはいるの?好きな人??』
逆に問いかけられて、クラピカは慌てた。
「オ、オレはいいんだよ!///」
『なにがいいの??クラピカが教えてくれたら、ソフィアも教えてあげる!!』
「いや、いいって!もう忘れろ」
ソフィアは軽く頬を膨らませて、上目遣いに睨んできた。
『なによー!クラピカから言ってきたくせにぃ~!』
ヤバいな、怒らせてしまった。
だが、オレから言うのか?
そもそもオレは、ソフィアが好きなのか…??
ソフィアの事が気になるのも、心臓が破裂しそうになるのも…
ソフィアが好きだからか?
これが、恋…?
「……オレは…オレの好きな人は…」
その時…
「クラピカー!帰るわよ~‼」
廊下から聞こえる母の声に、クラピカは我に返る。
その日、何も進展しないままクラピカはソフィアと別れたーーー…
翌日。
学校の休み時間、クラピカは教室でぼーっと頬杖をついて窓の外の景色を眺めていた。
「クラピカ」
名前を呼ばれて、気がつくと目の前にはパイロの姿。
「あの子のこと考えてたの?」
虚をつかれて、クラピカは慌てて否定しようとする。
「な、…ち、ちが…!///」
「やっぱり考えてたんだね。クラピカはあの子のことが好きなんだ。まだ伝えてないの?あの子にそのこと」
「オレは…」
「声聞いたらふんわりしてるから、言わないと気づかなさそうだよね」
確かに、ソフィアは鈍感だ。
きっと、はっきり伝えないと気づかないだろう。
でも、アイツには…
「けど、アイツには好きな人がいる。相手は分からないけど…」
「だから伝えないの?」
クラピカは返す言葉が思いつかず、押し黙る。
「クラピカの思いはそれでいいの?どんな思いも言葉にしないと伝わらないよ」
パイロは微笑むと、その場を後にした。
放課後、クラピカはいつもの川原に足を運んだ。
オレは、どうすればいいんだ。
ソフィアに本当の気持ちを伝えるのか?
アイツに伝えたら、何か変わるのか?
でも、アイツの好きな人がオレじゃなかったら…
きっとアイツを苦しめてしまう。
正直に伝えれば、もう今まで通りの仲には戻れないかもしれない。
もう、アイツの笑顔も見られないかもしれない…
何度も耳の奥で聞こえるのは、パイロの言葉。
ーーー「どんな思いも言葉にしないと伝わらないよ」ーーー
分かってる。
でもオレにそんな勇気が…
川に到着すると、見下ろした先に草むらを布団代わりに寝そべっているソフィアの姿を見つけた。
ソフィアは寝そべった状態のまま時おり雲間からのぞかせる太陽の光に目を渋く細めている。
一瞬だけ前に進むことにためらいを感じた。
けれど、抑制は本音に勝利することもできるはずもなくて。
クラピカはいち早くソフィアの元に向かった。
「ソフィア…」
『あ、クラピカ‼』
ソフィアは慌てて起き上がり、喜びに満ちた笑顔に変わった。
『ねぇ、クラピカ!お祭りいかない!?』
「え?」
『お祭り!!日曜のクルタ祭りだよ!いっしょに行こ!!』
顔を近づけ、目を輝かせるソフィアに、クラピカの頬はみるみるうちに赤くなってゆく。
『ひょっとしてご用がある??』
眉を寄せ、上目遣いで悲しそうな目をするソフィアに、クラピカは答えた。
「いや、用事はない」
『ホント!?』
「あぁ…」
クラピカの返事にソフィアの顔がパァッと明るくなり、満面な笑みを浮かべて両手を大きく上げた。
『わぁい!!じゃあ、日曜の3時、ここに集合ね!約束ね!!』
ソフィアは嬉しそうに右手の小指を差し出し、クラピカの左手の小指に自分のそれを絡める。
ソフィアの小指に触れた瞬間、クラピカの心臓がきゅうに跳ね上がった。
クラピカはされるがままにソフィアと指切りする。
純粋なソフィアの笑顔に、クラピカの鼓動はドクンドクンと派手に走り始めている。
ーーー「どんな思いも言葉にしないと伝わらないよ」ーーー
パイロの声が耳の奥で木霊する。
クラピカは固唾を飲み、勇気を振り絞って気持ちを伝える決心をした。
ソフィアを真っ直ぐに見つめ、緊張で微かに震える声を振り絞る。
「昨日、オレの好きなヤツを教えたらソフィアも教えてくれるって言ったよな?」
『うん、言ったよ!』
「オレの好きなヤツは…オレが好きなのは……」
心臓が破裂しそうだ。
でも、伝えるんだ。
「……オレが好きなのは……お…」
『ごめんねっ‼』
「え!?」
まさか、もうフラれたのか!?
しかも、言う前にか。
せめて最後まで言わせてくれ…。
肩を落として、ひどく落ち込むクラピカ。
しかし、ソフィアはどこか慌ててる様子で話し出す。
「やっぱりソフィアなんかが聞いたらダメだよね!ごめんね!!」
その言葉にクラピカは安心したのか、大きくため息をついた。
なんだ、そうじゃなかったのか。
だけど、ソフィアはどれだけ鈍感なんだ!!
いや…天然?
『そろそろ帰らなきゃ!今日ソフィアのお誕生日なの!』
「え、そうなのか!?」
『うんっ!だからね、今日もママのごちそう食べられるんだっ♡』
そうだったのか…。
もっと早く知ってれば。
「あの…誕生日おめでとう///」
クラピカは照れくさそうに言った。
ソフィアは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
『ありがとう!!じゃあ、クラピカ。また明日ねっ』
そう言ってソフィアはその場から走り出していった。
ソフィアの姿が見えなくなると、クラピカは草むらに寝転がった。
気持ち伝えるのって、難しいんだな…。
それからのクラピカは、ソフィアと何度か学校や川原で会うものの、中々気持ちを伝えることが出来なかった。
そして、あっという間に約束の日が来てしまった。
待ち合わせ時間の20分前に到着してしまったクラピカは、草むらに腰を下ろし、透き通る川を見つめながらソフィアを待っていた。
そして、手に持っている小さな紙袋の中には、自分が買って名前を書いたウサギのペンダント。
今日こそ、伝えよう。
本当の気持ちを。
このペンダントも、ぜったいに渡すんだ。
緊張からか胸が詰まって中々落ち着かず、クラピカは早くソフィアが来てほしいような、来てほしくないような複雑な心境だった。
そして、待ち合わせの3時頃。
『クラピカー!!』
遠くの方から自分を呼ぶ、ソフィアの声がした。
聞こえた方に顔を向けると、クラピカは目を大きく見開いた。
その目に映ったのは、ピンクのドレスに頭にお姫様の冠をつけたソフィアの姿。
笑顔で近づいてくるソフィアに頬を赤く染めて、思わず見とれてしまうクラピカ。
『お待たせっ!!どぉ?クラピカ!似合うかな??じつはね、ソフィア今日のおしばいでお姫さま役に選ばれたの!』
「………//////」
『ホントはまだ着ちゃいけないんだけど、いちばんにクラピカに見てほしくて!』
「え、オレに…!?」
『うん!どうかな??』
いま目の前にいるソフィアの姿は、絵本から出てきた可愛いちいさなプリンセスみたいだった。
クラピカは顔を真っ赤にしながら、そっけなく言った。
「に…似合ってるぞ…////」
『ホント!?うれしいっ♡ありがとう!!さ、行こっ!!』
ソフィアは積極的にクラピカと手を繋いで歩き出した。
おい、て…手!?/////
この川原で告白しようと考えていたクラピカだったが、とてもじゃないが言える状態じゃなかった。
お祭り広場に到着し、家や木にはたくさん飾り付けがされ、出店も開かれ、クルタ族128人ほぼ全員が集まって、大賑わいだった。
友達や自分の両親に遭遇し、ソフィアといっしょに回るはずだったが、いつの間にか友達とも回るはめになってしまった。
そして、そろそろソフィアが出演するお芝居の時間。
出演の為、ソフィアはクラピカと別れた。
木材の舞台の前には、大勢の同胞達がシートに座り、クラピカは友達と自分の両親、ソフィアの両親と一緒に席を取って座った。
ソフィアになかなか言えるタイミングがないな。
今日は諦めるしかないか…。
お芝居が始まり、ソフィアが登場した。
ライトを浴びて、役になりきり、一生懸命に役を演じているソフィアの姿。
クラピカは完全に我を忘れて、無我夢中にソフィアを見つめた。
ソフィアを見ているだけで、幸せな気持ちがあふれてくる。
「…ねぇ、クラピカ。ねぇ…クラピカってば!」
隣にいるパイロに何度も呼ばれて我に返ったクラピカは、耳を傾ける。
「あ、あぁ…なんだ?」
するとパイロはクラピカの耳元に小声で呟いた。
「あの子に気持ち伝えたの?」
「…いや、まだだ」
「伝えなくていいの??」
クラピカは視線を下に向けたまま答える。
「うん…そうなんだけど…」
そう呟くと、クラピカは再びソフィアを見つめた。
なぜだろう…。
あんなに近くにいたのに、今はアイツが遠く感じる。
ソフィアのクラスメイトで王子役を演じている男の子が、役でソフィアと手を繋いだり、一緒にダンスをしている。
さすがにその光景にお芝居とはいえ、苛立ちが増してくるクラピカ。
手なんかつないで…腰に手まで回して…
オレ達はまだ子どもだぞ!?
それなのに…ブツブツ。
王子が登場するたびにクラピカは睨み付けるように劇を鑑賞した。
オレが一年遅く生まれてたら、ソフィアの王子さま役になれたのかな…。
そして…お芝居が終わり、盛大な拍手が鳴る。
舞台裏からドレスを身に着けたままのソフィアが現れた。
クラピカは迎えに行こうと立ち上がり、人混みをかきわけてソフィアの元に向かった。
ソフィア、と名前を呼ぼうとしたその時…
先程の王子役の男の子がソフィアに話しかけ、何やら楽しそうに会話をし始める。
とても嬉しそうなソフィアの笑顔。
その笑顔を見て、クラピカはその場に立ち止まった。
クラピカは胸をわしづかみされたようにぎゅうっと苦しくなった。
そっか…アイツの好きなヤツって、あの王子役の人か。
少しでもオレかもって思ってたけど、オレの勘違いか。
バカだな、オレ…
なに期待してたんだよ。
…もう、帰ろうかな。
クラピカは後ろに振り返って、足を運んだ。
その時、歩くたび耳を通り抜ける自らの足音や同胞達の足音のほかに、もう一つ、慌てるようにして後を追ってくる足音。
徐々に近づくその音がぴたりと止まったと同時に、背後から何者かが抱きついてきた。
『クラピカ、みっけ!!』
その声に、クラピカは自然と後ろに振り返ると、息切れしながらも笑顔を浮かべているソフィアの姿。
どうしてソフィアが……オレのところに…
喜び。驚き。緊張。戸惑い。
様々な想いが混ざり合い、クラピカは周囲の事が見えなくなった。
『クラピカ!ソフィアのお姫さまどうだった!?』
声を上げて必死に尋ねるソフィア。
「よ、よかったよ///」
『ホント!?ソフィアね、クラピカが見ててくれたからがんばれたんだよ!!ありがとう!!』
クラピカに抱きついたまま、花が咲いたような笑顔を浮かべるソフィア。
クラピカは頬を赤くしながら、ただソフィアの笑顔を見つめた。
『みんなはどこ?あっちにいこ!!』
ソフィアが歩き出したとき…
背後からクラピカがソフィアの腕を掴んだ。
『ん?クラピカ??』
突然腕を掴まれ、不思議そうに見つめるソフィア。
クラピカは強くソフィアの腕を掴んだまま、うつむいて立ち止まっていた。
「オレは…」
伝えるんだ。
もう二人きりのときだとか、関係ない。
たとえ、ほかのヤツが好きでも関係ない。
オレは…
クラピカは顔を上げて、ソフィアを真っ直ぐに見つめた。
「…オレは……お前が好きだ!!」
ソフィアは大きく目を見開いた。
クラピカは必死な目でソフィアの返事を待つ。
行き惑う人(同胞)がちらちらと二人を見ている。
沈黙がつづき、ソフィアが口を開いた。
『ソフィアは…』
その時…
「ソフィアちゃ~ん!!」
ソフィアの友達がソフィアの元に駆けつけてきた。
クラピカはソフィアの腕を離す。
「ソフィアちゃん!!お姫さまとってもよかったよ!!」
『ありがとう!!』
友達と楽しそうに話しているソフィアの姿を見て、クラピカは伝えたことに満足したのか、その場を後にした。
『あのね、みんなにも紹介したい人がいるの!!』
ソフィアが後ろに振り向いた時、後ろにいたはずのクラピカの姿はどこにもいなかった。
翌日。
村の祭りの片づけを手伝っていたクラピカ。
何度かソフィアと遭遇するが、目が合うとお互い恥ずかしそうに目を逸らす。
ソフィアはクラピカを意識しているせいか、クラピカから話しかけにいってもソフィアは避けるようにして直ぐに逃げ出してしまう。
クラピカは気持ちを正直に伝えたことに、ひどく後悔した。
嫌われたかな…。
その日の夕方、川原に向かってもソフィアの姿は見当たらない。
もう二度と来ないような気さえしていた。
手に持っているウサギのペンダントを見つめる。
こんなの買って、オレは本当にバカだな…。
帰ったら捨てよう。
しばらくして、日が暮れ始めてきた頃。
草むらに座っていたクラピカは立ち上がり、自宅へと歩き始めた。
すると…
『バァ!!』
ビクッ!!
突然、大声と共に木の後ろから姿を現したソフィアの姿。
「…なんだよ!突然ビックリさせるんじゃない!!」
正直驚いたクラピカは、胸を撫で下ろした。
『えへっ!ごめんね!』
ソフィアがここに来てくれた。
今まで通りソフィアが笑ってくれている。
その奇跡が嬉しくて、クラピカの顔から小さな笑みがこぼれた。
『あのね、クラピカにお願いがあるの!』
「お願い?」
クラピカは疑問を浮かべてソフィアを見つめる。
ソフィアは笑みを浮かべたまま頷いた。
『クラピカにね、まだ誕生日プレゼントもらってないでしょ?』
「あぁ…」
『それでね、欲しいものがあるの!』
欲しいもの?
なにが欲しいのか、全く想像がつかずクラピカはただソフィアの先の言葉を待つ。
ソフィアは照れながらも優しく微笑んだ。
『クラピカが持ってるウサギのペンダント、ソフィアにくれないかな?』
その言葉に、クラピカははっとした。
次第にクラピカは嬉しそうに笑みを浮かべると、ソフィアに近づき、手に持っていたウサギのペンダントを渡す。
その時に触れ合うお互いの手と手の体温はとてもあたたかい。
『これで両思いだねっ///』
え、ソフィアも知ってたのか…///
「…あぁ///」
うれしすぎて…
恥ずかしすぎて死にそうだ。
でも胸の奥から、優しい気持ちがあふれてくる。
ふたりは互いの顔の揺れる瞳で見つめ合い、嬉しそうに笑った。
『ねーねー!大きくなったら何になりたい??』
「そうだな…ソフィアは何になりたい? 」
『ソフィアはねーお嫁さんになりたい!!大きくなったらソフィアをお嫁さんにしてくれる?』
「お…お嫁って!ソフィアはお嫁さんの意味分かってるのか?」
『うん!知ってるよ!パパとママみたいになるんでしょ?』
ソフィアは満面の笑みで答える。
「そうだが…まだ早くないか?」
『いいの~っ!ねーゆびきりげんまん!!』
ソフィアは元気よく少年に右手の小指を差し出す。
少年は恥ずかしそうにソフィアから眼を背けた。
ソフィアは寂しそうに見つめる。
『ソフィアじゃダメ? 』
「…ダメなわけないだろ」
『じゃあ約束ねっ!!』
少年は照れくさそうに左手の小指をソフィア のと絡めた。
『「ゆーびきりげんまん♪嘘ついたらー‥
END