番外編
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眩しい黄色の太陽が雲からときどき顔を覗かせる。
温度を下げた風が髪を通り抜ける夏の夕方のことだった。
オレはクラピカ、11歳。
仲良しで気の合う友だち、パイロが出来て、楽しい毎日を過ごしていた。
パイロ以外にも友だちはたくさんいた。
最近、友だちに好きな人が出来たらしい。
好きな人とは、つまり恋をしてるということか。
恋って…何?そんなの知らない。
友だちや母さんにも「クラピカの好きな人はー?」ってよく聞かれるけど、正直興味がない。
恋なんてものよりも、外の世界に興味がある。
最近パイロと読んだ本には、オレの知らない世界の事がたくさん書かれていた。
例えば…広くて青い海。
海は川とは違う塩水でしょっぱいらしい。
本当にしょっぱいのか一度なめてみたい。
それから、広くて暑い砂漠。
本当に砂だけの大地なのか一度歩いてみたい。
それに他には、空に浮かぶオーロラ。
街の夜景、花畑。
ぜったい外の世界は素晴らしいものばかりだ。
「いいなぁ…いつかぜったい外の世界を旅するぞ!」
どうしてオレ達一族だけずっと村にいるんだ?
せっかくこの世界に生まれて来たんだ。
自由に生きないと損だよな。
クラピカは草の上にだらしなく寝転がった。
今クラピカのいる場所は、自宅から少し離れた川原。
さらさらと透き通った水が穏やかに流れているこの場所は、生い茂った雑草に紛れてところどころに小さな花が遠慮がちに顔を出している。
ときおり淡く彩られた小さい花が甘い香りをふんわりと放って穏やかな風にゆらゆらと揺れていた。
この川原は初めて見た時から、オレの秘密基地だ。
この場所を見つけたことを、パイロにも、クラスメイト(10人)にも、家族にも教えなかった。
誰にも教えたくなかった。
そもそも教えるのがもったいない。
もしこの場所にオレ以外の誰かを連れてくるなら、オレにとって大切な人になる誰か。
そうだな、例えば将来のお嫁さんにする人。
ケンカをするときはこの場所で。
仲直りするときもこの場所で。
この川原を、二人だけが知っている特別な場所にしたいな。
将来のお嫁さん…ってどんな人だろう?
まだ好きな人もいないしな。
「…分かんないや」
そのとき…
『なにがわかんないの?』
突然降ってきた声に、オレは固まった。
高い、女の子の声だ。
少女が、不思議そうな顔をしてクラピカを見下ろしている。
可愛い女の子だ。
年は、オレと同じか少し下か。
『なにしてるの?』
首を傾けて質問してくる女の子に、クラピカは慌てて起き上がった。
女の子はピンク色のクルタの衣装で、クラピカを見つめている。
「君こそここでなにしてるんだ?」
すると、女の子は楽しそうに笑った。
『だってここはソフィアのひみつきちだもんっ。あ、でもキミがいたからひみつきちじゃなくなっちゃった!』
なるほど、この子もオレと同じことを。
納得する反面、面白くない。
ここはオレの大事な場所だったのに。
『外の世界、旅したいの?』
聞かれてたのか…(汗)
「うん、そう」
『なんで??』
「え、なんでって…」
『外はあぶないんだよ!村から出たらいけないってパパがいってた!』
ムカ。
「みんな外の良さを知らないからだよ。確かにあぶないかもしれないが君には関係ないだろ」
みんな知らないからだ。
臆病だからだ。
オレはぜったいにこの目で見るんだ。
外の世界を。
パイロの目を治してくれる医者を見つけて、いつか二人で冒険するんだ。
女の子は目を丸くした。
それから、声に出して笑う。
『初めてみた!村から出たいって人ー!!』
クラピカは、驚いて女の子を見つめた。
女の子は満足するほど笑ってから、目ににじんだ涙をぬぐって微笑んだ。
『キミ、おもしろいねっ‼名前、なんて言うの??』
なにが面白かったのか分からない。
まったく、なんなんだこの子は。
「…クラピカ」
『クラピカねっ!わたしはソフィアっていうの!よろしくっ』
「うん。あのさ…ここオレの場所なんだけど」
『え、ソフィアの場所だもん!!』
「じゃあ、いつから見つけた?」
『今日!』
…は?今日!?
「オレはずっと前からここ知ってたんだ」
『ふ~ん、そうなんだ。じゃあ仕方ないなぁ~』
意外にも素直に聞いてくれた。
よかった、これで今まで通りオレの場所に…
『ソフィアはやさしいから、今日から二人のひみつきちねっ‼』
「え!?」
『きーまーりっ♡ソフィア、ママが心配しちゃうからそろそろかえらないと!クラピカじゃあねー!!』
ソフィアは笑顔で手を振りながら元気に走って行った。
おい、なんだよ…
オレの秘密基地だったのに。
クラピカはため息をつくと、また草の上に寝転がった。
そして小声でぽつりと呟いた。
ソフィア…か。
翌日。
あの川原に向かうと、ソフィアがいた。
次の日も次の日も、ソフィアはいた。
会うたびに一緒にお人形さんごっこやウサギのぬいぐるみを使ったおままごとをやらされる。
そんな女の子の遊びなんてオレには興味ない。
一人でゆっくりできないし、来るのはもうやめようか考えた。
なのに、ここに来てしまう。
いったいなんでだ?
『ねぇ、クラピカ!』
「ん?」
突然名前を呼ばれて振り返ったとき、クラピカは目を丸くした。
ソフィアは両手を使って思いっきり変顔している。
クラピカは可笑しくなり、そんなソフィアがなぜか可愛くて、笑いながらいじわるした。
「なんだよそれ!ブス!」
思ってることと違う言葉が出てしまう。
クラピカの言葉にソフィアは変顔をやめて怒り出す。
『なんて言った?ブスー!?』
「だってブスじゃないか!」
頬を大きく膨らませ、怖い顔でクラピカに詰め寄るソフィア。
『ソフィアはクルタ村でいちばんかわいいっていわれたんだよ!?』
クラピカは逃げながら更にからかう。
「そうゆうのをお世辞って言うんだよ!」
『ひっど~い!!』
気がつけば鬼ごっこ状態だ。
ソフィアは追いかける足を止めて、悲しい目でクラピカを見つめた。
「クラピカのクラスにはかわいい女の子いっぱいいるの??」
「え?」
聞かれてみれば、いないな。
確かにソフィアが一番かもしれない。
だけどそんなこと、死んでも言えない。
「いや、そ…そんなでもないぞ?///」
しどろもどろで言ったクラピカに、ソフィアは怪しそうにクラピカを見つめる。
『ふ~ん…』
ソフィアはぷいっとそっぽを向いて歩いていった。
その日の夜、両親と夕食を食べているクラピカはソフィアと出会ってから気になっていたことを母に尋ねた。
「母さん、女の子ってなんでピンクが好きなのかな?」
母は驚いた顔でクラピカを見つめた。
息子から初めての異性の質問。
11歳にして、やっと異性に興味を示したのか。
「そんなこと聞かれても…女の子だから可愛い色が好きなのよ」
「じゃあ、スポーツはうまい方がいいよね?」
なぜそんなことを??
怪しい…怪しすぎる。
「急にどうしたの?クラピカ」
不思議そうに見つめる母にクラピカは、頬を赤くしてやっぱりなんでもないと最後のおかずを口に運ぶ。
質問の意味が分かった父は、クラピカを見て微笑んだ。
「クラピカ、気になる女の子でもいるのか?」
クラピカは手を止めると、慌てて否定した。
「い、いないよ!!////」
「やっぱりね!!恥ずかしがらなくてもいいの!人を好きになるってことは素敵なことよ。で、名前なんて言うの?」
「ヒ、ヒミツだよっ///ごちそうさま!!」
クラピカは慌てて手を合わせると、食べ終わった食器を台所に運び、そのまま走って自分の部屋に向かった。
「まったくも~顔真っ赤にしながら逃げちゃって。素直じゃないんだから」
「…初恋か」
父は微笑みながら呟いた。
その言葉に、母は少し寂しそうに笑った。
「もうクラピカも立派な男の子になってきちゃったか。相手はどんな子かしら?」
「気になるが聞かない方がいいかもな。そっと見守っててやろう」
「え~気になる~!面白そうだから時間をかけて調査してみるわっ」
あれからしばらくたち、母はこっそりクラピカの部屋に向かった。
静かにドアを開けると、ベッドで幸せそうに眠っているクラピカの姿。
部屋に入り、母はそっと掛布団を綺麗にかけ直す。
愛しい我が子の寝顔を見つめて、優しく髪を撫でた。
眠るクラピカの顔に、産まれた時の無邪気な瞳が重なる。
本当に、小さな手だったな…
軽く寝返りを打ち、クラピカは微笑みを浮かべる。
「……」
その夢の中でいったい誰と遊んでいるのかしら。
う~ん、気になる。
母は疑問を抱きながら静かに部屋を出た。
翌日。学校が終わるとクラピカはいつもの川原に向かった。
しかし、ソフィアの姿がない。
今日は来てないのか…
って、なに落ち込んでんだオレ。
ソフィアがいない方がゆっくりできるだろ?
べつにアイツがいなくたって平気だし。
クラピカは草の上に座る。
川の流れる音と風によって揺れる木々の音が鳴り響いた。
今日は来ないのかな…。
心のどこかでソフィアが来ることを期待しているクラピカ。
だが、一向に待ってもソフィアが訪れる気配はなく、クラピカは肩を落として自宅に向かった。
アイツ、今ごろ何してるんだろう。
それに、アイツは村のどこに住んでるんだ?
好きな食べ物は何だ、好きな物や好きな季節は何だろう。
好きな人とか…いるのか?
…って、またなんで、アイツのことばかり!!///
クラピカは無我夢中で走って家に向かった。
気持ちよく晴れていた空は、だんだんと厚く黒い雲に覆われていく。
風も強くなり、木々が大きく揺れ始める。
家に到着し、しばらく経った後。
クラピカは、リビングのソファーで本を読みながらおやつを食べてくつろいでいた。
「雨降りそうね…クラピカー?ごめん、洗濯物入れるの手伝って!」
バタバタと慌てている母にため息をつきながらも、クラピカは洗濯物を取り込むのを手伝った。
洗濯物を全て取り込み、何とかひと段落。
その時…
コンコン。
「あら?誰かしら?」
突然のロックの音に母は玄関のドアを開けた。
ドアの前には茶髪のロングヘアーに20代後半だと思われる女性の姿。
初対面だがどこかで見覚えのあるその顔にクラピカはじっと女性を見つめた。
女性は眉を寄せて、どこか慌てている様子で母に尋ねる。
「あの、突然すみません。実は娘を探してるんですけど、10歳ぐらいの茶色い髪の女の子見ませんでしたか?」
クラピカは目を見開いた。
10歳ぐらいの茶色の髪の女の子…まさか。
「いえ、見てませんけど…」
母の言葉に女性は、明らかに落胆の色を見せた。
「そうですか、どこいったのかしら…」
「天気も悪いですし、心配ですね。私も一緒に探します」
「本当ですか!?助かります!ありがとうございます!」
女性は申し訳なさそうな顔で笑顔を浮かべる。
母は振り返り、クラピカに言った。
「クラピカは家でお留守番しててね」
しかしクラピカは母の言葉を無視し、女性に問いかける。
「その女の子の名前は!?」
真剣な表情で尋ねてくる子どもに女性は目を見開くが、答えた。
「ソフィアって言うの」
不意にクラピカは、はっと息を呑んだ。
「ーーーもしかして…!」
茫然とつぶやくと、クラピカははじかれたように家を飛び出した。
「ちょっ、クラピカ‼」
母の呼ぶ声を無視し、クラピカは川原に全力で向かってゆく。
ここからあの川原までは、それほど距離はない。
しかし、雨が降り始める。
駆けていくクラピカに、仕事帰りに通りかかった父が慌てて声をかける。
「クラピカ!どうしたんだ、そんなに息を切らせて」
クラピカは破裂しそうな肺をなんとかなだめながら、切れ切れに言った。
「とも…だちが、たぶん川原にいるんだ…!」
「川原?いま川原に行ったら危険だ。父さんも一緒に…」
ピシャーン!!
近くで大きい雷が落ちた。
そして、激しい雨が降り始める。
「ソフィア…!」
クラピカは急いで駆け出した。
「おい、待ちなさい!クラピカ!」
無我夢中で川原に向かい、ソフィアを探すクラピカ。
激しい雨に叩き付けられ、周囲がよく見えない。
川原のあの場所に到着したが、川は茶色に濁って増水しており、ソフィアの姿は見当たらない。
もしこの川に落ちてしまったら、まず命は助からないだろう。
周囲を見回すと、遠くの木の下に誰かがいる。
近づくと、少女が木の根元で小さくうずくまり、抱えた膝に顔を押し付け、耳をふさいで身を硬くしている。
クラピカはソフィアの元に近寄った。
しかし、ソフィアはクラピカの存在に気づいていない。
ただひたすら雷の音にがたがたと震えて、時間が経つのを待っている。
ソフィアの横に片膝をついたクラピカは、ソフィアの肩を掴んだ。
ソフィアはビクッと肩を大きく震わせ、顔を上げるとくしゃくしゃな泣き顔でクラピカを見た。
「もう大丈夫だ、心配したぞ」
『クラピカ…』
ソフィアは安心したのか再び泣き出した。
握り締めた手を目元に覆って泣きわめくソフィアに、クラピカは少女の頭を撫でた。
「泣くな、ソフィア。こわがるな」
クラピカは繰り返し撫でながら言い続ける。
「ソフィア、大丈夫だ。オレがいる、こわくないよ。
独りなんかじゃないから、泣かなくていいんだ。雨がやんだらいっしょに帰ろう」
『…かえる…?』
クラピカは頷いた。
「そうだ、お前の母さんが心配してた」
クラピカをじっと見ていたソフィアは、ふと顔を背けてうつむいた。
『いやだ…かえりたくない』
「なんで?」
だって…、とソフィアは弱弱しく言った。
『パパとママ、ずっとケンカしてたんだもん…どうして大人は仲直りできないんだろ…好きでいっしょになったんじゃないの??ソフィアにはわかんないよ…パパとママにはずっと仲良しでいてほしいのに…』
「もしかして、それで家出したのか?」
小さく頷くソフィア。
クラピカは首を傾けて、ソフィアを見つめながら答えた。
「オレの父さんと母さんも、ケンカしたりするよ。なんでケンカするのかオレにもわからないけど、きっと大人になったらわかるんだと思う。
つらくて家にいたくないのはわかるけど、家出をして親に心配をかけるのはぜったいよくないことだ。
それにこの嵐の中、オレがずっと見つけなかったらなにがあったかわからないぞ?
あぶないから、もう家出はしないってオレと約束できるか?」
ソフィアはしょんぼりとうつむいて、頷いた。
「とにかく雨がやんだら帰るからな」
その時…
ピシャーン!!!!!
『きゃあぁ!!』
大きな落雷の音に、ソフィアは悲鳴を上げた。
クラピカはソフィアをとっさに抱き締めた。
ソフィアはおびえたようにして、クラピカにしがみつく。
「大丈夫だ、オレがそばにいるから」
しばらく経って雨が止んだ頃、厚い雲から黄空が顔を覗かせた。
泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまったソフィアは、クラピカの膝を枕代わりにしていた。
「ソフィア…おい、起きろ」
肩を揺さぶられ、ソフィアはゆっくり目を開けて起き上がった。
『……やんだ…?』
「あぁ、大丈夫か?」
クラピカははっとした。
今、ソフィアの顔がとても近い。
そういえばオレ、ソフィアのこと抱きしめたんだっけ…?
おい、オレ女子に何してんだよ!!
ヤバイ…こいつの顔見られない////
クラピカはソフィアから顔を背けた。
ソフィアの手は、相変わらずクラピカの服を掴んでいる。
…まだ怖いのか?
クラピカはソフィアと目を合わせないまま、安心させるように笑って言った。
「もう大丈夫だ!さっきのはにわか雨だから心配いらない。だから安心しろ…、…!?」
不意にソフィアは、クラピカの顔を両手で包んで自分の顔に向けさせた。
『…クラピカ、助けに来てくれてどうもありがとう///』
ソフィアは花が咲いたような笑顔を浮かべた。
それを見た途端、クラピカの心臓がきゅうに跳ね上がった。
バクバクと心臓の鼓動の音が走り始め、顔が熱くなっていく。
わけもなく固まってしまったクラピカに、ソフィアはつづける。
『ソフィアね、クラピカがずっと頭なでてくれたり、ハグしてくれて…すごくうれしかったよ//』
ドクンッ。
『だってね、クラピカととっても仲よしになれた気がしたから』
「わ、わかったから…はなせよ////」
顔を真っ赤にしているクラピカに、ソフィアははっと手を離した。
クラピカは立ち上がり、「行くぞ!///」とソフィアの顔を見ずに歩き出す。
『あ、まってよクラピカ‼』
ソフィアはクラピカの背中を慌てて追いかけた。
とりあえずクラピカの家に帰っていたクラピカとソフィア。
そこに、ソフィアの両親、クラピカの両親が血相を変えて駆けつけてきた。
「ソフィア!!」
「クラピカ‼」
凄まじい雷と大雨の非常事態。
さらに、クラピカがわき見も振らずにまっすぐソフィアの元に駆けつけた。
いったい何処に行たのか、ソフィアの両親にしてみたら気が気でない。
クラピカの両親にしてもそれは同様で、クラピカに詰め寄って問いただした。
「クラピカ、いったい何処にいたの!?」
「えっと、それは…」
その時、隣ではソフィアの母親がしゃがんでソフィアの肩を掴み、涙を浮かべながら声を張り上げる。
「ソフィア!!どれだけ心配したと思ってんの!?」
『……ごめんなさい』
顔をくしゃくしゃにして、ソフィアは涙をこぼす。
そんなソフィアをかばうようにして、クラピカは口を開いた。
「ソフィアは、オレ達が最近見つけた川原の近くにいました。さっき、ずっと泣いてました。
両親がケンカしているのはイヤだって、仲よしでいてほしいって、そう言ってました。こんなに家族想いな子、なかなかいないと思います!」
クラピカの言葉に不安なような恥ずかしいような気持ちになったソフィアは、思わず下を向いた。
しかし、ソフィアは勇気を出して顔を上げた。
『ママ、パパ…ほんとうにごめんなさい。もうぜったい家出はしないから、だから仲直りして!』
真摯な瞳で見つめる娘に、母は優しい笑みを浮かべて頷いた。
「もう仲直りしたから、大丈夫よ。ごめんね、ソフィア…」
傍にいた父はソフィアに近づき、しゃがんでソフィアの頭を優しく撫でた。
「ソフィアは十分いい子だよ。ごめんなソフィア…これからはママと仲良くするからな」
母と父は大事にソフィアを抱き締めた。
それを見ていたクラピカは、安心な笑みを浮かべた。
『パパ、ママ、あのねクラピカがずっとソフィアのそばにいてくれたから、こわくなかったの!』
両親に抱き締められて落ち着いたのか、ソフィアは穏やかに笑う。
『クラピカが見つけてくれたからね、ソフィアここにかえってこられたの!』
「そうだったの?」
ソフィアの母に問われて、クラピカはとりあえず頷く。
母はクラピカの手をぎゅっと掴んだ。
「娘を助けてくれて、本当にありがとう」
「い、いえ。オレは別に…」
そして、ソフィアの両親はクラピカの両親にお詫びのお礼を言った。
その時、クラピカはソフィアに視線を向けると互いに目が合った。
目が合っただけで、顔が赤くなり、慌てて目を逸らしてしまうクラピカ。
そんな息子を見たクラピカの母は、おもしろそうに笑った。
そっか、この子が初恋相手ね。
まったく、照れちゃって♡
かわいいっ。
疑問が解消し、母は息子を見つめて目許を和ませる。
クラピカの初恋が始まった夏は、夕立によって空に色鮮やかな虹が顔を出していた。
『虹だぁっ!!』
嬉しそうに声を上げるソフィアに、クラピカはその虹を見上げた。
今まで見てきた虹の中で、一番キレイな虹だ。
でも、となりで笑顔を浮かべて虹を見上げるソフィアの方がキレイに見える。
だけど、そんなことを言える勇気がまだなかったクラピカは、心の中で少女に伝えたのだった…
next…〚後編へ〛