オリジナル編〚完〛
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ーーー結婚式から5年後。
「ママー!クルマかってよ~!!」
「くれあはおにんぎょうがほしい」
おもちゃ屋の前で買って買ってと駄々をこねる息子アレン(5才)と娘クレア(3才)が二人。
そんな二人に呆れた様子のソフィア。
『ダメって言ったでしょ?いっぱい持ってるじゃない!そんなに欲しかったら将来自分で稼ぎなさい』
「まだかせげないもん!!ママおかねかしてよ~!!」
わがままなアレンにクラピカが眉間にしわを寄せて告げる。
「子どものくせに借金の申し出か?信用もない保証人もいないのに貸せるわけがあるまい」
「うわ~ん!!おじいちゃんにいいつけてやる~!!」
泣きわめくアレンとクレア。
『はいはい、もうほらっ行くわよ!』
ソフィアはクレアを抱き上げ、クラピカはアレンを抱き上げて無理やり連れて行く。
ソフィア達が向かった場所は自宅からさほど遠くないラディウス(師匠)の家だった。
家に到着し、アレンとクレアは走ってラディウスの家の中に入って行く。
「「おじいちゃんっ!!」」
ラディウスの姿を見つけると二人は抱きついた。
「フォフォフォッ。よく来たなぁ、元気じゃったか?」
満面の笑みを浮かべるラディウス。
『師匠、今日はありがとう!』
「ご迷惑おかけします」
軽く頭を下げるソフィアとクラピカにラディウスは優しい笑顔を浮かべて答える。
「いいんじゃよ。今日はお前さん達の結婚記念日じゃからな。一日ぐらい二人の時間を楽しみなさい」
『う~師匠…(涙)』
相変わらず優しいラディウスに感動してしまうソフィア。
「ありがとうございます。明日の朝には必ず迎えに来ますので」
クラピカの言葉に笑顔で頷くと子どもたちに手を引かれるラディウス。
「ねェ、おじいちゃん!!あそぼっ!!」
「おじいちゃん!くれあとおにんぎょうさんごっこしよう♪」
「おい!オレがおじいちゃんとあそぶんだ!!クレアはあっちいってろよ!!」
アレンはクレアの胸を押してしまい、クレアは後ろにしりもちをつく。
突き飛ばされてしまったクレアはその場で泣きわめく。
「わぁぁぁああああああん!!」
「おい、アレン!手を出したら駄目だとあれ程言っているだろ!!」
クラピカはアレンに向かって激しい口調で怒鳴った。
大泣きしているクレアを抱き上げて背中をトントンと叩くソフィア。
『よしよし、ほら泣かないの~!こらアレン!!クレアと仲良くしなかったらこれから何もおもちゃ買ってあげないからね!!』
母親にも怒鳴られ、アレンの目にもじわじわと涙が溜まっていく。
そして…
「ヤダヤダ~!!うわぁあああ~ん!!」
アレンも泣きわめく。
ラディウスは慌ててアレンをなぐさめる。
「大丈夫じゃぞ、アレン。わしがアレンの欲しいものいつでも買ってあげるからな」
『師匠!!甘やかさないで!!』
ガーーーン。
良い事をしようとしたはずがソフィアに怒られてしまい、落ち込んでしまったラディウス。
泣きわめくアレンを見て一息つくと、クラピカはアレンの元に近づき片膝をついて優しく話しかける。
「アレン、今日お前はクレアとラディウスさんの家で泊まらせてもらうんだ。パパとママはお家に帰るからお兄ちゃんとしてラディウスさんを困らせてはいけない。パパとママが迎えに来るまでアレンと仲良く、良い子にすると約束できるか?」
アレンは泣き止み、涙を浮かべたまま黙って頷いた。
クラピカは目許を和ませて笑うと、アレンの頭を撫でる。
「偉いぞ、さすが私の息子だな。クレアのお兄ちゃんなのだからしっかりクレアの面倒を頼んだぞ?」
「うん…わかったよパパ」
涙を裾でごしごし拭いて、アレンは笑顔を浮かべた。
さすがクラピカ…!
ソフィアは内心クラピカに感嘆した。
こうして無事にアレンとクレアをラディウスに預けたソフィア達は途中スーパーに寄り、今日のごちそうを作るための必要な材料を買った。
今日は結婚記念日。
ソフィアとクラピカは結婚5周年を迎えた。
特別な日なのでクラピカも今日の仕事(ハンター教会)はお休み。
日頃子ども達もいるので二人きりで過ごすのなんてどれくらい久しぶりだろう。
ソフィアとクラピカは、二人きりの時間を大切にするため、家でのんびりと夕飯を楽しみながら過ごす事にしたのだった。
一通りの夕飯の材料は買い、真っ直ぐに自宅へと向かった。
車を降り、トランクからついさっきスーパーで買ったばかりの材料を取り出す。
両手で袋を持ち上げようとすると、クラピカはその袋を強引にソフィアの手から奪い取った。
「いつも言っているだろう、私が持つ」
さりげない優しさ…見返りを求めない自然な優しさがたまらなく嬉しい。
部屋に入って早速、まだ夕食の時間にしては早いが、時間がかかるという可能性も考えて、エプロンをつけるが、中々後ろのひもが結べない。
「私が結んでやる、貸してみろ」
クラピカは優しくそう言うとソフィアの後ろに回り、エプロンの紐を結んだ。
「今日は何を作ってくれるんだ?」
『えっとね、ステーキでしょっ!あとエビ入りシーザーサラダとお祝いのケーキと…お寿司☆』
「そんなに沢山…寿司も作れるのか?」
『うん!師匠の得意料理でしっかり教わってきたから!』
「そうか、楽しみだな。だがいつも以上に手間をかけさせてしまうな」
申し訳なさそうな顔をするクラピカにソフィアは笑顔で言った。
『だってせっかくの記念日だし、美味しいのいっぱい食べてもらいたいからっ!』
その言葉にクラピカは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとう。何か手伝う事はあるか?」
『大丈夫!』
「…なら食べ終わったら、私が後片付けしよう」
『え、ホントに!?』
ソフィアは目を見開きクラピカを見つめた。
「あぁ、ソフィアはゆっくりしてくれ。それぐらいしなければ気が済まないからな」
『すごい助かるよ!ありがとうクラピカ』
相変わらずクラピカは優しいなぁ…。
クラピカみたいな理想な旦那さんと結婚できて、本当に幸せっ♡
ソフィアは嬉しそうに笑みを浮かべながら野菜を洗い切り始めると、隣にいるクラピカがその様子を見ながら口を開く。
「ソフィアの手料理を食べられるのは、子ども達以外私だけだな。私は幸せ者だ」
え…………?
ソフィアが顔を上げてクラピカを見ると、ばっちりと目が合った。
「ソフィアも幸せか?」
答えは聞かれなくても決まっていた。
『え、わたしも…し…』
そのとき、最後まで言い終わる前にクラピカは突然ソフィアの唇にキスを落とした。
温かくて、ちょっぴり強引なキス。
思いがけない突然のキスに、ソフィアの胸の鼓動が速度を増してゆく。
唇がゆっくりと離され、互いに目が合うと、ソフィアは恥ずかしそうに顔を横に逸らした。
『もうっ、料理に集中できないから…あ、あっち行ってて////』
「…はい」
ソフィアの頭に軽くポンッと手を乗せると、クラピカはリビングに向かった。
……もう、不意打ちだよ////
さてとっ!!、集中!集中!
ソフィアは料理を次々に完成させていく。
寿司は固めだけど食べれるし、ステーキも味付けが薄いところを除くと中々の焼き加減。
残るはサラダとケーキ。
「…痛ぁっ……」
普段包丁で指を切ることはないのに、野菜を切っていた時、今日に限って指を切ってしまった。
知られることを恐れて、クラピカに声が聞こえてないことを確認すると、ソフィアは何事もなかったかのように血を水で洗い流し、料理を再開させた。
切った野菜をお皿に盛りつけていると、何やら視線を感じる。
その方向に目を向けると、クラピカが覗いてじっとソフィアを見つめていた。
『なに??』
「いや、何でもない。続けてくれ」
続けろって言われても…そんなにじっと見つめられたら料理に集中できないよ~っ///
何も言わずにただソフィア見つめるクラピカ。
見てる~っ///
なんか恥ずかしい。
沈黙がつづき、やがてクラピカが口を開いた。
「…ソフィアの手料理も勿論好きなんだが、ソフィアの料理している姿も愛おしく感じるな」
『え…?///』
クラピカはソフィアの元に近づき、そして後ろから優しくソフィアを抱き締める。
「ソフィアと一緒に居られて、幸せだと改めて思う。これからもずっと一緒に居て欲しい」
『うん…ど、どうしたの?///急に…』
この緊張感、久しぶり。
ドキドキがバレちゃうよ…///
しかし、クラピカはソフィアを離そうとしない。
「久々に二人きりだから伝えたかったんだ…もうすぐ出来るか?」
『あ、うん。あとサラダとケーキだけだから』
「分かった。出来たら教えてくれ」
優しく呟くと、クラピカはその場から離れていった。
残るはメインのあれを完成させるだけ。
どの料理よりも手ごわいあれを。
本の手順通りに作った生地を容器に流し込み、予熱したオーブンに入れる。
その間に生クリームを泡立て、生地が焼けて冷めたところでクリームを塗る。
そこに真っ赤なイチゴをのせ…ようやくケーキは完成させた。
上手くできたぁ♡
完成した料理とともにお皿にのせたケーキをリビングへと運んだ。
しかしクラピカの姿がない。
あれ??どこに行ったんだろ。
飲み物やフォークなど、すべてを運び終えるとちょうど、クラピカが外から帰って来た。
「完成したのか?お~とても美味しそうだな。ソフィア、レオリオから手紙が来ていた」
『え!レオリオから!?読みたい!!』
「後でな。食べよう、……」
クラピカはソフィアの顔を見て優しく微笑んでいる。
『……ん??どうして笑ってるの!?』
「唇の横に生クリームをつけて。本当に母親になっても子どもみたいだな」
『え??』
ソフィアは慌てて服で拭こうとした。
すると、拭こうとした腕を強く掴まれる。
「汚れるだろ。…動くな」
言い終えたクラピカはソフィアの唇の横についた生クリームを舌でペロッとなめて取った。
「ティッシュ代わりだ」
一瞬の出来事に顔が赤く…熱くほてってゆく。
『もうっ//恥ずかしいでしょっ!///』
又もやときめいてしまったソフィアは、恥ずかしいのと悔しいのとでクラピカの胸を叩く。
「すまない、さぁ食べようか」
クラピカは椅子に腰を下ろし、ソフィアも椅子に腰を下ろす。
いただきますと手を合わせ、料理に手をつけていく。
すべての料理を美味しいと言って食べ尽したクラピカは、お箸を置いて満足げな顔をした。
「ご馳走様、本当に美味かった。ありがとう」
『どういたしましてっ』
ここまで喜んでもらえると心から作ってよかったと思える。
お腹もいっぱいになったところで、クラピカは後片づけを終えてソファーに座り、二人でレオリオから送られてきた手紙を読んだ。
【Dear クラピカ、ソフィア
よお!!お二人さん元気か!?オレだ、レオリオだ~!!
アレンとクレアも元気か?突然の手紙で驚いただろ~!?今日はお前らの5周年結婚記念日だからな!!
オレ様の事だからな、ゴンとキルアと違ってちゃーんと覚えててやったぜ!!だからお祝いのメッセージをだなァ、この手紙に書きこんでやったってわけだ!!なァ?嬉しいだろ!?まあそんな照れんなって!!】
「…手紙でも相変わらずだな」
『そうだね…』
二人は半分呆れながらも読み進めていく。
【とりあえず、結婚5周年おめでとう!!これからもオレとサラのようにいつまでも仲良くな!!まぁ、心配しなくてもお前らなら大丈夫だとは思うがな!
実はこないだゴンとキルアに会ったぜ?二人共、もう21だから立派な大人になっちまってよ~、
キルアは彼女が出来たらしいぜ?まぁどんな彼女かは知らねーけどな!!きっとアイツは女子からモテモテだなッ、羨ましいこった。
ゴンの性格はあのまんまだ!やっと父親と再会できたらしく、一緒にハンターとして旅をするんだとよ!ホントにすげぇよな!!
今度またお前らのとこにも会いに行くって言ってたぜ!!
でよ、ちょっと報告なんだけどよ、聞いて驚くなよ!?実は…4人目またまたデキちゃったァ~!!】
「『え!?』」
思わず声を上げたとき、スルッと手紙の間から写真が床に落ちた。
ソフィアが拾い、その写真を見るとそこには妊娠中だと分かるお腹が大きいサラ、父親と医者として更に貫禄が出てきたレオリオ、やんちゃで元気な子ども(女、女、男)三人の集合写真。
クラピカとソフィアは唖然とした。
もう4人目かぁ…。
凄いなぁ…サラさん。
女としてすごく尊敬してしまうソフィア。
【ってことだ!!また産まれたら連絡するぜ!!お前らも3人目できたら絶対知らせろよ!?
今度、集まれたらまたみんなで集まろうな!!んじゃあな!!fromレオリオ】
手紙を読み終え、二人は懐かしくなった。
『みんな元気そうでよかったね、また会いたいなぁ…』
「会えるさ、ずっと私達の仲間だからな」
笑顔で話すクラピカに、ソフィアも負けないくらいの笑顔で答えた。
『そうだねっ!!』
二人はハンター試験の事、ヨークシンでの事、結婚式の事、アレンとクレアが産まれた時の事…
これまでの様々な日々を思い返し、お互いの想いを語り合った。
思えば結婚してから、本気で笑う事が多くなったような気がする。
お互い蜘蛛の事も色々あった。
クラピカが家族の為に、蜘蛛とは手を引くと決めた事も。
クラピカの方が辛いことをたくさん抱えて生きてきたのに、ずっと笑顔を絶やすことなく支えてきてくれたね。
クラピカには本当に数えきれないほど、感謝しています。
本当に、ありがとう。
クラピカの目線がどこかに映った。
辿ってみると行き着いた先はソフィアの左手だ。
あ、そうだ。さっき料理の途中、包丁で左手の指を切ってしまったんだ。
左手をさりげなく後ろへ隠そうとしたが、クラピカは強引にソフィアの左手を掴み、自分の顔の前へと持って行った。
『あの、これは…さっきドアに挟まっちゃって…えへ』
こんな下手な言い訳にクラピカが騙されるはずがないと分かっていながらも、とりあえず言うだけ言ってみる。
「大丈夫か?絆創膏は?」
クラピカはその場を離れると、救急箱を探し始める。
『えっと…そこの棚の中に』
「これか」
近くの棚から救急箱を取り出し、絆創膏を探す。
絆創膏を用意したクラピカは、ソフィアの怪我した手を触った。
クラピカは、彼女の指を大切な物を扱うように、壊れ物を扱うようにそっと優しく絆創膏を貼った。
「全く…怪我をしたら直ぐ貼らないと駄目ではないか。ばい菌が入るぞ」
心配しながらも優しく微笑みながら言うクラピカ。
ソフィアに絆創膏を貼り終えたクラピカの手は、そっとソフィアの頬へと近づく。
いつもとどこか異なる雰囲気に、胸の鼓動はよりいっそう激しさを増してゆく。
目を閉じる。
閉じているはずなのに…もうすぐ吐息が重なり合おうとしていることを感じる。
クラピカの左手の薬指につけられた指輪が頬にちょうどよく当たり、ほてった肌に冷たく心地いい。
唇が触れ合うそのとき…
クラピカの人差し指がソフィアの唇に触れ、寸止めされてしまった。
『…え?』
「焦らし作戦だ。いつも私からしているからな、たまにはソフィアからしてくれ」
クラピカは意地悪な笑みを浮かべる。
『もぅ~クラピカの意地悪っ!じゃあ一生しなくてもいいよ~だ!!』
ソフィアは大げさに頬を膨らませて、わざとらしく怒った素振りを見せた。
しばらくそっぽを向いていると、後ろから物音がしないことに気づき、振り返った。
だが、隣にいたはずのクラピカの姿はどこにも見当たらない。
あれ。怒っちゃったかな??
クラピカがこんな事くらいで怒る訳ないのに。
そんな根拠のない自信を持ちつつも不安は消えず、立ち上がって部屋を一通り見回す。
寝室に行くと布団が不自然にポッコリ盛り上がっているベッド。
……もしかして。
さては布団に潜ってわたしを驚かそうとしてるんだな。
その手にのるかっ!!
音を殺してベッドに近づき、激しく布団をまくり上げる。
『クラピカ、見~つけた!!』
しかし、布団の中には枕だけ。
ただそれだけ。
その時、後ろの方から笑い声が聞こえた。
振り返ると、クローゼットに身を隠したクラピカの姿。
「騙されたな、そもそも私がそんな分かりやすい場所に隠れる訳がないだろう。驚いたか?」
クラピカは笑みを継続させたまま歩み寄ってくる。
『知ってたも~ん。別にビックリなんてしてないからっ!!』
さっきのように頬をプクッと膨らませ、怒った素振りを見せると、クラピカは笑った。
「明らかに嘘だな。完璧に騙されていたぞ?」
『はい、そうです。騙されました。あ~悔しいっ!!』
「本当にソフィアは可愛いな。お前が余りにも可愛いからつい意地悪をしてしまった。すまない」
クラピカはその場で手を広げた。
「ソフィア、おいで」
普段のわたしなら抱きついて甘えてしまうけど、今日はクラピカにドキドキさせられてばっかりだしな。
よしっ。今度はわたしがいっぱいドキドキさせちゃうんだから。
『…イヤよ』
ソフィアは素っ気なくぷいっと顔を横に向けて言った。
「何故だ?まだ怒っているのか?」
何も答えないソフィアに、クラピカはもう一度言った。
「来い」
捕まえようとするクラピカに、ソフィアは逃げた。
「何故逃げるんだ。そこを動くな」
抱き締めようとしたがソフィアはその場にしゃがみ、クラピカは体勢をくずしてベッドに横たわる。
イライラが増してきたのか、起き上がり語調を荒くする。
「いい加減にしろ、悪ふざけが過ぎるぞ」
『そこでストップ!』
人差し指を立ててクラピカの動きを止めたソフィア。
『大人しくしてて』
ソフィアはクラピカの胸を押した。
ベッドに横たわったところで上に覆いかぶさる。
「…おい、こんな一面もあったのか///」
普段とは違うソフィアに驚きながらも内心嬉しいのか、薄い笑みを浮かべながらも何処か緊張しているクラピカ。
ソフィアは微笑むとクラピカの唇に自らの唇を這わせた。
だんだんと深いキスに変わってゆく。
そのまま、二人は愛し合った。
二人の愛はよりいっそう深く、その夜は愛の色に染まっていったーーー…
カーテンの隙間からもれる眩しい光によってソフィアは目を覚ました。
しかし、隣にクラピカの姿はない。
体を起こすと同時に気づいたのは乱れた服装。
そして思い出すのは昨夜の出来事。
あ…そうだ。
あの後、クラピカと一つになって…そのまま寝ちゃったんだ。
わたし…初めて自分から誘っちゃったんだよね。
今思うとなんて大胆なことを…!!
恥ずかしいッ///
結婚して5年が経ったというのにまだまだ初々しさが残っていた。
掛け違えているワイシャツのボタン、私が寝ている間、一生懸命に服を着せてくれたのだろう。
風邪を引かないように…慌てて着せる、そんな愛しいクラピカの姿が目に浮かぶ。
『…クラピカ?』
部屋中見回してもやはりクラピカの姿はない。
そのとき、玄関のドアが開く音が聞こえたので、ソフィアは反射的に寝たふりに入った。
クラピカは音に気を使って部屋に足を踏み入れ、ソフィアに布団をかけ直すと、頬にキスをして隣の自分の部屋へと姿を消した。
クラピカがいなくなったことを確認し、幸せの余り枕に顔を埋めてゴロゴロしていると、傍に置いてあった目覚まし時計を床に落としてしまった。
その音に気づいたクラピカは、部屋から顔を覗かせる。
「起きたのか?」
『起きたぁ!!おはよっ!!』
本当はちょっと前から起きてたんだけど…ね。
「ソフィアにこれ買ってきたぞ」
言いながら寝室に入り、ポリ袋からクラピカが取り出したのはソフィアの大好物であるプリンだ。
『えっ、プリン買うためにわざわざ外に行ってたの??』
「そうだ、ちょっと外の空気も吸いたかったからな。…何故私が外に出かけたことを知っている?さては…タヌキ寝入りしてたな」
軽い気持ちでついた嘘の行為は、いとも簡単に見破られてしまった。
『実はちょっと前に起きてた!!』
「なるほど。私に嘘をつくとは、中々いい度胸だな。そんなソフィアにはお仕置きが必要みたいだ」
クラピカは机にプリンの入ったポリ袋を置くと、ソフィアに覆いかぶさる。
そして、ソフィアの弱点である耳を甘噛みしてきた。
『きゃぁ~!!くすぐったいっ!!』
いつもと変わらない光景に、いつもと変わらない二人。
だけど心は確実に近づいていた。
『あの、もう少しだけ一緒にいたいなぁ、なんて。やっぱりだめ??』
出発の準備を終え、家を出て車の前に到着したとき、ソフィアはクラピカの肩に寄りかかって甘えた。
不思議と素直になれる。
もう少しだけ、二人きりでいたい。
「…仕方がない。30分だけだぞ」
『わぁいっ♪』
「実は私ももう少し、二人きりでいたかったんだがな」
限られた時間の中、二人は久々にデートした。
幸せな二人の時間はあっという間に過ぎ、ラディウスの家に到着し、お互い父親と母親に戻った。
「「パパーーー!!ママーーー!!」」
アレンとクレアがクラピカとソフィアの元に駆け寄る。
クラピカとソフィアは飛びついて来た我が子をいっぱい抱き締めた。
「良い子にしてたか?」
クラピカに尋ねられたアレンは元気に頷く。
「うん!!パパと約束したからっ!!」
「そうか、偉いな」
クラピカは微笑みながらアレンの頭を撫でた。
『師匠、ありがとう!!本当にこの子たち悪さしなかった??』
師匠は穏やかな笑みを浮かべて答える。
「いやいや、本当に良い子じゃったよ。それより二人でゆっくりできたか?」
『うん!ゆっくりしまくった♡』
「そうか、それは良かったな。またいつでも子ども達を預けに来てくれ。わしの可愛い孫じゃからな」
アレンは振り返り、ラディウスに満面の笑みを浮かべた。
「おじいちゃん!!ありがとう!!」
しかし、クレアは突然泣き始める。
「まだかえりたくない…おじいちゃんといっしょにいるぅ!!」
駄々をこね始め、その場にしゃがんでしまったクレア。
また始まった…(汗)
ソフィアが連れて行こうとしたその時、ラディウスが腰を下ろしてクレアに優しく話しかける。
「またいつでも会えるからな?」
「ほんとに?」
涙目で問い返されて、ラディウスは笑みを浮かべたまま頷いた。
「…うん、またおにんぎょうさんとあそんで?」
顔をくしゃくしゃにして、クレアは涙をこぼした。
「遊んであげるからな、今日はママとパパと帰るんじゃ。よいな?」
「うん、かえる…」
ラディウスが伸ばした手を掴んで、クレアは立ち上がる。
こうしてソフィア達は車に乗り、ラディウスと別れた。
そして、せっかくの快晴日和と休日だったため、季節外れだが家族で海に出かけた。
海に到着したが、客は少なくほぼ貸し切り状態だ。
アレンは大はしゃぎ。
海に向かって走り、波に近づくが逃げる、の繰り返し。
ソフィアと一緒に軽く足を浸かったりなどして楽しむ二人。
クレアはまだ小さいので、砂浜でクラピカと一緒にキレイな貝殻を探した。
その時…
『クラピカーーー!!』
海の方から名前を呼ばれて、クラピカはふと顔を上げた。
昔から変わらない満面の笑顔を浮かべて、ソフィアは大声でクラピカに伝える。
『生きるって、楽しいねーーーっ!!』
クラピカは目を見開き、呆然とソフィアを見つめた。
太陽の光を浴びて、幸せそうに笑っている愛しい彼女の姿。
確かに言った、生きることは楽しいと。
私にとって、生きることは…
辛く、悲しく、残酷で。
生きる意味など、この世で野放しになっている人間をこの手で滅ぼすこと。
幸せ、喜び、楽しい…など、もう二度と味わうことなく、生きていくのだと、昔の私ならそう思っていただろう。
そして、亡くなった同胞達のために生きなければならないと思っていた。
けれど、本当は違っていた。
私は、生きたいのだ。
誰かのために生きなければならないのではなく、自分のために生きたい。
これからもこの世界で笑い、泣き、たとえ傷ついたとしても構わない。
それでも生きていたい。
この子たちの成長を、この目で見届けていきたい。
これからどんな人と出会って、どんな人に恋をし、どんな人生を歩み、どんな大人になっていくのか。
そしてこれからも…
ソフィアの姿をこの目で見ていきたい。
君が笑い、泣き、怒る姿を。
君が大きな壁を乗り越えていく姿を。
君が立ち上がる姿を。
君が前を向いて進んでいく姿を。
君が一生懸命に生きて、生きて、生き抜く姿を。
これからも、ソフィアの隣で、ずっと…
クラピカはクレアを抱きかかえて立ち上がった。
「クレアも海に触ってみるか?」
「いや、かいひろいするの。うみこわい…」
「パパが着いてるから大丈夫だ。行こうクレア」
「…うんっ」
クレアの返事にクラピカは優しく微笑むと、ソフィアとアレンの元に歩き出した。
家族の風に誘われたかのように。
この日の海と青空は、
強く、眩しく、果てしなく、広く、優しく、温かく、透明な、始まりもなく、終わりもない…
まるで、クラピカの心を映しているかのようだった。
next…