オリジナル編〚完〛
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まさか、こんな偶然。
ソフィアは、震える呼吸を何とか吐き出した。
『…レオリオ…』
無意識にその名を呼ぶと、レオリオはソフィアを捕えている男達に近づいた。
「…なんだオマエ。そこどけ!!」
怒りに任せた暴言を吐く男に、しかしレオリオは凄絶に微笑した。
「その前に彼女を離してもらおうか。痛い目に合いたくねーなら、今のうちに逃げた方がいいぜ?」
男達は殺気にも似た目でレオリオを凝視し、怒気のはらんだ声で怒鳴りながら近づく。
ソフィアの腕を掴んでいる男は、ソフィアごと連れてレオリオに近づいた。
「はぁ!?なんだとコラ!!調子こいてんじゃねーぞ!!」
「…忠告はしたぜ?」
レオリオは口元に笑みを浮かべながら告げると、こぶしを握り締め、男の顔をめがけて殴り飛ばした。
突然の衝撃を受けて、男が吹き飛ぶ。
『…お見事』
そのレオリオの綺麗なパンチに思わず賞賛してしまったソフィアは、しかしはっと我に返ってさすがに慌てた。
周りが驚愕して悲鳴を上げる中、残った三人は急いでリーダーに駆け寄る。
レオリオのパンチで完全に伸びてしまった男はピクリとも動かない。
ハンター試験やゾルディック家で鍛えられていたレオリオに殴られたら、気絶してしまうのも無理はない。
「ソフィア、大丈夫か?」
低く落ち着いた声。
ソフィアは無言で頷いた。
「行くぜ」
憤慨しているレオリオに、ソフィアは感動しながら再び頷いた。
「ほら、熱いから火傷すんなよ?」
『わぁ、ありがと!』
街のベンチで腰を下ろしていたソフィアは、後から来たレオリオにホットコーヒーを渡された。
レオリオもソフィアの隣に腰を下ろす。
ソフィアは息で冷ましながら一口飲み、レオリオの横顔を見つめた。
『レオリオ、助けてくれてありがとう』
「ん?礼はいらねェよ。でもからまれてたのがソフィアで、正直驚いたぜ」
『わたしも、てっきりもう国に帰ってたのかと思ってたからすごいびっくりしたよ!いつまでいるの??』
レオリオは足を組みホットコーヒーを片手で飲みながら答える。
「実は明日帰ろうかと思ってよ。そんでちょうど今日、ソフィアに連絡しようかと思ってたんだ」
『そうなんだ。そっか、明日帰っちゃうのかぁ…』
ソフィアは両手でホットコーヒーを持ちながら、寂しそうな顔で地面を見つめた。
突然ソフィアの顔を覗き込むレオリオ。
「目、充血してるぞ。泣いたのか?」
『…うん』
「クラピカか?」
『…実はあのキャンプの次の日からクラピカとネオンが付き合い始めて、それで今日ふたりが、キスしてるとこ見て…
なんだか辛くなっちゃって館飛び出して来ちゃったっ』
ソフィアは軽く笑いながら答えた。
その話にレオリオは飲み終わったホットコーヒーの紙コップを握り締める。
「……ソフィア」
『なに?』
レオリオは静かに言葉を紡いだ。
「あの野郎、絞めてもいいか?」
『…ダーメ!』
ソフィアは仄かに笑って話し出す。
『もういいの。クラピカとネオンは何も悪くないし、わたし二人を応援するって決めたんだ』
努めて明るい口調で言って、ソフィアは笑う。
それに、とソフィアは僅かに痛みを抱える目をした。
『わたし、ちょっと期待してたんだよね…記憶を忘れても、またわたしのこと好きになってくれるって。
また選んでくれるのは自分だって、そう思い込んでたの。でも違ったから、もう諦める』
ソフィアはそのまま俯いた。
…本当は今でもクラピカのことが好き。
でももう戻りたいと思わないの。
だって戻れないことがわかってるから。
つないだ手を離すのは簡単だけど、離した手をもう一度つなぐのは難しくてとても勇気がいるんだね。
追いかけるものがなくなった今、怖いものは何もない。
いつか忘れられるよね。
…大好きだった人が今幸せならそれでいいんだ。
「でもお前、クラピカのこと好きなんだろ?」
唐突な質問にソフィアは聞き返す。
『え?なに言って…』
「好きなんだろ?」
気持ちとは裏腹の答えが口に出る。
『…好きじゃないよ』
「嘘つくなって」
『嘘じゃないって。ホントだよ??』
「オレに隠したって無駄だぜ。好きなんだろ?」
…しつこいな。
ソフィアはだんだんイライラしてきた。
『違うって!』
「違わねェだろ!?ソフィアらしくねーな!いい加減素直になりやがれ!!」
笑いながらも必死であることを完璧に隠し通せていないレオリオ。
どうしてそんなこと聞くの??
わたしはもうクラピカのこと忘れないといけない。
いつまでも同じ場所に立ち止まってちゃダメなの。
想いを手放さないといけないんだよ。
『もういいの!レオリオ、しつこい男は嫌われるよ!?』
「お、そーかそーか!!まぁクラピカにはすでに新しい彼女がいるからな!!」
『わざとらしく思い出さないでよっ!!』
レオリオはソフィアを真剣な目で見つめてもう一度問いかける。
「でも、そんなことぐらいで諦められる気持ちなのか?ちげェーだろ?彼女がいても、それでもやっぱり好きなんだろ!?」
『…好きだって言って欲しいの??』
「ああ、そうだ。悪いか?正直に言うぜ。オレはソフィアとクラピカがよりを戻して欲しいと思ってるぜ。クラピカに新しい彼女が出来ただァ?キスしてただァ?
だからって諦める必要ねーだろ!?好きならそんなの関係ねぇ!!いっそのこと奪って記憶を思い出してくれるように努力すればいーじゃねーか!!」
『そんなことできない!』
わたしはクラピカを苦しめた。
悲しませた。傷つけた。
それなのに、クラピカから新たな幸せを奪うなんて、そんなこと許されないよ。
わたしがクモだったと分かった時点で、わたしの顔なんて見たくないに決まってる。
「好きなら傍にいてほしいと思うのが普通だろ?支えて欲しいと思うのが普通だろ?
クラピカが幸せになることばかり考えやがって。じゃあソフィアの幸せはどうなっちまうんだァ?」
その言葉にソフィアは目を見開く。
自分の幸せなんて考えたこともなかった。
いつも、クラピカが幸せになってくれればそれでいいって…
誰よりも幸せになってほしいと願ってて…
いつもいつでも、そればっかりで。
『でもわたし、クモだったから…』
「オレ思うけどよォ、クラピカに元クモだったって打ち明けたとしても、クラピカならその事実を受け止めてくれたんじゃねーか?アイツはちゃんと話をすればきっと分かってくれる奴だ。
クラピカに傷を負わせたのがソフィアなら、癒してやるのもソフィアしかいねーと思うけどなァ」
『でもわたし…』
「さっきから、でもでもって、いつもの前向きなソフィアはどーした!!それってただ逃げてるだけじゃねーかよ!!
記憶を忘れる前のクラピカはお前といる時が一番よく笑ってよう、本気でソフィアを想ってて幸せそうなクラピカが自分のことのように嬉しかったんだ。
アイツが記憶を忘れたとき、なぜかソフィアの名前だけは憶えてたんだ。
それだけクラピカはお前が好きだったってことだ!クラピカは絶対に思い出す!!お前を思い出さねー訳がねェ!!だからソフィア、後悔だけはすんじゃねーぞ!!」
レオリオ、わかってるよ…。
このまま何も気持ちを伝えないままでいれば、一生後悔してしまうってこと。
だけど、伝えたらまたクラピカを苦しめてしまうかもしれない。
ただわたしは、これ以上傷つきたくない。
もうこれ以上の痛みに耐えられるほど、強くないから。
わたしには、足かせが多すぎる。
幻影旅団だったわたしは、クラピカをたくさん傷つけて、突き放したことの罪悪感…
人を何人も殺めてしまった汚れた手。
それらの重い罪を償っていくには、どうしたらいいのか…わからない。
だれか、教えて。
傷を負いながらも、祈り続けた自分の幸せを願ってしまうことは、許されないことですか??
「クラピカのこと、好きなんだろ?」
レオリオは振り出しに戻って、同じ質問を再び繰り返した。
想ってるだけなんて…そんなの嘘。
本当はもう一度愛されたいと願ってた。
ソフィアはようやくその質問に素直に頷いた。
クラピカ…
わたしは今でも、クラピカが好きです。
大好きです。
そして、恥ずかしいくらいに、今も大好きです。
こんなにめちゃくちゃになってしまうくらい、カッコ悪くなってしまうくらい、大好きです。
こんな広い世界で、あなたを愛した。
あなたに愛された。
お互い…愛し合った。
これは…偶然??
違う、きっと、運命だね。
この先、あんなに人を愛し…そして愛される事はきっともうないよ。
……決めた。
わたしはクラピカに素直な気持ちを伝えよう。
もう強がったりなんかしない。
もう怖がったりなんかしない。
なにも変わらなくてもいい。
きっと伝えることに意味があると思うから。
決心は固まった。
ソフィアは立ち上がり、レオリオに『クラピカにちゃんと気持ち伝えてくる!』
と言ってお互い笑顔で別れた。
もう後悔するもんか。
今でも好きだということを、出会えてよかったということを、すべての気持ちを伝える。
そうすればわたしは…
やっと一歩一歩を踏みしめて、前に進むことができるから。
ソフィアは前を向いて、館へと向かった。
ソフィアが館に帰省すると、フロアでボディガード全員が集まっており、そこへソフィアも加わった。
主にクラピカが今後のノストラードファミリーについて話しており、ネオンの占い能力と顧客を失い、危機に瀕したノストラードファミリーの組長ライトをどうしたらいいのか話し合っていた。
ソフィアはクラピカに「解雇」だと告げられたのだった。
ネオンに呼ばれてソフィアはネオンの部屋に向かった。
「ソフィア!!」
『ネオン、あの…』
謝らなきゃ…さっきの事。
『さっきは…』
謝ろうとしたソフィアの言葉を遮って、明るい口調で話し出す。
「いいのいいの!!気にしないで!!ソフィアってクラピカの元カノだったんでしょ!?クラピカから聞いちゃったの!!」
ソフィアは答えられなかった。
ただ黙って申し訳なさそうな表情で立ち竦む。
ネオンは笑顔で話をつづけた。
「あの時、クラピカといろいろ話してたんだけど!!クラピカ…なんか欲情しちゃってさ、突然キスしてきたから最初はすごくビックリしちゃって!!」
クラピカが…??
「でも私、クラピカと付き合ってるし…っていうか婚約してるわけだし!!別に変なことしてる訳じゃないしねっ!!」
『ネオン…』
言わなくちゃ。
わたしもまだクラピカが好きだってこと。
でも、ネオンはわたしに何も話せないように自分の話をやめない。
「それでね、いいタイミングでソフィアが来ちゃうからさっ!クラピカね…私と結婚するって!!」
ソフィアは目を見開いた。
『結婚…?』
「そう!!ソフィアは私の親友だもん♪喜んでくれるよね!!」
今のネオンはソフィアに敵対心を持ってるみたいだった。
理由は一つしかない。
わたしがクラピカの元カノだから。
”うらやましいでしょ”と言わんばかりの顔で微笑むネオン。
ーーー「私の夢は…私とソフィアと将来の子どもと…三人で手をつないで歩くことだな」ーーー
クラピカが前に言ってくれた言葉が頭に浮かぶ。
この言葉は嘘だったの??
いや、そうじゃない…
今日で嘘に変わってしまったんだ。
でも、伝えなきゃ。
正直に…クラピカのことが好きなんだって。
だから喜べないって。
もう嘘はつけない。
『あのね、ネオン。実はわたし…』
「あ!片づけの準備とかいろいろ忙しいんだよね!ごめんねっ!!わたしトイレに行ってくる!!」
『ちょっと…』
ネオンはそう言い残し、走って部屋から出て行った。
ーーー10月22日。
ネオンやリンセン達と話しているクラピカの姿。
これが最後になるかもしれない。
しっかり覚えておかなくちゃ…
目に焼きつけておかなくちゃ。
もっと見ていたかった。
けれど、頭ではなく心に焼きつけてしまうことが怖かったから。
ソフィアはクラピカの姿を見ては目を逸らし、それを何度も何度も繰り返した。
クラピカとハンター試験で出会ってから、約一年。
ハンター試験は不安と期待が入り混じった複雑な気持ちで…でも、今思えば期待の方がずっとずっと大きかった。
無事に生きてハンターに受かればそれでいいや。
そんな事を思ってた。
この一年でたくさんの事があったね。
とてもじゃないけど平凡とは言えなかった。
辛い事、悲しい事がいっぱいあった。
だけど…だけどね…大好きな仲間に会えた。
クラピカに会えた。
長かったようで短かった一年。
中身の詰まった大きな一年。
いろんな気持ちを知った一年。
初めて本気の恋をして、失う怖さを知った。
大好きな友達に支えられて、仲間の大切さを知った。
たくさん成長することができました。
…ありがとう。
心からありがとう。
ソフィアは準備が出来次第、3日までにクラピカに館から出ることを伝えればいつでも館から出ていいと言われていた。
まだ、帰るわけにはいかない。
どうしても会っておきたい人がいるから。
ソフィアは館内を歩き回り、遠くにセンリツの姿を見つけ、ソフィアは駆け寄った。
「あ、ソフィア!」
『センリツーーー!!』
センリツとは一ヶ月ちょっとしか一緒に働けなかったけれど、いつもセンリツから優しく話しかけてくれて、相談にもよくのってくれた。
「さっきソフィアのこと探しに部屋に行ったんだけど、見当たらなかったからもう行っちゃったのかと思ったわ。でも行く前に会えてよかった」
『うん。センリツ、本当にいろいろありがとね!』
いくつかの言葉を交わし、別れ際に手紙を渡した。
昨日の夜、密かにセンリツに向けて手紙を書いたのだ。
ノストラードファミリーに勤めてここまでやってこれたのも、センリツがいてくれたから。
だけど、今さら口でお礼を言うのはちょっと恥ずかしいものがある。
だから手紙に書いた。
『これ、手紙書いたから。読んでね!』
ソフィアは照れくささの余り目を逸らして差し出すと、手を振って別れた。
【センリツへ。
短い間だったけど、本当にありがとう。それからたくさん迷惑かけてごめんなさい。たくさん話も聞いてくれて、嬉しかったよ。これからも護衛のお仕事、無理せずがんばってね。
センリツ、大好きだよ。またいつか会える日を楽しみに、わたしも頑張るね!】
手紙を読んだら、どんな顔してくれるかな。
「ソフィア!」
センリツに呼び止められ、ソフィアは振り向いた。
センリツが人差し指で差す先には遠くなってゆくあの人がいる。
それは間違いない、クラピカの姿。
「いま一人でいるわ」
近寄って背後から叩かれたセンリツの声。
『……え??』
「勇気がいると思うけど、二人で話せるのはもう最後かもしれないわ。行きなさい、ソフィア」
勇気が出ない。一歩が踏み出せない。
「ソフィア、後悔しないように頑張って!」
センリツがソフィアの背中を後ろから押し…
その反動で、ソフィアは走り出した。
大好きな、あの人の元へ…
next…