オリジナル編〚完〛
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ソフィア達はガルドーブ駅前のバス停に到着した。
「やっと着いたな!朝から何も食ってねーし、なんか食ってくか?」
レオリオの意見にゴンも賛成する。
「うん!そうしよっか!」
『ごめん…わたしはもう帰るね』
ソフィアは必死に笑って断った。
「オイ、せっかくだから食ってけよ!腹減ってんだろ?飯おごってやるから!な?」
心配げな顔で優しく気遣うレオリオだが、ソフィアは首を横に振る。
『ううん、大丈夫。みんな、色々ありがとう。バイバイ…』
手を振って歩き出すソフィア。
困ったように笑っていたので、ゴン達はそれぞれ何とも言えない顔をした。
ソフィアの後ろ姿を見送っていたゴン達は、互いに見合わせて物言いたげな顔をする。
やがてゴンが、ぽつりと言った。
「……なんか、笑ってるのに、泣き顔みたいな顔だったね」
「………」
ソフィアを追いかけようと決めたキルアは、ゴンとレオリオに申し訳なさそうに笑った。
「わりぃ、オレも飯はいいや!んじゃ、また後でな!」
そう言い残して、キルアはポケットに手を入れたままソフィアの歩き出した方に進んだ。
「ちょ、待ってキルア!!17時にはターセトル駅の中央口に集合だよ!!」
慌てて伝えるゴンにキルアは右手を上げながら答える。
「分かってるって!またすぐ戻って来るからさ!ここら辺で待っててくれよなー!!」
「え、うん!分かったー!!」
ゴンは大きく手を振り、二人もその場を後にした。
ソフィアは仕方なく館に向かっていた。
どうしよう…気まずいなぁ。
帰りたくない…。
「ソフィアー!」
突然、後ろからキルアの声がして、振り向いた。
『…キルア!』
近づいてくるキルアに、ソフィアは進む足を止めた。
『キルア、どうしたの??』
「オレ送るよ」
『いや…いいよ』
「そんな遠慮すんなって!行くぜ」
キルアは強引にソフィアの横に並んで歩き出した。
…別に遠慮なんかしてないのに。
帰り道、並んで歩く二人の手がそっと触れる。
するとキルアは突然、ソフィアの手を握り締めた。
『…は、離してっ』
手を握られた瞬間、ソフィアは反射的に手を離そうとした。
しかしキルアは離そうとせず力強く手を握り締める。
「もう遠慮しないって言っただろ」
ソフィアは一瞬ドキッとした。
二人の間には耐えがたい沈黙が流れる。
「…少し話さねぇ?」
『…うん、いいよ』
二人は誰もいない公園に入り、ベンチに座って会話を始めた。
「…ってか、今日気温高くねーか?」
『そうだね、天気よ過ぎっ!』
そう言って笑いを発散させるソフィアは、泣いているようにも、傷を負ったばかりのようにも、自分を酷く責めているようにも見えた。
ここに足を運ぶのにも、多くの葛藤を抱えていたに違いない。
…それなら尚更、早く解放してあげねーとな。
オレ、今度こそソフィアに伝えたいことがあるんだ。
ずっと伝えたくて、でもずっと伝えることができなかった言葉。
ソフィアの表情に困惑が広がろうと、不快に染められようと、嫌悪感を示されようと、それでも決意は固まっている。
伝えれば、諦めがつくよな?
切なさで眠れない夜なんて、なくなるよな?
心から笑えるようになるよな?
後悔しなくてすむよな?
「あのさ…クラピカの事で辛いのは分かってる。一生クラピカを忘れられないって事も。
でもオレは、クラピカとソフィアがもう結ばれない運命なら、オレがお前を守る」
言葉は、意地を張る想いなんかよりずっと正直だった。
不思議だな。
守るだなんて、そんな大それたこと言うつもりなかったのに。
返って来る答えは予想できていた。
傷つく準備はとっくのとうにできていた。
ただ、好きだという真実を伝えることができればそれで満足だったはずだ。
けれどソフィアと間近で目が合った瞬間、理性が吹っ飛んだ。
我が儘になっていた。
欲張りになっていた。
負うであろう傷の深さになんか目もくれず、最後の最後に残ったものは…
意地もプライドも何もかもを捨てて辿り着いた答えは、まだこんなにも好きだから、そばにいたいという切なる願い。
「クラピカを忘れろだなんて言わねェ。でももし辛い時は一人で抱えんなよ。
もう一人で苦しんでる姿、オレ見たくないんだ。オレ…ソフィアの傍にいたいんだ」
その言葉を聞いたソフィアは、辛そうな顔で答えた。
『キルア…キルアの気持ちはとても嬉しい。でも、それはできない…』
「今すぐ決めろって言ってるんじゃねーぞ?」
言葉とは裏腹に焦る気持ちが収まらない。
俯いていたソフィアは覚悟を決めたかのように、顔を上げてキルアを見つめると、どこか悲しげな表情で言った。
『…ごめんね、キルア。わたし今、クラピカの事で頭がいっぱいなの…他の事は考えられない…』
「…そっか!わり、ちょっと急ぎ過ぎたかもな!」
キルアは元気に強気でそう言った。
でも、これだけは最後に伝えたい。
「でもさっき言った事、オレ本気だからな。考えといてくれるか?ゆっくりでいいからさ、いっぱい時間がかかってもいいから…」
『…うん』
よし、ここまで。
ここまでにしよう。
これ以上ここにいると、想いが溢れ出てしまうかもしれない。
「オレ、そろそろ戻るわ。ここから一人で大丈夫か?」
『…うん、大丈夫』
キルアは精一杯の笑顔を作ってみせる。
「じゃあ、気をつけて帰れよ?」
『分かった、キルアもね!』
キルアは手を振りながら背を向けてその場を歩き始めた。
しばらく歩いたところでキルアは空を見上げた。
風によって雲が散り、透き通る黄空が顔を覗かせた。
オレはソフィアの笑顔が好きだ。
ソフィアの笑顔が見れるなら、どんな危険だって手を出すことができる。
ソフィアには幸せになってほしい。
そこら辺にいる誰にも負けないくらい、世界で一番、幸せになってほしい。
でも今のオレでは幸せにすることができないから…
いつかオレがソフィアを幸せにしてみせるよ、絶対な。
返事、待ってるからな。
ずっと…
キルアと別れて、館に到着したソフィアは玄関でセンリツと遭遇した。
「ソフィア、無事だったのね!良かった。おかえりなさい」
『…ただいま!』
センリツはソフィアの顔を覗き込み、まじまじと見つめた。
「心音も乱れてるわ…クラピカと何かあったの??」
『…ううん、別になにもないよ』
今は何も考えたくない。
クラピカの名前を聞くだけでもつらい。
「そう…キャンプ場でクラピカだけ先に帰って来たから、ちょっと心配になって…」
『実はね、今朝クラピカと別れたぁ…ってかフラれちゃった』
泣き顔にも似た顔で笑うソフィア。
そんなソフィアを見て、胸が痛んだセンリツは静かに返した。
「そうだったの…何があったか聞かない方がいいわね」
「うん、ごめんね…荷物置いてくるね!」
ソフィアはセンリツに笑って別れると、いったん荷物を置きに部屋に向かった。
その時、廊下で見かけたのはクラピカとネオンが仲良さげに話している姿。
クラピカは一瞬こっちをちらっと見たが、すぐに目をそらしネオンの話を聞いている。
走って部屋に入り、ベッドに横になって顔を伏せるソフィア。
クラピカが別れを望むのなら…受け止めなければならないんだね。
本当はもうダメなのわかってたんだ。
わたしがどんなにクラピカを想っても、クラピカが記憶をなくした時点でもう無理だったんだね。
わたしのこと覚えてなくても、一緒にいて幸せだったよ。
でもきっとクラピカは違ったんだね。
これからはクラピカに彼女が出来たとしても、それを受け止めなければならないんだ。
祝福してあげられるようになるには、たくさんの時間がかかるかもしれない。
だけど…頑張るよ。
応援できるように頑張る。
でも今はもう少しだけ、好きでいさせてね。
これが最後のわがままだから…。
しかし、別れてから次の日だった。
…クラピカに彼女が出来たのは。
相手はボスのネオン・ノストラード。
二人きりのとき、ネオンが思い切って告白したらしい。
クラピカはそれにOKの返事をして、二人は付き合い始めたのだと、ネオンの口からはっきりと耳にした。
いつかクラピカに彼女が出来たら祝福しようと思っていたのに、あまりに早すぎて心がついていかなかった。
あれから数日後。
ライト・ノストラードは娘のネオンが予言能力を失った事を知り、絶望に打ひしがれていた。
しかしネオンはクラピカがいつもそばにいてくれることが嬉しく、コレクションの自慢話やどんな相手と競って人体を取集しているのかなどを話していた。
廊下に出ればクラピカとネオンに会うかもしれない。
ソフィアは、仕事以外は部屋に閉じこもる日々が続いていた。
まだ二人を笑顔で受け入れられるほど、気持ちが吹っ切れていない。
しかし、エリザが退職してからネオンの世話係が人手不足だった為、代わりにソフィアがネオンの世話をしていた。
「今日はクラピカとデートなんだぁ~っ♡」
「クラピカってすっごくカッコイイよね!!いつか結婚しちゃったりして~キャハハッ♪」
ソフィアはネオンの髪を束ねながら、毎日ネオンの惚気話を聞かされていた。
これ以上、聞きたくない。
ネオンがクラピカの話をする度、ソフィアは手で耳を塞いでしまいたかった。
でも、ちゃんと聞いておかなくちゃ。
この苦しみを…ネオンがクラピカに腕を組んで歩いている光景もしっかりと目に焼き付けておかなきゃ。
そうすれば嫌でも忘れられるかもしれないから。
それからは結局クラピカと一言も話すことがないまま、一ヶ月が経った。
休暇をもらったソフィアは、気分転換に出かけようと玄関に向かっていた。
その時、スーツを着た一人の男が玄関から入り、ソフィアと遭遇した。
男はソフィアよりも身長が低く、坊主頭で黒の背広の上下を身に着けている。
男は忌々しげに舌打ちをした。
「邪魔だ、どけ!!」
ソフィアを押しのけて、男は部下を連れて館内を歩き出す。
押しのけられたソフィアは頭にきて反発した。
『ちょっと、なにするのよ!!』
「何だァ!?コノヤロオ!?あ!?オレ様に反抗するのか!?侵すぞ、コラァ!!」
ひどい暴言だ。
男はソフィアをガンとばして、怒りに燃えたソフィアだったが、ここは我慢して押し黙った。
「ケッ!ガキが!!」
男と部下は真っ直ぐにライト・ノストラードの部屋へと繋がるフロアへ足を運んでいく。
ソフィアは気になり、その男達の後を追った。
フロアにいたクラピカが男の正面に立ち、冷たく言い放つ。
「止まれ。ボスはここにいない、突然何の用だ。占いは会員の予約しか受け付けていない。取引なら事務所に行け」
「……ポンコツには何も用はねェ。用があるのはてめェだ」
ソフィアは少し離れた壁に隠れながら、目を見開いた。
クラピカに…??
ソフィアは耳を澄ませた。
「…………」
しかし、肝心な内容がここまで聞こえてこない。
やがてクラピカの目が煌めいた。
「…返答は」
「いつでもいい。こまけぇ事はオレの部下に言え」
「…分かった」
男はその場を後にして、玄関に向かった。
こっちに向かってくるため、ソフィアは慌てて観葉植物の後ろにしゃがんで隠れる。
あの男、クラピカに何言ったんだろ??
ソフィアは男がいなくなったのを確認すると、廊下を進んでいくクラピカの後を追った。
わたしったらさっきから忍者みたいにこそこそと何やってるんだろ…。
自己嫌悪に陥りながらも、ソフィアは尾行をつづけた。
辿り着いた場所は、ネオンの部屋。
クラピカはドアにロックをし、ネオンの許可をもらって部屋に入っていく。
ソフィアはネオンの部屋のドアの前で葛藤した。
うぅ~めっちゃ気になる!!
どうしよう…!
でも、勝手に人の部屋のぞくなんてダメダメ!!
諦めてその場を離れたソフィアだったが、やはり気になるのか勝手に足が止まり、引き返す。
それを何度か繰り返したり、待ったりと10分後。
…長いなぁ。
さっきのこと話してるのかな??
自分の気持ちには勝てなくなったソフィアは、覚悟を決めてドアノブに手をかけた。
ちょっとだけなら…いいよね??
ソフィアはそっと音をたてないようにドアを開けた。
部屋は広いため、奥までいかなければ二人の姿が見えない。
…それに、声が聞こえない。
ソフィアは気になって部屋に入り、静かに進んだ。
その時…目に映った信じられない光景に、ソフィアは大きく目を見開いた。
目に映った信じられない光景。
クラピカとネオンがキスしている。
息があがる。
心臓がドクンドクンと激しく脈打っている。
うそ…………
やめてやめてやめて。
ソフィアはその場に立ち竦んだまま二人がキスしている姿を見つめた。
クラピカはその唇でわたしに優しくキスしてくれた。
なのに今、その唇で違う女にキスをしている。
後ろに下がる足音にクラピカが目を開き、ネオンの唇から離れた。
そしてソフィアを見つけると驚愕した。
その場に立ち竦み、涙を流しながら、生気を失った痛々しい表情。
まるでこの世の終わりを感じたような顔に、クラピカは絶句する。
『ご…ごめんなさ、い…わたし…っ』
視線を床に落としたまま、肩を震わせ震える声で謝るソフィア。
余りにも痛々しい彼女の姿に、クラピカはただ見つめて立ち竦む。
目から幾粒ものの涙がこぼれ落ち、ソフィアは身を翻してそのまま部屋を飛び出した。
館を飛び出し、走って…走って…全速力で走る。
誰か誰か誰か助けて。
涙が止まらない。
苦しい…苦しい。
すごく、胸が痛いよ…っ
無我夢中で走っていたソフィアは、誰かと正面からぶつかった。
『きゃっ!…ご、ごめんなさい…』
気がつけばここは、都会の街中。
目の前には4人の集団。
ソフィアがぶつかった相手は若い男で、色黒の金髪、整った細い眉毛、腰パンにはだけたYシャツ、背が高い…おそらく180㎝はあるだろう。
耳には数えきれないほどたくさんのシルバーピアス。
腕には幾つものタトゥーが彫られている。
その集団の中では、明らかにリーダー的存在だ。
ソフィアは怖くなって一歩後ろに下がった。
男はご機嫌な軽い口調で話し始める。
「どーしたの?カーノジョ♡彼氏にでもフラれたのか??キミみたいな可愛い子を泣かせるなんて悪いヤツだなァ!きっとバチがあたるよ~!
どうだい??オレ達と一緒に今から遊びに行かないか?なぁ、いいだろ?」
男はソフィアに顔を近づけてきた。
『い、いえ!結構です!!』
逃げようとして後ろに引き返そうとした、その時…
「おっと!冷たいこと言うなよォ~」
「オレ達と一緒に楽しいことしよ??」
ソフィアは後ろから腕をがっしり掴まれ、集団に囲まれた。
「どーせ一人なんだろ?いっぱい可愛がってやるから、なァ?」
ソフィアは必死で抵抗した。
『イヤ…ッ!離して!!やめてっ、やめて下さいッ!!』
逃れようともがくソフィアに、男は突然怒鳴り出した。
「オイなんだよ!!一人で寂しそうにしてっから、オレ達が相手してやるって言ってんじゃねーか!!あぁ!?」
さすがに怖くなり虚を突かれた風情で、ソフィアは暴れるのを止めた。
その状況を見ている通りすがりの人や店の店員達は、何も出来ずにただ見物するか、見て見ぬふりをしている。
どうして…
こんなにたくさん人がいるのに、どうして誰も助けてくれないの??
こんな時…クラピカがいてくれたら。
でも、クラピカはもう……
「ちょっとぐらい付き合えよ!!ほら‼」
男は嫌がるソフィアに顔を近づけて言うと、そのままソフィアを無理やり連れて歩き出す。
迫りくる恐怖の中、これからこの男達に何をされるのかだいたいの予想は出来ていた。
こんな奴らに侵されるなんて…そんなの、それだけは…
絶対にイヤ!!
『…ク…』
目を閉じて、ソフィアは絶叫した。
『クラピカーーーーッ!!!!』
男達は突然の叫び声に驚き、激しい口調で怒鳴る。
「オイ!!テメェ…いい加減大人しくしろ!!」
男は手を振り上げてソフィアの顔を殴ろうとした。
その時…
「待て!!」
目の前に一人の人物が集団の前に立ちはだかる。
男は手を止めて、一斉にその人物に目を向ける。
ソフィアはその人物に、目を大きく見開いた。
『うそ…………』
next…