ヨークシン編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日。
ソフィアが目を覚ましてから、センリツがお見舞いに来ていた。
「目が覚めてよかったわ、それに元気そうだし。医者が言うには奇跡が起きたって。本当にそうかもしれないわね」
持ってきた花束を花瓶に入れ替えながら話すセンリツは、ふと動きを止めて元気に微笑むソフィアの顔をじっと見つめた。
『ん?なに??』
「心音も元気そうね。何か嬉しいことでもあったのかしら?」
にっこりと笑みを浮かべるセンリツに、ソフィアは一瞬真っ白になった後、にやけながら慌てて答えた。
『ほら…それは、あれだよ!センリツがお見舞いに来てくれたから!!////』
「本当にそれだけかしら~?」
『…話せば長くなるんだけど…////』
ソフィアは昨夜のことを思い出しながら、恥ずかしそうに話し出したーーー…
ソフィアが目を覚ましてからしばらく経った後。
起き上がろうとするソフィアの体を抱き起すクラピカ。
その時、クラピカは突然ソフィアの体を抱き締めた。
柔らかな温もり。
なんて、温かいんだろう。
なんて、幸せな感覚。
腕の力を強めて、クラピカはソフィアの肩口に顔をうずめる。
息を呑む気配が伝わってきた。
強く触れ合ったその体からは、クラピカの気持ちがひしひしと伝わってくる。
たくさん、不安な思いをさせちゃったね。
あの時、クラピカを守りたいその一心で、自分の命を捨てた。
その行動は、今でも後悔していない。
クラピカは自分の命よりも大切だから。
でも私は、自分のことしか考えてなかった。
クラピカのこと、考えてなかった。
もし、私が死んでいたら…
残されたクラピカはどうなるの?
また独りぼっちになったクラピカは、どうなるの?
クラピカ、ごめんなさい…
『クラピカ、わたし…』
しばらくそうしていたクラピカは、開きかけた唇を噛み、ようやく口を開いた。
「…何も言うな。お前が生きてさえいてくれれば、それで十分だ」
その言葉にほっとしたように、ソフィアは目を閉じた。
閉じた瞼の間から涙が零れ落ちる。
体をゆっくりと離し、ふいに目が合い、二人の時間がぴたりと止まった。
クラピカはソフィアの腕を掴み、ソフィアの唇にそっとキスを落とした。
やわらかな優しいキス。
こんなに切ないキスは初めてで。
こんなに幸せなキスは初めてで。
生きててよかったと、この瞬間にこれほどまで強く感じたのは、きっとこの世界でわたししかいない。
その時、心からそう思った。
唇を離すと、クラピカは再び椅子に腰を下ろしソフィアの手を握り締めて、切ない瞳で真っ直ぐソフィアを見つめた。
「ソフィア…お前が目を覚まさなかったこの3日間、私は生きた心地がしなく、まるで地獄を見ていたかのようだった。私の愚かな行動で、ソフィアには危険な目に合わせてしまったな…本当にすまない」
ソフィアは違うよと、首を横に振った。
クラピカは更につづける。
「お前を守れなかった私は、弱い。だが、私は強くなる。必ずお前を守れる強さを得る。だから…」
言葉を重ねるうちに、喉が震えた。
ソフィアの瞳。藍色の瞳だ。
私の瞳と同じ色。
その瞳を見ていたいのに、どうしようもなく視界がにじんで、ぼやけてしょうがない。
「ソフィア…一つ約束してほしい。もう二度と、私の為に自分の命を捨てることは決してしないでくれ…」
クラピカは目を細めた。
眦からこめかみに、涙が滑り落ちる。
「お前がいなければ、駄目なんだ…」
ソフィアは握っているクラピカの手を両手で包むように握った。
『…分かった。でもね、クラピカ…わたしあの時、気づいたらクラピカの前に立ってたの。
クラピカのいない人生なんて考えられない。
あなたがいて、初めてわたしは自分の人生を生きたって、そう思えるの。
わたし…クラピカのために生きて、クラピカのために死にたい。
でも、もうクラピカを独りぼっちにだけはしたくない。だから、守るよ。約束…』
だけど、クラピカと出会ってしまったわたしは…
もう、一人じゃ生きていけないの。
わたしも、クラピカがいないとダメなの。
『でも、クラピカ…これだけは覚えてて。クラピカが死んだら、わたしも死ぬから…』
その言葉に、クラピカは真剣な眼差しで言った。
「それは駄目だ。たとえ私が死んでもソフィアは必ず生きるんだ」
『でも…』
クラピカは目元を和ませた。
「だが安心しろ。ソフィアを置いてあの世に行くことは決してしない」
『ほんとに?』
あぁ、と答えてクラピカは続ける。
「ソフィア、お前が退院したら、直ぐにでも約束を果たしたいのだが…」
『え…?』
「正直なところ、私はソフィアを幸せに出来るかは分からない。その自信はないが、一生お前を好きでいる自信はある。
私の人生をかけて、ソフィアを幸せにしていけるよう努力する。
だからソフィア…お前の人生を、私にくれないか?」
思いがけないプロポーズに、ソフィアは幸せすぎて涙が溢れた。
こんな嬉しすぎるプロポーズされるなら、あと100回死んでもいいよぉ…(泣
そして、ソフィアはうんと頷く。
『もちろんだよ、ぜったい幸せにしてね。約束だよっ』
少し照れながら右手の小指を差し出すソフィアに、クラピカは自分の指を絡めながら言った。
「あぁ、約束しよう」
互いの顔を揺れる瞳で見合わせて、ふたりはこつんと額を合わせると、嬉しそうに笑ったーーー…
『ーーーーってことなの///』
「そうだったの!ホントによかったわね、ソフィア!」
ソフィアの話に、センリツは自分のことのように喜んだ。
「ソフィア!!」
ゴンがドアを開けた。
ゴンの後ろからキルア、クラピカ、レオリオが姿を現す。
『みんな!来てくれたの!?』
「当たりめーよ!なんだよソフィア、元気そーじゃねーか!」
笑顔で話しかけるレオリオに、ソフィアは腕を上げて元気よく返した。
『うん!この通りもう元気だよ♪あれ?レオリオ、もう退院したの?』
「おう、意外と傷が浅かったからな!すぐに回復したぜ!」
『そっか、よかった!みんな、本当に助けに来てくれてありがとう。それに心配かけちゃってごめんねっ』
「そんな助けるのが当たり前だよ!オレ達、友達なんだからさ!」
笑みを浮かべながら話すゴンの隣で、キルアは果物が沢山入ったかごをベッドのテーブルに置いた。
「ほら、果物買ってきたぜ」
『わぁい♪ううう…ありがとう…』
嬉しさだったり、感動だったりと、まぶたが熱を増し、涙が込み上げる。
「言っとくけど泣いたら没収だからな?」
意地悪に微笑むキルア。
『えぇ!?』
その言葉を素直に受け取ったソフィアはとっさに顔を上げ、まばたきしないようこめかみに力を込めた。
「おい嘘だぞ、冗談!」
キルアは笑いながら短いフォローを述べる。
目を開け続けるのも限界に達し、耐えきれずまばたきをした瞬間、涙がこぼれた。
「あらら…ソフィア、大丈夫?」
取り出したティッシュでふき取るセンリツ。
その姿にゴンとレオリオが笑いながらからかう。
「ソフィアって涙もろいんだね!」
「ったく、泣き虫はハンター試験から変わんねーなァ!」
『だって~っ』
みんなの顔がうっすらぼやけて見える。
次第に5人はベッドの横で椅子に座って、ソフィアに向かい合った。
「医者が言うには後7日で退院できるそうだ、よかったな」
穏やかな笑みを浮かべて話しかけるクラピカに、ソフィアは戸惑いながら答えた。
『うん…///』
なんともいえない沈黙が続く。
なぜか妙によそよそしい二人に気がついたレオリオは、突然声を上げた。
「わりィ!オレ用事思い出したゼ!!オイ、ゴン!キルア!」
レオリオは気を利かせたのか、二人を病室から連れ出す。
「用事?なんの用事??」
「なんだよ、さっき来たばっかりだぜ?」
「いいから来い!」
嫌がる二人を強制的にレオリオは連れ出す。
『え、もう行っちゃうの?』
驚きの表情で声をかけるソフィアに、レオリオは笑顔で答えた。
「お前もよくなったんだろ!?たくさん食べて、しっかり栄養つけとけよ!んじゃな!…あ、センリツも!」
慌てて呼ばれたセンリツは立ち上がる。
「あ、はい。じゃあソフィア、また来るわね」
『うん、ありがとう。センリツ…』
センリツは病室を後にし、空間はソフィアとクラピカの二人きりとなった。
「…気を遣わせてしまったな」
『うん…』
二人の間に沈黙が流れる。
ソフィアは昨夜のプロポーズのことが頭に浮かんだ。
クラピカにプロポーズされて、まるで夢を見ていたかのようにすごくすごく嬉しかった。
でもね、ちょっと不安なことがある。
新しい患者服に着替えてた時、まだ私の体(腹部)にはクモの刺青が刻まれたままだった。
旅団全員が刺青を消した時、わたしだけ消してもらえなかった。
きっと、クモの証をクロロは残したかったんだ。
クラピカにわたしはクモだったことを、忘れさせないために。
この刺青を見せれば、クモのことを必ず思い出させてしまう。
この刺青が消えない限り、一歩踏み出すきっかけがないと、クラピカには我慢させてしまうかもしれない。
この先ずっと、クラピカの温もりが感じられなくなりそうで怖い。
それにわたしは人を何人も殺めてきた。
そんなわたしが幸せになってもいいのかな…
『……あの、昨日の話だけど…』
「なんだ?」
クラピカは澄んだ瞳でソフィアを見つめ、耳を傾ける。
ソフィアは勇気を出して尋ねた。
『本当に、わたしでいいの?わたし、まだクモの刺青が刻まれたままだし…
正直に言うと、わたしの手は罪で汚れた汚い手だと思ってるのかなぁって不安なの。後で後悔するかもしれないよ?だから…』
クラピカは安心して笑いながら、ソフィアの頭を優しく撫でた。
「馬鹿だな、そんな訳ないだろう?後悔など決してしない。例え後悔を一度ぐらいしたとしても、私はソフィアと後悔しながら生きていく。それに、お前は汚れてなどいない」
『…あとわたし、クラピカみたいに頭も良くないし、落ち着きないし、クラピカにいつも心配ばかりかけちゃうし…それに、わたしよりも可愛い子いっぱいいるよ??』
「…確かにお前は頭も悪く、天然で、日頃から色々と心配でしょうがない」
ガーーーン。
クラピカの言葉にソフィアはショックを受ける。
感情表現が豊かなソフィアにクラピカは再び笑うと、ソフィアを愛おしげに見つめた。
「だがそれも含めて、お前の全てが愛しい。ソフィアでなければ駄目なんだ…」
優しい声で告げるクラピカだが、ソフィアはまだ納得がいっていない様子。
『…わたしのこと好き??』
「あぁ」
『どれくらい好き??』
真っ直ぐに見つめていたクラピカは、ふと目を逸らして横に向いて答えた。
「それは言えない質問だ」
『え、なんで??』
悲しそうな表情でじっと見つめるソフィアに、クラピカは咳払いをしながら答えた。
「言える訳ないだろう」
ソフィアはほっぺを膨らませると、横になり布団の中に潜り込んだ。
「…ソフィア、もしかして拗ねたのか?」
『だってどれくらい好きか言えないんでしょっ!もういい…』
クラピカは軽くため息をつくと、布団をはがそうとする。
しかしソフィアは頑なに顔を見せようとしない。
「なら、もう帰るからな」
クラピカは帰る足音を出して、ベッドの横でしゃがんで隠れた。
静かになった病室に、ソフィアは帰ったのかと確かめに起き上がった。
自分以外誰もいない病室。
あれ、帰っちゃったのかな…
すると、クラピカが突然ベッドの下から姿を現した。
『きゃ…っ』
ソフィアの腕を掴むと強く唇を重ねるクラピカ。
そして、深い大人のキスをする。
彼のキスに応えるのに必死で、ソフィアの頭は真っ白になった。
長い長いキスが終わり、クラピカは唇を離すと、真っ直ぐな瞳で彼女を見つめた。
「……これぐらいお前が好きだ。気がおかしくなるほど惚れている。これで分かったか?」
『…う、うん///』
突然の深いキスと告白にソフィアの思考が停止し、顔が熱くなっていく。
「ソフィアが照れるな。私まで照れるだろう///」
見るとクラピカの頬は紅く染まって、口元に手を置いていた。
この幸せが、明日、明後日、来週、来年、何年後もずっと、永遠に続いてほしい。
永遠という言葉が、この世界に、どうか存在していますように。
この先クラピカが隣にいてくれるなら、わたしは何があっても怖くないよ。
このとき、心から強くそう思った。
しかし、それから3日後に思いがけないことがソフィアを待ち受けていたのだったーーー‥
next…