ヨークシン編
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太陽がのろのろと沈んでいくのを眺めていたクロロは、アジトに近づいてくる人の気配を感じ取った。
「ーーー来たか…」
その言葉に旅団も警戒し始めた。
時を数えながら待っていたクロロは、足音が聞こえる方へ顔を向けた。
「…………」
その顔を見たとき、クロロの唇がかすかに吊り上がった。
シャルナークの念(携帯電話)により、体をロボット化にされて動けないソフィアは驚愕した。
クラピカ!!
それにみんな、どうして…っ
だめ…お願い、早く逃げて…!!
旅団の前で立ち止まったクラピカ、ゴン、キルア、レオリオは旅団を凝視した。
クラピカの両目が激しく煌めく。
これほどの激昂。
触れただけで切り裂かれそうな闘気。
クロロは剣呑な表情で、姿を現したクラピカを睨んだ。
「よく来たな…鎖野郎」
クロロが冷たく言い放ち、ノブナガはにたりと嗤うと刀を取り出した。
「この日が来るのを待ちくたびれたぜ、クラピカさんよぉ…それに、またガキも来たのか。こりねぇなぁ」
「わざわざ殺されに来っとは、珍しいガキだな」
フィンクスは両指をポキポキ鳴らしながら立ち上がった。
旅団全員は、いつでも襲い掛かる体勢を構える。
クロロはクラピカの緋色の眼を凝視し、残虐に笑った。
「心地よい殺気だな…彼女を助けに来たのか。だが彼女は渡さない。どうしても欲しければ力ずくで奪うんだな」
「黙れ…!!」
クラピカが怒号した。
クロロは表情を変えず、クラピカの怒りの眼光を真っ向から受け止めるとソフィアに言い放つ。
「リリー、鎖野郎の元に行きたければ、自害した後を追え」
クロロは右手に本を具現化し、旅団に命令を下した。
「鎖野郎はオレが殺す。それ以外は好きにしていい」
その言葉を合図に旅団はゴン、キルア、レオリオに襲い掛かる。
ゴンとレオリオがクラピカの盾になり、フィンクス、フェイタンの攻撃を防御する。
キルアはノブナガ、シズクの攻撃をかわした。
レオリオはナイフで攻撃をしながら、振り向きもせずクラピカに向けて叫んだ。
「クラピカ、急げ!!」
クラピカは旅団の攻撃を避けながら、ソフィアの元に向かう。
ソフィアの元に近づいたその時、クロロの出した密室遊魚(インドアフィッシュ)がクラピカに襲い掛かった。
振り返ると同時に突進してくる影があった。
身をよじらせて回避したクラピカの左肩を、煌めく切っ先が掠めた。
かすかな痛みのあとに、鮮血が舞う。
飛び退って体勢を立て直しながら、クラピカは上がった呼吸を努めて抑えた。
クラピカが先ほどまで立っていた場所に、ソフィアがいた。
上を見れば、旅団の一人が携帯電話でソフィアを操作している。
絶句するクラピカにクロロがナイフで襲い掛かる。
「どうした鎖野郎。ウボォーに使った鎖で攻撃しないのか?」
クラピカはひたすらクロロの攻撃を避けた。
「死にぞこないめ、仲間の元に送ってやる」
その言葉にクラピカが怒りで我を失い、鎖を使おうとした。
その時、一枚のトランプがクロロに襲い掛かる。
クロロは瞬時にそのトランプを避け、飛んできた方に顔を向けた。
「ヒソカ…!」
「団長の相手はボクだ◆ボクが入団したのは、いや、入ったと見せかけたのは、あなたと闘うため★」
ヒソカはそう告げると、クラピカの方に顔を向けた。
「何を手間取ってるんだい?団長はクモのままだよ◆クモのリーダーはクモから外れられない★」
「ヒソカ!!お前…!」
クロロはヒソカに怒号した。
その事が分かったクラピカは、迷いもなくクロロに鎖で攻撃する。
それを避けたクロロは、ヒソカのトランプの攻撃にも避けた。
まさに2対1の状態に気づき、クロロの危険を感じたマチ、ノブナガ、パクノダは、クロロの助けに向かう。
クラピカはクロロ以外の敵には鎖で攻撃できないため、旅団の攻撃をかわしながらゴン達の姿を探した。
目に映った光景は、フェイタンに迫られてレオリオが壁に寄りかかっている。
レオリオ!動けないのか!?
怪我をしたのか!?
クモがレオリオを襲う前に…
早く助けなければ…!
レオリオを守ろうとゴンが必死に攻撃する。
しかし、ゴンはフィンクスに首を掴まれた。
ゴンの首が折れやすいように両手で掴まれる。
フェイタンはその隙に弱っているレオリオの首に刀を押し当てる。
フェイタンが僅かに刀を引く。
勢いをつけて、一気に喉笛を裂こうというのだ。
が、悲痛な叫びが彼の手を止めた。
「よせ…!!」
もう…ここまでか。
すまねぇ…クラピカ。
レオリオは目を閉じた。
そのとき。
トランプがフィンクスとフェイタンに襲い掛かる。
ゴンの首を掴んでいたフィンクスの指の力が弱まり、ゴンはその隙に逃れた。
フィンクス、フェイタンはトランプを避けて、投げたヒソカをぎっと睨み付けた。
「てめぇ…!」
「ヒソカ、何をするか?」
二人の激昂の言葉を聞き流し、ヒソカはゴンの元に近づいた。
「ゴン◆ダメじゃないか★ボク以外の人に簡単に殺られちゃ…◆キミはボクの大事な獲物なんだから★」
フィンクスとフェイタンはヒソカに向き直った。
二人は怒りに任せた強烈なオーラを抑えることなく、ヒソカを凝視した。
「無視すんじゃねーぞヒソカ…!」
「ヒソカ、お前…ワタシ達を裏切るか」
常人であればすくんで動けなくなってしまうであろう激しい闘気に、しかしヒソカは笑みを浮かべた。
「裏切るも何も、ボクは元々クモじゃない◆クモに入ったと見せかけて、団長と闘うため★」
「ヒソカ…!!」
フィンクスとフェイタンはヒソカに襲い掛かる。
ヒソカは余裕の表情で攻撃をかわしながら、トランプ一枚を片手にやり返した。
クラピカはクロロ、ノブナガ、マチの攻撃をかわし防御しながら、クロロを捕えようとする。
クロロはそれを巧みにかいくぐり、少しずつクラピカに傷を負わせていく。
中々クロロを捕えることができないクラピカは、苛立たしげに歯噛みした。
ソフィアに突き立てられた左肩が熱を帯びている。
時間が経てば直ぐに癒える程度の傷だが、今はその熱が妙に鬱陶しい。
クラピカが壁に追い詰められたとき、そばにはゴン、キルア、レオリオがいる。
旅団に囲まれた状態だ。
先ほどからずっと見物していた旅団の一人、フランクリンがクラピカ達に指先を伸ばす。
この先の行動が読めたクラピカは、直ぐ様レオリオの肩を担ぐ。
フランクリンは”俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)”を使い、両手十指の全てから機関銃のように念弾を連射した。
4人はその念弾を避け、出口の後ろに隠れた。
「どうする!?」
「リーダーだけはクモだ!私の鎖が使えるようだが、奴の1秒の隙が無い限り捕えられない…!」
クラピカの言葉にゴンは目を見開くと、頭に浮かび上がった提案を3人に話し出した。
「そうだ!オレとキルアの念を一点に集中させて、クラピカの盾になるんだ!!キルアとならやれる!!」
自身気に話すゴンにキルアは頷いた。
「あぁ、オレもゴンとならやれる!!」
「す、すまねぇな…みんな…」
脇腹に怪我をしたレオリオは震える声を吐き出すと、横に崩れた。
「しっかりしろ…!レオリオ!傷は浅い、後で私がホーリーチェーン(癒す親指の鎖)で治してやる!」
心配したクラピカにレオリオはかすかに目元を和ませた。
「ありが、とよ…クラピカ…」
「クラピカ!キルア!時間がない、行くよ!!」
「あぁ!!」
ゴンの合図にゴンとキルアは、念をクロロに集中させ、走り出した。
念弾はゴンとキルアに襲い掛かるが、念のバリアで念弾は二人の体に全く触れず、二人はクロロとの距離を縮めていく。
クラピカは二人の後ろで必死に足を進める。
ゴンとキルアがクラピカを守り、進むだけの力を与えてくれる。
体が信じられないほど軽くなる。
クラピカは息を詰めて地を蹴った。
クロロに狙いを定めると、気合いとともに鎖を放つ。
「チェーンジェイル(束縛する中指の鎖)!!」
「ーーーーー!」
鎖は一瞬にしてクロロの体に絡みついた。
クロロの全身を完全に拘束する。
クロロは怒りに燃える眼光をクラピカに向けた。
クラピカは臆することなく、クロロの眼光を真っ向から受け止める。
旅団がクロロの元に駆け寄った
「「「団長!!」」」
「来るな!!オレに恥をかかせるな!」
低く、怒気のはらんだクロロの命令に、旅団は足を止めた。
己に据えられた緋の眼を凝視して、クロロは余裕の表情で笑った。
「ウボォーと同じようにこの鎖で掟の剣をオレに刺すのか?一体どんな条件だ?」
クラピカは顔色ひとつ変えずに応えた。
「知っているなら話は早いな。貴様に3つ条件を出す。1つ、今後念能力の使用を一切禁じる。2つ!今後元旅団員との一切の接触を絶つこと!!3つ…」
クラピカの緋色の眼が冷たく煌めいた。
「二度と、ソフィアに近づくな!!その3つが条件、イエスかノーかは貴様が決めろ!」
クラピカの迸るオーラはますます苛烈さを増していく。
緋の眼の眼光を凝視しながらクロロは考えた。
ノーと答えたら、鎖野郎は確実にオレを殺す。
オレが死んでもクモには何の問題もない。
クモは永遠に、動き続ける。
だがリリーは鎖野郎のものになる。
今ここで死ねば、奴の思うツボか。
「答えは……イエスだ」
クラピカは僅かに眉をひそめると、クロロの左胸に狙いを定め”律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)”を勢いよく放った。
鎖の刃はクロロの心臓に突き刺さる。
旅団は愕然とクロロを凝視した。
この…よくも、団長を…!
絶対に、許さねえ…!!
ノブナガは、殺気のこもった目でクラピカを睨んだ。
そして、”隠(イン)”を使ってクラピカの後ろに近づき、刀を構える。
それに気づいたクロロは笑みを浮かべて、クラピカに嗤笑のにじんだ声で言い放つ。
「…死ね、鎖野郎」
「なっ……」
後ろに気配を感じたクラピカは、瞬時に後ろに振り向いた。
「クラピカッ!!」
自分の名を呼ぶゴンの声とともに、ノブナガの刀が肉に切りかかる音に続いて、切り裂かれた肌から舞う鮮血の臭気が鼻をついた。
一瞬の出来事だった。
目を開けたクラピカは、愕然とした。
一瞬、目の前で何かが光る。
それは、耳にはめられたひし形のイヤリング。
その肩からとめどなく血が溢れている。
背中が真っ赤に染まって、止まらない出血が血溜まりとなって広がっていく。
訳が分からない。
刀は真っ直ぐ自分に切りかかるはずだった。
なのに、何故…
ソフィアがその刀を受けるのだ。
ソフィアの体が大きく傾いて、倒れる寸前のソフィアを受け止める。
目を閉じているソフィアを見て、クラピカの心臓が、冷えた。
急に全てが現実なのだと思い知らされて、クラピカはひきつれた声を上げた。
「…ソフィア、しっかりしろ!!目を開けるんだ!!ソフィア…っ!!」
抱えるソフィアの背中からは出血が激しく、脈打つたびに激しく噴き出している。
ゴンとキルアもソフィアの元に駆け寄った。
瞠目したノブナガはソフィアの首にシャルナークのアンテナが刺さっていることに気づく。
ノブナガは眉を吊り上げ怒号した。
「おいシャル!!てめぇ…なんでリリーを前に出した!!」
シャルナークは怒りに任せて叫んだ。
「ボクは何もしてない!!リリーが勝手に動いたんだ!!」
立ち竦んだまま旅団はソフィアを見つめた。
「くそ、間に合うか…!」
クラピカは”癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)”で傷口に鎖を当てて、自己治癒力の強化により完治させた。
キルアはクラピカの命令により電話で救急車を呼んだ。
だが、いまから止血しても、出血がひどすぎる。
ソフィアが死ぬのは時間の問題だ。
「ソフィア…ダメだ、死ぬな!!私を、置いていくな!!目を開けるんだ、ソフィア…!!」
「無駄だ。彼女は死ぬ」
力のない声が、全員の耳朶(じだ)を打つ。
クラピカはクロロを振り返った。
クラピカは狂気の宿った恐ろしい緋の眼でクロロを睨みつけた。
「貴様…!!これ以上、口がきけないようにしてやる!!」
クラピカはソフィアを静かに寝かせると、クロロの元へ足を踏み出した。
だが、クラピカの腕を、背後からゴンが掴んだ。
「クラピカ!今は奴らよりもソフィアとレオリオを助けないと!!」
クラピカは歯を食いしばった。
深い緋色の眼光は殺気にも似た烈しさを持っていた。
そのとき、遠くから救急車の音が聞こえる。
旅団の一人、フランクリンが口を開いた。
「全員、ここから出るぞ。これ以上、鎖野郎とかかわれば占い通りになっちまう。行くぞ…」
そう告げると、フランクリンはその場から歩き出し、他の旅団も出口へと歩き出した。
旅団はクラピカを横目で睨みながら足を進める。
肩越しに、パクノダは一瞬だけクロロを顧みた。
物言いたげに目を細めて口を閉じ、しかし彼女はそのまま闇にまぎれて姿を消した。
心の奥に封じ込めていた光景が、甦る。
ーーーー許さない…!!
泣き叫んでいる。
あれは、私だ。
横たわる死体。
くぼんだ眼窩の空洞。
そこから流れた血の跡。
どくんと、クラピカの心臓が跳ね上がる。
倒れたまま目を開かないソフィアの姿が、あのときの同胞達に重なった。
私を見上げて笑った、幼い少女。
孤独の中に沈んでいた私を、救い上げて温もりを与えてくれた、少女。
守る。
私の命を懸けても、お前を。
二度と失わないと決めた、お前を…
それなのに。
彼女の背中を染める血が、広がるのを少しずつ止まっていく。
眠っているようなソフィアをクラピカは優しく抱え上げて、抱き締めたーーー…
next…