ヨークシン編
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ぼんやりと、クラピカは寝転がっていた。
目だけを動かして、状況を確認する。
暗い。見たことのない場所にいた。
明かりがどこにもなく、なのに視野が広い。
おかしい。
眠っていたはずなのに、ここは何処だ。
起き上がって周りを見渡してみると、離れたところに背を向けたソフィアがいた。
「ソフィア…」
クラピカは、ほっとした。
息をついてソフィアの元に足を進める。
ふと、ソフィアが首をめぐらせてクラピカを見た。
クラピカは思わず立ち止まる。
「……ソフィア?」
ソフィアはクラピカをしばらく見つめた。
ふいと向きを変え、ソフィアは闇の中に歩き出す。
「ソフィア、何処に行くんだ?」
問いかけても、返事はない。
クラピカは駆け出した。
ソフィアがどんどん遠のいていく。
走っても、走っても、距離が縮まらない。
闇の中にソフィアの姿がまぎれていく。
「ソフィア、待て!!何処に行くんだ!!」
クラピカは叫ぶ。
しかし、ソフィアはどんどん歩いていく。
その先の闇に、闇よりさらに黒い影がただずんでいることに、クラピカは気がついた。
「……なんだ?」
ソフィアが立ち止まる。
黒い影が、立ち止まったソフィアに手を伸ばして、覆う。
心臓が跳ね上がった。
冷たい汗が噴き出して、体温がすっと下がっていく。
「……行くな」
闇がソフィアを完全に覆い隠す。
クラピカは必死に叫んだ。
「行くな、ソフィアーーー!!」
目を開くと、暗闇だった。
クラピカはがばりと跳ね起きた。
汗で頬に髪が貼りついている。
鬱陶しげにそれを払って周囲を見回したクラピカは、隣で眠っているソフィアを見つめた。
「………」
クラピカは横になると手を伸ばし、ソフィアを腕の中に抱き締めた。
ソフィア…私はお前に全てを捧げる。
お前の存在が私の生きがいだ。
クラピカは片手で左耳のイヤリングを外し、眠っているソフィアの左耳にそれを付けた。
お前を守る。
この先、何があっても。
私の命に代えても。
必ず……
9月4日の朝。
クラピカの携帯電話に一通のメールが届いた。
受信:ゴン・キルア
≪デイロードコウエンデマッテル!!≫
それを知ったソフィアは慌てて身支度を始めた。
『クラピカ見て!この服どう?』
「どうしたんだ、その服…」
『ボスと遊んでたときにいらないからってくれたの!似合うかな??』
ソフィアが身につけているその服装は、今までの黒で落ち着いた服装とは正反対の、デニムブルゾンの中はボーダーニット、黄色のスカートで女性らしく明るい服装だった。
「似合ってるとは思うが…服装でだいぶ雰囲気が変わるものだな」
『そうかなぁ?でも久しぶりにスカートがは履けて嬉しい♡あ、次は髪の毛もセットしちゃおっかな!』
ソフィアは30分以上鏡の前で一生懸命髪の毛をセットし、ネオンから貰ったメイク道具で化粧を始めた。
その時、見覚えのあるひし形のイヤリングが自分の左耳にいつの間にか付いていることに気がついたソフィアは、クラピカに尋ねた。
『クラピカ、このイヤリングってクラピカの?』
「あぁ、それは父の形見だ。失くすといけないから、預かっててくれ」
大切なものを、もう二度と失わずにいられるように。
「私がいない時でも、これがきっとソフィアを守ってくれる」
ソフィアは瞬きをして不思議そうな顔をした。
『え、そんな大事なものならクラピカが持ってた方が…』
「お前に、持っていてほしいんだ」
真剣な面持ちで言い切られて、ソフィアはこくりと頷いた。
そして、一時間後。
クラピカとソフィアは、デイロード公園に向かった。
クラピカはソフィアの長い準備に待ちくたびれたのか、それともただ気分が乗らないのか、無言で足を進めていた。
二人の間にしばらく沈黙がつづく。
ソフィアは自分の前を歩くクラピカの背中をただ見つめていた。
今クラピカは、クモが死んだことで引きずっているのかな…
クラピカが言うんだから、クモが死んだことは間違いない事実だと思う。
でもわたしは、未だにクモが死んだことが信じられない。
きっと、この目で確かめれば現実を受け入れることはできたのかもしれない。
クラピカは、自分の目でクモが死んでる姿を見たんだね…
本当に死んだなら、心からよかったと安心してる。
でも、このすっきりしない、言葉に言い表せない感情はなんだろう…
3年半過ごしてきた旅団との思い出を、もう思い出したくないのに…
何度も、何度も、頭に浮かんでくる。
もう、全部忘れたい。
何も考えたくない。
これからは、クラピカの復讐のことも考えなくてもいいんだよね?
だから、クラピカと同胞の眼を取り戻すこと。
クラピカとこれからのことを考えればいいんだ。
……そうだ!
『ねぇ、クラピカの夢ってなに?』
突然の質問にクラピカは足を止め、ソフィアの顔を見た。
「私の夢は…もう叶ったからな。ソフィアがこうして生きてくれていたことだ」
『…わたしはおばあちゃんになるまで、ずっとずっと生きるよ。ねぇ、なんか夢ないの?あるでしょ??』
そう聞かれてクラピカは、地面を見つめながら少しばかり悩んでいたようで。
しばらくしてようやく答えを見つけたのか、顔を上げてソフィアを真っ直ぐに見つめた。
「私とソフィアと将来の子どもと…三人で手を繋いで歩くことだな」
え…?
それって…
ソフィアは予想もしなかった答えに、目を見開き固まった。
クラピカの家族になるってこと??
じゃあ、これはプロポーズ!?
え、どうしよ~!!
わたしの夢がクラピカと同じだなんて、まるで夢みたいっ
うれしい////
顔を紅くして幸せそうに、にやけているソフィアにクラピカは問い返した。
「ソフィアの夢はなんだ?」
『夢かぁ…ん~』
いざ自分が聞かれると、いっぱいありすぎて悩むなぁ。
「昔、言っていたな。お嫁さんになりたいと。それは?」
クラピカ、覚えててくれたんだ!
わたしの夢はクラピカのお嫁さんになりたいって言ってたあの願い。
もう忘れてると思ってたのに…
『もちろん今もお嫁さんになりたいよ!!』
「誰のでもいいのか?」
『ダメ!!わたしはクラピカのお嫁さんになるのっ♡』
その答えを聞いたクラピカは安心したように微笑み、そしてソフィアの手をキュッと握り締めた。
「…仕方がない。私の嫁にしてやろう。覚悟はできているか?」
『もちろん!!いつでもOKだよ♡』
嬉しくなったソフィアは手を強く握り返す。
クラピカは満面の笑みで笑うソフィアを愛しい目で見つめた。
叶えばいい。
いや、絶対に叶えてみせる。
天国にいる家族と友達のために。
仲間のために、愛する人のために、これからも生きていかなければならない。
必ず、何があっても…
お前を幸せにしてみせる。
だが、今は…
『二人の夢、絶対に叶えようね!約束だよっ。…あ、もしかしてここがデイロード公園!?』
「あぁ…」
ソフィアは元気に走り出し、ゴン達の姿を探した。
遠くの方で半年ぶりに見るゴンとキルアの姿を見つけた。
二人は一生懸命、目の前にある食べ物を口に含めていく。
どうやら早食い競争中らしい。
そんな状況でもソフィアはお構いなしに大声で二人の名前を呼んだ。
『ゴーン!!キルアー!!』
「ぶぁはピカ!!リリーッ!?」
ゴンはソフィアの姿にとてつもなく驚き、口に含めていた食べ物を勢いよくキルアの顔に吐き出した。
ゴンは急いでソフィアの元に駆け寄る。
「リリー!!え、生きてたの!?」
『うん!この通り元気に生きてるよっ♪も~ゴン、会いたかったよ~!!』
「わっ、リリー!!痛いってえ!」
ソフィアは嬉しさの余り、ゴンに思いっきり抱き着いた。
すると突然、後ろからゴンの顔にアイスがぶつけられる。
ソフィアはキルアの姿を見て声を上げた。
『キルア!!』
「オイ、お前…ほんとにリリーか??」
『当たり前でしょ!?でもほんとは名前が違うけどね!そんなことより、キルア~!!』
今度はキルアに抱き着いた。
「ちょ、おい!やめろよリリー!!」
無理矢理ソフィアの体を離し、ばっと顔を後ろに反らすキルアにゴンが顔を覗いた。
「あれ?もしかしてキルア、泣いてるの!?」
「バカ!!泣いてねぇよっ!!」
『え?キルア、なんで泣いてるの!?』
ソフィアもキルアの顔を覗き始め、キルアはもう一つ手に持っていたアイスをソフィアの顔にぶつけた。
『きゃっ…ちょっと!!せっかくメイクしたのにぃ!!』
「知らねーよ!!オレの気も知らねーで!!」
『はぁ?なにがよ~!?』
「キルアー!!」
三人は口喧嘩をしながら、食べ物をぶつけ合う。
その光景を前にして、クラピカはようやく、心から笑みを浮かべると笑い出した―――…
ソフィア達は途中レオリオとホテルで合流し、半年ぶりに全員揃ったところでソフィアとクラピカは部屋で一通り今までのことを説明した。
ハンター試験後、ソフィアは真実を知る為に自ら旅団に会いに行き、団長から念で記憶を入れ替えられて、幻影旅団に入団したこと。
その半年後、クラピカと再会したこと。
記憶が戻り、リリーはクラピカの幼馴染の同胞、ソフィアだったこと。
旅団の一人を殺したのではなく、戒めの楔で念の刃を刺したこと。
クラピカの念能力の秘密のこと…
話を全て聞いた3人は、驚きの余り言葉を発することなく静まり返っていた。
恐ろしいほどに真剣で重い沈黙を破り、先に口を開いたのはゴンだった。
「制約と誓約…?」
「あぁ…念は精神が大きく影響する能力。覚悟の量が力を上げる。しかしそれは高いリスクをともなう。
私は念能力の大半をクモ打倒のために使うことを誓った。そのためにルールも決めた。
クモでない者を鎖で攻撃した場合、私は命を落とす」
クラピカの言葉にソフィア達は、落雷のような衝撃を受けた。
命を、落とす…?
そんな、嘘でしょ!?
ソフィアの両手が握り締められて、かたかた震えている。
それに気づきながら、クラピカは更につづけた。
「私の心臓には念の刃が刺さったままだ。私の能力は憎悪が生んだ恨みの産物。クモ以外には全く通用しない力だ。
お前達だから話した、他言しないでくれ」
「…なんで、何で話したんだ!!そんな大事なこと!!」
突然キルアが立ち上がり、激しい口調で怒鳴った。
「キルア?」
ゴンが呼び掛けてもキルアはクラピカを凝視したままだった。
クラピカはしばらく思案すると、再び口を開いた。
「……うむ、確かに。なぜだろうな…奴等の頭が死んで…気が抜けたのかもしれない」
「まずいんだ!!まだ残ってる!!奴等の生き残りに記憶を読む能力者がいる!!おそらく対象者に触れるだけで欲しい情報を読み取れる力だ!
例えオレ達が全くしゃべる気がなくても、そいつなら自在に記憶を引き出す。もしあいつにこのことがバレたら、クラピカに勝ち目はなくなる!!」
――――
―――――…
その頃、幻影旅団のアジトでは昨日ソフィアが生きていた事実、今後のことについて話し合っていた。
「どーいうことだ?リリーだけ探して引き上げるってのはよ」
怒気のはらんだ声で尋ねるノブナガにクロロは表情を変えずに答えた。
「言葉の通りだ。今夜までにリリーを捕まえて、ここを立つ。今日でお宝は全部いただける、それで終わりだ」
「……まだだろ。鎖野郎を探し出す」
言い切るノブナガに対し、旅団は冷たい視線でノブナガを凝視した。
「こだわるな」
「あぁ、こだわるね」
黙って会話を聞いていたフランクリンは、引き下がらないノブナガに静かに怒りをぶつけた。
「ノブナガ、いい加減にしねェか。団長命令だぞ…!」
しかしノブナガはフランクリンの言葉を無視し、再びクロロに尋ねた。
「本当にそりゃ団長としての命令か?クロロよ」
クロロは全員からの視線を受ける中、クロロの脳裏に流星街で過ごした日々が浮かんで消えた。
始めは、ただ欲しかった。
「ノブナガ、オレの質問に答えろ」
クロロは片手に書物を具現化させると、ノブナガにいくつかの質問をし、ネオンから盗んだ“天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)”を使い始めた。
そして、旅団全員を占うと鎖野郎(クラピカ)と闘えば被害が大きく、来週には5人死ぬことが明らかとなった。
緊縛した重い空気の中、クロロは冷静に語り始めた。
「赤目の客…鎖野郎は……最低でも2つの能力を有する敵だ。1つはウボォーを捕らえた時の能力。もう1つはリリーの言動とヒソカの言動を縛っていた能力。
おそらく、後者は「掟の剣」という表現から相手に何らのルールを強いるものだろう。
リリーの話によると、ウボォーは死んでいないと話していた。ウボォーに関しては「我々旅団から一切関係を絶つこと」リリーとヒソカに関しては「オレに関して一切説明するな」と言ったところか。
そのルールを破れば、あの時のリリーのように“死ぬ”ということだろう」
この時、ヒソカは極度の興奮状態に陥っていた。
ああ…◆
やっぱりいいよ、あなたは★
絶対にあなたは、ボクが殺る…◆
「その剣でヒソカの言動を規制している。リリーの話が本当なら具現化系だと断定できる」
シャルナークはクロロの話を遮り、一旦話を整理した。
「敵は鎖の使い手。具現化系なら念で作った鎖を使ってウボォーを捕えた。おそらく、ウボォーを捕らえた瞬間に相手をマヒさせたり眠らせたりできる鎖を具現化してるなら、ちょっと難しい制約をつければ簡単にウボォーの力を押さえ込める」
疑問を感じたフィンクスはシャルナークに問いかけた。
「それならその時にウボォーを殺れただろ?なぜ鎖野郎はウボォーを殺さなかったんだ?」
「うーん…それは分からない。それにリリーが生きてると言ってるだけでその証拠はない。もしウボォーが生きてるなら、オレ達に何らかの証拠を残すはずだ。問題はそれよりヒソカを縛っている力…団長の挙げた命令である可能性が高い」
話を聞き終えたヒソカは怪しげな笑みを浮かべながら口を開いた。
「ボクはここに残るよ◆死ぬ前にまだやりたいことがあるんでね★仮宿は離れない◆」
クロロはヒソカに背を向けたまま答えた。
「いいだろう」
「団長はどうする?退くか残るか」
シャルナークの質問に、しばらく思案した後、クロロはノブナガとヒソカの視線を受けながら答えた。
「残ろう」
――――
――――――…
部屋では絶え間ない雨音と雷音が響いていた。
「どうする?やるならすぐだ!!考えてる時間ないゼ!!」
キルアは必死に説得した。
クラピカ、ダメだよ…
断って!!
これ以上、旅団と関わってほしくない…!!
全員が息を呑む中、考えていたクラピカは一瞬ソフィアを見ると、やがて答えを出した。
「…確かに、その女は私にとって危険だが、旅団(やつら)の頭が死んだ以上、私はゴン達の言う通り同胞達の眼を取り戻す事に専念するよ」
クラピカの言葉を聞いて、内心ホッとしたソフィアは大きく息を吐いた。
その時。
プルルル…♪
クラピカの携帯電話がなり、一通のメールが届いた。
受信:ヒソカ
《シタイハフェイク★-_-◆》
クラピカは落雷のような衝撃を受け、目を大きく見開いた。
突然立ち上がり、言葉もなく目を見開いているクラピカをソフィア達は見つめた。
『クラピカ?』
クラピカは何も告げずに歩き出し、部屋を出た。
嫌な胸騒ぎと突然のクラピカの異変に、4人は追い掛ける。
「なんだよ急に!!どーしたんだ!?おい、クラピカ!!おいって!!」
何度レオリオが呼んでも足を止めないクラピカに、キルアが問いかけた。
「……ヒソカから?」
クラピカは立ち止まると、震える声を吐き出した。
「あぁ…死体は偽物(フェイク)だと…」
どくんと、ソフィアの心臓が跳ね上がった。
「奴等の中に、そういう能力者がいるらしい」
その言葉に、ソフィアの脳裏には旅団の一人、コルトピが浮かんだ。
『コルトピだ…旅団の中に何でもコピーに出来る具現化系能力者がいるの!!』
旅団だったくせに、全く気がつかなかったなんて…
クラピカはうなだれた。
言葉もなく拳を握り締めて、肩を震わせる。
そんなクラピカに、キルアは問いを投げかけた。
「どうする?完全に事態は急変したぜ」
「そうだな、まずい…確かに、同じ具現化系の能力者なら可能だ。くそっ…何故こんなことに頭が回らなかったんだ…!!」
そんな時、再び携帯電話が鳴り出した。
クラピカは場所を離れて電話に出る。
「もしもし」
「クラピカ?あたしよ」
「センリツか、どうした?」
「コミュニティーが旅団の残党狩りを断念したわ!!」
「!?」
センリツの話によれば、幻影旅団は流星街の出身者だということが分かり、旅団への懸賞金も全て白紙に戻したことが明らかとなった。
一人で旅団を迎え撃つつもりだったクラピカだったが、ゴン達の説得により、4人もクラピカに協力することとなった。
5人はターゲットのパクノダという女を捕らえる方法とその役割を決めた。
旅団のアジトを張る役(中継係)、キルア。
クラピカと共に行動する運転手、レオリオ。
敵の目をくらます役(攪乱係)、ゴンにそれぞれ決まった。
『ねぇ、クラピカ。わたしは?』
「ソフィアは私と共に行動しろ、奴等はお前を探しているはずだ。絶対に私から離れるな」
ソフィアを安心させるように、クラピカは優しく笑った。
「大丈夫だ、お前は必ず守る。…ゴンやレオリオもいるから、心配ない」
『うん、ありがとう。クラピカ…』
そう言ってソフィアは笑みを取り戻し、ふたりは見つめ合った。
「「「………」」」
完全にふたりの世界だな…
こんな時に見せつけてくれるよなァ、ったくよォ…(あー女欲しい…)
とレオリオは首元を手で掻き出し、やってられないといった感じにふたりから視線を反らした。
キルアはそんなふたりを見て、怒りをぶつける視線を一瞬クラピカに向けたが、目が合ったクラピカにニコッと微笑み返され、何故か照れながら視線を反らしてしまった。
「さて…んじゃオレ、行くよ。時間がもったいないからね」
『キルア、気をつけてね!!』
「おう、任しとけって」
ちょっとやる気でたから。
それに、お前の為でもあるからな。
キルアはそう言い残すと、蜘蛛のアジトに向かいだした。
ソフィアはキルアの後ろ姿を見送りながら、高まる緊張と不安が押し寄せていた。
……大丈夫。
仲間を信じるんだ。
みんなきっと、無事に作戦実行できるよね。
次第にソフィア達はレオリオの車に乗り込んだ。
しかし、これから先…
思いがけない事が待ち受けていることを、この時のソフィア達は知る由もなかった―――…
――――
―――――…
「それじゃ、班を決める。来週はこの班を基本に動き、単独行動は絶対に避けること。
シズク、パクノダ、マチ、コルトピ、フィンクス、フェイタン、ノブナガ、シャルナークはオレと。
ボノレノフ、フランクリン、ヒソカはここで待機」
そう告げたクロロに、マチが問いかけた。
「団長、一ついい?リリーが生きてたのは分かったけど、もう今さら仲間にする必要ないでしょ。リリーが鎖野郎の仲間なら、クモを裏切ってる訳だし」
「私もそう思うわ」
マチの意見にパクノダも同意すると、シズクは反対の意見を出した。
「私はイヤだな。だってリリーがいてくれた方が楽しいし…」
シャルナークはシズクの言葉を遮った。
「リリーがいま鎖野郎と一緒なら、過去の記憶を思い出している可能性が高い。鎖野郎が本当にクルタ族ならね。また、ここに連れてくれば半年前と同じ結果になるよ」
「団長」
マチの呼びかけに全員はクロロの返事を待つ。
「オレは…」
クロロは目を細めた。
たとえクモの裏切りだろうと。
過去の記憶を思い出していようと関係ない。
クロロはずっと心の一番深い場所に閉じ込めていた胸のうちを、旅団全員の前ではじめて口にした。
「リリーをオレのものにしたい。だから探し出す」
思わぬクロロの言葉に、全員は虚を突かれて絶句した。
「な…」
「団長、本気なの?」
マチの問いかけにクロロは真剣な眼差しで答えた。
「本気でなければこんな嘘をついても仕方ないからな。昔からそのつもりだった…なぜかはオレにも分からない。だが、どうしても手に入れたいのは確かだ」
一度失ってしまったからこそ、きっと二度目は、前よりももっと大事にすることができる。
絶対にリリーを手に入れる。
鎖野郎に、決して渡さない。
リリーにどれほど恨まれようが、泣きわめこうが、どんな手段を使ってでもオレだけのものにしてみせる。
たとえ、クモのリーダーの座を失うはめになろうとも。
「―――それでも文句のある奴は…クモから外す。全員、何か言いたいことはあるか?」
旅団全員は、答えられなかった。
団長からはじめて告げられた「クモから外す」の言葉。
これほどまでに固く、旅団をも犠牲にできる決意。
恐ろしく長い沈黙の末、ノブナガが重い息を吐き出した。
「…ねェよ」
next…