ヨークシン編
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『…クロロ?』
クロロは表情を変えず、ゆっくり歩みを進めてくる。
ソフィアは、突然心臓がたたかれたように跳ね上がるのを自覚した。
息があがる。
どうして…………
クロロがここにいるの…!?
捕まったら、まずい…っ
心臓はばくばくと早鐘を打っているのに、すうっと血の気が下がっていて、訳もなく全身ががたがたと震えだした。
「…ソフィア!!」
ソフィアはその場から全速で走って逃げた。
ソフィアが身を翻すと同時に、息を呑む速さでクロロは追いかけた。
『は、速い…っ!』
クロロとの距離が縮まっていく。
逃げられない…!
ソフィアは近くの店に逃げ込もうとしたその時、腕を捕まれた。
ソフィアが大声を出そうとしたその瞬間と同時に…
ソフィアは意識を失った―――――――…
クラピカとライト・ノストラードは、車でセメタリービルに向かっていた。
プルルルル♪
センリツからの着信にクラピカは電話に出た。
「もしもし」
「あ、クラピカ!?大変なのよ!ボスが逃げちゃったの!!それにソフィアも突然走り出して帰ってこないのよ!!」
「なに!?詳しく話してくれ!!」
「ボスは機嫌よく買い物してたと思ったら突然!トイレで着替えた上で逃げてるから計画的みたいなの!!
ソフィアは突然走り出して、若い男の人が凄いスピードでソフィアを追いかけてたわ!!おそらくソフィアはその男に捕まったわ!!」
「男に!?どんな奴だ?」
「それが一瞬だったから、よく見えなかったのよ。確か黒い服を着てたわ」
「そうか……。ボスのおよその行き先は見当がつく」
「ホント?」
「ああ、一度ホテルに戻って待機してくれ。途中ソフィアを見つけたら必ず連絡くれ」
「分かったわ」
電話を切ると、クラピカの心臓は早鐘を打っていた。
「どうした?」
「お嬢さんが逃走したそうです」
「何イ!?」
ライトは、驚きの余り吸っていた煙草にむせかえった。
「ソフィアも何者かに連れ去られたようです」
「ソフィアもか!?いったいどうなってるんだ!!」
怒鳴り込むライトに、クラピカは冷静さを保ちながら話し出した。
「ご安心を。ボスの行き先は我々と同じでしょう」
「オークションか!!」
「競売に参加する気ですね。何らかの方法でボスの嘘を見破ったのでしょう」
「うーむ…ああ見えて勘の鋭い娘だからな。だが参加は不可能だぞ!!」
ライトは、会場にネオンを参加させないよう保護してもらうため、セメタリービルにいる警官に電話をかけた。
センリツが言っていた若い男とは…
きっとクモに違いない。
だが、何故空港にいたんだ。
早く、一刻も早く、ソフィアを助けなければ…!
そうしなければ、またソフィアは旅団に戻ってしまう。
ソフィアを守ると誓った。
絶対に奴等に渡してなるものかと、思っていた。
それなのに…
このままソフィアを再び失ってしまったら。
このまま間に合わずに、救い出すことが叶わなかったら…
震える手をぐっと握り締めて、クラピカはふと眉をひそめた。
―――数分後。
警官から電話がかかり、ボスの情報を聞いたライトは再びセメタリービルの全警官に命令を下した。
「私が探しましょう…市内の地図はありますか?」
クラピカは右手の薬指の鎖(ダウジングチェーン)を差し出す。
ライトは直ぐ様クラピカに市内の地図を渡した。
地図の上に鎖をぶら下げ、位置を把握していく。
クラピカは瞠目した。
………まさか。
「…どうやら、お嬢さんとソフィアは既にセメタリービルの中にいますね」
「なに!?二人ともか!?一体どうやって!!」
「とにかく我々も会場に行きましょう」
「運転手急げ!!」
タクシーは更にスピードを上げてセメタリービルに向かう。
「……………」
クラピカは、膝の上でぎゅっと手のひらを握り締めた。
握り締めた指先に力が込もって、白くなる。
ソフィア…
頼む、どうか。
無事でいてくれ――――…
声が聞こえる。
聞いたことのない笑い声が。
『…………』
ぼんやりと開いた目は、しばらくの間あてもなくさまよった。
暗い。
視界に映る天井が全く見たことのないものだと思い当たったソフィアは、はっと息を呑んだ。
上体を起こしたソフィアは、眼を疑った。
幾つものカーテンがぶら下がり、巨大なフロントガラスのある部屋で、不気味な魚が游いでいる。
「はっはっひひひひ…おい、あんた、何故だ!?何故オレはまだ生きてるんだ!?」
笑う男は、自由に部屋を飛び回る魚にゆっくりと無惨に食べられていた。
フロントガラスの前に立っている一人の若い男が書物を片手に話し出す。
「この魚は密室遊魚(インドアフィッシュ)と言ってね。閉め切った部屋でしか生息できない念魚だ。
肉食で特に人を好む。喰われた方は痛みもなく、血も出ないので念魚が消えるまでは死ぬこともできない」
その言葉を合図に念魚は姿を消した。
男の体から大量の血が吹き出し、肉の塊が地面に崩れ落ちる。
ソフィアは恐怖のあまり、ひっと息を呑んだ。
「生きてたんだな」
外の景色を眺めていたクロロは、後ろに振り返りソフィアをじっと見つめた。
どくんと、ソフィアの心臓が跳ね上がる。
『ここはどこ…!?』
空港にいたはずなのに。
クロロに追いかけられて、それからのことを全く覚えてない。
眠っている間に連れ去られたのかな。
それにしても、どうやってここまで連れてきたんだろ…
混乱しながらも、冷静に問いかけるソフィアにクロロは壁のスイッチを押して答えた。
「ここはセメタリービルの中だ。リリー、聞こえるか?」
フロントガラスが開くと同時に、激しい銃声、爆発音が聞こえた。
「下ではオレ達の仲間が派手に暴れている。ウボォーが一番やりたがっていた殺しだ。リリーもこっちにこい、死んだウボォーに鎮魂曲(レクイエム)を届けよう…」
クロロはそう告げると銃声、爆発音に合わせて指揮を執り始めた。
見なくても分かる。
外はまるで戦争のような騒ぎだ。
早く、クモを止めないと…!!
全てをかなぐり捨てて、この場から逃げ出したい気持ちを、ソフィアは必死の思いで押し留めて怒鳴った。
『ウボォーは死んでない!!だから皆を止めて!!』
その言葉を聞いたクロロは指揮を止めた。
「ウボォーが死んでないとなぜ分かる?ウボォーが鎖野郎と闘ってた時、お前もいたのか?」
『!!……いや、いないけど…』
まずい!!
わたしったら…っ
慌てるソフィアを見つめると、クロロは軽く目を伏せた。
「嘘だな。リリー、鎖野郎を知ってるだろ?奴の居場所を言え」
その質問に対し、ソフィアは真剣な眼差しで問いかけた。
『もし、言ったらどうするの?』
「殺す」
ソフィアの心臓が跳ね上がった。
『なんで…?鎖野郎はウボォーを殺してない!!だから殺す必要ないでしょ!?』
「何故お前が鎖野郎を庇う?リリー…鎖野郎とは今、どんな関係だ」
抑揚のない声音で問いかけられ、ソフィアは応えられなかった。
クロロはソフィアの元へ足を踏み出した。
ソフィアは足を一歩引くと、身を翻し逃げ出そうとした。
しかし、逃げる暇を与えられることはなく背後から強く抱き締められる。
「行くな…!」
『ちょ…離して…っ!!』
「離さない」
抵抗するソフィアを無視し、動じないクロロ。
ただ、ただ、ソフィアの体を強く抱き締めて、呟いた。
「ずっと…お前を抱き締めたかった」
クロロの言葉に頭の中が真っ白になる。
『な、なに言って…』
「この際だから、全て打ち明けよう。オレはお前をものにするために、今まで生かしておいた。
予想より遥かにいい女に成長していくお前が傍に来るたびに、抑えきれない気持ちでいっぱいになっていたんだ。
だがお前が死んで、欲しいものを失ったオレは自暴自棄になり、お前を忘れようとしていた…そんな時、突然お前が目の前に現れた。
オレを抑えられなくなったのも、全てお前が悪い。
オレに二度も姿を見せたりするからだ。リリー、オレのものになれ」
ソフィアの心臓が激しく脈打っていた。
理解できない。
理解したくない。
ソフィアは怖くなり、必死にもがきながら怒号を張り上げた。
『嫌…っ!!』
クロロの腕から逃れて、ソフィアはクロロをぎっと睨み付けた。
『…ふざけないでよ。わたしの同胞を皆殺しにしたあんたと一緒にいられる訳ないでしょ!?あんたのものになるくらいなら死んだ方がマシよ!!』
本気で切れるソフィアをクロロは剣呑な表情で見下ろした。
まさか、記憶を思い出していたのか。
自分に見据えられた緋色の眼を凝視して、クロロは笑った。
「…随分と嫌われたな。だがリリー、お前はオレから逃げられない。お前の体にクモの刺青が刻まれている限りな」
ソフィアは僅かに眉をひそめた。
その時。
プルルルルル♪
ソフィアのポケットから携帯電話が鳴り響く。
クラピカ…!?
でも、いま出たら…
ソフィアはクラピカの情報が漏れるのを避け、電話に出なかった。
「なぜ電話に出ない」
怒気のはらんだ声で問いかけるクロロは、やがて強引にソフィアのポケットから携帯を奪う。
ソフィアは必死に携帯を取り返そうとした。
『返して!!』
クロロの瞳に、驚きの色が浮かんだ。
悲鳴のような叫びだった。
先ほどまでの冷静さは微塵もない。動きも隙だらけだ。
驚愕しながらもクロロはソフィアの手首を捉え、電話に出た。
「ソフィア!!いま何処だ!?」
低く透き通った男の声…
「お前が鎖野郎か?ソフィアはリリーのことか?」
クロロが問いかけると、クラピカは怒気をはらんだ声に変わった。
「貴様は誰だ…ソフィアをどうした!!」
“ソフィア”はリリーのクルタの本名か…
やはり、こいつがリリーと同じクルタの生き残り。
鎖野郎に間違いない。
「リリーはオレと一緒にいる。もう帰さない、必ずお前を殺してやる」
クロロは言い放つと電話を切った。
ソフィアは怒りが込み上げ、再び携帯を奪い返そうとした。
諦めないソフィアに対し、心中の怒りは更に増す。
クロロはソフィアの頭を手で押さえつけて、強引にキスをした。
必死に抵抗するソフィアの手首を掴み、そして造作もなくその場に押し倒し覆い被さる。
『やめっ…ん……』
クロロは噛みつくようなキスをする。
ソフィアは必死に抵抗する。
唇が塞がれているために言葉が出ない。
クロロはキスをしたまま洋服をまさぐり、ソフィアの胸を触った。
!!!!
『…やだっ!!』
ソフィアが発した大声に体を触っていたクロロの力が弱まり、ソフィアはその隙を見てクロロを強く蹴り飛ばした。
ソフィアは直ぐに落ちている携帯を拾うと、乱れた服のまま急いで部屋を飛び出した。
ソフィアはとにかく走り続けた。
廊下やロビーには背広の上下を着た男が集まっている。
怖い。
誰もいない場所にいきたい。
そう思って人当たりのない場所を探し、廊下の隅のベンチに座った。
すると、鳴り響く着信音。
クラピカ…
今すぐクラピカの声が聞きたい。
『……もしもし』
「ソフィア!!奴はいるか!?今どこだ!!」
『…もう、いない。どこか、わかんない…っ』
「泣いてるのか?一体どうしたんだ!!今何処にいる!?」
『どっかの廊下のベンチ…』
「近くに何がある?」
『大きい観葉植物がある…』
「分かった、絶対にその場から動くな!!」
そして電話はクラピカによって一方的に切られてしまった。
ソフィアの目からはとめどなく涙がこぼれ落ちる。
怖かった…
あんなに力が強いなんて…
必死に暴れたのに、びくともしなかった。
いつものクロロじゃない。
目を閉じてクラピカのぬくもりを一生懸命思い出そうとしても、さっきの出来事が鮮明に甦ってくるだけ。
あんなに男を怖いと思ったことがなかった。
それからしばらくたち…
遠くで廊下を走る靴の音が聞こえる。
「ソフィア…!!」
クラピカの声だ…
クラピカは急いでソフィアの元へ駆け寄り、強い力で抱き締めた。
クラピカが来てくれた安心感からか、罪悪感からか…
ソフィアは声を出して泣きわめく。
クラピカはいったんソフィアから体を離すと、真剣な眼差しで問いかけた。
「大丈夫か!?奴に何をされた!?正直に話してくれ!!」
『ごめん、なさ…っ、わたし…キス、された…』
クラピカは言葉を失った。
ソフィアが、キスをされただと…?
「旅団の一人か?」
ソフィアの肩が一瞬だけビクッと動いた。
言ってしまってから、後悔した。
絶対、言えない。
言えるわけない。
クラピカとわたしの同胞を皆殺しにした幻影旅団。
そのリーダーにされただなんて…
…悔しくて、悲しくて、涙が止まらない。
「…まさか、クモのリーダーか?」
クラピカの言葉に虚をつかれたソフィアは視線を反らし、やがて俯いた。
勘が良すぎだよ…
クラピカの顔を見られない。
答えられない。
しばらく無言だったクラピカは、再びソフィアを強く抱き締めた。
クラピカの体中から怒りと悲しみが体中にひしひしと伝わってくる。
「…ボスの部屋に行くぞ、センリツ達がもうすぐ来るはずだ」
『うん…でも、どうしてわたしがここにいるって分かったの?』
「…何故だろうな。おそらく私の、愛の力だな」
フフッと笑うクラピカの笑顔の裏に悲しさが見え隠れする。
わかってるよ、無理…してるよね。
クラピカはそれ以上、詳しくは聞いてこなかった。
その時。
下から大きな爆発音が聞こえ、まるで地震のようにビルが揺れる。
この先、クラピカとソフィアにとって衝撃な事実が待ち受けていた―――…
next…