ヨークシン編
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最後に聞いた言葉が、耳の奥に甦った。
二つの条件。それは…
「1つ、今後念能力の使用を一切禁じる。2つ、今後旅団員との一切の接触を絶つこと」
さすがにウボォーギンの顔色が変わった。
ウボォーギンは怒りに燃える眼光をクラピカに向けた。
「殺せ…ッ!!」
クラピカは表情を変えることなく、ウボォーギンの眼光を真っ向から受け止める。
ウボォーギンの心臓に鎖を打ち込み、全身に巻いた鎖を解くと自由になって気が抜けたのか、ウボォーギンはがくりと片膝をついた。
「くたばれ…ッバカが!!」
ウボォーギンが怒号した。
立ち上がり拳を振り上げて、気力でクラピカに襲いかかる。
ウボォーギンの目が大きく見開かれ、動きが止まった。
視界に映っているのは、両手を大きく開き、クラピカの前で盾になっているソフィアの姿。
ソフィアは、何かを訴えるような澄んだ真っ直ぐな瞳でウボォーギンを見つめる。
ウボォーギンは、物言いたげに目を細めて唇を噛み、しかし拳を下ろした。
そして、二人に背を向けて歩き出すと、クラピカを顧み低く怒気のはらんだ声で言い放つ。
「…覚えとけよ。次会うときはただじゃすまさねェ。いつか必ず、この仮は倍にして返すぜ」
「望むところだ」
クラピカは顔色ひとつ変えずに吐き捨てた。
ウボォーギンは最後にソフィアを見つめると、その場から去って行った。
クラピカの瞳が、緋色から碧色に変わっていく。
緋色に長く変わりすぎたせいか、よろめいてそのまま倒れかかったクラピカの体をソフィアが支えた。
『クラピカ!!大丈夫!?』
心配した顔のソフィアに、クラピカは手を伸ばし、ソフィアを強く抱きしめた。
クラピカはソフィアの肩口に顔をうずめる。
『クラピカ…??』
呼びかけに何も答えず、ただただ抱きしめる力を強めていくクラピカ。
様子がおかしい。
心なしかクラピカの体が震えているような気がする。
「……すまない」
か細いクラピカの声に頭の中が真っ白に染まる。
『え…』
「今まで、気がつかなくてすまなかった…っ」
ソフィアは目を見開く。
クラピカが、泣いていた。
腕の力を強めて、顔をうずめて、声を殺して。
強く触れ合ったその体からは、クラピカの気持ちがひしひしと伝わってくる。
痛いくらいに…伝わってくるよ。
『クラピカ、謝らないで…悪いのは、全部わたしなの…たくさん辛い思いをさせて…本当にごめんなさい…っ』
ソフィアの目から、とめどなく涙が溢れる。
懐かしい香り。懐かしいあたたかさ。
この胸の中にどうしても帰ってきたかった。
クラピカの抱きしめる力は強く、温かさに溶けてしまいそうになる。
「…もう絶対にソフィアを離しはしない。だから二度と、私の前からいなくなるな…っ」
ソフィアは頷くと、クラピカの体に手を回し返した。
『わたしも、ぜったいに離れない…ずっと、クラピカのそばにいるから…』
体はゆっくりと離れ、クラピカはソフィアの涙を優しく左手で拭った。
肌に触れる手は小刻みに震えている。
クラピカは真っ直ぐにソフィアを見つめた。
「好きだ…お前が、好きだ」
ずっとずっと、言われたかった言葉。
その証拠に、高ぶったどうしようもない気持ちが胸の奥からぐんぐん込み上げてくる。
『わたしも、クラピカが好き…大好きだよ』
こどもの頃もずっと。
リリーとして出会ってからもずっと。
同じ人を二度も好きになった。
きっとこれからも、クラピカしか好きになれない。
一度死んでもう二度と会えないと思ったのに、こうして出会うことができたのは“運命"なのかもしれない。
クラピカはゆっくりソフィアに顔を近づける。
ソフィアはそっと目を閉じ、その行為を受け入れる。
お互いの唇が触れ合うその瞬間…
プルルルルル♪
クラピカの携帯電話が鳴り響いた。
プルルルルル♪
『…………クラピカ、鳴ってるよ?』
「あ、あぁ…」
ちっ、何故こんな時に…
電話がかかってくるんだっ!!
余りにもタイミングが悪すぎる着信に苛立ちを見せながらも、クラピカは電話を出た。
「もしもし…」
「クラピカ?よかった!無事なの!?」
電話をかけてきたのはセンリツだった。
旅団の一人と決着をつけるとクラピカが告げてから、何時間経っても連絡が来ない事態。
生きているのか、センリツにしてみたら気が気でない。
クラピカは冷静を装って答えた。
「あぁ、これから戻る。もう一人一緒に戻るが、帰ってから事情を説明する」
「もう一人?…えぇ、わかったわ。ボスの父親は天候の関係で到着が深夜になるそうよ」
「そうか、分かった。それじゃ…」
電話を切り、クラピカはソフィアに視線を向けると、ソフィアは不自然に固まっていた。
その彼女の姿、そして目の前で存在している事実にクラピカは愛しさと嬉しさの余り、優しく笑った。
「ソフィア、行こう」
『え、どこに??』
目を丸くするソフィアに、クラピカは説明した。
「私はマフィアのノストラードファミリーに加わり、ボス(ネオン・ノストラード)のボディーガードをしている。そのボスとボディーガードがいるホテルに戻るんだが、一緒に来てくれないか?」
ソフィアは一瞬真っ白になった後、慌てて声を上げた。
『だっ、だめだよ!!だって、そこに行けばわたしとウボォーを捕らえた人達がいるんでしょ!?わたしが行ったらクラピカもどうなるか分からないんだよ!?』
「それは私が説得する。だから心配するな」
『でも…!』
「ソフィア」
クラピカはソフィアの肩をがしっと掴んだ。
ソフィアは、はっと息を止めて瞬きをした。
「言ったはずだ。もう絶対にお前を離さないと。私を信じて着いて来てくれ」
真剣な眼差しに気圧され、ソフィアは頷いた。
クラピカ、ごめんなさい…
もう離れないって言ったばっかりなのに、わたしバカだね。
もう二度と…何があっても離れたりしない。
ぜったいに。
こうして5年という長い時を経て、二人の歩む道はようやく一本の太い道へと繋がった―――――…
ホテルにたどり着き、二人はボスとボディーガードがいる部屋に向かった。
「クラピカ…」
扉が開き、クラピカの姿を見たセンリツは内心ほっとすると、後ろにいる少女に目を見開いた。
「「「…!!!!…」」」
他のボディーガードも彼女の姿を認めると、驚愕し後退る。
「こいつ!!逃げた女じゃねぇか!!何故ここにいる!!」
スクワラが慌てて声を上げる。
その声に、ソフィアは思わず背後からクラピカの手を掴む。
震えが収まらない。
ソフィアの手を握りしめて、クラピカは冷静に答えた。
「彼女はもう奴らの仲間ではない。彼女もハンターの資格を持っている。ここでボディーガードとして働かせてほしい」
「なっ…!てめぇ!!こんな状況でふざけてんのか!!いい加減に…」
スクワラがクラピカの胸ぐらを掴んだ、その時…
「彼女は大丈夫よ!最初に会った時の心音といまの心音、まるで別人のように違うわ。いま彼女の心音は何の汚れもない、優しくて純粋な音を奏でているわ」
センリツの言葉に、スクワラは舌打ちをするとクラピカの胸ぐらから手を離した。
クラピカは表情を変えずに胸元を整えながら話し出す。
「彼女は奴らに操作されていたのだ。皆に危害を加えることはまずない。だから安心しろ。ボスはどこだ?」
「奥にいるわ」
センリツの案内にクラピカとソフィアは、ボスがいる部屋に進みソフィアは息を呑んだ。
ボスってどんな人なんだろ?
たぶん男の人だよね…??
ソフィアは緊張と不安で心臓の鼓動の音が走り始める。
コンコン…
「ボス、新入り希望を連れて来ました」
「はーい!どうぞー?」
女の声?
クラピカが扉を開けると、部屋には着物を着た女性とトランプをして遊んでいる少女の姿。
少女が、不思議そうな顔をしてソフィアを見つめている。
え!!
ボスってまさか、女の子!?
しかも超可愛いし、わたしと同い年ぐらいかな??
「え!この子が新入り希望!?」
首を傾けてネオンは嬉しそうに問いかける。
「はい、ボスから彼女の承諾を頂きたいのですが…」
ネオンはソフィアの元に近づき、満面の笑みを浮かべた。
「全然OKだよっ!!だってこの子、めっちゃ可愛いし!!ネオンの遊び相手になってくれればっ♪ねーねー!!キミ名前なんて言うの?何歳??」
『え、えっとソフィアです!16歳…』
「え!?やあったぁ!!ネオンと同い年だぁっ♪ねーソフィアも一緒にトランプしよーっ!!」
『え、わっ!』
ソフィアはそのまま腕をネオンに引っ張られ、トランプに参加させられたのだった―――…
2時間後。
ソフィアは、遊び疲れて眠ってしまったネオンの後片付けをし、クラピカの部屋に向かった。
部屋に入ると、クラピカは俯いて暗い面持ちでベッドに腰を下ろしている。
クラピカの顔を見たソフィアは、胸が締めつけられたような痛みを感じた。
……クラピカ。
もしかして、ウボォーを殺せなかったこと後悔してるの?
だから、そんなに落ち込んでるの??
ソフィアが部屋に入ってきたのに、クラピカは微動だにしない。
『…大丈夫?』
クラピカは返事をせず、俯いたままだった。
クラピカの横に腰を静かに下ろしたソフィアは、おもむろに口を開いた。
『…あのね、ずっとクラピカに伝えたかったことがあるの…「愛してる」これはわたしから…』
つぎは…
ずっと伝えたかった言葉。
ずっと伝えたくて、けれどずっと伝えることができなかった言葉。
『「心から愛してる」これはお母さんから…』
クラピカは目を見開き、ソフィアを見た。
ソフィアは軽く笑みを浮かべながらも辛そうな面持ちで話だした―――…
―――5年前。
漆黒の闇に染まった夜の村。
月はわずかに、欠けていた。
夕食を食べ終え、リビングでくつろいでいた頃。
「…あ、いま蹴った」
大きなお腹をしていた母の言葉に、当時11歳のソフィアは尋ねた。
『ほんと!?』
ソフィアは、母のお腹に耳を当てて確かめた。
『…あれ、動かない。弟が産まれるの?それとも、妹??』
さぁ、と母は微笑んでいた。
「どちらでも、大事な子なの。 ソフィア、あなたと同じくらいに、大切よ」
同じくらいに、大切。
「だから、元気な子どもが産まれるように、ソフィアも神様にお願いしてね」
『…ねぇ、お母さん。子どもってどうしたらできるの?』
「え…それは、お父さんに聞いてみなさい」
『ねぇ、お父さん』
突然話をふられ、純粋な娘に見つめられた父は、慌てながら苦笑いした。
「ははは…、それはだな…コウノトリが運んで来るんだよ」
『え、そうなの?』
聞いていた母は、笑って否定した。
「ソフィア、違うわよ。もう、あなた!」
「悪い悪い、まだソフィアは子どもだから知らなくていいぞ」
父は笑いながら、誤魔化すようにソフィアの頭を撫でた。
だが、ソフィアは納得がいかないのか頬を軽く膨らませて、上目遣いに睨んできた。
『やだ、だって気になるもん』
「だけどなぁ…」
困っている父に母は面白そうに笑った。
「ソフィア、おいで…」
母はソフィアを呼ぶと、近づいてきたソフィアの両手を握り、愛おしげな眼差しで答えた。
「子どもができるにはね、ソフィアが大人になって大好きな人と心から愛し合えばできるのよ」
大好きな人…
未来を想像したのか、ソフィアは目を輝かせた。
『じゃあわたし、おとなになったらクラピカの子どもを産む!』
満面の笑みで話すソフィアに、父は慌てた。
「おいソフィア!お父さんの前でそんなことを言うもんじゃない!まだまだ嫁には行かせないぞ!?」
「クラピカならお母さん大賛成よ!きっと綺麗な顔の子どもが産まれそうね」
「こら、母さん!」
普段物静かな父が慌てて声を上げる姿にふたりは笑った。
すると突然。
ドサッ…
玄関の扉の方から、何か倒れた音がした。
こんな夜遅くなのに外が妙に騒がしい。
とても、嫌な胸騒ぎがする。
「…お前達は下がってろ」
父はふたりにそう呟くと、台所にあった包丁を手に取り、何が起こってもすぐ対処できるよう警戒しながら玄関の扉を開けた。
「わあぁぁぁぁ!!」
扉を開けた瞬間、遠くから恐怖に引き攣った絶叫が響いた。
目に映った光景は、同胞達が逃げ回っている姿。
扉の前には、父の親友が血まみれで倒れている。
愕然とし、恐る恐る抱き起した。
「…おい、しっかりしろ…!」
揺さぶると、小さくうめいた。
「…にげ…ろ…」
かすれた呟きが唇から漏れて、全身の力を抜いた。
部屋の漏れた明かりで、ソフィアは父の胸で横たわる男の顔を見た。
表情のない顔。
くぼんだ眼窩は空洞で、眼球がない。
ソフィアは自分の見た光景に目を疑った。
突然、父が立ち上がり真っ直ぐに何かを凝視した。
何者かが近づいてくる。
父は直ぐ様、遺体を家に入れると扉を閉めて、鍵をかけた。
その人物は、閉められた扉を叩き破り開けようとした。
父は必死に扉を抑え、それを見ていた母も慌てて協力した。
「お前はソフィアを連れて裏から逃げろ!!」
「あなた一人じゃ無理よ!!」
ふたりは必死に扉を抑えるが、扉が開かれるのは時間の問題だった。
「くそ…なんて力だ…!ソフィア!!今のうちに裏から逃げろ…!!」
『え!?』
一瞬、何を言われたのか、分からなかった。
恐怖の余り、足が動かない。
もし、ここから逃げたらお父さんとお母さんが…
「早く逃げなさい…!!」
母の悲鳴のような声を聞いたその瞬間、扉が粉砕した。
ソフィアはとっさに腕で顔を覆った。
すさまじい爆風が遅いかかり、ばらばらになった建材が吹き飛んできてソフィアを襲う。
ソフィアは瞼を薄く開いて父と母を探した。
二人は気を失い、見知らぬ女性と男性に捕まっている。
そして、仲間と思われる巨体の男が家に入り、小柄な少女に気がつき、残虐に笑った。
「ガキもいたのか…」
ソフィアの心臓がたたかれたように跳ね上がる。
ソフィアは蛇に睨まれた蛙のように凍りついた。
恐怖のあまり声が出ない。
あの男に捕まったら、終わりだ。
怖くて怖くて涙が出てきた。
ソフィアは急いで裏庭から逃げた。
外に出ると辺りは地獄を見ているかのようだった。
同じように逃げ惑う人々。
地面は血しぶきで染まり、助けを求める悲鳴と喘息が、やがてか細く消えていく―――。
足元が何かに引っ掛かり、ソフィアは派手に転んだ。
はっと後ろを顧みたソフィアは、息を呑んで見た。
『あ……っ…!!』
残虐に笑みを浮かべた巨体な男が近づいてくる。
必死で後退るソフィアに、突然後ろから手を捕まれた。
「走るのよ!!早く…っ!!」
ソフィアの手を引き、必死に逃げたのはクラピカの母だった。
二人は息を切らせながら疾走した。
背中の筋が、全身の関節が、鈍く痛んで苛んでくる。
気が緩んだら膝が砕けてしまいそうな気すらしていた。
旅団の攻撃によって気力をぎりぎりまで削ぎ落とされていたクラピカの母は、ソフィアを救うために、最後の力を振り絞って走り続けた。
しかし、闇で見えなかったその先は巨大な木々で行き止まりだった。
男は面白そうに笑いながら逃げる二人を追いかける。
ソフィアは何度も後ろに振り返った。
絵で見たことがある怪物というものに、よく似ている。
ソフィアは目眩がしてよろめきかけ、クラピカの母親につかまってなんとか持ちこたえた。
息ができない。
がたがたと震える手足はとっくに感覚を無くしていて、力をこめてつかまっているはずなのに、その実感がまったくなかった。
ソフィアは、人間を芯から恐ろしいと思ったことが一度もなかった。
だがこの男の存在が、恐怖に直結する。
死にたくないと思う前に、もうだめだと本能が訴える。
「ソフィア、私が時間を稼ぐからその間に逃げなさい」
『い…いやだ!!一緒にいて!!』
「もう時間がないの」
『だめだよ…!!』
ソフィアは涙を流しながらわめいた。
クラピカの母はその場にしゃがみソフィアの腕を掴み、向かい合うと、かすかに目元を和ませてソフィアを見つめた。
「クラピカに…「帰りを待てなくてごめんね」と、「愛してる」と……「お母さんは心から愛してる」と伝えて」
『お願い…やめて…!!』
立ち上がったクラピカの母は自分の腕をしっかり握ってくるソフィアの手を無理やり離し、背中を押した。
『だめーーーっ!!』
クラピカの母は、ウボォーギンにめがけて走り出し自ら捕まった。
そして、声にならない悲鳴が聞こえた。
風が、かすかな鉄の臭いをソフィアの元に運んでくる。
ウボォーギンは彼女の顔から何かを抉り出した。
よく見れば紅いものが滴り落ちて。
ウボォーギンの手にある丸いものは、鮮やかな緋色に染まったクラピカの母の眼だと理解した瞬間、ソフィアは金切り声をあげていた。
今までかろうじて体を支えていた膝が、力を失って砕けた。
いやだ…いやだ…
こんなの、ひどすぎる…っ!!
愕然として全く動かないソフィアの元に、いつの間にか知らない大人が取り囲み、ソフィアを見つめながら話し出す。
次第にウボォーギンがソフィアの頭を殴り、ソフィアはそのまま気を失った―――…
―――――――
―――――――――――――…
『…それが、最後の言葉だった…』
クラピカの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。
話していたソフィアの声が震える。
抑えることのできない感情が胸の中で膨らんで、瞳の奥が熱に変わった。
じわりと視界がにじむ。
『ごめんなさい…伝えるのが遅くなって…本当に、ごめんな、さい…っ』
喉に絡まる声を必死で絞り出すソフィアに、クラピカは目を細めた。
「…いいんだ。私がどれほど母に愛されていたのか、改めて自覚できた。ソフィア…生きててくれて、本当にありがとう」
『うん…っ』
大粒の涙をこぼしながら頷くソフィアに、クラピカは愛おしげな眼差しを向けた。
そして、ソフィアをふいに抱き締める。
もう一度、お前に出会えてよかった。
この声を直でこの耳に聞くことが叶って、本当によかった。
こうして彼女に触れることができたのは、母さんがソフィアを守ってくれたからだ。
ハンター試験で再び彼女と出会ってから…
笑い、怒り、すれ違い、傷つけ合い、いろんなことがあった。
けれど、どれか一つでも欠けていたとしたら、きっと今ここにいる私は成り立っていなかったのだ。
ソフィア。
もう一度だけ言う。
お前に出会えてよかった。
お前のおかげで…
これからも生きなければならないと、強く誓うことができた。
私はこれからも闘い続ける。
諦めることなく、最期の瞬間までソフィアを守る。
そして、あの約束を、叶えてみせる。
人の“死”は必ず、何か意味を持つという。
もし神という者がこの世に存在するならば、私は誓う。
家族、仲間を連れていってしまった神様…皆の死はどんな意味を持つのか。
今は分からない。
…だが、必ずその意味を探してみせる。
家族の死を、仲間の死を…決して無駄にはしない。
もう絶対に、生きることを諦めたりはしない。
必ず、奴らに復讐を果たす…!同胞達の眼を全て取り戻す!!
皆が願っていなくとも、私はそれを最後までやり遂げる。
どうか、一人で闘い抜くための力を…
彼女を守り続けていく力を…私にください。
ソフィアは思い出していた。
あの時、もう動けないと言った自分に、大丈夫よと言ってくれた優しい人。
前に何度も夢を見た。
真っ暗闇の中、震えて泣いている自分がいる。
わたしの手を引き、光射す場所まで連れて行ってくれた。
「大丈夫よ、ずっとあなた達を見守っているから。どうか、私の息子を守って」と。
何度も見たこの夢。
いま、分かった。
あの人はきっと…クラピカのお母さんだったんだね。
クラピカのお母さん。
最後の言葉をようやくクラピカに伝えました。
遅くなってしまい、本当にすみません。
どうか許してください。
それから、わたしを救ってくださり…本当にありがとうございます。
クラピカは、すごく素敵な男性になりました。
わたしには、とても勿体ないと思いますが…
ずっとずっと、彼のそばにいさせてください。
わたしの人生を懸けて、クラピカがいつか心から笑顔になれる日がくるよう…
いつか彼を幸せにしてみせます。
だからこれからも、わたし達をずっと…見守っていてください。
ソフィアはクラピカの胸の中で、想いが届くよう心からそう願った。
next…