ヨークシン編
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クラピカはリリー達を探し歩いた。
ホテルのホールに辿り着くと、ゴンとレオリオが椅子に座っていた。
「クラピカ!」
「すまない。待たせたな」
「用は済んだか?キルアの居場所が分かったぜ。ククルーマウンテンの頂上の棲み家だとよ。場所に心当たりはないか?」
「いや、分からないな」
クラピカは周りを見渡した。
リリーの姿が見当たらない。
「レオリオ、リリーは?」
「リリーならもう行ったぜ?」
「行った?どこに?」
「師匠の所にだとよ。お前一緒じゃなかったのか?」
「え…?」
驚きで絶句するクラピカに、ゴンが不思議そうな表情で問いかける。
「クラピカ、知らなかったの?オレとレオリオ、クラピカにも伝えてくるって聞いてリリーと別れたんだけど…」
クラピカの心臓が跳ね上がった。
早鐘を打つ心臓は速度をゆるめず、なのに胸が誰かに握り潰されているように苦しい。
「……嘘、だったのか」
それだけ呟くと、クラピカはその場から走り出した。
「お、おい!クラピカ!!」
レオリオの呼ぶ声を無視し、クラピカはただひたすらリリーの姿を探した。
……リリー、何故だ。
なぜ私に嘘をついた。
会わせる顔がないからか?
だからと言って、最後にこんな別れ方など納得できるはずがない。
しかし、リリーに会ってどうするのか、今はまだ分からず決めてもいない。
決めたところで実際にその行動を移すことが出来るなど定かではない。
場合によっては強い口調で責めてしまうかもしれない。
簡単に許してしまうかもしれない。
何も知らないふりをして、普段通り接してしまうかもしれない。
お前が現れてから、初めはソフィアと似ているからとの理由でそれとなく避けていた。
だが、今は…
リリーに会いたい。
そして、リリーの口から、真実を聞きたい。
そして私も、真実を話したい。
その一心でクラピカはリリーを探した。
だが、いくら探してもリリーの姿が見つかることはなかった。
リリーの携帯電話に何度も電話を架けたが電源まで切られていた。
クラピカは顔を歪ませて、空を見上げる。
……リリー。
もしこの時、私達が偶然出会っていたとしたら、二人の未来はどう変わっていたのだろう?
リリーが突然変わった理由を知ったのは…
別れの本当の理由を知ったのは、半年以上も先の話だった。
―――――――――
―――――――――――――…
幻影旅団のアジトに着いたヒソカとリリーは、アジトの中へ入っていく。
2年前と変わりはなく、昼間でも薄気味悪いだろうと思われる荒れた建物。
気の弱い者だったら絶対に近づかないだろう。
リリーは気にした様子もなく、呼吸を整えて、何が起こってもすぐ対処できるように心構えをした。
「やぁ◆帰ったよ★」
ヒソカが声をかけると、奥で腰を下ろしていた団員が目を向けた。
「終わったのか、ハンター試験」
ノブナガが口を開くと、ヒソカは怪しい笑みでニッコリ笑った。
「まあね★それと、お土産♪ちゃんと連れてきたよ★」
リリーの姿を認めた団員達は驚愕する。
クロロはリリーを凝視した。
マチとフェイタンが口を開く。
「リリー…アンタ今までどこに?? 」
「よくのこのこと帰ってこられたね」
旅団の冷たい視線を受ける中、リリーは強い瞳で見返し、閉じ込めていた胸のうちをはじめて口にした。
『帰ってきたんじゃない。クロロから真実を聞くためよ。それから、仲間の復讐を果たすために…!!』
宣言して、リリーは中型の刃物を具現化させた。
リリーの眼が、緋色に変わる。
「おまっ…誰かに操作されてんのか!?」
フィンクスの顔が凍りつく。
リリーは顔を歪めて、激しい口調で怒鳴った。
『操作なんかされてない!!答えて!!みんなは…本当にクモなの?わたしはみんなの家族じゃなかったの…!?』
クロロの両眼が激しく煌めいた。
剣呑な眼差しがリリーを射貫く。
「――何故、知っている。誰から聞いた」
低く、怒気をはらんだ問いかけだった。
リリーは答えなかった。
ヒソカは「(知らんぷり…◆)」と旅団の誰からも目を合わないようにしている。
その場にいる全員が息を呑む中、クロロはリリーに冷たく言い放った。
「確かに、オレ達はクモさ。ここに戻って来たのは、真実を聞く為と仲間の復讐を果たす為と言ったな。その仲間とは、何処の誰だ。答えろ」
『…クルタ族。それ以上は言えない』
クロロの中で、何かが音を立てて砕け散る。
やがて目を細め、薄く笑ったクロロは立ち上がった。
「…オレの部屋に来い」
歩き出したクロロを凝視し、リリーは固唾を呑んで、言われるままに足を進める。
部屋に入ったリリーは、周囲を見渡した。
薄暗く、イスが一つだけ置かれたがらくたばかりの荒れた部屋。
日も射さず、冷たい闇の中でイスに座ったクロロをリリーは凝視した。
「リリー、まずオレの質問に答えろ。何故このアジトから抜け出した。今まで何をしていた」
冷たく問い掛けるクロロに、リリーは冷静に答えた。
『…殺しをしたくなかったから。それに、わたしは知らないことや思い出せないことが沢山ある。だから、世界を知るためと記憶を思い出すためにハンター試験を受けてた』
「…そうか。そのハンター試験でヒソカと仲間に出会い、我々がクモで家族ではなかったとヒソカから聞いた。そうだな?」
クロロの言葉に頷いて、リリーは顔を歪めた。
『お兄ちゃん…ずっと信じてたのに、なんで今まで兄弟だって嘘ついたの?…わたしの本当の家族はいま何処にいるの?お願い、教えて』
クロロはかすかに目を細める。
リリーの声は、抑えきれない感情をはらんで震えていた。
黙って聞いていたクロロは、やがて静かに口を開いた。
「…お前を騙したのは、昔の記憶を思い出させない為だ。お前の家族は、オレ達が殺した」
リリーの心が、音を立てて凍りついた。
クロロは書物を具現化させる。
対するリリーは、足が根を生やしてしまったかのように動けなかった。
かたかた震えながらリリーはクロロを凝視した。
『そんな…わたしは…』
クロロは、にぃと笑った。
「お前の仲間と同じ、クルタ族の生き残りだ」
リリーは、落雷のような衝撃を受けた。
リリーの脳裏に、クラピカの姿が浮かんで消えた。
驚愕で呼吸すらままならないリリーに、クロロはつづけた――――…
――――5年前。
何処までも暗い、漆黒の闇が広がっている。
赤い月光の射すルクソ地方の小さな村の中。
家や村地は血しぶきでまだらに染まっていた。
悲鳴と喘息が重なって、断末魔の叫びにかき消される。
助けを求める弱々しい声が、やがてか細く消えていく―――。
どれほどの時が経ったのだろうか。
近づいてくる足音。
「…ノブナガ、パクノダ、集めたか?」
「おうよ団長。これだけ集めれば文句ねーだろ?」
ノブナガが手からぶら下げる袋の中には、大量の深く緋色に染まった眼球。
「上等だ、そろそろ引き上げるぞ」
「皆を呼んでくるわ」
パクノダは、退散するため仲間に声をかけに行った。
かすかな悲鳴が鼓膜に突き刺さった。
まだ生き残りがいたのか…。
クロロとノブナガは声が聞こえた方へ足を進めた。
少しずつ強くなる鉄の臭気。
やがて目にしたのは、ウボォーギンが女性の首を掴み、持ち上げている姿。
女性は彼の手から地に崩れ落ちる。
女性の死体を見つめる少女は、地に膝をつけたまま、微動だにしなかった。
「よぉ、ウボォー!」
ノブナガの声にウボォーギンは振り返り、二人の姿を認めた。
「お、ノブナガ、団長。このガキで終わりだ。最後はもっと痛い目に合わせてやるかァ…」
ウボォーギンは少女に言い差すと、狂気の宿った目をして笑った。
だが少女は殺される間際だというのに硬直し、女性の死体を見つめたまま。
微動だにしない少女をクロロは凝視した。
ウボォーギンが少女に触れる瞬間に、クロロはそれを否定した。
「やめろ。この娘は、剥製(はくせい)にする。アジトに連れて帰れ」
予想外の命令にウボォーギンは動きを止めて、団長を見返した。
「剥製…て、本気かよ団長」
「俺はいつだって本気だ。娘を捕らえろ」
「おお」
ウボォーギンは少女を気絶させ、無造作に抱えて肩に担ぐと、旅団全員はその場を後にした――――――…
アジトに辿り着くと、フランクリン、シャルナーク、マチが待っていた。
ウボォーギンが肩に担いでいる少女の姿を見て、マチが口を開く。
「…どうしたの?この子」
「剥製にするんだとよ」
ウボォーギンが団長の代わりに答えて、少女を石の上に寝かせる。
マチはさらに疑問を抱き、問い掛けた。
「剥製?眼球だけじゃなかったの?」
すると、座っていたシャルナークが立ち上がり、気絶している少女に近づいて解釈した。
「幼い少女の赤眼を残したまま剥製にすれば、きっと高く売れるからでしょ?団長」
「…あぁ。この娘が目を覚ましたら、更に怒りを感じさせて殺せ。オレ達のことは、はっきり覚えてるはずだ。だが、娘の身体は傷つけない方法でな」
クロロは穏やかで静かで、残酷な声で言い放つ。
「おいおい、団長。傷つけずに怒りを感じさせるって、それは難しいんじゃねーかぁ?」
ノブナガが否定した、その時…
少女がかすかに身動ぎした。
はっとして様子を窺うと、瞼が震えてのろのろと瞳が現れる。
しばらく天井を見ていた少女は、瞬きをして視線を泳がせ、上体を起こした。
そして、少女は不思議そうに旅団を見つめて口を開いた。
『…お兄ちゃんたち、だれ?』
―――「…お前は心的ショックで記憶障害になり、オレはお前をどうしても殺せなかった。
だからお前を将来、旅団の一人として生かしておく為に、お前には家族だと言い聞かせ、記憶を思い出した時の為にも蜘蛛だということは隠し通していた。
…だが、もうお前はこの真実を知ってしまった。もう一度お前には、記憶を消してもらう」
リリーの瞳が凍りつく。
近づき腕を掴まれたリリーは、びくりと全身を強張らせて、振り払う。
リリーは喘ぐように呼吸を繰り返し、泣き声とも悲鳴ともつかない声を出した。
『触らないで!!人殺し…!!よくも、わたしの家族を…殺してやる!!』
リリーの瞳が怒りに満ちた深い緋色に変わった。
そして、リリーは涙を流しながらも再び刃物を具現化させようとした、そのとき。
クロロはリリーの体を強く抱き寄せた。
必死に体を離そうとするリリー。
しかし強い力で押し戻されてしまう。
そして、嫌がるリリーに顔を近づけ、強引にキスをした。
クロロは書物を片手に盗んだ念を使った。
――オレの唇に初めて奪われたものは新しい記憶を入れ替える――
(メモリーチェンジファーストラヴァ)
クロロのキスで、命の炎によく似通ったものが吸いとられていく。
リリーは堪えきれず、声にならない悲鳴を上げた――――――…
どんな代償を払ってでも。
この先、何が待ち受けているのだとしても。
ただ、手に入れたかった。
失うことだけは、どうしてもいやだった。
―――半年後。
「全部だ」
荒れた薄暗いアジトの中で、12人の団員と遠く向かい合わせで立っているクロロは、次の活動の命令を下した。
「地下競売のお宝、丸ごとかっさらう」
その言葉に、旅団全員は息を呑んでクロロを凝視した。
ウボォーギンは拳を握り締め、興奮を抑えるように話し出した。
「本気かよ団長。地下の競売は世界中のヤクザが協定を組んで仕切ってる。手ェ出したら世の中の筋モン全部敵にまわすことになるんだぜ!!団長!!」
「怖いのか?」
「嬉しいんだよ…!!命じてくれ団長、今すぐ!!」
「オレが許す。殺せ」
「おおー!!!!」
建物内に絶叫が響く。
『やったね!!ウボォー!!』
「おお!!リリーもやっと待ちに待った仕事だな!!しっかり着いてこい!!」
『うん!!』
こうして、9月1日。
オークション開催の日。
とうとう幻影旅団は動き始めた。
旅団の一人となったリリーは、このとき…
この後に出会う再会と、起こる奇跡など全く知るはずもなかった。
next…