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ハンター試験編
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夢を見た。
真っ暗な闇の中、震えて泣いている自分がいる。
そこに優しい女性の声が聞こえる。
初めて聞く声なのに、懐かしい感じがする。
振り返ったリリーは、人影を認めた。
『…誰?』
リリーが近づいていくと、闇にまぎれた顔はほとんど見えないものの、笑った気配が伝わってきた。
その女性は手を差し伸べて、泣いているリリーの手を引き、光指す場所まで連れていってくれた。
そこは明るくて…
先の見えない真っ直ぐな長い道が続いている。
「大丈夫よ。ずっとあなた達を見守っているから。どうか、私の息子を守って…」
背中をとんと押される。
穏やかな声が、耳の奥にかすかに届く。
最後に見たその人は。
見覚えのある、とてもあたたかい目をしていた―――…
はっと目を開けたリリーは、起き上がり周りを見回した。
そよそよと肌に触れる風。
部屋に太陽の光がさんさんと入れ込み、窓のカーテンが揺れている。
「おや、気づきましたか」
『……サトツさん?』
椅子に座っていたサトツは、ベッドの方へ椅子ごと移動した。
『ここは…』
「最終試験会場横の控え室です」
そっか…
ハンター試験の最中だったんだ。
クラピカと戦って…それで…
『あのっ、クラピカは!?』
慌てて問いかけるリリーに、サトツは安心させるよう穏やかに話した。
「大丈夫ですよ、彼は合格しました。それから、あなたの腕も痕は残るかもしれませんが、時期に治りますよ」
その言葉にリリーは右腕に包帯が巻かれていることに気がついた。
「なにはともあれ、合格おめでとうございます」
サトツは目を細めて右手を差し出す。
願っていた合格を素直に喜べず、リリーは僅かに痛みを抱える目をした。
『サトツさん、わたし…』
「だめです。ゴン君にも話しましたが、不合格者が何を言っても合格出来ないのと同じく、合格した者を不合格にすることも出来ません。あとは、君の気構え次第ですよ」
冷たくさえ聞こえる口調で言ったサトツは、ライセンスカードを胸元から取り出し、軽くカードの説明をした。
そして、再び「合格おめでとうございます」と手を差し出したサトツに、リリーは笑顔で握り返した。
『ありがとうございます!…あの、他の人はどうなったんですか?試験は??』
「試験は終了しました。君はほぼ丸一日寝てたんですよ。他の合格者は簡単な講習を受けています。ゴン君も君と同じように寝ていたので、後で一緒に受けてもらいますが」
『うん…それより、誰が落ちたんですか??』
リリーは真剣な表情でサトツを見つめる。
サトツは静かに口を開いた。
「それは…」
バン!!
「リリー!!」
突然ドアが開き、そこに現れたのはゴンとレオリオの姿だった。
『ゴン!レオリオ!』
「ったく!心配かけやがって!もう大丈夫なのかよ!」
『うん!大丈夫!心配かけてごめんねっ』
すると、サトツは様子を見ながら席を外した。
『あ、サトツさん!ありがとうございます!』
軽く一礼すると、サトツは部屋から出て行った。
「リリー、オレこれから講習受けに行くんだけどリリーも来れる? 」
『……う、うん!行く』
クラピカが来てない。
愛想つかしちゃったのかな。
本当に嫌われちゃったのかな…
これでいいはずなのに胸が締め付けられるように苦しい。
それに、キルアの姿もない。
『…そう言えばキルアとクラピカは??』
その質問に、二人は深刻な面持ちで黙り込んだ。
それは悲しい結果を表していた。
ゴンは暗い表情で口を開いた。
「クラピカは今、用事があるって。キルアは…」
…え?
『キルアが…不合格…?』
ゴンの話を聞き終えた後、リリーの握りしめられた手が震え、状況が読み込めずにいた。
頭や胸、指先や足…
体全体が激しくドクンドクンと脈打っている。
ゴンが話してくれた内容は…こうだった。
最終試験、キルアの対戦相手はギタラクル。
だがギタラクルの正体は、キルアの兄貴イルミ。
その時、イルミはキルアに何らかの暗示をかけた。
キルアが不合格となった理由…
それは、レオリオとボドロの試合開始と同時に、キルアがボドロの胸を指で貫き、ボドロの死亡が確認された為。
その後、キルアは会場から姿を消した―――…
「…だからオレ、講習が終わったらキルアを連れ戻しに行くんだ!もちろんリリーも一緒に行くよね?」
ゴンの質問にリリーはうつむいたまま、考えた。
二つの葛藤が胸の中で暴れ回る。
――「ハンター試験が終わったら、ボクは旅団のアジトへ戻る★ボクと一緒に来ないか?」――
――「友達になってくれるか?」――
ヒソカとキルアの言葉が耳の奥で甦る。
早く答えを出さなきゃ。
二本の道のどちらかを。
ヒソカの道を選べば、旅団にあって真実を聞き出せるかもしれない。
でもそしたら一生、旅団から逃げられないかもしれない。
キルアの道を選べば、まだ仲間と一緒にいられる。
キルアにまた会えるかもしれない。
でも真実が分からないまま…謎を抱えたまま生きていくことになる。
真実を知るために旅団に会うか。
友情を守るためにキルアに会うか。
きっとどちらを選んでも、いつか後悔する日が必ず来るだろう。
もう一度傷つく?
安心を求める?
わたしはどっちに行けばいい??
握り締めた指先に力が込もって、白くなる。
リリーは息を呑み、剣呑な表情で答えた。
『…ごめんね。少し考えてもいいかな?』
思いがけない言葉を受けて、ゴンが目を丸くする。
レオリオも顕現してきた。
リリーはふたりに向き直った。
『行きたいけど他にも行かなきゃいけない所があるの…だから、ごめん。今は決められない』
申し訳なさそうな顔で謝るリリーに、二人は頷いた。
「…わかった。ゆっくり決めていいよ」
「でもよ、どこにいくんだ?師匠の所か??」
あ、そうだった。
師匠に合格したって知らせないと…!!
も~どうしよう…
リリーは頭を抱えて再び悩んだ。
だが、いま悩んでもらちが明かないと気づいたリリーは、ゴンと講習を受けに会議室へ向かった――――…
講習が終わり、ハンターとして認定されたゴンとリリーは、会議室から出た。
「…そう言えばリリー。ずっと気になってたことがあるんだけど…」
『なに?』
振り返るリリーに、ゴンは真剣な表情で見つめて尋ねた。
「リリーは、クラピカと同じクルタ族じゃないよね?」
『え、なんで?』
その質問に驚いたリリーは目を見開いた。
「クラピカとリリーが戦ってた時、一瞬リリーの目がクラピカと同じ赤い目になったんだ。だから変だと思って…本当に違うんだよね?」
衝撃が、リリーの胸を貫いた。
心臓が跳ね上がる。
『…赤い目?わたしの目が赤かったの!?』
「え、そうだよ!リリー知らなかったの??」
不思議そうに見つめるゴンに、色を無くしたリリーは頷く。
――「お前は…一体何者なんだ!!」――
あの時のクラピカの叫びが、耳の奥で甦った。
だからだったんだ…
クラピカが怒った理由は。
…そういえば怒った時、一瞬目の前が赤くなった気がした。
クラピカと同じ…緋色の眼?
もしかして…
わたしは、クルタ族…??
まさか、わたしが…
本当にソフィアだったの??
わからない。わからない。
クロロに聞かなきゃ…真実を。
聞かなかったら、一生心の奥に引っ掛かってしまう。
絶対に、後悔してしまう。
わたしにはそう思えて仕方がない。
だから、迷わない。
自分の進むべき道が決まった。
ごめんなさい…キルア。
友達なのに会いに行けなくて…
ごめんなさい…師匠。
絶対に帰ると、約束したのに…
選んだ道に進めば、もう後戻りは出来ない。
それでも、わたしは…
『ゴン、わたしはキルアの所に行けない。ごめんね…』
悩んで悩んで、ようやく導き出した答え。
握り締められた拳が、血の気をなくして白くなっている。
ゴンは頷くと、2人はレオリオの元に向かい、3人は別れの挨拶を交わした―――…
眩しい。
うなだれる気持ちとはうらはらに空は晴天、青空が広がっている。
リリーはヒソカの所へ行く前に、どうしてもさよならを伝えに、クラピカを探した。
正直、クラピカと合わせる顔がない。
それでも…会いたくて、会いたくて。
せめてもう一度。
もう一度だけでいいから…
最後に最高の思い出を作りたい。
そして、笑顔でお別れがしたい。
そう望むことはわがままかな??
だけど広いホテルの中、いくら探してもクラピカの姿が見当たらない。
もう会えないのかな…
そんな時、窓から見下ろした先に庭でクラピカの姿を見つけた。
リリーは急いで庭へ向かう。
庭に近づくと、かすかな声が流れてくる。
「―――言えない★」
ヒソカの声に、リリーははっと息を呑んで、一番近くにあった柱の陰に隠れた。
耳を澄まし、様子を窺うとクラピカとヒソカが話している。
「9月1日、ヨークシンシティで待ってる◆」
ヒソカはそう言い残すと、その場から離れて行った。
クラピカは立ち竦んだまま、微動だにしない。
リリーは後ろからクラピカの背中を見つめた。
リリーはその場を動くことが出来なかった。
こんな時に…どうして??
数々の思い出が頭に浮かぶ。
クラピカと出会った日。初めて交わした言葉。
守ってもらったこと。笑い合ったこと。
キスをしたこと。想いを伝えたこと。
クラピカの胸の中で泣いたこと。
傷つけ合ったこと。去っていく後ろ姿。
苦しかったこと、悲しかったこと。
楽しかったこと、幸せだったこと。
すべて…すべてを思い出している。
最後に、もう一度だけ。
クラピカの声が聞きたい。
想いを伝えたい。
ふと番号交換したことを思い出したリリーは、携帯電話を取り出すとクラピカに電話をかけた。
♪~♪~♪
電話の着信音が鳴り響き、クラピカは相手を確認せずに出た。
「もしもし…」
『…クラピカ?』
「その声…リリーなのか? もう大丈夫なのか?」
リリーは涙を浮かべながらクラピカの背中を見つめて答えた。
『うん、大丈夫。あのね、どうしても今伝えたいことがあって…』
「なんだ?」
クラピカの優しい声に、リリーの声が震えた。
『…ありがとう。いつも守ってくれて、助けてくれて…。クラピカのおかげでわたし合格出来たの。本当に、ありがとう』
「いや、礼を言うのは私の方だ。お前がいたから私は合格することが出来た。本当に感謝している」
クラピカが歩き出し、思わずリリーは声を出した。
『どこ行くの??』
クラピカは不思議に思い、周りを見渡した。
「何故分かった?」
『あ、周りの音が、変わった気がしたから…』
リリーの声が震えている。
まるで、泣いているかのように。
「お前の方こそ、声が変わった。泣いてるのか?」
『ご、合格したのが嬉しいから…』
泣いたらだめ…
もう少し、あともう少しだけだから。
リリーは必死に泣くのを我慢した。
口を押さえる手がどうしようもなく震える。
『…クラピカはキルアに会いに行くの?』
「ああ、リリーは行くのか?」
『…うん、行くよ』
最後まで嘘をついた。
クラピカに嫌われる為に。
「それより、腕は痛むか?」
『大丈夫だよ。痛くない…』
「…本当にすまなかった。今どこにいる」
ここに、いるよ。
そう言いたい気持ちとはうらはらに、リリーは再び嘘を並べる。
『…ゴンの所にいる』
リリーの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「…分かった。今からそちらに向かう。また後でな」
クラピカは静かに電話を切った。
歩き始めたクラピカの後ろ姿がだんだん遠くなっていく。
…振り向いて。
ちっぽけな願いさえ、もう届かない。
…追いかけたい。
でも、好きだからこそ、大切だからこそ、追いかけない。
ねぇ、クラピカ。
忘れなくてもいいよね?
遠くから想うだけなら、いいよね??
ねぇ、クラピカ。
わたしは、こんなにもあなたが大好きです。
好きだからこそ…
ずっと一緒にいたかった。
隣で歩んでいきたかった。
それなのに、好きだからこそ…
ずっと一緒にはいられなくて
隣で歩んでいくことは、許されなかった。
許されなかったんだよ…
リリーは空を見上げた。
もう決して、迷わない。
クラピカを、心から愛してしまったから。
だから、クロロに会ったら…
隠している秘密を、全部聞き出す。
そして、彼の代わりに…
わたしが復讐を果す。
旅団はクラピカの大事な人達を奪った。
クラピカの全てを奪った。
絶対に、許さない。
『…クラピカ。わたし、負けないから。いつかクラピカが幸せになってくれるのを、ずっと願ってる。
…本当はね、クラピカに復讐なんてしてほしくない。
だから、わたしがクモに復讐する。クラピカの恨みは、わたしが晴らす。遠くから、貴方を守るから…』
風によって雲が散り、透き通る黄空が顔を覗かせた。
リリーは涙を拭いて、前を向いて歩き出した―――――…
出口の門前で待ち伏せしているヒソカに、リリーは近づく。
「―――来たね◆」
ヒソカはリリーの顔を見たとき、内心で感嘆した。
ヒソカの元に歩み寄ったリリーは、静かな眼差しを向けた。
その視線を受けて、ヒソカは目を細める。
「返事は決まったかい?」
こくりと頷くリリーは一度目を閉じて深呼吸すると、震えないように抑えた声で言った。
『……わたしを、クモの元へ連れてって』
ヒソカの唇が、かすかに吊り上がった。
next…