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ハンター試験編
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どんなに辛いことがあろうと一日は変わらず流れていく。
7日目となり第4次試験が終了し、リリー、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオの5人は無事に4次試験を合格した。
最終試験会場に到着までの間、飛行船の中でリリー達は部屋で輪になって休息をとっていた。
「次で最終試験か…せっかくここまで生き延びてきた仲間だ。みんな携帯持ってるか?これも何かの縁だ。番号交換しとかねーか?」
携帯電話を取り出したレオリオにキルアが頭に両手を組ながら答えた。
「えーリオレオと番号交換してもどーせ連絡しねーしなぁ」
「リオレオ…じゃねぇ。オレはレオリオだ!!」
吠えるように叫ぶレオリオを見てリリーは笑うと、携帯電話を取り出した。
『いいよ!みんなで交換しよ』
「あ!オレ、ケータイ持ってない」
ゴンが申し訳なさそうに話すとキルアが目を丸くした。
「お前合格したらケータイ買っとけよ。ハンターの必需品だぜ?」
「そうだぞ、ゴン」
キルアとクラピカに進められ、ゴンは頷いた。
「分かった!試験合格したらケータイ買っとくよ。みんな、番号メモに書いて教えて?」
ゴン以外の4人は携帯電話でそれぞれ番号交換し、メモに番号を書いてゴンに渡した。
クラピカはリリーの顔をまじまじと見つめた。
一瞬目があった二人だったが、リリーは直ぐに目をそらす。
リリーはクラピカとキルアの顔を極力見ずに、ゴンとレオリオとばかり会話をした。
空気がなんだか重たい。
次第に5人はそれぞれ各自で休憩し、リリーは一人廊下の窓から外の景色を眺めていた。
その姿を見つけたクラピカは、リリーの元に歩み寄る。
ずっと何かを思い悩んでる様子で、クラピカはリリーに声をかけられずにいた。
沈んだ顔をしたリリーは、動きが視界に入ったのか、クラピカの方へ首を向けた。
『……!』
リリーはクラピカの姿を認めると、はっとしたように息を呑んで、顔を歪ませた。
「…リリー。あの時、ヒソカに何を言われたんだ?」
単刀直入に切り込んだクラピカの質問に、リリーの見開かれた瞳がかすかに揺らめいた。
リリーは視線を泳がせて困ったように眉を寄せると、次第にクラピカから目を反らした。
『…何も言われてないよ』
力のない声でつづられたリリーの言葉に、クラピカは続けた。
「嘘をつくな。私には言えないことなのか?」
リリーは何かを堪えるように目を細めた。
『クラピカに関係ないから…』
そう、これでいいの。
クラピカに真実を伝えることなんて出来ない。
隠して通して、今まで通り仲良くなんて出来ない。
考えただけで胸が苦しくなる。
ずるいやり方かもしれないけど…
わたしのことなんて、嫌いになってしまえばいいの。
嫌いになって、離れていけばいい。
わたしのことなんて、忘れてしまえばいいの。
だから、もっと冷たくしなきゃ…。
そして、この際だから言ってしまおう。
あの時のことを、全部。
『…ゼビル島でクラピカを看病してた時、あなたは寝ぼけてまたわたしとソフィアを間違えたの。わたしに…キスまでしたのに、全く覚えてないんだね』
クラピカは耳を疑った。
私が、リリーをソフィアだと間違えたのか?
リリーに、キスをしただと…?
すると、あれは…
あの夢は、現実で、リリーと間違えていたのか。
クラピカは混乱しながらも、冷静さを装い、申し訳なさそうな顔でリリーを見つめた。
「…リリー。そうだとは知らず本当にすまなかった。私はあの時ソフィアの夢を見ていた。夢と現実の区別がつかず、リリーを勘違いしてしまったようだ…」
『本当に勘違いなの?』
その質問に、クラピカの瞳が一瞬だけ凍りつく。
「…何故だ?」
『寝ぼけてたわりには、随分としっかりしてたから』
「では私が、寝ぼけたふりをしていたとでも言うのか?」
『…クラピカしか分からないでしょ?』
クラピカは手のひらを強く握りしめた。
様々な感情をはらんで怒りに燃え上がる目が、リリーを睨み付ける。
「それはつまり、私がお前を誘惑したと?」
抑揚のない声音で問いかけられて、リリーはクラピカを疑う目付きで見つめて答えた。
『だから聞いてるの。誘惑したのかどうか…』
クラピカは剣呑な顔で眉を寄せた。
「リリー。前にも言ったが私は復讐の身だ。誘惑など断じてありえない。あれからお前は、私をそんな目で見ていたのか?」
『そんな目で見ていたも何も、クラピカがいつもわたしとソフィアを重ねてるからよ!クラピカといると辛い気分になるの。なのにクラピカは平然としてるんだね。…なに?また違う人に見える??……もう、わたしに話かけないで…』
リリーを見つめる見開かれたままのクラピカの瞼が、大きく震える。
リリーはクラピカから顔をそらし、辛さを堪えるように顔をゆがめた。
油断すると不意に涙腺が緩んでしまいそうになる。
ここで涙を流したら全てがバレてしまう。
リリーは必死に泣くのを我慢した。
「…お前がそう望むのなら、今後一切私からは話しかけない。試験にも支障が出ないようにする」
クラピカは冷たく言い放つと、リリーに背を向けて歩き出した。
…クラピカ、ごめんなさい。
クラピカは誘惑するような、そんな人じゃないって分かってるよ。
それなのに、わたしは嘘をついた。
クラピカを傷つけた。
わたし…最低だ。
でも、これでよかったんだよね…?
…クラピカ。
どんなことがあったって、今でも好きなの。
出会った頃と変わらず…いや、あの頃よりもずっと。
気づいて。
気づいてよ…
今でもこんなに好きなんだよ。
本当は、嫌われたくない。
忘れてほしくない。
ずっと、一緒に居たいんだよ。
何度も、話しかけて欲しいんだよ…
どうしようもない矛盾にいびつな悲しみが増した。
クラピカの姿がだんだん遠くなっていく。
見えなくなるまでその姿を追っていたリリーは、声を押し殺し、息が詰まるほど泣き崩れた――――――…
――これより会長が面談を行います。番号を呼ばれた方は、2階の第1応接室にお越し下さい。受験番号44番の方、44番の方お越し下さい――
アナウンスが流れ、次々と受験番号が呼ばれていく。
数分後…
――303番の方、お越し下さい――
リリーは暗い気分で2階に向かうと、第1応接室の扉にノックをして開けた。
「まあ、座りなされ」
部屋に入ると会長が胡座をかき、ちゃぶ台について座っている。
促されて、リリーは黙って座布団に腰を下ろす。
『あの…もしかしてこれが最終試験ですか?』
「まあ参考までにちょいと質問する程度のことじゃよ。まず、なぜハンターになりたいのかな?」
『…ハンターの資格を持ってると色んな世界が見れて、色んな情報が得られるからです』
「なるほど。では、おぬし以外の9人の中で一番注目しているのは?」
『404番です。色々合ったので…』
「ふむ…では、最後の質問じゃ。9人の中で今、一番戦いたくないのは?」
しばらく思案して、リリーはおもむろに口を開いた。
『…404番、405番、99番、403番とは戦いたくないです』
「うむ、ご苦労じゃった。さがってよいぞよ」
リリーは不思議そうに会長を見つめて立ち上がると、一礼し下がっていった。
部屋を出ると、廊下にはキルアの姿。
どうやらリリーを待っていたらしい。
キルアは、真剣な表情でリリーに話しかけた。
「ちょっといいか?」
2人は廊下のベンチに座った。
重苦しい沈黙が続き、先に話を切り出したのはキルアだった。
「…返事決まった?」
その質問にリリーの中で返事は100%決まっていた。
『キルアの気持ちには答えられない。ごめんね…』
「クラピカか?」
虚をつかれたリリーは慌てながらも冷静に答えた。
『ちっ…違う。クラピカはいいの。今は誰とも付き合う気になれないんだ…』
「…わかった。じゃあ、友達になってくれるか?」
『当たり前だよ!今までもこれからもキルアは大事な友達だよっ』
リリーは笑顔で答える。
その言葉にキルアは安心したように笑った。
これで絡まっていた糸が一本ほつれた気がした。
キルア、ごめんね。
キルアには、もっといい人がいるよ。
わたしなんかより、ずっとずっといい人が。
キルアは優しい人だから…
俺のとこに来いとは強引に言わない。
真実はわからないけど…
きっとわたしを追いつめないため。
そういうさりげない気づかいをしてくれる人。
好きになってくれて、嬉しかった。
…キルア、ありがとう。
――――――――
――――――――――…
4次試験終了から3日後の朝。
そろそろ最終試験会場に到着する頃だろうか。
クラピカは部屋から出ると、一人廊下を歩き始めた。
あれから、冷静に考えてみたが…分からない。
様々なことが、頭の中でぐるぐると回っている。
突然変わったリリーの態度。
一体、何故だ。
私がリリーをソフィアだと再び勘違いし、キスしたことが原因か?
だが、ヒソカと会うまでは普段通りのリリーだった。
それとも、他に何か言えない理由があるのではないか。
ハンター試験で出会ってからほんの数日だが…
リリーは、誰よりも思いやりがあり、悲しみを分かち合い、私の過去に涙を流してくれた心優しい女性だ。
そんなリリーが、あのような発言をするとはとても考えにくい。
きっと何か別の理由もある、そうに違いない。
そう、信じたい自分がいた。
リリー。
お前といると、私はとても心和むものを感じていた。
ソフィアと似ているからではなく、リリーの優しさに救われて、あたたかさに癒されて、気がつけば私は…
リリーのことばかり考えている。
復讐を誓った者が、こんな感情を抱いてはいけない。
それなのに、いま私が一番切実に願うのは…
リリーの傍にいたい。
その時…
誰もいない、目だ立たない場所で一人の少女がベンチに座っている。
クラピカはゆっくり近づくと、目を見開いた。
リリーが、泣いている。
うつむいて、声を殺して。
リリーを見つめながら、クラピカは拳をぎゅっと握り締めた。
高ぶったどうしようもない気持ちが、胸の奥からどんどん込み上げてくる。
クラピカはリリーに近づき、腕を強く掴んで立ち上がらせた。
「何故だ、何故泣いているのか説明しろ!」
リリーは突然クラピカが現れたことに目を大きく見開き、クラピカを見つめた。
「やはり私に何か隠しているな。一体、4次試験で何があったんだ。ヒソカに何かされた、そうなんだな?」
いつもよりも一段と低い声で問い詰めるクラピカに、リリーは懸命に訴えた。
『違うの、そうじゃない…!』
クラピカはぶつけようのない切なる想いをどうにかして静めようと、リリーの顔を両手で包み、涙を静かに拭った。
「…何も考えずに休め」
クラピカは背を向けて、歩き始めた。
『どこ行くの…!?』
するとクラピカは、背を向けたまま首だけを横に向けて答えた。
「事情を知っているヒソカの所だ」
そう呟くと、再び歩き始めた。
『やめて…待って、違うの!クラピカ!違うんだって…!!』
大声で呼び止めるリリーの言葉を無視し、クラピカはそのまま進み出す。
見慣れた後ろ姿は、今はまるで知らない人のよう。
クラピカの後ろ姿はだんだん遠くなっていく。
リリーが追いかけようとしたその時…
アナウンスが流れた。
――みなさま、長らくお待たせ致しました。間もなく最終試験会場に到着します――
―――――――
――――――――――…
最終試験会場に飛行船が到着し、受験生10人はホテルの大広間に案内された。
全員が揃ったことを確認し、会長が口を開く。
「さて、諸君。ゆっくり休めたかな?ここは委員会が経営するホテルじゃが、決勝が終了するまで君達の貸し切りとなっておる。
最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。その組み合わせは、こうじゃ」
ボードに隠された布を会長が引っ張り、組み合わせが公開される。
『………!!』
どくん、とリリーの心臓が跳ね上がる。
ハンター試験も…
わたし達二人を引き離そうとしてるのかな…
リリーの対戦相手。
それは…
404番。
クラピカだった。
next…