名前設定無しの場合は、ヒロインが『リリー』になります。
ハンター試験編
ヒロイン名前設定
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クラピカ、レオリオと別れたリリーは、ヒソカと二人きりになった。
『…話ってなんなの?』
冷たく問いかけるリリーに、ヒソカは怪しい笑みを浮かべる。
「くくく◆そんな目で見つめるなよ★興奮しちゃうじゃないか◆」
リリーの背筋に虫酸が走る。
『くだらないこと言ってないで早く用件言ってよ!』
あ~腹がたつ。
なんで寄りによってヒソカと一緒にいなきゃいけないの!?
早くクラピカのところに戻りたいよぉ~!!
内心、大泣きのリリー。
でも表面上は、至って冷静。
「前にも言ったと思うけど、ボクはキミを探していたんだ◆キミの団長、覚えてるかい?」
『団長?誰それ??』
「クロロ・ルシルフル♪」
懐かしい名前。
2年半ほど聞いていなかった、聞きたくもなかった名前。
『なんだ、わたしのお兄ちゃんか。…て、なんでヒソカがクロロのこと知ってるの??』
「質問してるのはボクだ◆」
『覚えてるけど、もう家族とは縁を切ったから』
その言葉に驚いたヒソカは聞き返した。
「家族?」
『そう。平気で人殺しするような血も涙もない家族だから…大っ嫌いだし、もう関わりたくないの』
すると、ヒソカは顔に手を当てて笑い出した。
それを軽く睨みながらリリーは怒鳴った。
『何が可笑しいの!?』
ヒソカは何も言わずに不気味に笑うと、やがてうっそりと目を細めた。
「キミは勘違いしているようだねェ◆クモは家族じゃないよ★」
『え、クモ…?どういうこと??』
「クモは出身が同じなだけ★あれ?キミ、ホントに幻影旅団になるはずだったリリーなのかい?」
………え。
今、なんて…言ったの?
幻影旅団…?
リリーの瞳が大きく揺れた。
硬直し、衝撃で凍りついた喉の奥から必死で声を振り絞った。
『幻影…旅団…』
嘘だと、頭の中で誰かが叫んでいる。
しかし、もう一方で誰かが叫ぶ。
かたかたと震えながら彼女はヒソカを凝視した。
「知らなかったのかい?キミは幻影旅団の団員になるはずだった★
でも、キミがアジトを出てからボクは4番の男と交代で入った◆その時、リリーの話を聞いてね★途中でもしリリーを見つけたら、必ず連れて帰ってくるよう命じられたんだ◆未だに旅団は、リリーのことを必死に探してるよ★」
口元を両手で覆い、リリーはいまにも泣きそうな目をした。
『わたし…妹じゃ、なかったんだ。なんで…わたしだけ、知らなかったの…?』
―――「俺達の父と母はいない。俺達兄弟がお前のたった一つの家族だ。だから家族を裏切るな。そして、なにも聞くな。俺達盗賊の情報を誰にも漏らしてはいけない。
それとお前はまだ外に出ては行けない。次期にお前は俺達団員の一人になる。それまでこのアジトで大人しくしているんだ」―――
クロロの言葉が脳裏に甦る。
わからない…わからない。
真実は、どこ?
自分の信じていたことは
ぜんぶ嘘だったの…?
皆をずっと、兄や姉だと思ってた。
本当の家族だって、信じてた。
どうして、家族だって嘘ついたの?
なぜ、わたしは盗賊の名前も知らなかったの?
なぜ、みんな盗賊のことを何も教えてくれなかったの?
なぜ…
クルタ族を殺したの?
色をなくしたリリーに、ヒソカは薄く笑みを浮かべて言い放つ。
「知らないままの方がよかったかもしれないが、これが真実だ◆
そこで、本題だが…ハンター試験が終わったらボクはクモのアジトへ戻る★ボクと一緒に来ないか?」
リリーの心臓が、跳ねた。
その時、リリーの目が段々と深い緋色に変わる。
そのリリーの目を満足げに見据えて、ヒソカは囁きかけた。
「ボクはキミを探していたけど、決めるのはキミ次第だ◆
このまま旅団と縁を切ったままか★一緒に来て旅団に会うか◆…返答は?」
リリーは、凍てついた瞳でヒソカを見返した。
『…考えさせて…』
しばらくリリーを見つめるヒソカの目が狂気の宿った目に変わる。
「いい返事を待ってるよ◆もう、行っていいよ★しばらくここから動かないから◆」
ヒソカの目が幸せそうに細められた。
異様にきらめく瞳。
予想もしなかったヒソカの言葉に、リリーは驚いた。
リリーは、ヒソカの様子を伺い、警戒しながらその場を離れて行った。
ヒソカはリリーが姿を消した方をじっとただ見つめた。
「くっく…まさか、彼女も青い果実だったとはねェ◆でも、なぜ彼女が旅団の中にいたのか気になるけど…しかし、青い果実ってのは、どうしてああも美味しそうなんだろうねェ…★やだなァ◆欲情してきちゃったよ…★静めなきゃ◆ 」
恐ろしいほどの殺気のこもった目をしたヒソカは、必死に自分の欲情を抑えた。
「……よし、行くか◆」
――――――――
―――――――――――――――…
5日目の朝。
リリーは暗い面持ちでひたすら歩いていた。
クラピカ…
わたしはどうしたらいい?
わからない。
自分でもどうしたらいいのか。
一人で考えるのが怖い。
全てを受け止めるのが怖いよ…
もし、真実をクラピカに話したとしたら、クラピカはわたしのことを…恨む?
わたしにも復讐するのかな…
でもわたしは、クラピカを信じてる。
クラピカなら受け止めてくれるって。
一緒にいてくれるって。
だけど、クラピカと一緒にいたいという願いはもう叶わない。
叶えられない願い。
許されない願いなんだ…。
――「アイツとは余り関わらねー方がいいぜ?」――
今となって、飛行船の中で言われたキルアの言葉を思い出す。
でも…声が聞きたいの。
クラピカに、今すぐ会いたい。
すると、目の前に誰かがうつ伏せで倒れている。
『…大丈夫ですか?』
リリーは恐る恐る倒れた男の肩を揺らした。
ピクリとも動かない。
よく見ると、首から大量に血を流した跡がある。
リリーの背筋を、悪寒が駆け下りた。
『し…死んでる…っ』
リリーは震えて、恐怖の余り後ろに尻餅をついた。
息が苦しい。
ばくばくと走り続けている心臓の音が、大きく響いて耳障りなほどに。
これが…ハンター試験なんだ。
人間は、残酷だ。
人を殺して、その人の大切な愛や、夢や、希望や、思い出を、全て奪ってしまう。
残される遺族に、苦しみや、痛みや、悲しみを、与える権利はどこにもないのに。
この世に生きてる未来を奪う権利なんて、誰一人いないのに。
世界は、残酷なんだ…。
しばらく方針状態だったリリーはゆっくり立ち上がると、死体からプレートを探し出し、281番(アゴン)のプレートを奪ってその場を後にした――――――…
あれから6時間後。
リリーは、プレート集めにあてもなくさ迷い、ただひたすらゼビル島を歩いていた。
あれから、誰一人と会わない。
プレートは、あと最後の1枚をゲット出来たら、見事6点分になる。
早く見つけないと…
すると目の前の奥の方から、聞き慣れた声が聴こえてきた。
「あれ?こっちは197番か。もーオレってこういう感はすげー鈍いんだよな」
この声…キルアの声だ!
リリーは進めていた足を急停止し、近くの大木の裏に隠れた。
他の人の声も聞こえる。
リリーはバレないように様子を窺うと、どうやら三人組の男とキルアが対立し、キルアが一人を人質にして人質のプレートを持っている。
キルアのターゲットだった199番のプレートも奪うと、キルアは持っていた入らない2枚の内、1枚を遠くへ投げ飛ばした。
キルアの行動にリリーは驚きの余り目を疑った。
そして、大きく振りかぶり最後の1枚を投げようとしたその瞬間…
『ちょっちょっと待ったぁあー!!!!』
焦れたように大声で叫びながら、リリーはキルアの元に駆け付けた。
「リリー?ー、わっ!!」
驚くキルアにめがけて飛びつくと、キルアはその勢いで後ろに倒れた。
『そのプレートいらないならちょうだい!!あと1つだけなの!!』
「わっわかったから!!早くそこどけよ////」
リリーは、はっとした。
今、自分はキルアの上に倒れて、顔は間近で、まるでキスする寸前の状態。
『ご、ごめんっ!!///』
ぱっと離れて慌てて謝ると、キルアは持っていたプレートを渡した。
『よかったぁ~これで6点分集まったよ~!キルアありがとう!!』
リリーは安心し、満面の笑みを浮かべた。
久しぶりにリリーの笑顔を見た途端、キルアの心臓はきゅうに跳ね上がった。
派手に走り始める鼓動の音が、なんだかとてもうるさい。
「…よかったな」
こうしてリリーとキルアは6点分集まり、残り2日を共に過ごすこととなった。
二人は集めたプレートを奪われないように、2日間隠れて過ごす場所を探し歩いていた。
そのとき、キルアはリリーと話す度に疑問を抱いていた。
無理に作っている笑顔。
腫れている目蓋。
微かにかすれている声。
ただ単に風邪だからという単純な理由ではなく、泣き枯らしてしまったからだという切ない事実に気づくまでにそう時間はかからなかった。
キルアはしばらく、どうやって切り出したらいいものかと思案した。
『キルア、さっきから黙ってどうしたの?そんなにおでこにしわ寄せてたらそのうち消えなくなっちゃうよ?』
空元気のリリーに、キルアは神妙な面持ちで言った。
「…お前、何かあっただろ?誤魔化さないで、ちゃんと答えろよ」
単刀直入に聞いてきたキルアの言葉にリリーの顔から笑顔が消えた。
リリーは視線を泳がせて困ったように眉を寄せると、やがてうつ向いた。
『…何もないよ』
「クラピカか?」
その名前を聞いた途端、リリーの顔色が変わった。
「(ほんとに嘘つくのが下手な奴…)」
黙ってうつむくリリーにキルアは続けて質問した。
「クラピカと一緒にいたのか?」
その問い掛けにリリーは、暗い面持ちで頷いた。
この島でクラピカと一緒にいた事実、そしてふいにそらされた視線に怒りを感じたキルアは、黙ってリリーの前を歩き出した。
『…?…………キルア……キルア!』
後ろから名前を呼ぶ声を無視し、背を向けたままキルアは足取りを止めずに進み出す。
『ねぇ、待ってってば!』
何度呼んでも止まってくれないキルアに、リリーは走ってキルアの前に立ちはだかった。
『ちょっとキルア!!なに怒ってるの?わたしが何をしたって言うのよ!』
苛立ちを見せる鈍感なリリーに対し、キルアはさらに剣呑な表情をして答えた。
「…言わなくても分かってんだろ」
『………………』
リリーはじっとキルアを見つめたまま、口を開かない。
「ホントに分かんねぇのか?」
『…クラピカと一緒にいたこと?』
不思議そうに表情を浮かべるリリーに、キルアは語調を荒くした。
「クラピカはお前のことなんとも思ってない!お前を昔の初恋相手と重ねてるだけだ!まだ分かんねェのかよ!!」
見た事がないキルアの怒った真剣な顔に、リリーは思わず目をそらした。
『分かってるよ…』
「分かってねーよ!だったらなんでそんなに苦しむんだよ!?泣くくらい辛いならなんでアイツを信じるんだよ!!」
『わたしが好きなの!キルア、わたしがね、クラピカのこと好きなの!』
キルアの胸に、氷魂にも似たものが音を立てて落ちていく。
「…………なんでだよ。そんなに、クラピカのことが好きなのかよ。………オレは、クラピカの代わりにはなれないのか?」
キルアの思いつめた言葉に、あの時の光景が甦る。
――『…じゃあ、わたしを好きだったことは??』
「…すまない。誰もソフィアの代わりにはなれない」――
クラピカも、いまの私と同じ気持ちだったんだ…
リリーはうつ向き、悲しそうな表情で静かに口を開いた。
『……誰も、クラピカの代わりにはなれないの…』
「…でもオレ、マジだから。考えといて。……じゃあな」
キルアは辛く剣呑な表情で、その場を歩み去った。
リリーの横を通りすぎた時。
呆然と立ち尽くしたまま。
とてつもなく不安そうな、とてつもなく悲しそうな表情をしていた。
リリーにあんな表情をさせたのは、紛れもなくこのオレだ。
リリー
オレは、お前が好きだ。
あんな辛そうな顔を見たくない。
あんな痛々しい瞳を見たくない。
リリーには、ずっと、ずっとオレの隣で笑っててほしいんだ。
クラピカじゃなく…オレの傍で。
こんな感情、生まれて初めてだよ。
でもリリーはオレのそんな気持ちに、全然気づいてなかっただろ?
だけど、少しぐらいオレの本心に気づいてほしかった。
気づいてほしかったんだ…
リリー…
―――――――――
――――――――――――――――――…
昨夜と今日でいろんな事実を知り、頭も心も現実についていけないリリーは、大木の上に登って休むことにした。
次々と脳裏に甦る事実。
どうしたらいいのか…
分からなくて、分からなくて。
誰かに助けを求めてしまいたい。
キルアに逃げれば楽になるのかもしれない。
だけどクラピカと同じように、心は違う人を思って一緒にいることは出来ないんだよ…
師匠…
わたしはこれから、どうしたらいいですか?
“人は叶えるために生まれてきた”
そんなの嘘だよ。
もうこれ以上、考えたくない。
傷つきたくない。
それなのに…クラピカに会いたい。
会いたい、会いたいよ…。
でも、今は会わない方がいいのかもしれない。
わたしの盗賊は、幻影旅団。
この真実をクラピカに伝えることは出来ない。
それは…
クラピカを傷つけたくないから。
それに、わたし自身も傷つきたくないから。
でも、事実を言わずに今まで通り仲間でいるのは、あまりに残酷すぎる。
でも、わたしからクラピカの傍を離れることなんて出来ない。
それなら、いっそのことわたしのことなんて嫌いになってほしい。
嫌いになって、クラピカの方から離れていけばいいの。
わたしのことなんて、忘れてしまえばいいの。
それが、わたしの中で一番正しい選択。
このハンター試験が終わったら、本当に何もかも終わってしまう気がした。
出会った日も、笑い合った時間も、一緒に過ごした夜も、そして最後に見せる表情も…
最後に交わす言葉も、全部が過去になってしまうんだね。
別れないといけないけれど、今はまだ別れを決定的にしたくない。
それが、わたしの正直な気持ち。
クラピカ…
わたしは、今でもクラピカが好き。
大好きだよ。
でもね、クラピカ。
こんなこと思いたくなかったけど…
わたしと貴方は、きっと。
離ればなれになる、運命だったのかな…
next…