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ハンター試験編
ヒロイン名前設定
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『クラピカが、好きだから…』
その言葉にクラピカは大きく目を見開くと、次第にリリーから目をそらし、辛い表情をした。
リリーはクラピカの口から出る言葉を聞くのが怖くなった。
「悪いが…その気持ちには答えられない」
『…どうして??わたしがソフィアって人と似てるから?』
リリーはクラピカを必死な眼差しで見つめ、返事を待った。
暗い表情で視線を地面に向けたまま、クラピカが口を開く。
「…もし、ソフィアが生きていたらどんな姿になっていたのか気になっていた。私は、11歳のソフィアしか知らない。16歳のソフィアはどんな姿だったのかとリリーを通してソフィアを見ていた。
だから、私はリリーを愛せない。それに、私は復讐の身。もうこの先、二度と誰も愛さないと誓ったんだ…」
『…じゃあ、私を好きだったことは…??』
リリーの目からとめどなく流れる涙が地面を濡らす。
「すまない…誰もソフィアの代わりにはなれない」
その返事を聞いたリリーは、その場から走り出した。
「…リリー!」
振り向かない。
立ち止まらない。
もう夢を見ない。
これ以上、傷つくのが怖い。
…意気地なし。
しばらく足を進めたところで振り返ってみた。
クラピカの姿は見えない。
リリーはその場で崩れたように座り込むと声を押し殺して泣いた。
クラピカ…
好きでした。
大好きでした。
あなたと出会って初めて恋をした。
わたしはクラピカと一緒にいて幸せだったよ。
でもきっとクラピカは違ったんだね。
空を見上げる。
夕日がゆっくりと姿を消して、空が暗くなっていく。
失恋がこんなにも…苦しくて、悲しくて、切なくて、こんなに涙が溢れるものだとは知らなかったよ…。
―――別れてから2時間後。
気が付けば、辺りは真っ暗になっていた。
『ここ、どこだろ…』
ホウ、ホウ…
真上で、梟が鳴いている。
余りにもそれが大きく響いて、リリーはびくびくしながら上を見た。
何も見えない。
鬱蒼と茂る木々が、空を覆うように広がっている。
今まではどんなに怖くても、クラピカがそばにいた。
でも、もうクラピカはいない。
完全な闇の中、梟の鳴き声と、虫の音色と、どこからともなく響いてくる水のせせらぎが折り重なる。
そこに自分の鼓動の音が加わり、精神の糸がぎりぎりまで張り詰めていく。
すると、近くの草むらが突然動き出した。
『…っ!?』
リリーは息を呑んだ。
草むらから黒い人物が現れ、目を凝らして見ると手に鎌を構えた長髪の男だった。
リリーの心臓が、跳ね上がる。
リリーは、その場を全速力で走った。
しかし、足がもつれて転んだリリーは、肘を支えに上体を起こして息を止める。
すぐ後ろに男は不気味に微笑みながらリリーに目掛けて鎌を大きく構えていた。
そして、鎌を振り落とした。
『きゃぁあ…っ!!』
殺られる…!!
リリーは反射的に目を閉じて、腕で顔を覆った。
その瞬間。
襲い掛かってきた男が低くうめいて、その場で後ろに倒れ込んだ。
目の前から誰かがゆっくり近づいてくる。
恐怖で震える体の上体を再び起こし、リリーはその場から走り出した。
「…あれ?逃げちゃった◆残念…★」
数分後…
リリーは草むらに隠れてうずくまり、震えながら泣いていた。
ハンターになるために強くなると決めたのに…
実際自分は何も出来ない。
一人が怖い。苦しい。助けて。
クラピカ…
助けて、たすけて、タスケテ。
しばらく経つと、何者かが近づいてくる足音が聞こえる。
リリーは怯えながら必死に声を押し殺した。
すると…
「…リリーなのか? 」
その声にリリーは反射的に後ろへ振り向いた。
するとそこには、クラピカの姿。
リリーは勢いよく地面を蹴るとクラピカに抱きついた。
クラピカが来てくれた安心感からか、子供みたいに声を出して泣きわめく。
「よかった…無事でよかった…」
クラピカの中で泣き続け、落ち着いてきた頃にクラピカはリリーにそっと問いかけた。
「…落ち着いたか?」
『うん…』
顔を上げると、目の前にはまっすぐ前を見つめているクラピカ。
その表情は、どこか悔しげだった。
…リリー。
よかった。
こうして会うことが出来て、本当によかった。
どれほど不安な時間を過ごしたのだろう。
どれほど怖かったのだろう。
どれほど悲しかったのだろう。
リリーにとって今日この日は、きっと一生忘れることが出来ないほどの嫌な日になったに違いない。
私の目の前に存在するリリーの姿は余りに脆く、儚く、触れたらすぐ壊れてしまいそうで…
それでも私はこの淡いぬくもりをどうしても失いたくなくて、強くリリーを抱き締めた。
このぬくもりを、このまま永遠に手放したくない。
しかし、もし本当の愛というものの答えが、このぬくもりだったのだとしたら…
神様は私に、ほぼ答えの決まっている、悪夢の選択を下している。
いつか幻影旅団と自分自身に勝てなくなる日が来たとしたら…
残されたリリーはどうなる?
寂しがりやのリリーはどうなる?
必ず守るという保証はどこにもない。
保証も何もないままリリーを守るなどと偉そうなことを言えば、あまりに無責任すぎるのではないか?
それに私は、リリーを通してソフィアを重ねている。
リリーの気持ちはどうなる?
あまりに残酷だ。
私は、なんて残酷なのだ。
リリーの言っていた通り、死んだ人を想うのは愛ではないのかもしれない。
ソフィアを忘れられるのならば、全部忘れたい。
だが、どうしても忘れることが出来ない。
リリーが私といれば、この先また悲しめる日が必ず訪れるだろう。
リリーには幸せになってほしい。
だから、リリーの合格を見届けるまでは…
リリーを、守りたい。
そして、ハンター試験後もリリーを守り続けていく方法はただ一つ。
それは、リリーの幸せを遠くから静かに願うこと…なのかもしれない。
「今夜は休もう。ここにいては危険だ。寝床を探すぞ」
『うん…』
頷くリリーを見て、クラピカは目許を和ませて言うと体を離し、周囲を見渡す。
クラピカは、はぐれないように優しくリリーの手を握り締めた。
「…もう私から離れるな」
『うん…』
クラピカの手…温かい。
やっぱりわたし、クラピカが好きだよ。
この気持ちだけは、変えられない。
クラピカとずっと一緒にいたい。
この恋を諦めたくない。
どんなに辛くても
追いかけていくんだ―――…
リリーはそう心に誓い、クラピカの手の温もりを感じながら、クラピカの横顔を見つめたのだった。
そして、翌日。
試験4日目の早朝。
リリーとクラピカはプレート(獲物)を捜索していた。
『ねぇクラピカ。クラピカのターゲットは何番だったの?』
「16番のトンパだ」
『トンパか!(あのウワサの新人潰しね。)見つかれば余裕だね♪』
「リリーは何番だったんだ?」
『え!?…えっと、それは…』
もうっ、わたしの馬鹿!!
どうしよう…
ここは正直に言うべき??
でも本当の事を言ったら、クラピカはわたしと一緒に居てくれなくなるかもっ。
それは嫌だよ…。
自分から聞いておいて墓穴を掘ったリリーは、正直に話すか考え込み、口を閉じた。
その反応を見たクラピカは穏やかな目をして、優しく言った。
「私なのだろう」
『え!!なんで分かったの!?』
目を大きく開いて驚くリリーにクラピカは目をぱちくりさせると、一拍おいて吹き出す。
「お前は分かりやすいからな」
『なに?顔が??』
「そうだな」
ガーーン。
その返事にリリーは、とぼとぼと肩を落として歩き、どんよりと暗い顔をした。
もう…バレちゃったよ~っ。
もうわたしとは、一緒にいてくれないよね…
なんか気まずいなぁ。
どうしよう…
そう思った時だった。
「リリー、私と組まないか?」
『え?』
リリーは目を丸くして足を止めた。
「すまないが、私のプレートは誰にも渡せない。だが、リリーには3日間看病してもらった借りがあるからな。期日までにリリーの残り3点分を二人で集めれば問題ないだろう」
『え、まだ一緒にいてくれるの!?…でも、悪いよ。またわたしのせいでクラピカにもしものことがあったら…』
「それはリリーも同じだ。いつお互い命を襲われてもおかしくないのがこの試験なのだ。だからこそ、仲間通し助け合えば無事にプレートを集める近道になると私は思うが?」
優しい目をして言うクラピカに、リリーは素直に頷いた。
『…そうだね。仲間だもんね!ありがとうクラピカ!!』
まだクラピカと一緒にいられる!!
嬉しいけど、本当に一緒にいていいのか複雑な気分。
クラピカの足を引っ張らないように、よく警戒しないとな。
油断は禁物だね!
…と、そのとき。
近くから声が聞こえる。
リリーとクラピカは草むらに身を隠し、様子を窺った。
リリーが草むらから少し顔を出し、目を凝らしてみると…
…あ、レオリオだ!!
いま話してるのは…トンパ??
おそらくレオリオは、お腹を下したトンパがレオリオの獲物の情報を伝える代わりに薬を譲って欲しいという交換条件を出されている最中。
トンパからレオリオの獲物の情報を聞き終え、薬を出そうと鞄を開けた。
その瞬間。
レオリオの後ろから突然、木の棒を構えた男がレオリオに襲いかかる。
それを咄嗟に避けたレオリオだったが、開いた鞄の中身がバラバラに落ち、その隙に一匹の猿がプレートを盗んだ。
「プレートゲェ~~ット」
レオリオのプレートを盗み、猿と一緒に笑みを浮かべたのは118番のソミー。
どうやらトンパとソミーはグルだったらしい。
『なんて卑怯なの!?許せない!!』
思わず飛び出そうとしたリリーの腕を、背後からクラピカが掴んだ。
「待て!私はトンパを追う。リリーは猿を!!」
『わかった!!』
二手に走り出したトンパとソミーは、余裕の表情。
クラピカはトンパが向かう先で待ち伏せし、向かってくるトンパの顔に思い切り蹴りを交わし、トンパを気絶させた。
「ソミーを追うんだ!!」
「クラピカ!?お、おう!!」
レオリオは急いでソミーを追いかける。
そして、リリーは…
『待てーーー!!』
怒りに任せて叫ぶが、猿は次々と木の上に飛びうつって逃げる。
『は、速い…!何かいい手は…』
走り疲れさすがに息が切れてきたリリーは、周りを見渡し近くの木の実を見つけると、猿に思い切り投げつけた。
木の実は猿に見事命中し、猿はぼとりと木から落ちてくる。
リリーは勢いよく猿を捕まえた。
『やっと捕まえたっ!!もう逃がさないわよ!!』
怒ったリリーの顔を見ると、猿はびくびくと身をすくませる。
次第に猿は、大人しくリリーにレオリオのプレートとソミーのプレートを渡した。
『やったぁ!!プレートゲット♪よしよし、猿くん!いい子だね♪もう行っていいからねっ』
リリーは猿の頭を優しく撫でると、ひらひらと手を振った。
いたく感動した面持ちでしばらくリリーを見つめた後、猿はその場から走り去って行った。
「リリー、そっちはどうだ?」
『見て見てクラピカ!!レオリオのプレートも取り返して、ソミーのプレートもゲットしたよー!!』
リリーは満面の笑みでクラピカに伝えると、子どもみたいにはしゃいだ。
「そうか!!よかったな!」
喜ぶリリーの姿に、クラピカも自分のことのように嬉しさが込み上げる。
そして彼女を、温かく、愛しい目で見つめた。
クラピカ、レオリオ、リリーの三人は、トンパとソミーを縄で縛り、一段落した。
「よし!!オレのプレートは無事に戻ったぜ!」
「そして16番と118番のプレートを手に入れたわけだ」
「まさかクラピカのターゲットがトンパだったとはな。お陰で助かったぜ!クラピカ、リリー!」
安心した表情を浮かべるレオリオにリリーは笑顔で返した。
『そんな、助けるのが当たり前だよ!無事に取り戻せてよかったね♪』
「おう、そういやリリーのターゲットは誰なんだ?」
『そ、それは……』
その質問にリリーは気まずそうに眉を寄せて俯くと、隣にいるクラピカをちらっと見つめた。
目が合ったクラピカはリリーの代わりに答えた。
「私だ」
その返事に唖然としたレオリオは慌てて問い掛けた。
「ま、マジかよ!!それなのにお前ら一緒に組んでんのか!?」
「あぁ、私のプレートを渡せない代わりに2人で残り3点分を集めていたんだ」
「そうか、なるほどな!!だがよ、残り4日もねーぜ?それまでに2点分集めねーとなァ…」
『うん…』
少し暗い表情のリリーに、クラピカは肩に手を置いて軽く微笑んだ。
「焦っても仕方がない。3人で探せばきっと集まるさ」
「そうだな!チームで動いた方が便利なのは確かだ。期日まで同盟組もうぜ!!」
リリーは元気な笑みを浮かべると頷いた。
『うん、二人ともありがと!!』
「なに、水くせえなぁ。いいってことよ!クラピカは16番(トンパ)と自分のプレートがそれぞれ3点だから、すでに6点たまったわけだ」
「奪い返されたりしない限りな。次はレオリオのターゲット246番(ポンズ)とリリーの2点分を探そう。尾行に気をつけろ」
こうして3人は同盟を組み、プレートを集める為、その場から歩き始めた――――――…
―――――――――
――――――――――――…
闇が濃い。
深く重苦しく、一歩進むごとに魔の道に迷い混んでしまったような錯覚を起こす。
巨大な木が折り重なるようにして生い茂る。
進んでいく3人の向こうに、誰かがいた。
リリーは目をいっぱいに開いてそれを見つめた。
『ヒソカ…!』
リリーは、突然心臓が叩かれたように跳ね上がるのを自覚した。
クラピカとレオリオもヒソカに気がつき、足を止める。
「やぁ◆」
心臓が冷たく凍える。
3人はヒソカを凝視して、警戒した。
「実は2点分のプレートが欲しいんだ◆キミ達のプレートをくれないか?」
怪しく笑みを浮かべて問い掛けるヒソカに、レオリオとクラピカは激しい口調で反論した。
「なんだと?ふざけるんじゃねーぜ!!誰がプレートを渡すかよ!!」
「生憎だが、我々のプレートは渡せない。もしも、力ずくでと言うならば…今度は相手になろう」
そのクラピカの言葉に、三人は凶器を構えて戦う体勢をとった。
ヒソカは狂気の宿った目をして笑うと、再び口を開いた。
「じゃあ、プレートはいらない◆その代わり、リリーをボクにくれないか?」
『えっ…!』
予想外の展開だった。
その言葉にレオリオとクラピカは更に激しい口調で怒鳴った。
「駄目だ!!」
「バカ言ってんじゃねーよ!!なんでリリーをオメェに渡さなきゃなんねーんだ!!まさか…リリーを連れて、あ~んなことやこ~んなことをするんじゃねーだろうなぁ!?」
「あーんなことやこーんなこと??」
二人の発言にリリーは一瞬真っ白になった後、慌てて声を上げた。
『ちょ、ちょっとレオリオ!!なに言ってんのよ!!』
「…とにかく、リリーは絶対に渡さない!!」
クラピカは切り替えて、ヒソカにきっぱりと断った。
すると、ヒソカが顔に手を当てて不気味に笑いだした。
「くくくくくく◆…面白いねェ、キミ達★大丈夫、リリーには何もしないよ◆ちょっと話があるだけ★それでもリリーをくれないなら…二人共、ここで殺しちゃうよ★」
ドクン、と。
不意にリリーの心臓が跳ねた。
わたしがヒソカの元に行かなかったら…
クラピカとレオリオが殺される。
そんなの、絶対にダメ!!
でもヒソカのところに行くのが怖い。
怖くて怖くて仕方がない。
でも、大事な仲間を守るんだ。
怖がってはいけない。
迷ってる暇はない。
息を飲み、じんわり汗ばんだ手のひらを握りしめてリリーは口を開いた。
『クラピカ、レオリオ。わたし、ヒソカのところに行く!』
「なっ…」
一瞬何を言われたのか、分からなかった。
クラピカは目の前を歩き出すリリーの手を強く掴み、先の行動を引き止めた。
「駄目だ、行くな!!もし殺されたらどうする!?リリーを絶対に行かせはしない!!」
「気は確かか!?何いってんだリリー!!」
二人がリリーに怒鳴って懸命に止める。
捕まれた手からはクラピカの不安な想いが痛いくらいに伝わってきた。
しかし、リリーは決然と言い募る。
『ヒソカのとこに行く。クラピカ、レオリオ。大丈夫だよ!わたしを信じて』
「しかし…」
『絶対に戻ってくるから』
クラピカは、はっと息を飲んだ。
自分を見つめるリリーの眼差しは静かで、一点の揺らぎもなく、強い意志が感じられた。
「…分かった。必ず戻ってこい」
クラピカは引き止めた手を離す。
『うん!すぐ戻ってくるからね!!』
リリーは元気に微笑むと、ヒソカの元へ足を進めた。
もしこのとき。
クラピカがわたしの手を離していなかったら…
わたしはクラピカの傍を離れるなんてこと、きっとしなかった。
そしてこの先、胸を痛めることだって…なかったのに。
なかったんだよ、クラピカ…
next…