名前設定無しの場合は、ヒロインが『リリー』になります。
ハンター試験編
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穏やかな海。
朝日が昇り始めた頃。
受験者達は騒然となっていた。
「第二波が来るまで、後20時間もねェ」
「つまりそれが我々に残された時間という訳か」
レオリオとクラピカの会話に、真剣な顔をしたハンゾーが口を開く。
「それ以上ここにとどまれば、死あるのみ」
「それまでに何とか、自力でゼビル島まで行くしかない」
クラピカの言葉に、レオリオが苛立ちながら言い放つ。
「しかし、どうやって行けってんだよ!」
『確かに、空か海かも脱出する方法なんて…』
しかも、あの潮を乗り切れる船なんて、見た限りないしな…
リリーは床を見つめて、考え込む。
すると。
「船ならあるよ!!」
上からゴンの元気な声が響いた。
リリー達は声がした方へ顔を上げた。
『ゴン…』
ゴンは笑顔を浮かべて、大声で言った。
「この船があるじゃない!!」
そう言って、ホテルとなっている軍艦船を指し示すゴンに、レオリオが声を荒げた。
「バカ言ってんじゃねーぞ、ゴン!こんなもん鉄の塊じゃねーか!?」
リリー達は、急いでゴンがいる場所へと向かった。
鉄の塊になって島と一体化していたと思えたこの船は、エンジンが生きており、本当に動く可能性がありそうだった。
この岩場から離れられれば!と、期待を見出した受験者達。
「全員で今から船の状態を調べるんだ。1時間後にまたブリッチに集まろう」と、クラピカの指示に皆が船を調べ始める。
そして1時間後。
軍艦の見取り図を皆で囲みながら、問題点を洗い出していく。
軍艦船は島に固定されている為、固定部分を切り離さなければならない。
側面の切り離しはオレにまかせろと、爆弾物の取り扱いに手馴れたキュウが申し出る。
「だが問題は艦首部だ。完全に島にめり込んじまってる。あの岩を破壊するには、並大抵の加力じゃ無理だ」
剣呑な表情で言うハンゾーに、クラピカが口を開く。
「それにはこの船そのものの大砲を使うしかないだろう。40cm砲4本による連続射撃。それしかない」
「それには動力を伝達する必要がある。それに砲弾はあるのか?」
ポックルの問いにレオリオが答える。
「おう、それならオレが知ってる。お宝を探した時に見つけたぜ。馬鹿でかい砲弾が眠ってやがった」
「あの前方の岩を大砲で吹っ飛ばせば、亀裂がこの船の下まで一気に走るはずだ」
クラピカの言葉に、ハンゾーが納得する。
「なるほど。海水が亀裂に乱入する勢いで船を岩場から浮き上がらせるのか」
『…………』
リリーは目を丸くして、皆の話を茫然と聞いていた。
みんな、ホントすごいなぁ…
わたしには難しくて、半分しか理解できない(汗
さすが、ここまで生き残った人達。
……って、感心してる場合じゃないっ。
とにかく、この船を使って船丸ごと脱出するってことだよね?
わたしは何をしたらいいんだろう??
「リリー…」
みんなの足手まといにならないようにしなくちゃ…
なんか不安だなァ。
ちゃんとやれるかな…
て、弱気になっちゃだめだ。
わたしも頑張らないと!
「…リリー」
『………へ?』
先程からクラピカに声をかけられていることに全く気付かなかったリリーは、間抜けな声を出す。
「…話聞いてたか?」
まずいっ。
リリーは慌てて答える。
『あっ、うん!この船でゼビル島に行くんだよね?』
「…そうだ。この船の大砲を使って岩を破壊するんだ。だが切り離された後、船を後方に動かさないと岩に埋もれてしまうからスクリューも整備しないといけないんだ。そこまでちゃんと理解できているか?」
心配げな顔で尋ねるクラピカに、リリーは焦りながらも、こくこくと頷く。
『も、もちろんだよっ』
「リリーは頭悪いんだから、どうせ全部は理解できてないって」
いたずらな笑みを浮かべて言うキルアに、リリーは反論した。
『ちょっとバカ扱いしないでよっキルア!』
「じゃあ、いま皆が言ってたこと全部まとめて説明してみろよ?」
『え!それはね、えっと…』
「ほら、すぐに答えられねーだろ?やっぱりバカ確定だな」
そう言って、リリーの頭をぽんぽんと手を置くキルアに、リリーは苛立って声を上げた。
『なによっムカつく~!わたしよりも年下のくせにーっ!』
リリーはキルアをポカポカと殴った。
仲好さげな二人に、クラピカの中で何かが切れる。
「痴話喧嘩は後でやれ。海藻の撤去は誰がする?」
リリー達に冷たく言い放ち、皆に問いかけるクラピカ。
痴話喧嘩…と、彼の言葉がグサッと胸に刺さった リリーは、ズーン…と落ち込んだ。
「スクリューは、オレとキルアとリリーでやるよ!ね?」
とゴンがリリーとキルアに、笑顔を向けた。
『うん…』
とてもテンションが低いリリー。
「えぇ!?うぜーよそんなん!」
不満そうに声を出すキルアにゴンが説得した。
「やろーよ!ね!?」
「ちぇ、わかったよ」
「問題点と言えばそんな所だ」
ハンゾーが言った後に、クラピカが話す。
「後は実行するのみだな」
レオリオは心配げにクラピカを見た。
「間に合うか?第二波まで」
「やるしかない。ここにいる25人全員が力を合わせて、この難関をクリアするんだ。それ以外、ゼビル島に行くすべはない」
「よぉし、分かった。皆、行くぞ!!」
レオリオの合図に、皆は一斉に各自走り出した。
船の高い位置から動き回る彼らを見るヒソカとギタラクル。
「おやおや。みんな活きがいいこと♠」
「カタカタカタカタカタ…」
側面は赤鼻のキュウの指示により、皆で爆弾を仕掛ける。
槍を持ったリリー達は海の真上に到着。
「リリー!オレとキルアが行くから、リリーはここで待っててよ!」
元気にそう言って、海に飛び込もうとするゴンをリリーが止めた。
『待って!わたしも行くよ!』
「大丈夫だよ、すぐ戻るから!」
『でも…』
納得しないリリーに、キルアが言い放つ。
「いーから、お前は待ってろ!また服が濡れるから。じゃ、ゴン!行くぜー!」
「うん!!」
『あっ、待っ…』
二人はすぐ海に飛び込んで潜ってしまった。
リリーは船の手すりを掴んで、二人が飛び込んだ海を心配げに見つめた。
確かに、わたしも行ったら足手まといだったかも。
一応泳げるけど、泳ぎに自信がある方じゃないし…
『はぁ…わたしにできることって、なんだろう』
わたしにも、何か役に立てることないかな。
リリーは深いため息をついた。
クラピカは、ブリッチで発射プロセスの確認をしていた。
マイクからハンゾーの声が聴こえる。
「クラピカ。どうだ。手法の発射プロセスは。こっちは順調だ。第一、第二砲とともに傷みはそんなに酷くない。連射は可能だ。砲弾の装填システムの方も分かったぜ」
「そうか」
「後は実際に砲弾をセットするだけだ。レオリオのやつ、本当にコイツの砲弾をみたんだろうな。館内には一発も残されていないようだが―――…」
その頃。
レオリオは潜水服を着て、海に潜っていた。
空はだんだんと黒い雲が現れ、湿気が増え、波も風も強くなってくる。
リリーは海を見つめて、ただひたすらゴンとキルアが無事に戻るのを祈っていた。
レオリオは沈没船の中から砲弾を取り出す。
すると上から金貨が一枚ゆらゆらと落ちてきた。
それを手に取って、レオリオは金貨を見つめた。
「(…正真正銘の王朝金貨だ。皮肉なもんだぜ。こんだけの金貨より、今はこの砲弾の方が価値があるとはな)」
レオリオは、手のひらの金貨を捨てる。
すると。
ガタガタガタガタ…‼
突然、凄まじい音がした。
沈没船が崩れ始める。
「うわぁあ‼」
レオリオは崩れた沈没船に埋まってしまったのだった―――――――――…
夜になり、雲が増え、大気が荒れ始める。
リリーの心臓は、不安と恐怖で早鐘を打っていた。
海から顔を出したゴンとキルアの姿に、リリーは安心の笑みを浮かべる。
『ゴン!キルア!早く!』
荒れる海の中、ゴンとキルアは急いで船に上った。
『二人とも大丈夫!?怪我してない??』
「遅くなってごめんねっリリー!けっこう海草が巻き付いててさ!」
笑顔で元気に話すゴンに、リリーはほっととした笑顔を浮かべた。
『よかった!遅かったから心配して…ほんとに無事でよかった…!』
今にも泣き出しそうなリリーに、キルアが優しい目でリリーの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「大丈夫だよ」
「さっ早くハンゾーの所に行こう!」
『うん!』
ゴンの言葉に頷くと、リリー達は走り出した。
側面の切り離しは無事成功。
砲弾の装着も順調。
充分な数が装着された。
その頃。
大気が荒れているのを実際に目にしたクラピカは、急いでマイクに向かって声を出した。
「ポックル!ポンズ!エンジンの方はどうだ!?」
作業をしているポンズが、ポックルに大声で尋ねる。
「ポックル!どう!?」
「もう少しだ!」
「だって!主砲への動力伝達回路は開いたわ!後はエンジンが動くことを祈ってて!」
「分かった!では作戦開始の棒読みを…」
「問題が起きた!」
右のマイクから、ハンゾーの声がした。
聞かされたハンゾーの言葉に、クラピカの心臓が、どくんと跳ね上がる。
レオリオが海中に埋まって、救出できていない事を知り、クラピカが愕然としていた。
「…潜水服はあれ一つしかない。救出は二次遭難の可能性が高い。最終判断はお前に任す。いいな」
「…………」
返事がないクラピカに、ハンゾーが呼ぶ。
「クラピカ!!」
すると突然、トンパが慌ててハンゾーに声をかける。
「ハンゾー!!」
「どうした!?」
「海が!!」
ハンゾーは急いで外に出た。
目の前に映ったのは、海と竜巻が一体となって、海が激しく荒れている。
ハンゾーは驚愕した。
「なんてこった…!」
『ハンゾーさん!』
「こっちは終わったよ!」
茫然と立ち尽くしているハンゾーに、声をかけた リリーとゴン。
「…ご苦労」
「そっちはどう?あれ、レオリオは?」
ゴンがきょろきょろとレオリオの姿を探す。
リリーも辺りを探すが、レオリオの姿がどこにも見えない。
嫌な予感がする。
リリーはハンゾーの顔を見た。
すると彼は、悔し気な表情で海を見つめた。
その瞳は、何かを訴えている。
まさか…!
そう思った瞬間、察したゴンとリリーが同時に勢いよくその場を後に走り出す。
「またかよ!」
キルアもゴン達の後を追おうとするが、ハンゾーががしっとキルアの肩を掴んで止めた。
「ダメだ!ここは二人に懸けるしかない!!」
キルアはハンゾーを睨みつけて葛藤する。
だが彼は舌打ちをして、海を見て言った。
「馬鹿野郎…!」
「まだやることが山ほどある!こっちを手伝ってくれ!」
そう言ってハンゾーはキルアを連れて、その場を後にした。
「18:30に計画を実行し、この海域から脱出する!各自それに向け準備を行え!では、時刻合わせ!作戦行動、棒読み。開始!」
クラピカの宣言が全館に鳴り響いた。
後10分以内にゴンとリリーは、レオリオを助け出さなければならない。
主砲に向かって、ハンゾーと急いで廊下を走るキルアは、ふと窓を見つめ足を止めた。
だがハンゾーが声を荒げる。
「キルア!今は迷ってる暇はない!!」
「ちっ!分かってらぁ!」
苛立ちながら言ったキルアは、再び走り出す。
ゴン、リリー。
お願いだ。
絶対、無事に戻ってくれ…
リリーとゴンは、大荒れた波の目の前にいた。
この海の底に、レオリオがいる。
だがこの大荒れた海に自分が飛び込めば、死は確実だということをリリーは感じた。
並大抵の人間では、とてもじゃないがこの海に飛び込むことは不可能だろう。
でもここは、泳ぎが得意なゴンを信じるしかなかった。
「リリー!オレがもし10分経っても戻らなかったら、クラピカに知らせてね!」
真面目な顔で告げるゴンの言葉に、リリーは一瞬何を言われたのか分からなかった。
その言葉は、10分経っても戻らなければ、オレ達を見捨てろという意味だ。
でも、迷っている暇はなかった。
一刻も早く、レオリオを助け出さなければ、彼が死んでしまう。
リリーは決して揺るがない瞳で、ゴンを見つめて言った。
『大丈夫!ふたりは絶対戻ってくる。ゴンを信じてるから!』
リリーの言葉に、ゴンは頷いて親指を立てた。
「うん!大丈夫!絶対レオリオを助けてくるよ!」
その言葉を最後に、ゴンは大荒れた海に飛び込んだ。
大丈夫。
ゴンとレオリオは、必ず戻ってくる。
絶対に。
リリーは、そう自分に言い聞かせた。
すると。
『きゃ…!』
一瞬、波がリリーに襲い掛かる。
全身濡れてしまったリリーだが、どうすればゴンを助けられるか、頭をフル回転させる。
波が更に大荒れて、船が浸水しようとしている。
ここにずっと止まれば、波にさらわれるのも時間の問題だった。
突然、海を照らすライトが消えてしまった。
ポックルとポンズはエンジンを起動し、動力を主砲へ切り替えたからだ。
完全な闇の中。
これでは、大波の中でゴンの姿が見つけられない。
リリーの心臓が早鐘を打つ。
海の中はもっと真っ暗だろう。
ゴンがレオリオを抱えて、海面まで上がってくるときに、せめて目印になる光でもあれば…
光…………懐中電灯…
そうだ!
こうしちゃいられないと、リリーは船に戻ろうとした。
すると、近くで16番のトンパが立っていた。
しかも手には、懐中電灯を持っている。
これだ!!
リリーは慌てて声をかけた。
『すみません!その懐中電灯、貸してくれませんか!?今すぐ必要なんです!!』
「それは無理だな」
『え…』
「これ(懐中電灯)はオレが持つ。君は波に気を付けながら、ゴン達が海から上がる時に引き上げてくれ」
トンパの思いがけない言葉に、リリーは瞳を光らせた。
『はい!ありがとうございます!!』
トンパはハシゴに登って、海に光を当てた。
「こんなんでもないよりはマシだろう。根競べなら自信あるぜ!」
そう言って、トンパは自信気に笑った。
ハンゾー達は砲弾を充填し、砲先を目標に合わせ、後は引き金を引くだけ。
30分まで、あと残り3分。
海の底では、気を失っていたレオリオが目を開けた。
目の前には、目を閉じて気を失っているゴンの姿にレオリオは彼を揺さぶった。
「ゴン!ゴン!」
ゴンは目を覚まさない。
レオリオは、ゴンの身体に乗っかっている板を蹴っ飛ばし、自分の潜水服の中にある空気を外してゴンの口につける。
ゴンが意識を取り戻すと、レオリオを見て、大きく目を見開いた。
「(レオリオ!)」
「あとは…頼んだ…ぜ…」
その言葉を最後に、再び気を失うレオリオ。
ゴンはレオリオを抱えながら、必死に海面に向かった。
「クラピカ!もう待てん!主砲発射だ!」
マイク越しからハンゾーの声が聞こえる。
クラピカは主砲の発射指示をするか、葛藤に苦しんでいた。
どうすればいい。
ゴンとレオリオを見捨てるのか?
もう二度と、仲間を失いたくない…
だがこのままでは、私だけでなく皆が…
リリーも...
すると。
「クラピカ!ゴンがレオリオを連れていま上がってくる!」
キルアが感じ取った言葉に、クラピカはそうか、と気を改め、発射の指示を出す。
「全館に通達!30秒後に主砲を発射する!ーーーー…」
海の中でゴンが船を探す。
すると小さな光を見つけたゴンは、その光を頼りに、急いで海面へ上がった。
そして。
1砲発射。
崩れる岩盤。途轍もない衝撃音。
軍艦船が激しく揺れた。
ひとまず安全な場所に避難していた[リリー]は、凄まじい衝撃音と爆風に、どくんと心臓が跳ねた。
す、すごい…
爆風がこんなところまで!
「トンパさん!!」
海の方からゴンの声がした。
海を見ると、トンパのライトに照らされたゴンとレオリオの姿を目にする。
リリーは大きく目を見開き、それは嬉しそうな笑みを浮かべた。
『ゴン!レオリオ!』
リリーは急いで海に近い救出できる場所に走った。
すると全館にクラピカの声が響き渡る。
「5・4・3・2・…撃て!!」
2砲、3砲と発射し、岩盤を完全に切り離し、スクリューを稼動しその力で抜け出した。
船がゆっくり動き始める。
『ゴン!!大丈夫!?』
「リリー!うん!大丈夫!」
リリー、トンパ、ゲレタが、今まさにゴンとレオリオの救出をしようとしていた。
気を失っているレオリオをまず引き上げる。
ゴンは船につかまっているが、まだ身体は海上にあった。
「動いてる!ねぇ!この船動いてるよ!」
喜ぶゴンに、トンパも笑顔で言った。
「あぁ、そりゃあ動くさ!なんたって船だからなぁ!」
「そうだよね!」
いつもの元気なゴンの姿に、リリーは心からほっとした。
レオリオも生きてる。
本当に、ふたりとも無事でよかった…
『ゴン!つかまって!』
そう言って、リリーは笑顔でゴンに手を差し伸べた。
「うん!!」
ゴンの手をしっかり握ったリリーは、引っ張ってゴンを船に引き上げた。
そのとき。
軍艦船が座標に乗り上げ、軍艦船に大きな衝撃が走る。
その衝撃でクラピカは転倒し気を失った。
リリー達に大きな波が襲い掛かる。
全身濡れたゲレタが、慌てて叫んだ。
「無事か!!」
「リリー!リリーがいない!!」
ゴンが大声を出す。
「何ィ!?」
ゲレタが海を見ると、荒れた大波にリリーの姿はどこにも見当たらなかった。
その頃、ハンゾーがクラピカに必死でマイクに話しかけていた。
「船が竜巻との相乗効果で傾きがとまらない!このままでは転覆する。何かうつ手はないか!?クラピカ!返事をしてくれ!!」
ハンゾーが呼びかけるも、操舵室にはクラピカの姿しかなく、クラピカは気を失っている。
揺れる船体。
ふと良い方法を思いついたキルアが、ハンゾーに話しかける。
「ハンゾー!竜巻を打て!その反動で船を持ち直すんだ!竜巻の方向も変わるかもしんないし、一石二鳥」
キルアはピースをして笑った。
「よし、やってみる!!」
ハンゾーの指示で、主砲を打つ位置が竜巻の方向に移動した。
荒れる大波の中。
リリーは、なんとか船の手すりにつかまっていた。
だが水流で息ができないでいた。
苦しいっ…
わたし…このまま死ぬのかな…
まだ…死にたくないっ
ぜったい…離さない。
離す…もんか。
クラピカの、笑顔を…
もう一度…
でも…もう…
息が…
リリーは気を失い、手が離れた。
という瞬間。
ヒソカの手が差し伸べられて、助けられる。
「撃て!!」
ハンゾー合図に、竜巻に主砲が発射される。
リリーは、意識が朦朧とする中、うっすらと瞼を開いた。
顔は見えないが、誰かが自分を抱きかかえて運んでくれている。
誰…?
たくましい腕が、リリーに安心を与える。
…………お兄、ちゃん…?
リリーは一瞬、昔の兄の姿を思い出すと、やがて意識を失った―――…
一方、ブリッジでは、クラピカが倒れていた。
頭から何かが滴り落ちるのを感じる。
意識が朦朧としている中、クラピカはうっすらと目を開ける。
視線の先には、長髪の人物がクラピカにかわり舵をとっていた。
その人物の顔が分かる前に、クラピカは目を閉じた―――――――――…
そして、長い夜が終わる。
朝日が昇り、軍艦船に光が射す。
クラピカは目を開けると、頭痛に襲われるが、頭に包帯が巻かれていることに気が付いた。
軍艦船は凪いだ海に漂っている。
軍艦船の甲板の上で、リリーがゆっくり目を覚まして、身体を起こす。
「おはよ」
隣には、キルアの笑顔があった。
『…キルア。わたし…どうしてここに??』
「はぁ?波にさらわれて、手すりに引っかかったんだろ?」
そこまでは覚えてる。
でも、あの後に確か…
「そんなことより、見ろよ」
そう言って、キルアが前を向いた。
リリーも前を向くと、ハンター教会の飛行船がこっちに向かって来ていた。
「やっとお迎えだ」
『あ、飛行船!』
よかった…
ほっとしたリリーは、安堵の息をついた。
キルアは飛行船を見つめたまま、静かに名前を呼んだ。
「リリー…」
『ん?』
「…お前が無事で、本当によかった」
そう言って、キルアが真っ直ぐな瞳でリリーを見つめた。
いつもと違うキルアに、リリーの心臓が一瞬ドキッとした。
「お疲れ」
そう言って、キルアはリリーの前に手のひらを見せた。
リリーも笑って、キルアの手に自分の手を合わせて、ハイタッチする。
『お疲れ!』
「あ、リリー!起きたんだね!」
すると、後ろからゴンの声が聞こえて振り向くと、ゴンが嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
『ゴン!元気そうでよかった!…あ、レオリオは?』
「レオリオも気がついて、元気にしてるよ!中にいる」
ゴンの言葉に安心したリリーは、ほっとした笑みを浮かべた。
『そっか!みんな無事でよかった…』
「リリー。ありがとう」
『え?』
ゴンはリリーを見つめて、笑顔で言った。
「オレが戻るまで、リリーはずっと信じて待っててくれたんだよね」
『そ、そんなっ。お礼なんて、仲間なんだから当然のことで、お礼ほどのことじゃ…』
「でもリリーのおかげでオレとレオリオは助かったんだ。本当にありがとう!」
『そんな感謝されるほどのことやってないってっ』
「でも…」
『もういいのっゴン!わたしこそ、レオリオを助けてくれて、本当にありがとう。ゴンは本当にすごいね!あの海の中で助けたんだからっ』
「いや~そんなことないよっ!オレ、昔から泳ぎが得意だし!」
互いに褒め合い、会話が続く二人。
どこか天然で似た者同士の二人を先程から見つめていたキルアは、ふっと可笑しそうに笑った。
軍艦船の上で、トランプ遊びをしているヒソカの元に、イルミが姿を現す。
ヒソカはトランプ一枚を持ったまま手を上げて、隣に来たイルミの方に顔を向けた。
「おつかれ♦」
その返事にイルミが軽くピースをすると、腕を組んで海を眺めた。
受験生達は、安心した表情を浮かべて、迎えに来た飛行船を眺める。
クラピカが朝日を眩しそうに目を細めながら、ベランダの外に出る。
するとそこには、ハンゾーが立っていた。
「朝日は何度見てもいいものだ。それも和のおかげがあったればこそ。リーダーとして礼を言う」
そう言ってハンゾーは手を差し出した。
「ありがとう」
クラピカも手を差し出し、二人は握手を交わした。
「こちらこそ」
すると、軍艦船の上に飛行船が到着した。
飛行船の中で、窓から軍艦船を見下ろしている一人の試験官が、笑って口を開く。
「クククッ。こいつらやっぱり面白い。リッポー特別ボーナスステージ、第三次試験エクストラ。25名、合格!」
next…