名前設定無しの場合は、ヒロインが『リリー』になります。
ハンター試験編
ヒロイン名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2日目の早朝。
取り残された37人の受験者達。
ホテルは軍艦を改造されたものなので、甲板があり、その上で受験生達は途方にくれていた。
リリーは一晩中、レオリオから借りたYシャツ姿だったが、昨夜は熱帯夜だった為、洗濯で干して乾いた服に着替えていた。
お代と支払った宝は置き去りで、やはりこれは試験なのかと疑問が浮上する。
ポンズとポックルは、クラピカ達を呼んで無線機をいじった。
「それ、壊れてるの?」
尋ねるゴンに、ポックルは無線機をいじりながら話す。
「いや、無線機自体は壊れてない。でも何処とも連絡が取れない。これじゃあオレ達37人、まとめて遭難したも同然だよ」
ポックルの言葉に、部屋が静まり返る。
どうしよう…
こんな孤島で遭難だなんて。
このままだと皆、餓死しちゃうよ…
リリーは、内心不安でたまらなくなった。
「ん?……いまなんか、変な音しなかった?」
突然、ゴンが不思議そうな顔でキルアに尋ねる。
「いや、別に」
「そう…」
「こうしていても始まらん。ここは先ず手分けして手がかりになるものを探すってのはどうだ?」
ハンゾーが口を開き、クラピカは頷いた。
「賛成だ、そうしよう」
ハンゾーはポックルに話しかける。
「もう少し続けてみてくれないか?」
「あぁ、分かった」
リリー達は、手分けして手がかりになるものを探し始めた。
30分後。
リリーは、個室で机の引き出しや扉を開けて、必死に手がかりになるものを探していた。
『はぁ…何も見つからないなー…』
汚れていた指に気づかず、リリーは鼻を掻いた。
ガチャ
すると突然ドアが開き、後ろに振り向く。
ドアを開けたのは、クラピカだった。
リリーとクラピカは、互いに目が合い、見つめ合う。
リリーの脳裏で昨夜のことが、突然頭に浮かんだ。
至近距離でキスする寸前のふたり。
昨夜のことを鮮明に思い出し、リリーは首を振って、クラピカから目を逸らした。
どうしようっ!!
どんな顔すればいいの??
クラピカがリリーに近付いて、話しかけてきた。
「どうだ?何か見つかったか?」
『ううん、何も!』
「そうか」
『……………』
「……………」
二人の間に、沈黙が続く。
とても気まずい。
しかも、昨日の部屋よりも断然狭い空間でクラピカと二人きり。
ここは…もう思いきって、昨日のこと聞くべき?
どうしてわたしに、キスしようとしたのって。
めっちゃ気になるけど…
でも聞いてどうするの??
余計に気まずくなりそうだし。
でもこの沈黙に耐えられないっ。
なにか、話さないと…!!
でもなにを話せば…
考え込むリリーに、クラピカはふっと笑って沈黙を破った。
「…ひどい顔だな」
『え!?』
リリーは慌ててクラピカを見た。
リリーの鼻の先が、少し黒く汚れている。
クラピカはそっと手を伸ばして、彼女の鼻を親指で触った。
「…汚れてるぞ?」
ドキッ
リリーの心臓が、急に跳ね上がる。
『じっ、自分でやるからっ///』
そう言って、リリーは自分の鼻をごしごし指で拭いた。
汚れは余り取れてないが、クラピカは窓の景色に視線を映した。
リリーは、ちらっとクラピカの横顔を見つめて、自分も窓の景色を見つめる。
『……………』
「……………」
再び、二人の間に沈黙が流れる。
うぅ…苦しいっ。
…ダメだ!
ここに居たら、心臓が持たない!!
『…わたしっ、他の所も探してくるね!』
そう告げて、慌てて部屋から出ようとドアに向かった。
ドアノブを握った、そのとき。
「…リリー」
名前を呼ばれて、リリーはゆっくりクラピカを見た。
「…………」
クラピカは何か物言いたげな表情を浮かべていたが、やがて静かに口を開いた。
「…いや、気を付けて探すんだぞ。また…」
『…うん。またねっ』
リリーは、迷わず部屋を出た。
自分の高鳴る鼓動の音を聞きながら、廊下を早歩きで進む。
だんだんと落ち着きを取り戻してきた頃、また昨夜のキス寸前の瞬間が、頭に浮かんだ。
リリーは徐々に足を止めて、もう一度昨夜のことを振り返る。
あのとき。
目を開けて、顔を上げたとき。
クラピカの透き通る瞳が、わたしを真っ直ぐに見つめていた。
時間がぴたりと止まった、あの瞬間。
わたしを見つめる彼の眼は、何も揺らぎがなくて、ソフィアという人ではなく、ちゃんとわたしを見てくれていた気がした。
自分の秘めた心の真実を明かそうとするとき。
人はためらってしまう。
その長いためらいはいつしか。
真実を明かす勇気さえ、奪ってしまう。
後ろの方から扉を閉める音がする。
リリーは、後ろに振り返った。
そして、さっき居た部屋へと慌てて走った。
伝えよう。
わたしの気持ちを…いま伝えたい。
クラピカのことが、大好きなんだってこと。
たとえ、昔の初恋の人が…忘れられなくても。
それでも…
リリーは、クラピカと居た部屋の前に辿り着き、ドアを開けた。
だが部屋には、クラピカの姿がない。
リリーは必死でクラピカの姿を探した。
でもいくら探しても、クラピカは見つからなかった――――――――…
あれから一時間後。
「こんなものがあったぜ」
「コンパスか」
「それもおかしなことに、人数分ある」
リリー達は、今朝の甲板の上に集合し、それぞれ探してきたものを話していた。
「管理人室を探してたら、こんなメモがあった」
クラピカはポケットからメモを取り出し、皆にそのメモを見せる。
皆はそのメモに注目する。
「何?これ?」
ゴンが不思議そうに呟く。
クラピカは、そのメモに指を指して説明する。
「ここが今いる軍艦島。この航路は、ゼビル島へとなっている」
クラピカの地図を見て、受験者の何人かが各自ゼビル島へと移動しようとする。
だがその行動を止めるクラピカとハンゾー。
「この地図では方角は分かっていても距離はわからない。食料と水は何日分用意すればいい?そしてハンター試験はトラップだらけだと言うことを忘れたのか。仮にこれが試験だとしたら、このメモ事態が罠かもしれない」
クラピカがそう訴えるが、到着時に聞いた「3日後に4次試験が開始される」という期限という事実があり、10数人がおとなしく待つことを選択できなかった。
そして、赤い帽子を被った384番、ゲレタが、飲み水がもう残っていないと皆を焦らせる。
各々ゼビル島へ向かうと船の調達をしに単独行動をとってしまった。
クラピカはゲレタに詰め寄り、怒鳴った。
「皆を煽るな!下手をすれば遭難者が出るぞ!」
「数が減るのも試験の内さ。オレは何としても生き延びる。他の奴がどうなろうとな」
そう言い残して、ゲレタはその場を後にした。
リリーは、ゲレタの後ろ姿を睨みつける。
なんなのアイツ。
自分のことしか考えてないし。
なんて最低なヤツなの!?
ほんと腹立つ~!!
…クラピカ、大丈夫かな??
リリーは心配げに、ちらっとクラピカを見つめた。
「ねーねー、どうする?」
ゴンの尋ねに、リリーは答えた。
『そうだね、どうしよっか…』
「オレもゼビル島に行くぜ。お先~。(ウッキー)」
先程からいた猿を肩に乗せた118番も、そう告げてその場を後にした。
カチン。
『…もう何なの!?どいつもこいつも!クラピカの言うこと聞かないで!ほんと頭にくるっ!!』
リリーは頭にきた拍子に、思わず本音が出てしまった。
「なにお前が怒ってんだよ」
「そうだ。怒ったってただ喉が乾くだけだぜ?」
キルアとレオリオは、呆れたようにそう言い放つ。
『そうだけど!!皆は頭に来ないの!?』
「クラピカの言い分も分かるけどよ、アイツの話にも一理あるぜ」
『レオリオまでそんなこと言うの!?こうゆう時だからこそ、皆で慎重に行動しないと…』
「じゃあ、何かァ?他に良い案はあるってーのか?」
『それは…!…その…』
「リリー、話がある」
クラピカが低い声でそう告げると、その場から歩き出した。
皆は行って来いよっと言った表情を浮かべている。
リリーは苛立ちながらも、クラピカの後を着いて行った。
クラピカと再び二人きりになる。
クラピカは厳しめな顔で、口を開いた。
「…全く、出しゃばるな」
『だって黙っていられなかったの!ほんと腹がたつ。クラピカだって頭にきたでしょ!?皆勝手なことばかり、自分のことしか考えてない!あ~もうっ、ムカつく!』
一人ぶつぶつと怒りの感情に任せて言うリリーに、見つめていたクラピカは、ふっと笑顔を見せた。
思いがけないクラピカの笑顔に、リリーは目を見開く。
『なに?なんで笑ってるの??』
「…悪い気分ではない」
『へ?』
なにが?と言った顔で、きょとんとするリリーに、クラピカは吹き出して笑う。
「リリーは面白いなっ」
『もうっ何がよ!』
「お前が私の代わりに怒ってくれて、少しやり過ぎだが、味方がいるのは悪い気分ではないな」
『もう、茶化さないでよ』
「本当だ。それにこればかりは無理もない。今ここに残っている30数名は皆、これまで自分の知恵と体力を頼りに、ここまでの試験をクリアしてきた猛者ばかりだ。今さら他人の言う事に耳を傾ける気にはならないだろうし、ましてや他人と強調するなど存外のことだろう」
『そうだけど、でも…』
「相変わらず、お前は優しいな」
そう言うとクラピカは、そっと手を伸ばし優しくリリーの頭にぽんっと手を置いた。
「…ありがとう」
頭を撫でられ、優しく微笑むクラピカ。
や、やばいっ…
これは、すごくやばいよ~!!
リリーの心臓が高鳴り、顔も赤くなる。
さっきまでのイライラも、すっかりなくなっていた。
わたしって、かなり単純かも…
「行こう」
クラピカは、ふわっと笑うとその場を後にした。
わたし、やっぱり…クラピカが好き。
クラピカの笑顔が好き。
たまらなく、大好き。
もうクラピカ以外、考えられないよ…
リリーは、歩くクラピカの後ろ姿を、愛おしげな瞳で、ただひたすら見つめていた。
あれから数時間後。
「どうだ?様子は?」
クラピカが、無線機をいじるポックル、ポンズに話しかける。
「全然だめ」
「お手上げだよ。いっそ嵐が来てくれれば、気圧が変わって、その影響で電波状況が変わるから、なんか飛び込んでくるかもしれないけど…」
やれやれと無線を片手に呟くポックルに、クラピカが半笑いで告げた。
「おいおい、物騒なことは言わないでくれ。こんな所で嵐に合いたくはない」
先程のポックルの言葉は、冗談ではないと反応を示す。
だがそれはとても真実に近いところをついているはずなのに流してしまう。
そう考えたくもないという心理がそうさせているのかもしれないが。
そして、クラピカ達は気づかない。
軍艦の一番高い位置にあるブリッジの外壁に張り付くふじつぼに。
だからその意味にも気づくことはない――――…
その後。
クラピカとハンゾーはブリッジに来ていた。
集められた情報をもとに、そろそろ新しい指標を出さねばならない。
クラピカはブリッジにたたずみ思案する。
離反者の説得はどうなったと、ハンゾーに問いただせば、彼は軽く肩をすくめる。
離反した受験者は誰一人説得に応じなかったのだ。
クラピカは剣呑な表情で告げた。
「もしこれが試験なら、それこそが命取りになる。そんな気がしてならない」
「オレも全く同じ考えだ。上手く言えないが、忍者としての直感がそう教えるんだ。だがどうすればいい。勘などと言うものでは誰も納得しないしな」
ハンゾーの言葉に、クラピカは顎を触って応えた。
「確かに。現況で打てる手は打ち尽くし、このままではいたずらに時を重ねるだけ。何か行動を起こすべきなのだろうが…」
「クラピカ。もう一つ気になることがある。これも忍者としての直感だが、この海域、嫌な感じがどんどん強くなっていく。何か起きるぜ」
真剣な表情のハンゾーに、クラピカは頷いた。
「それこそがこの試験の本番となるのだろう」
クラピカが青から赤へと移行する空と海を眺め、ハンゾーの感へと同意する。
彼としては答えを求めたものではなく、独白に近かったのだが。
「それが残った奴らの共通した感覚だったみたいだぜ、クラピカ」
突然、レオリオの声がした。
「そして、何かが起こる前に出来ることが一つだけあるという事だ」
ポケットに両手を突っ込んだレオリオが、そう言いながら姿を現した。
ハンゾーはレオリオに尋ねる。
「出来ることとは?」
「それは…リーダーを決めることだ」
レオリオが向けた視線の先には、10人を越える受験者の姿があった。
(原作24人の中から以下の人間を除く。ゲレタ・ソミー・イルミ・ヒソカ・アモリ兄弟+船内を探索中のゴン・キルア・リリー)
そしてハンゾーがリーダー。
クラピカがサブリーダーに任命されたのだった。
「じゃあ、ハンゾー。頼むぜ」
「リーダー風を吹かすつもりはないが、一つ言わせてくれ。オレは忍者だ。忍者は集団で動く時、その力をフルに発揮できる。オレの国ではそれを「和」と呼ぶ。今回はその和が試される場だとオレは思う。しばらくの間だけでいい。協力してくれ」
そう言って、ハンゾーは頭を下げた。
レオリオはハンゾーを見つめて、感心する。
「(良いこと言うぜ。でも忍者のワって…ワ、ワ、ワ…波縄?)」
一方、その頃のリリー達は…
軍艦の頂上の部屋から、航海日誌を見つけていた。
「やったな!お手柄だぜ、ゴン!」
そう言ってキルアが、笑ってゴンの頭を撫でた。
「お手柄?」
『そうだよ!ほんとすごいよっゴン!何か情報が書いてあるかもしれないよ!?』
「そうかな??じゃあ早くクラピカの所に持って行かなくちゃだねっ‼」
『ちょっ…ゴン!』
二人に褒められたからか、それはとても嬉しそうな笑みを浮かべて、勢いよく部屋を出て行った。
『…行っちゃった』
「ったく、ゴンは単純だなー」
キルアは両手を頭の後ろに組んで言った。
『わたし達も行こっか、キルア』
リリーも行こうとした、そのとき。
「…なぁ、リリー」
キルアに呼ばれて、リリーは後ろに振り向き、キルアを見た。
『ん、なに?』
キルアは真っ直ぐな真剣な瞳で、リリーを見つめていた。
「昨日さ…ホントにクラピカとは何もなかったんだよな?」
『え…』
思いがけない質問に、リリーは一瞬固まった。
『うん。ほんとに、何もないよ』
嘘が苦手なリリーは、キルアから視線を逸らし、床を見つめて言った。
「…………」
そんなリリーに、キルアの中で何か癇に障る。
キルアはリリーと距離を詰め、ぐいっと彼女の手首を強く掴んだ。
「ホントか?」
キルアは、一段と低い声で聞いた。
キルアの顔が近い。
突然のことにリリーの心臓が跳ね上がる。
まるで、今からキスするのかと思うほどの至近距離。
この部屋には、リリーとキルアしかしない。
二人だけの空間。
リリーは、キルアの瞳から目を逸らせないでいた。
いつものキルアじゃない…
どうしたの?キルア。
鈍感なリリーは、不思議そうに尋ねる。
『…そうだよ?もう、なにキルア?なんでそんなこと聞くの??』
「……いや、別に」
『ほら、早く行かないとゴンが心配するよ!行こっ!』
そう言って、リリーはキルアの手を引いて歩き出した。
キルアは、自分の手を握って歩くリリーの後ろ姿をただ見つめた。
リリーの手は、あたたかい。
彼女に手を握られて嬉しいはずなのに…
どこか彼女と距離を感じている。
リリーは、オレを男として見ていない。
鈍感なリリーは、オレがお前を想う気持ちに、これっぽっちも気づいてない。
クラピカだったら、きっと違うんだよな…
その事実を突きつけられたような気分で、キルアの心は、切なさが込み上げていた。
「なるほど。この船は戦争末期にこの島に固定され砲台として使われていたんだ」
クラピカは航海日誌を読み上げていた。
航海日誌にはいくつかの情報があった。
ゼビル島への距離が近いことも。
その情報に場が湧くが、それも一瞬だった。
探索に当てた時間は容赦なく1日の大半をつみとっており、すでに日が沈もうとしている状況。
だがそれ以上に夕日をゆがませる竜巻上の大気のゆがみが目視できたからである。
「鳥たちが怖がっている」
ゴンが空で騒ぐ鳥の様子をみていた。
連絡管から無線に張り付いていたポックルの声が届く。
「無線に変化があった」
そして続く彼の推測。
通信が使えなかったのは、大気の異常によりノイズが走っていたせいだと。
今見える竜巻上の大気のゆがみ。
それは日没になり、太陽の角度が変わり肉眼で見えるようになったのだという。
クラピカは日誌を再び読み上げる。
「電波障害発生。兆候が現れ撤退準備を始める。第一波襲来が予測される。その前に。それは予想どおり10年に1度の周期で…」
日誌に書かれている現象。
それはまさに今の状態だった。
今晩、竜巻と渦潮が一体になって襲ってくる。
ブリッジは驚きと恐怖で占められた。
最初に離脱した8人を乗せた船が、徐々に訪れる異常気象に巻き込まれ沈没する。
もはや救出は不可能。
何人かが渦の中に巻き込まれ命を落とした。
「これは…」
「竜巻と渦潮が一体となってやがる!」
甲板に集まった受験生達は、竜巻を見つめて驚愕していた。
リリーは、不安と恐怖で手足が震えていた。
こんなことになるなんて…
いったい、どうしたら…っ
『…あれは…船?』
リリーは海で小船を見つけて、目を細める。
それはあのゲレタの小船だと理解した瞬間、大きく目を見開く。
ゲレタの小船も潮の流れに巻き込まれようとしていた。
『みんな見て!!あれ!!』
リリーの声に、ゴン達が気付く。
「あのままじゃ!!」
「駄目だゴンッ!!」
「でもっ!!」
「もう間に合わない!手遅れだッ!!」
ゴンが海に飛び込もうとするが、クラピカは必死に彼を説得する。
だがまだ無事な様子だと気付いたゴンは、迷わず急いで海へと飛び込んだ。
『ゴン!!』
「あのバカ!!」
リリーとキルアが声を上げた。
「海面が看板を超えるぞ!!」
「全員、退避!!急げ!!」
クラピカとハンゾーの声に、皆は急いで避難する。
キルアやハンゾーは、ロープを持ってフォローのために急いで別のボートに乗り込んだ。
そして、無事にゲレタの小舟に乗り込んだゴンは釣竿をふりかざし、キルアへ針先をなげる。
キルアはキャッチしロープを糸に繋ぎ合わせる。
ゴンはリールを引き、ロープがキルアと繋がる。
その後、陸ではキルアとゴンの乗るボートを引っ張るため残った人達で、ロープを陸へと引っ張り、ゲレタの命を救うのだった。
その後、残された受験生達は軍艦のブリッジに集まり、朝まで嵐が過ぎ去るのを祈っていた。
ガタがタ…
ギイイイ…
外の嵐は凄まじく、まるで強烈な台風が来ているのかのように風が強く吹き荒れていた。
リリーは壁の隅っこに座り、内心怯えながらも無事に嵐が過ぎ去るのを祈る。
ガシャーン!!
ギイイイイイ!!
建物が壊れる凄まじい音に、リリーは驚きのあまり肩がビクッと反応した。
こわくない…
こわくないっ…
リリーは膝を抱えて、小さく丸まっている。
先程からその様子をずっと見ていたクラピカは、ふとあるものを思い出し、一旦その場を後にする。
ホテルの小部屋から、そのあるもの=ブランケットを取りに行ったクラピカは、それを渡そうとリリーの元へ足を運んだ。
リリーとの距離が縮まる。
彼女に声をかけようとした、そのとき。
「リリー」
するとキルアがリリーの隣に座った。
「大丈夫か?」
心配げにそう言って、キルアがリリーの肩に優しくブランケットをかける。
『キルア。これ…』
目を丸くするリリーに、キルアが優しく話しかける。
「昨日のホテルから取ってきた。怖くて眠れないだろ?これがあれば少しはマシだろ」
クラピカは、それは何とも言えない心情で二人のやり取りを見つめる。
『うん…ありがとう』
「ったく、リリーはホント怖がりだよな~。こんなんでビビってて大丈夫かよ」
『べっ、別にこわくないからっ』
「そんな強がんなって。ちゃんと休めよ?じゃあな」
そう言って、キルアはハイタッチで手を出す。
リリーはキルアにハイタッチをした。
ハイタッチを交わすと、キルアは先ほどいたゴンの場所へと戻る。
去っていくキルアを見て、リリーは少し感動した。
キルア。
今日は珍しく優しいな。
ブランケットがあるだけで、全然ちがう。
ちょっと安心する…
リリーはホッとした笑みを浮かべた。
「…………」
クラピカは自分が持ってきたブランケットを見ると、それを後ろに隠し、先ほど居た自分の場所へと戻る。
すると、クラピカのやろうとしていた行動を先程から見ていたレオリオが彼に話しかけた。
「せっかく取りに言ったのにな。また次がある。だからそんな気を落とすな!な!?」
そう言って、クラピカの肩に強めに手を置くレオリオ。
「………(怒」
レオリオの余計な言葉が、更にクラピカのプライドを傷つける。
「余計なお世話だ!それにこれは私が使う為だ」
怒り気味にそう言い放つと、クラピカは壁に寄りかかり、肩膝を立てて座った。
ったく、相変わらず短気な奴だなーっとぶつぶつ文句を言いながら、レオリオも座って胡座をかく。
クラピカは、ちらっとリリーに視線を向けた。
リリーは顔を膝に埋めて、どうやら眠っているようだ。
…大丈夫そうだな。
安心したクラピカは、目を閉じた。
だが目を閉じると、リリーに毛布をかけているキルアの姿を思い出す。
目を開けて、目の前にある片膝の上に乗っている手のひらを見つめる。
今度はハイタッチをしていた二人の姿を思い出す。
クラピカはぐっと手のひらを握り締めて、ひとつ溜め息をついた。
私は何をしているんだ…。
疲れてるのか?
………少しでも、寝ておこう。
クラピカは、嵐の音を聞きながら、再び瞼を閉じたのだった―――――――…
数時間後。
嵐が収まり、リリー達は海の様子を確かめるため、外に出た。
「見ろ!潮が引き始めたぞ!!」
レオリオの言葉に、リリーは海を覗いた。
『ほんとだ!!よかった…!』
「いや、落ち着いている場合ではない。24時間後、第二波が来る。しかも今度は…」
クラピカが上を見上げた。
リリー達も上を見上げると、ホテルと化した軍艦より高い位置にあるフジツボに気がつく。
うそ…
どくん、と心臓が跳ねる。
リリーは大きく目を見開いた。
「こ、こんなところまで来るってのか!?」
愕然と告げるレオリオに、クラピカは剣呑な表情で海を見つめて言った。
「24時間後、この海域から、全てが消える」
リリー達に更なる恐怖が襲った。
next…