好きだと言えない
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どこまでも真っ白な雪道
それ程高くない裏山を登山靴に軽アイゼンを付けて
名前はサクサクと音がする道を楽しんで歩いていた
雪はすべての音を飲み込んでいるかのように
自分たちの周りには辺りに聞こえるのは二人の足音のみで
本来ならば澄んだ空間のはずのそれが
そう思えないのは呪いのせいなのかもしれない
「お前、準備万端すぎねぇ?」
「この時期の福島で山って言ったら、普段の装備じゃヤバいと思ってね。悟にも来るなら登山靴って言ったじゃん」
「誰に言ってんの?俺、術式あるから濡れないし」
いつの間にか悟は術式を発動していた様で
降り続ける雪も彼には当たっていなかった
「まず、祠の結界を結び直して、明日お風呂の方の結界ね」
「めんどくせーな。なんでいっぺんにやらねーの?」
「一気に結界張るとお湯が出なくなるんだって」
「なんだそれ。だりーな」
「龍脈が関係してるんだって。あそこの温泉龍脈にかかってるだけあって、効能すごいんだってー」
2人で話しながら雪道を進んで行くと
登る途中の林の奥に小さな祠が見えてきた
「…これ、寄神?」
「まさかこんな山奥に寄神さまとはね。カミサマの地の結界、お前できんのー?」
「神様は神様でも元でしょ?」
名前は印を結んで呪力を流した
真っ白い山々に脈打っていた龍脈に沿って
呪力が吸い取られるようだった
雪の積もる真っ白な空間に
名前の呪力が格子状に伸びていく
悟の目には細かく伸びていく無数の線が映し出される
それはまるでキラキラと輝く切子細工の様だと思った
その光景をはっきりと見ることが出来る悟は
ただただ美しいと感じていた
キィン…
張り詰めた音色が聞こえ結界が張り終えた事を教えた
その瞬間、目の前にいた名前の体が揺らめいた
その小さな背に慌てて手を伸ばして悟は支えた
「っと。あぶね」
「はーっしんど。めっちゃ呪力吸われた!2回に分ける訳だわこれ!!」
「…弱っちいくせに、お前、2重に結界張ったろ」
「だって、今回みたいに緩んだら嫌じゃん。しかも今回悟も一緒なのに。他の人にあれこれ後から言われたくないし」
―――それって、俺が悪く言われない様にってこと?
悟は口元が緩んでしまうのを誤魔化す様に
名前の小さな右手を握った
「お前、そんなんでちゃんと歩けんの?結界ぐれーでひよってるとかウケるんだけど。ほんと、どこまで雑魚なの?」
行くぞ、とそのまま来た道を戻っていく
手は依然として握られたままだった
悟の背中に名前は声をかけた
「悟、いいよ。大丈夫」
「おーおー。生意気にも強がっちゃうの?ただでさえブサイクなのに態度も可愛くねーときた。そのままだと嫁の貰い手いなくなるぞ?」
「可愛くなくて悪かったわね。じゃあ手、離してよ」
「ふーん。転がって帰るってんなら転がしてやってもいいけど?丁度下りだしー。あ、もしくは力尽きて1人で遭難したい?ドMだったっけ??」
「しないし。Mじゃないし!」
文句を言いながらもぎゅっと繋がれた手は温かかった
寒いを通り越して痛いくらいのこの外気温にはありがたい温もりだとお互いに感じていただろう
だが、穏やかな時間はすぐに終わりを告げた
「名前、」
「これって…離れの方角?え?私、失敗?」
「いや、お前の結界は完璧だった。他になんかあるな。走るぞ」
「うん!」
2人で駆け出す
足元が雪で取られて走りずらい
あっという間に悟と名前の距離は空いてしまっていた
「悟!先に行って!」
「どんくせーな…気を付けろよ」
文句を言いながらも颯爽と雪道を駆け下りていく
だんだんと小さくなっていく悟の後ろ姿を見ているうちに
名前の周辺の空気が一変した
宿は年末という事もあり満室だ
悟も帳を降ろしてくれることを願いつつ
名前は今いる裏山で帳を降ろした
ギギギギギギギギギぃ
現れた呪いと対峙する
すばしっこい相手だが名前が指を鳴らすのと
同時に炎が巻き起こる
「さっきのでこっちはヘロヘロなのに、しつこいなっ」
何度も何度も祓ってもどこからか湧いてくる
名前は自分の張った結界のご神体が頭の中に浮かんだ
寄神、寄り神とも書くそれは付喪神にも酷似していた
本来、寄神信仰は海辺が多い
それは漂着物に神が宿ると信じられていたからだ
当初からこの山奥に漂着物のご神体は珍しいと感じていた
だが、何者かが意図的にここに封印し
何も知らない地元の民が神と崇めたとしたら?
大きなお社がないここでは、唯一の神だったはずだ
人々の様々な感情や、願い、思いが念となり
長い年月によって祠に溜まりに溜まる
「でも、普通祠封印したら出てこないはずなのに。なんなの?!この量!!」
名前は雪に足元を取られてバランスを崩すと
そこを呪いが狙ってたたみかけてきた
―――しまった!!
名前が最後に見た景色は
真っ白な空からふわふわと舞い落ちる雪と
旅館に降りた帳の黒だった
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それ程高くない裏山を登山靴に軽アイゼンを付けて
名前はサクサクと音がする道を楽しんで歩いていた
雪はすべての音を飲み込んでいるかのように
自分たちの周りには辺りに聞こえるのは二人の足音のみで
本来ならば澄んだ空間のはずのそれが
そう思えないのは呪いのせいなのかもしれない
「お前、準備万端すぎねぇ?」
「この時期の福島で山って言ったら、普段の装備じゃヤバいと思ってね。悟にも来るなら登山靴って言ったじゃん」
「誰に言ってんの?俺、術式あるから濡れないし」
いつの間にか悟は術式を発動していた様で
降り続ける雪も彼には当たっていなかった
「まず、祠の結界を結び直して、明日お風呂の方の結界ね」
「めんどくせーな。なんでいっぺんにやらねーの?」
「一気に結界張るとお湯が出なくなるんだって」
「なんだそれ。だりーな」
「龍脈が関係してるんだって。あそこの温泉龍脈にかかってるだけあって、効能すごいんだってー」
2人で話しながら雪道を進んで行くと
登る途中の林の奥に小さな祠が見えてきた
「…これ、寄神?」
「まさかこんな山奥に寄神さまとはね。カミサマの地の結界、お前できんのー?」
「神様は神様でも元でしょ?」
名前は印を結んで呪力を流した
真っ白い山々に脈打っていた龍脈に沿って
呪力が吸い取られるようだった
雪の積もる真っ白な空間に
名前の呪力が格子状に伸びていく
悟の目には細かく伸びていく無数の線が映し出される
それはまるでキラキラと輝く切子細工の様だと思った
その光景をはっきりと見ることが出来る悟は
ただただ美しいと感じていた
キィン…
張り詰めた音色が聞こえ結界が張り終えた事を教えた
その瞬間、目の前にいた名前の体が揺らめいた
その小さな背に慌てて手を伸ばして悟は支えた
「っと。あぶね」
「はーっしんど。めっちゃ呪力吸われた!2回に分ける訳だわこれ!!」
「…弱っちいくせに、お前、2重に結界張ったろ」
「だって、今回みたいに緩んだら嫌じゃん。しかも今回悟も一緒なのに。他の人にあれこれ後から言われたくないし」
―――それって、俺が悪く言われない様にってこと?
悟は口元が緩んでしまうのを誤魔化す様に
名前の小さな右手を握った
「お前、そんなんでちゃんと歩けんの?結界ぐれーでひよってるとかウケるんだけど。ほんと、どこまで雑魚なの?」
行くぞ、とそのまま来た道を戻っていく
手は依然として握られたままだった
悟の背中に名前は声をかけた
「悟、いいよ。大丈夫」
「おーおー。生意気にも強がっちゃうの?ただでさえブサイクなのに態度も可愛くねーときた。そのままだと嫁の貰い手いなくなるぞ?」
「可愛くなくて悪かったわね。じゃあ手、離してよ」
「ふーん。転がって帰るってんなら転がしてやってもいいけど?丁度下りだしー。あ、もしくは力尽きて1人で遭難したい?ドMだったっけ??」
「しないし。Mじゃないし!」
文句を言いながらもぎゅっと繋がれた手は温かかった
寒いを通り越して痛いくらいのこの外気温にはありがたい温もりだとお互いに感じていただろう
だが、穏やかな時間はすぐに終わりを告げた
「名前、」
「これって…離れの方角?え?私、失敗?」
「いや、お前の結界は完璧だった。他になんかあるな。走るぞ」
「うん!」
2人で駆け出す
足元が雪で取られて走りずらい
あっという間に悟と名前の距離は空いてしまっていた
「悟!先に行って!」
「どんくせーな…気を付けろよ」
文句を言いながらも颯爽と雪道を駆け下りていく
だんだんと小さくなっていく悟の後ろ姿を見ているうちに
名前の周辺の空気が一変した
宿は年末という事もあり満室だ
悟も帳を降ろしてくれることを願いつつ
名前は今いる裏山で帳を降ろした
ギギギギギギギギギぃ
現れた呪いと対峙する
すばしっこい相手だが名前が指を鳴らすのと
同時に炎が巻き起こる
「さっきのでこっちはヘロヘロなのに、しつこいなっ」
何度も何度も祓ってもどこからか湧いてくる
名前は自分の張った結界のご神体が頭の中に浮かんだ
寄神、寄り神とも書くそれは付喪神にも酷似していた
本来、寄神信仰は海辺が多い
それは漂着物に神が宿ると信じられていたからだ
当初からこの山奥に漂着物のご神体は珍しいと感じていた
だが、何者かが意図的にここに封印し
何も知らない地元の民が神と崇めたとしたら?
大きなお社がないここでは、唯一の神だったはずだ
人々の様々な感情や、願い、思いが念となり
長い年月によって祠に溜まりに溜まる
「でも、普通祠封印したら出てこないはずなのに。なんなの?!この量!!」
名前は雪に足元を取られてバランスを崩すと
そこを呪いが狙ってたたみかけてきた
―――しまった!!
名前が最後に見た景色は
真っ白な空からふわふわと舞い落ちる雪と
旅館に降りた帳の黒だった
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