あの時の悟の表情（かお）が
怒ったような、深く傷ついた瞳が



目に焼き付いてて頭から離れない





「名前さん、また食べていませんね。いい加減食べないと倒れてしまいますよ？」

「…いらない」

「なら...無理やり口移しで食べさせましょうか？」



七海の指が私を上を向かせる
私の顎に触れる感覚も
指の感触や温度も
何もかも全部違う
同じ男の人の指なのに



七海と視線が合った気がするけど
あきらめたように手を放し、深いため息が聞こえた



「いつまでそうしてるおつもりですか？」

「ん...」

「…また後で様子を見に来ます。せめて水分と睡眠は取ってください。隈、酷いですよ」




七海は唯一この状況を知っている人物
私があの日話しているのを聞いていたから






ーーー悟様と別れてください。五条家には優秀で濃い血縁の跡取りが必要なのです。子がなせない貴方は意味がない、論外なのです





ーーーどうやって五条さんと別れるつもりです？簡単にあの人は貴方を放さないでしょう。もしかすると五条家の人を皆殺しにしかねない






床に転がる小切手は多額の手切れ金
別にこんなものなくてよかった





「…二度目だな子どもができないから別れてって言われるの」






ーーー悟様が跡取りを作らないと五条家は弱体化してしまいます。今のあの方にとってはどうでもいいことかもしれませんが。この先を見据えて考えますと、悟様とそのお世継ぎが呪術界を牽引していかなくては。今の地位を守らなくてはならないのです。失礼ながらそもそも貴方のお家柄では役不足ですのに、子を成せないだなんて。



ーーー悟様の足枷でしかありませんよ




五条家の地位とかとか私に言わないでよ
地位も権力争いもどうでもいい

でも
女としての機能がないせいで
足枷なのか
そんなもんかもな



私は
悟に身内の人を傷つけてほしくなかった
ましてや殺すとか絶対にさせたくない



その代わり私は
大好きで
大好きで
大切な人を言葉で傷つけた


普通に別れられるなんて思ってなかったから
私の思いつくすべての方法で




「もう、会えないね...」



あぁもう枯れたと思っていたのに
涙がまた止まらない



私の事なんか
軽蔑して、罵って、嫌いになって




私の全てを忘れてくれれば...



私も悟の事を忘れてしまえれば…




いっそ私が呪われて
呪いになって



悟の手で
払われて消えてしまえたらいいのに



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