ふたたび、文維くんのこいびと

 文維の言葉に、煜瑾は感慨深い顔をして愛しい人を振り返った。

「…私も、文維と同じ味の料理を作れるようになるのでしょうか…」
「ええ、そうですよ。:包(ほう)家の味を、家族の一員である煜瑾にも覚えてもらえると嬉しいです」

 煜瑾の言わんとすることを、聡明な文維は理解していた。煜瑾は「家族」の絆を、料理の味の共有で深めたいと思っているのだ。

「文維!」

 嬉しそうな煜瑾に、文維も満足だ。

「私たちは、もう『家族』ですからね」

 そう言って、文維は煜瑾を抱き寄せた。

「はい…」

 煜瑾もまた、素直に文維に身を任せる。
 お互いがお互いのことを想い、愛し合い、家族であると確信できた。それが嬉しくて、幸せで、2人は満ち足りた想いでいっぱいだった。

「コーヒーが、冷めてしまいましたね」
「淹れ替えますね」
「いいえ。アイスコーヒーも好きなんです」

 文維と煜瑾は、顔を見合わせ、クスクスと笑った。

***

「では、行ってきます」

 セレブに愛されるエリートカウンセラーらしい、スマートなスーツ姿で、文維は玄関ドアの前で振り返った。その知的で凛々しい姿に、煜瑾もうっとりと見つめる。そして、ハッと気づいて文維の腕を掴んだ。

「あの…文維」
「はい、なんですか?」

 文維の方は、いつものように悠然としていて、薄く頬を染める煜瑾に視線を向けた。それを受け、煜瑾は俯きながら、小さい声でお願いを1つした。

「今夜は、早く…帰って来て下さいね」

 はにかみながら誘惑してくる恋人に、文維は好ましげな眼差しを注いだ。そのまま何も言わずにしっかりと抱き締める。
 それが、文維の返事だった。

「文維…」
「煜瑾…」

 2人は、濃密な口付けを交わす。それは言葉以上に雄弁なものだった。

「行ってきます」
「気をつけて!」

 煜瑾の笑顔に、これが「夢」ではなく、「現実」であることが、文維は心から信じられた。

 間もなく、春節。
 新しい年がやって来る。

 これから先、幾度となく新しい年を迎えることになっても、文維と煜瑾は変わることなく、互いを信じ合い、愛し合い、幸せに暮らしていくに違いなかった。





〈Happy End〉
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