文維くんのこいびと

 文維の言葉に、恭安楽は呆れたように口を出す。

「文維…。なにもそこまで厳しく言わなくても、これは煜瑾ちゃんの夢なのですよ。夢の中なら、デザートくらい好きなだけ食べても問題ないでしょう?」

 しかし、文維の冷淡な態度は変わらない。

「いいえ。私の煜瑾なら、デザートを2皿も食べません」
「そんな…、頑ななことを言わなくても」

 包夫人は不満そうな顔をして、泣くのを我慢している健気な3歳児を振り返った。

「…っ、…っ、…うっ」
「まあ、可哀想な煜瑾ちゃん!泣かないで。お母さまのババロアをあげましょうね」

 そう言った包夫人だが、すでにババロアを半分以上食べ終えしまっていた。
 それを見た煜瑾は、ポロポロと涙を零す。そんなあどけなさに、大人たちは胸が締め付けられるように感じた。

 それでも文維だけは硬い表情で冷ややかだ。

「茅執事、煜瑾にもう少しババロアを用意しなさい」

 我慢出来なくなったのか、唐煜瓔は大いに同情的にそう言って、煜瑾の涙を止めようとした。

「文維お兄ちゃま~。文維お兄ちゃまのが欲しいです~」

 とうとう幼い煜瑾は、大きな声で泣きながら駄々をこね始めた。

「煜瑾は~、文維お兄ちゃまが、大しゅきなのでしゅ~。あ~ん、あ~ん」

 唐煜瓔、茅執事、そして恭安楽は、小さな体を震わせて泣く煜瑾をなんとか宥めようと慌てる。
 ただそれを、冴え冴えとした端整な顔で見つめている文維だ。

「文維!こんな小さな煜瑾ちゃんを苛めることないじゃないの!」

 堪りかねた包夫人が煜瑾を抱き上げ、息子を叱りつけた。

「苛めてなどいません。それ以前に、その子供は、私にとって『煜瑾』ではありません」





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