文維くんのこいびと

「ただいま帰りました~」

 文維の車が、唐家の門を通過し、玄関前に停車した。
 そこで待っていた唐家の有能な執事が、当然のように後部ドアを、恭しく開ける。
 その途端に飛び出した幼い姿の煜瑾は、元気よく執事に声を掛けた。

「お帰りなさいませ、煜瑾坊ちゃま」
「!」「?」

 僅かばかりの動揺もなく、茅執事は冷静に煜瑾を出迎えた。

「これは包夫人、ご機嫌いかがでしょう」

 煜瑾を追うように降車してきた恭安楽に対しても、茅執事は動じない。
 そのことに、文維も包夫人も違和感しかないのだが、何を言えばいいのか分からない。
 あの幼く、可愛らしい煜瑾を前に、驚いた様子が全くない執事が、文維にも恭安楽も、とにかく信じられないのだ。

「あ、あの…。茅執事?煜瓔さんは、まだ?」

 それでも貴婦人らしく冷静に振舞いながら、包夫人は小さな煜瑾を見守りながらそう訊ねた。

「はい。旦那様はまもなくお帰りになります。客室の方でお待ちいただくよう、仰せつかっております」
「そう…」

 当惑する文維と包夫人だったが、そのまま茅執事と共に唐家の邸内に入った。

「おかあしゃま~、こっちでしゅ~」

 玄関ホールから続く階段の上から、煜瑾の声がした。
 この階段の上にある南向きの、一番日当たりが良く明るい子供部屋が煜瑾の部屋だった。

「煜瑾ちゃん…」

 どうして良いのか分からず、恭安楽は広々と豪華な唐家の玄関ホールで立ち尽くしてしまった。





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