文維くんのこいびと

「煜瑾は…、…煜瑾は…、おかあしゃまと一緒じゃないとイヤでしゅ~」

 呼吸さえ苦しそうに、煜瑾はしゃくりあげながら泣き出した。

「おかあしゃま~、煜瑾は、おかあしゃまが大しゅきなのでしゅ~」

 そのまま煜瑾は、痛々しいほど悲しそうに大きな声をあげ、包夫人に抱きついた。

「あ~ん、あ~ん」
「煜瑾ちゃん…」

 ギュッと抱き返した恭安楽の目にも、涙が浮かんでいる。その目で文維の方を見ると、包夫人は静かに頷いた。

「私も、唐家に行きますよ、文維。煜瓔さんのことならよく知っているから、急に伺っても大丈夫」
「しかし…、お母さま」
「何も言わないで、文維。あなたは賢いけれど、あなたの考えていることくらい、私にも分かります」

 何もかも分かったような顔で包夫人は息子を見詰めた。包夫人は、文維が母を巻き込みたくないと考えていることを理解していた。
 唐家に行けば、兄の唐煜瓔から、あの高雅で清純で聡明な煜瑾を、こんな風に子供の姿に変えた原因を責められ、煜瑾と引き離されてしまうかもしれないのだ。
 そのことで文維が大いに傷付くであろうことを恭安楽は承知している。そんな愛息の姿をめにすることは、恭安楽自身つらいことだ。
 母にそんな悲しい思いをさせたくないと、英明な文維が配慮するのは当然のことだった。
 それでも、包夫人は、文維のため、そして何も分からずに泣いている唐煜瑾のために一緒に行こうというのだった。

「さあ、煜瑾ちゃん。もう泣かないで。そんなに大きな声で泣いたら病気になってしまいますよ」
「おかあしゃまも~、おかあしゃまも、一緒じゃないと、イヤ~」

 包夫人は、もう一度小さな煜瑾をギュッと抱き締め、それから煜瑾の顔を覗き込み、指先で泣きじゃくる煜瑾の涙を拭った。






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