文維くんのこいびと

「文維お兄ちゃま、どうかしたの?バナナミルク飲んだら元気になりましゅよ」

 これほど小さいのに、煜瑾は優しく他人を思いやる気持ちを持っていた。それが、余計に文維を悲しくさせる。

「ありがとう、煜瑾。一緒にいただきましょうね」
「はい」

 2人は見つめ合いながら、母の作ったバナナミルクを口にした。

 無邪気な煜瑾はニコニコと満足そうだ。
 その笑顔に癒しを感じながらも、文維は少し悲しそうな笑いを浮かべて、聞き分けの良い幼い子にこの後の予定を告げた。

「この後、唐家に夕食を食べに行きましょう」
「唐家?」

 キョトンとした煜瑾は澄んだ眼差しで文維を見つめ、それから自分の隣にいる恭安楽に、答えを求めるように見上げる。

「煜瑾ちゃんのおうちに帰るのですよ。煜瓔お兄さまがお待ちのおうちですよ」
「おかあしゃまも?」
「え?」

 間髪入れずに煜瑾がした質問に、包夫人も驚いて言葉が出ない。

「おかあしゃまも、ご一緒に行くのでしょう?」
「煜瑾ちゃん…」

 何の疑いもなく、この小さく純真な子供は、包夫人を本当に自分の母親だと思っているようだった。その大好きな、大切な母から引き離されるのかと、急に不安になる。

「煜瓔お兄ちゃまのおうちに、おかあしゃまも、煜瑾とご一緒に帰るのでしょう?」

 そう言った煜瑾の目には、もう涙がいっぱいに溢れている。

「煜瑾。お母さまは、今夜は一緒には行かない…」
「イヤっ!」

 文維の言葉を遮って、煜瑾は拒絶し、大粒の涙でその白くまろやかな頬を濡らしながら、包夫人に泣き縋った。





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